表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/341

Episode3 Notebook


==カエデ==マクリルロ宅・個室==


「……完治として見てもよさそうだね」


 窓のない個室から動けないので、聞いた話ではあるものの私がこの世界に来て数日が経過したらしい。そんな折、マークの口からそう答えられた。


「怪我がこれだけの短期間で治るのですね」

「できればこの装置は使いたくなかったんだけど、自然治療は難しい状態だったからね。 ……後で使用したという手続きをしておかないとか……」


 彼が話す第四世界という所から持ち込んだ機器の中には申請が必要なものがあるらしく、特にこの治療器具は異世界転移者が生命危機に陥りでもしなければ使ってはいけないらしい。


「申し訳ございません……」

「構わないよ。 一応これがボクの仕事だしね」


 怪我していた原因となる記憶がないので謝るのも変な感覚だが、それでも私が原因で彼に手間を掛けさせているのに変わりないのでしっかり謝罪する。


「それと、これを渡しておくよ。 ボクの見る限り同じ世界から来ているみたいだし、読めるだろう?」

「……なんでしょう?」


 渡されたものはA4サイズのノートらしく、中央に『数学』という文字に横線が引かれて『異世界のことについて』と手書きの日本語で書かれている。その下の名前の部分には『春宮 杏耶莉』とも書かれていた。


「さぁ? 一応これは以前この世界へと転移して来ていた子から託された物だね。 同じ境遇の人に渡すよう頼まれていたんだ。 一応目は通したけど、大部分が彼女の世界の文字だったから読めないんだよ。 寧ろキミに翻訳してほしいぐらいだね」

「は、はぁ……」


 ざっと目を通すが、文章量はそれなりらしいのでこの場ですぐに読み切る事は難しそうだった。


(私と同じ世界から来た杏耶莉という方。 その方が残した物ですし、読んでみましょうか)


 私が流し読みを終えてノートを閉じたのを見計らってマークから声を掛けられる。


「キミが使う用の部屋も用意してあるから、案内するよ」

「お願いします」


 最低限しかない私の持ち物を持って、その部屋の案内を頼んだ。


 ……


 家内の案内や使用方法を教わった後、治療を受けていた個室から出た時には昼過ぎという時刻だったのだが、空は既に日が落ちて暗くなっていた。

 早速とばかりに渡されたノートを開いて、その内に書かれた文を読み進める。


 ――これを読めている人が居るのであれば、きっと訳も分からず異世界へと来て困っている事でしょう。そんな人の為にこの文章を残します。

 私の名前は春宮 杏耶莉。 日本人で天桜市に住んでいた十三歳です――


 どうやら、この文章は日本人の少女が書いた物らしい。表紙の名前からそんな予想は出来ていたが、明示されるのは有難かった。


(十三歳……中学生だという事でしょうね。 でも、この文章がいつ書かれたかわからなければ現在の年齢はわかりませんが……)


 そもそも私は自分の年齢もわかりはしない。身体的特徴から成人前ではる筈ではあると思われるが、それ以上は予測を立てるしかなさそうだった。

 その後のノートに書かれた文章は、元来彼女のメモとして使われていたものらしく、本人用の文章に後から注釈が追加されている様だった。


(注釈は焦ってか、文字が乱れてますね。 時間がない中で私の様な後発の人用に準備してくれたのでしょう。 感謝して使わせてもらうことにします)


 彼女がこの世界でどのような事を学び、どのような方々と接して来たか日記に近い形式で紡がれている。


(カーティスさんという方は、あの駆け込んできた方でしょうか?)


 このノートにはカーティスの特徴に低身長の少年とある。だが、私が見た彼の身長は少なくとも低くはない。

 珍しい髪色らしい事から人違いではないと思われるので、彼が成長している様子から数年は経過していると見て良さそうだった。


(……この方が去ってからの経過年数は、明日にでもマークから聞いておきましょう)


 それから、彼女はこの世界の文字についても学んでいたらしく、それについて日本語と比較した纏めも記載されていた。

 これを活用すれば、翻訳機の機能と合わせて効率よく字学習が出来そうだった。


(これも、有効活用させてもらいます)


 それ以外にも彼女の行動で起きた出来事なんかについても感情込みで赤裸々に記されている。なんだか日記を盗み見ているみたいで申し訳ないのだが、このノート自体それを理解した上で託されているので僅かな情報を汲み取れるようにしっかりと読み進める。


(彼女は気づいてなさそうですが、これって……)


 明らかな好意を寄せられているに、それを華麗にスルーしてそれまで通りに接しているらしかった。


(「気の毒という他ありませんね……」)


 実際は私でしたが、この方が戻られたかもしれないという情報を元に駆けつけてきた彼の心情がとても哀れである。


(にしても、いかんせん情報が不足しすぎですね。 彼女が知り得た情報は乱雑に記載されているにもかかわらず、国の情勢について殆どありません。 漠然と過ごしていたのではないでしょうが、興味がないにも限度があります)


 幸い隣国との冷戦状態であるとは知れたのだが、それ以上の情報がない事が怖くないのだろうか……。


(ここにある騎士団への接触……。 それは権力者と繋がっている可能性があります。 ……とすると、このランケットとという自警団であれば少しは情報が得られるでしょうか)


 知らないことが罪なのではなく、知ろうとしないことが罪なのだ。少しでも安全に活動する為に、私が動く必要があるだろう。


(あのマークという方。 世話になっている身ではありますが、あまり頼りたくありませんものね)


 このノートを見る限り、彼はこの世界の常識に疎い。彼の素性を考えれば当然かもしれないが、彼基準で動くと思わぬトラブルに巻き込まれそうだ。


(自分の事もわからない。 この世界の事もわからない。 一先ずはこの世界の情報を知るところから始めましょう)


 そう決めると、行動を始める明日に備えて準備されたベッドで寝ることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ