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Episode1 World Encounter

本日より投稿はこれぐらいの時間にする予定です。


==???=???・?????==


「……ん?」


 目が覚めると、アスファルトの地面上に倒れていた。

 時刻は深夜らしく、何とか物を認識できる程度しか見えない程に暗い。僅かな月の光と、頼りない白熱式街灯の明かりが辛うじて暗黒ではない状態を創り出している。


「何が――痛っ……!」


 横たわった状態から上半身を起き上がらせようと動いた刹那、頭部に激痛が走る。

 反射的に手で痛みの生じた部分に触れると、どろっとした生暖かい液体に触れる。指先に付いたそれを街灯の明かりへと翳すと鮮血が付着していた。


(どうすれば良いのでしょうか。 最善手は何をすれば……。 私がすべき事は何が……)


 頭から血を流して倒れている。自らの置かれた状況をそう分析するまでは良かったが、冷静さを欠いているのか思考が定まらない。

 それでも、損傷している頭を極力動かさずに立ち上がろうとするが、膝や脇腹にも強い痛みを感じて動けなかった。


「あっ……」


 それでも僅かな痛みしか感じない腕を伸ばすと、近くの物に触れる。それを手繰り寄せると女性物の鞄であった。


(電話でも入っていれば――)


 そう考えてチェックへと手を伸ばそうとした時点で意識が急激に薄れていく。


(駄……目……)


 この場で意識を失えば、そのまま二度と目覚めない。そんな予感がして意識を途切れさせない様に無理やり寝返りを打った。

 その時、自らの知識には存在しない異様な光景が背後に広がっていたことに気が付いた。


(何……こ、れ……)


 それは空中にガラスを割った亀裂が走っている様な光景。その亀裂内の向こう側には、僅かな光しかないこの場の何よりも暗い空間が広がっていた。

 その事象について考える間を持たずに、寝返りを打って僅かに戻った意識が再度薄れる。


「助……て……)


 何を思ってか、その異様な亀裂に手を伸ばした瞬間、私の意識はぷつりと途絶えた。


 ――


(……白い)


 二度目の目覚めに映った光景は白色の天井だった。

 固定されているらしく、頭は動かせない。その代わりに限界まで目を動かして辺りを見渡すが、判明したのは私がベッドに寝かされている事だけだった。


(病院、でしょうか?)


 体に痛みは感じないが、それと同時に手足の感覚も感じない。


(どうすれば――)


 そう考えていると、この個室へと扉を開いて入ってくる音が聞こえる。


「お医者様、ですか? ――!?」


 私がその足音の主に声を掛けた際、その言葉が私の知らない言語で発音された。


「面倒だから翻訳機を既に付けさせてもらっているよ。 今は見えないだろうけど、語学能力を付与する機械を接続していると認識してもらえば大丈夫かな」

「え!? 意味が分かりません!?」


 どうやら室内へと入って来た方は声色から男性らしく、淡々と説明を始める。


「つまりは言葉喋れるようになるって考え貰えば――」

「そうではなく、どのような技術でそれを成し遂げているのでしょうか? 脳の知識を司る部分へと外部からの干渉による改ざんは――」


 そこまで言いかけると、その男性が私の視界へと入って生きて、手で静止を促す。

 そんな彼の容姿は緑色の髪に眼鏡と掛けた白衣の男性という出で立ちだった。


(これだけ髪を染めるのは、医者の衛生観点として褒めれませんね)


 第一印象でそう考えていると、彼は私への説明を続ける。


「翻訳機の構造は今は置いといてもらえるかな?」

「はい……」


 非常に気になる部分ではあったが、今は彼の指示に従う他ないだろう。


「最初に自己紹介からしておこうか。 ボクはマクリルロ・ベレサーキス。 マークとでも呼んでくれるかな?」

「承知しました。 マークさん」

「敬語でなくても構わないよ」

「いえ、初対面の年上に敬語抜きで話すのは……もっと親しい間柄でもなければ厳しいです。 ですので、このままの口調で話させていただきます」

「う、うん……」


 日本国外でフランクさが尊重される文化は存在するが、それを強要されるのは好かなかった。


「それで、キミの名前は?」

「私は……? 私は、誰なのでしょう……。 ――痛っ……」


 自らの事について考えると、動かしてもいない頭に激痛が走る。


「私は一体……。 何故、何故わからないのでしょう……」

「……やっぱりか」


 納得という声を零したマークは、私の状態について話す。


「まず、落ち着いて聞いて欲しいのだけれど、キミは裂け目と呼ばれる現象に巻き込まれてこの世界に来た。 キミ視点なら異世界という事になるね」

「裂け目とは何でしょう。 それに、異世界? 私をからかっているのですか?」


 そう答えながらも、あの時朦朧とした状態で触れた亀裂の事を指している。そんな気はしていた。


「それらについての解説は後でするよ。 それよりもキミの事についてだ。 キミは全身のいたる場所に怪我をしていた。 足なんかの骨も折れていたね。 特に頭への怪我が酷くて、もしかすると脳への影響もあるのでは? と考えていたんだよ」

「……はい。 という事は、マークさんに助けられたのですね。 ありがとうございます」

「どういたしまして。 それで、ボクの持つ治療技術でキミを再生中なんだ。 だから一時的に体を動かなくしているけど、不便は我慢してほしいかな。

「それは――いえ、何でもありません」


 私はその再生治療について質問しようとするが、先程までで何度か詳しい説明を後回しにされていたので、控えることにした。


「……けれど、それはあくまで骨折といった外的損傷を治すことは出来るけれど、記憶を戻すみたいな事は出来ない。 キミに何らかの切っ掛けで思い出してもらうしかないかな」

「……承知しました」


 彼の話す幾つかの事象に対する原理は不明だが、彼の話が全て本当なのであれば、私は記憶喪失という事になるのだろう。

 それがどの範囲で何が思い出せるのか、これからの出来事は覚えられるのか。それらについて把握する事から始めなければならない。


「……詳しい説明もするつもりだったけど、まずキミは治療に専念すべきだね。 あと二日もすれば完治する筈だから、それまでは大人しくしていて貰えるかな?」

「……はい」


 面倒臭そうに頭を掻きながら私の視界から離れるマーク。そして彼はこの個室から出て行った。


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