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Episode5 Rackett Leader


==カエデ==酒場・ウィズターニルの裏==


「ロンギィス、お前は厨房に戻っとけ~。 注文ができないって、店内の奴らが騒いでたぜ~」


 唐突に現れた男性は飄々としつつも、どこか威厳のある姿でそう答えた。


「しかしですね、素性のわからんこの嬢ちゃんと二人きりってのは……」

「ロンギィス~。 オイラがそう易々と遅れをとるわけないだろ~?」

「ですが――」


 そう言いかけた店主は、手を前に突き出した男性の静止に言葉を止める。


「心配し過ぎだ。 もう少し信頼してくれよ」

「はい、では……」


 そんなやり取りを終えてロンギィスと呼ばれた店主はすごすごと店へと戻って行った。


「……ったく、アイツは心配性なんだよ。 この程度が許されないなら自警団のリーダーなんてできないっつぅの~」

「えぇと……、貴方は……?」

「オイラか? オイラはあんたご所望のランケットのリーダーだぜ~」


 そう答えた男性は近くの木椅子に座って、ニヤニヤと笑う。


「んで、あんたの願いってのは情報だけなのか~?」


 先程の話を聞いていたらしく、この男性は私の要望を再確認する。


「はい。 私が知り得た知識から、ランケットという団体は国にも認められている信じられる集団だと分かり、頼った次第です」

「ふ~ん。 その知識を得た方法ってのは何だ~?」

「それは……」


 あのノートで知った知識であるとは、答えることはできない。


「ま~いいか。 オイラ達が認められてて、一定の信頼をしてくれてるってのは嬉しい限りだしな」

「はぁ……」

「だが、情報をタダで教えるってのは難しいな。 通常業務外の事は多少の代価を頂いていてな。 そっちの方は大丈夫なのか?」

「金銭の要求ですか……」

「そうなるな~」


 私が情報を得たいのは、私の不安解消による部分が大きい。にもかかわらずマークから受け取ったお金を勝手に使うのは不味いだろう。


「……物品ではなく、知識や労働で支払うことは可能ですか?」

「見た目に反して貧乏なのか~」

「ち、違います! 唯、私の勝手で迷惑は掛けられない。 それだけです」

「ふーん……。 ま、その美貌ならすぐに稼げるだろ。 ちっとばかし、寝台で大人しくしてるだけで、な」

「え……」


 この男性の口ぶりから、身売りをさせられるのだと気づき、思考停止する。


「ぷっ……、あははははは! 本気にしたのか? 言葉の通りにすぐに稼げるだろうが、それを強要したりはしねぇよ~」

「え、えぇ……」

「それとも何だ? 面倒事なしの手っ取り早くってんなら紹介も出来っぞ~?」

「……はっ! いえ、嫌です! その方面はナシでお願いします!」


 お金の為に体を売るなど考えられなかった。とはいえ記憶がないので、もしかすると経験はあるのかもしれないのだが……。

 少なくとも、好きでもない相手としたくはないという今現在の感情は本心である。


「なら、ランケットを手伝ってくれないか~」

「手伝い、でしょうか?」


 この男性は、「その通り」と答えながら頷く。


「いやなに、我らがランケットは人手不足でね~。 特に体を動かすのは得意でも頭の体操が苦手って奴が多いんだわ。 で、一応の教育を受けてそうなあんたなら役立ちそうだって思ってな」

「はぁ……」

「どうだ? 悪い話じゃないだろ~?」

「……私に戦闘能力を求めてはいないという事ですよね?」

「あぁ。 その細腕になんも期待なんてしてねぇよ。 それともドロップを使えば強かったりすんのか~」


 ドロップとは、口にすることで発揮できる魔法みたいな道具らしい。あのノートに事細かく書かれていたが、読んだ当時は半信半疑でも、これまでの出来事から今は存在をあまり疑っていない。


「……いえ、強くありません」

「そうか……。 なら、あんたには指揮側に回ってもらう。 仕事っぷりに応じて情報っていう支払いはするさ~」


 正確には私はドロップというものを使ったことはない。私の適性とやらも知らない内は、戦えないと言っておくのが安全だろう。


「承知しました。 それでお願い致します」

「おう、よろしく頼むぜ~。 オイラの名前はグリッド・ハックム。 グリとでも呼んでくれ~」

「はい、グリさん。 私はカエデと申します」


 こうして一時的とはいえ、私はランケットに協力することになった。


「あれ、家名は~?」

「……えぇと……。 ファルスフ。 私はカエデ・ファルスフです」


 そう質問された際に、怪しまれない様に咄嗟に私はそう答えた。本来の苗字はわからないので、falsehood(虚偽)から作ったのだが、怪しまれていないだろうか……。


「……ま、いいか。 支援組との集まりはそのうち開催する。 一応カエファちゃんの宿か借家かは知らんが、その場所を教えてくれ~。 連絡用に知っておきたい」

「承知しました」


 私はマークの家の場所と特徴を教える。

 因みにカエファちゃんというあだ名を勝手に名付けられているが、そもそも現在進行形で仮の名前のみしか使っていないので、呼び方に拘りはなかったりする。


「……カエファちゃん。 この住所って、他の誰かに教えたか~?」

「そうですね……、アパレル店の発送をしてもらうのに、教えました」

「……あんたがこの町に来たのは~?」

「数日前です。 あ……ですが、その手段に関してはお教えできません」


 そう回答すると、グリは大きなため息を付く。


「どうしてあんたらはこうも脇が甘いんだ……。 いや、あの子よりは気持ちマシではある……か?」

「すみません、何の話を……」

「カエファちゃんの厄介になってる男、マクリルロなんだが……この国で知ってる奴こそ少ないが、異世界管理官の男だな。 それに加えてごく一部の人間は数日前に異世界人が運び込まれているのを知ってる。 今までの話に心当たりは?」

「あ……。 それは……その……」


 私が答えに詰まっていると、グリは再度ため息を付く。


「ボロを出したのがオイラで良かったな。 次からは気を付けろよ~。 敢えてこの場では聞かないが、一応こっちは意識しておく」

「うぅ……」

「それと、今の経緯からさっきの話は止めないぞ? 寧ろあんたを逃がすつもりはなくなった。 これから頼むぜ、()()()()()()()

「しょ、承知しました……」


 そう答えたグリは、私を一人置いて、店内へと戻って行った。


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