表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

一話 転移とか?


 『花の色は 移りにけりな いたずらに

我が身世に降る 眺めせしまに』


 まぁ…あれよ、あれ。

 小野小町と呼ばれた、平安時代の絶世の美女が、自分が年を取ってしまったことを嘆いている身も蓋もない歌なんだけど…。ああでもない、こうでもないと、ぐだぐだーと悩んでいるうちに、容姿がすっかり萎えてしまったという…。

 

 百人一首に入っている歌の中では、かなり有名な方なんじゃないかな?

 しかし、恐ろしい歌だと思う。

 今日の日本でこれを体験している人は、万単位でいるんじゃないかな。

 三十代後半になってから、あれ? と気づくパターン。


 結婚してない。

 子供もいない。 

 恋人もいない。

 仕事、薄給?


 みたいな人。


 慌てて婚活しまっくって、

 自分の年がギリギリ所かアウトに近くて…。

 微妙な感じで駄目出しされる毎日。

 私…霧越きりごえ なぎはそういう人生を送っているその人です。


 平安時代の、

 千年以上も昔の、

 絶世の美女と比べてくれるなって感じだけど。

 人って千年経った所で、土台が変わるもんじゃないのね?

 という話だ。


 失ってしまった訳よ。


 若さとか、

 適齢期とか、

 そういう諸々を。


 婚活をさ、がつがつしてさ。

 それで、私、出産年齢ギリギリだから、結婚→出産、待った無しで世露四苦って。

 暴走族だってもう少し建設的なんじゃない?

 て、自分でやりながら思っちゃう。

 

 自宅の六畳一間で一人ため息を付く。

 ちなみに上京組なので慎ましい一人暮らしだ。

 なかなか一人暮らしも自由で………。

 などと言っているから、行き遅れる…。


 目の前に置かれた百人一首の札をめくる。

 坊主めくりだ。

 姫が来たら、場の札を全部もらう。

 台付きが来たら、十枚もらう。

 台付きというのは天皇様ね。

 一人でやると、寂しくナイスなゲームである。 

 そうやっていると毎晩夜更けに成るわけだ。


 部屋の中は、子供たちとの写真やもらった物で溢れている。

 いわゆる保育士というやつである。

 十年以上やっているので、凄い量だ。

 一枚一枚眺めるのが、密かな楽しみというか、幸せというか…。


 こんなことをしてるから、行き遅れる。


 好きな物と言えば、

 子供と百人一首。

 一人で夜な夜なやる百人一首は最高で。

 楽しさと寂しさが…。


 夜、隣近所が寝静まった中、

 毎晩一人でやっている。

 ここでもお一人様である。

 しかし、これをやると、次の日は元気に出勤出来るのだ。

 結構現金な感じの精神構造です。

 だから、いつまで経っても…、ね。

 というやつで……。


 そして、大好きな歌は、

 藤原義孝(ふじわら よしたか)


『君がため 惜しからざりし 命さえ 

長くもながと 思ひけるかな』


 あなたに会うためなら、惜しくはないと思っていた命だけど、あなたに会ったら、もっと長く生きたいと思った。


 という歌。

 なんかさ……。

 女冥利に尽きる歌なの。

 そんなに思われて凄いというか、びっくりというか……。

 

 恋愛に命は掛けなくない?

 掛けないよね?

 それで合ってるよね? 価値観。


 まあ、色々な考え方があるから、中には掛ける人もいるんだろうけど。

 一度は……そういう恋愛にも憧れるよね。自分よりあなたが大切です。

 と真っ直ぐに言われる恋愛。

 

 架空というか妄想というか……

 夢?

 遠い感じのね。うん。


 この歌ってさ、超絶美男子の、人柄も家柄も二重丸。なのに二十一歳という若さで夭折してしまった作者だからこそ、名歌なのかなーなんて思う。


 だって、あなたと共に長く生きたい。と言って亡くなるなんて、しみじみとするじゃない。


 もちろん女性の方は、一人残された訳よね。

 切ないよね。

 お互いに。


 ちなみに、義孝のパパは藤原伊尹(ふじわらのこれまさ)

 これも才色兼備と言われた美男子。


 実際会ってみたいわよね。

 そこまで言われちゃうと……。

 親子共々美男子という記録が、千年後の未来に残ってるって凄い。

 

 わざわざ!? そこ!

 と思ってしまう。


 藤原氏といえば貴族中の貴族で、今日、日本に貴族はいないからピンと来ないんだけど。

 その稀少性がなんとも…ね。

 良いんです。

 皇族はいるけど。

 そんなに会う機会はない…よね。


 千年前のイケメンてどんななんだろう?

 あれかな?

 頭の中に、源氏絵巻的な物を思い浮かべる。

 今的には、微妙ね。


 ふと、平安貴族的な面立ちの少年を思い出す。 下膨れ?

 というのではなくて…。

 ちょっと高貴な感じのする少年だ。

 実際、いろんな子が居たから。


 一番初めに担任をした子供たちは、もう中学生になっている。。

 大分お兄ちゃんお姉ちゃんだ。


 会いたいような、会いたくないような、

 でも会いたい。

 街でばっかり会ったりしないかな~。

 そんな風に思いながら、卒園アルバムを手に取った。


 そこで、インターホンのベルが鳴る。

 ?

 こんな夜更けに?

 私は恐る恐るドアに近づく。

 インターホンにカメラなどという気の利いた代物はついていない。

 マンションではなくアパートなので…。

 そんな贅沢は出来ないし。

 給料低いし。これはもう言ったか?

 やりがいはあるんだけどね。


 覗き穴からは、低くて見えないのか、ふわふわとした茶色い髪の毛が見えるだけだ。


 子供!?


 そう思った瞬間、ドアを勢い良く明けていた。

 そして、むせかえる程の紅梅の香りに包まれて意識を失った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ