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第3話② 退屈な巡回警備


==カーティス=酒場・ウィズターニル==


 広い空間が確保された店内で俺とガルロは、向き合うように立つ。

 ガルロは腰にポーチを提げているが、実物の鉾槍(ハルバード)を構えていた。


「ガルロはディーターじゃないのか?」

「鉾槍のドロップは高価だからな。 普段は実武器(こいつ)を使っているな」

「……だろうな」


 ドロップは種類によって産出量に差が存在する。鉾槍のような使い手の少ない物は産出量が少ない傾向にあるので、その分金額が高騰してしまうのだ。


「準備は良さそうだな~。 んじゃあ、始め!」


 グリッドの掛け声に合わせて俺は戦斧のドロップを使う。武器を生成して様子を窺うが、対するガルロもその場で様子を見たまま動かない。


(慎重なことで。 ただ、模擬戦にならないからこっちから動くか)


 重量を感じないとはいえ動きに制限がかかるのも事実なのであえて戦斧を消失させ、姿勢を低くしたまま距離を詰める。


「はっ……、な!?」


 ガルロの姿勢から鉾槍が届くギリギリの距離で立ち止まり、それに合わせての突きを避ける。

 そのまま戦斧を再生成して、彼の脇あたりに戦斧を振るう。模擬戦なので、実戦なら直撃していると判断できる時点で戦斧を消失させる。

 ガルロは突きの姿勢から戻ると、そのまま鉾槍の斧頭を向けて振るってくるが、戦斧を今度は縦に生成して、柄でそれを受け止める。


「んなっ……!」

「甘いな」


 受け止められた鉾槍を引いたのと同時にまた戦斧を消失させ、今度は足に向けて戦斧の側面を生成しながら当てる。

 勢いこそ殺したが、足のバランスを崩したガルロに戦斧の消失と生成の組み合わせを三連撃で寸止めする。


「そこまで! 戦斧なら一撃で二、三点換算なのにキッチリ五回分の攻撃をするとは、意地が悪いぜ~」

「それなら、足に当てた時点で止めろよ」

「ん? あれは戦斧の生成向きを間違えたんじゃないのか~。 それなら一点だしな~」


 模擬戦なので怪我を避けるためにわざと刃ではない向きで生成していたのだが……。


「いや、強いな。 完全にオレの敗北だったな」

「ガルロはもう少し攻めた方がいいぞ。 毎回考えて動いてるからか、動き出しが遅かった。 それでも何も考えずに突っ込んできたラッヅよりは全然マシだけど」


 素直に敗北を認めたガルロが握手を求めるので、それに応じた。


 ……


「それで、結局俺に何をさせたいんだ?」


 模擬戦を終えて熱が冷めた頃、グリッドに真意を確かめる。


「何ってそりゃ~、何だろうな~」

「はぐらかすなよ」


 足を放り出して背もたれに寄り掛かっていたグリッドだが、改めて座りなおす。


「まぁなんだ、自警団であるランケットは常に人手不足でな。 カーティスにはこの町に居る間だけでも手伝ってもらえないか?」

「……俺がそれをする理由は?」

「理由は……、奢った飯じゃ足りないよな~?」

「当然だろ!」


 机を叩いて抗議すると「そうだよな~」とぼやく。


「とはいえカーティスも寝泊りするとこがないだろ? ここの二階に空き部屋があるから、それを使ってくれて構わない。 それと~、ここでの飯はオイラ持ちで構わない。 あとは~、ランケットの活動中に使ったドロップの代金は請求してくれて構わない。 あんまり希少なのは使って欲しくないけどな」


 矢継ぎ早に俺にとっての好条件を並べていく。


「……一つだけ聞きたい。 何でお前はこんな活動をしてるんだ」


 その問いに対してグリッドは迷わず答えた。


「この町、この国を少しでも良くしたいからだ」


 その真っ直ぐな答えに面食らうも、その答えは嫌いじゃない。少しの間だけ彼に協力してみることにした。


「わかった、手伝ってやるよ。 ただし、気に入らなければ抜けさせてもらうからな」

「あぁ、よろしく頼むぜ~」


 ……


 明朝、早速とばかりに巡回のメンバーに俺は組み込まれていた。

 二人一組で町の一区画を担当することになるらしく、俺は物腰の柔らかい中年男性と組まされていた。


「カーティス君、今日は一日よろしく頼むよ」

「よろしく」


 昨日のウィズターニルには居なかったこの男性は、ランケットへの入団を希望する唯の少年だと思っているらしく、「危ないからボクの前に出ないでね」と注意する。敵意や侮りは感じられないし、俺は力を誇示したいわけではないので素直に応じる。

 この男性は一日中町についての情報を喋々していた。ボランティアのようなものとはいえ、活動中にどうかと思うが。


 その話によればこの町エルリーンは四つの区画に分けることができるらしい。

 俺が今巡回している西区画は高級街、貴族や豪商の家が立ち並ぶ上流住宅街だった。その為、各家の前には門番が立っていることも多く、問題や事件は起きそうにない。また、高級街の最奥には王族の住む城が鎮座している。

 その反対に位置する東区画は通常の住宅街、つまり貴族や富豪ではない人達が住んでいる。ただし、貧民街という訳ではないらしく、路上生活を強いられる者はこの町にいないとのことだった。改めて国の豊かさを感じる。ちなみに、住宅区以外の区画に人が住んでいないわけではないとのことだった。

 南区画は店舗や露店が並ぶ商業街だ。西に行くほど高級店が多い傾向こそあるが、町全体でここまで区分けされているのも珍しい。俺の関心が強い飲食店もこの区画に存在する。

 北区画は工業街と呼ばれ、衣類や物品の生産が行われている。職人気質の者も多く、よく怒号が聞こえてくるらしい。ちなみに、列車の駅もこの区画に存在する。


 巡回を続けながらウィズターニルの店主に渡されたサンドウィッチを食べていると、曲がり角から大きな箱を抱えた一人の男性が目に入る。常に周囲を警戒しており、実力はかなりのものに見える。彼に先手を取られたら、本気で対処しても厳しい戦いになると予想できた。

 そんな実力者の後ろから、ひょっこりと短髪の女の子が付いて来ていた。髪色が茶髪で落ち着きなく周りを見る様子は、周囲からかなり浮いていた。


(あんな子もいるんだな)


 とはいえ問題を起こさなければ構わないので、視線を外して中年男性との巡回へと意識を戻した。


 結局その日は何の問題も起きず、早々にウィズターニルの二階で就寝した。


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