03
「僕はね…、生きる事がわからなくなってしまった」
さっきまで、心配した表情など、人間らしい感情を感じてたのに、まるで人形のように、抑揚もない言葉を続ける。
「僕は、生きてることが地獄なのかもしれない。生きたい君には申し訳ないけどね」
「…どうして」
「覚えてない?さっき君が言ったんだよ。生きたいって」
そう言えば、意識が途切れる瞬間、そう言ったかもしれない。
「君に何があったかは知らないけど、君が命を大切にしてることはわかったよ」
「…そうですね。大切にしてます」
一言一言を噛み締めるように、私は言葉にした。
「僕はね、その逆。この命を捨てる日を、ずっと大切に思って生きてきたんだ」
言葉が出なかった。
命が消える日を大切に…?
わからない。わかるはずがない。私には一生理解できない感覚だ。
「君にはわからないだろうね」
「わかりませんね」
はっきりと言うと、ふっと彼が笑った。
悲しそうにも見える笑顔だった。
「君は、どうして生きたいの?」
「どうしてって…」
聞かれた問いに、不思議と答えがでなかった。今まで当たり前に思っていることだから、どうしてと言われて、すぐに出る言葉が浮かばなかった。
「…生きてるから。家族と一緒に生きたいし、これからやりたいことも沢山あるし…」
やりたいこと?私のやりたいことって。
友達もいない。カラダの自由もない。
「……あれ?私、なにしたいんだろ」
考えても浮かばない。
私の人生ってなんなんだろ。
「なにしたいんだろ…なんのために、生きてるんだろ」
生にしがみついてるのに、何のためにしがみついてるの、それがわからなかった。
生きてるから、生きたい。それだけ。
「なんか、私の人生って、死にながら生きてるみたい」
そう思ったら、泣きたくなった。
「ごめんね、意地悪な質問して」
目の前の彼が、困ったように謝る。
「今したいことは?」
「え?」
「例えば、美味しいものが食べたいとか。遊びに行きたいとか」
今したいことは…
「パンケーキ食べたい。よく女子がキラキラ食べてるやつ」
「女子って。君も女子だろ?」
ははっと声をあげて笑われる。
「だって!…だって、そういうとこ行く友達もいないし」
赤くなりながら、説明した。
「……よしっ」
いきなり立ち上がった彼は、私の手を勢いよくひいて立ち上がらせた。
「今から行こ!」
イタズラっぽく、にやりと笑って、私の手を引いて道に歩きだす。
初めて男性に触れた…。他人に触れられるなんて、胸がはねる。
「あ、あの…」
そのまま、戸惑った私をつれて、強引に道路の方に向かっていく。
「今を生きにいこう」
なんて強引なんだ…。
そう思いながら、なぜか私は、引かれる手を振りほどかなかった。
きっと、普通の女の子になりたかったんだ。
普通の女の子に…。




