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私が死ぬまでの七ヶ月  作者: 春のした
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02

「ごめんね。僕、ここ気に入ってるからさ。死に場所にしたいんだよねー」


まるで、場所取りの話でもしてるかのように、のんきな口調で男の子が言った。

え?何を言ってるのだろう。


「し、死ぬ?」

「そう。ここで死にたいの。自殺ってやつだね」

「じ、自殺……」


私には、彼の言ってることがわからなかった。

脳で言葉は理解できても、心で意味を理解することを拒んでいた。

頭がガンガンする。


私がどんなに神に願っても手に入らないものを、この人は、まるでゴミを捨てるかのように、簡単に手放そうとしているんだ。


理解なんて、したくなかった。


「冗談でよね?…」

「本気だよ」

「なんで…」


なんで…そんなことを。


「何でだろうね。…捨てたくなったから。かな?」

「そんな、物みたいに!」


思わず声を荒げてしまった。


「…物だよ」


そう答えた彼の声は、とても…とても冷たい、何も感情を感じない声だった。


「物…」


息が苦しい。

目の前がぐにゃぐにゃに歪んでいく…。


悔しい…悔しい。


「ちょっと君…?」


少し心配そうに話しかけてきた彼を睨んだ。


「君、大丈夫?ふらふらして…」

「ください…」

「えっ?」

「くださいっ!物なら、くださいっ」


目の前が暗くなってきた。動悸が酷くなってきている…ああ、またこの体は、私の言うことを聞かないんだ。


「ずるいよ…生きれるのに」

「だ、大丈夫?ちょっ」

「生きた…い…よぉ」


彼が急いで私に近寄ったのを感じながら、そっと意識を手放した。





――――――――――――――――――




「えっ?」


目が覚めた。

目が覚めた瞬間、今まで何も感じていなかった鼻が、潮の匂いを感じ始める。

その中に、微かに甘い匂いがした。


「目が覚めた?」


一番最初に目に入ったのは、死にたがりの男の子の顔だった。


「あ…すみません」

「いいよ、無理に起き上がらなくて」


急いで起き上がろうとした私の肩が、そっと優しく押し戻される。

そこで、私は彼に膝枕してもらっていることに気がついた。

体には、彼が着ていた筈のコートとマフラーがぐるぐる巻かれている。

暖かい…。

手を動かすと、お腹辺りに乗ってものがあるのを感じる。カサリと音を立てて触ると、温かいカイロの手触りがあった。


「カイロ…」

「僕の。わざわざ海に死にに来たくせにさ…僕、寒いの嫌だったんだよね」


そう言って、おかしいでしょ?と、彼が笑った。

海で死のうとしてるのに、その道中の寒さは嫌なんだ…そう思うと、ちょっと面白かった。


「ごめんね、なんか」

「あ、いえ、私こそ興奮しちゃって」


こんな寒い中、コートを奪ってしまって…倒れていた時間はそんなに長くないと思うけど、それでも申し訳ない。


「もう大丈夫です。寒いのにごめんなさい」


起き上がって、彼の横に座り、私にかけられていたコート達を返す。


「もう大丈夫?」

「大丈夫です。慣れてるんで」

「…そっか。よかった」


よかった。と良いながら、彼は複雑そうな笑顔を浮かべた。


「体調よくないの?」

「まあ、そんな感じです…」

「そっか」


少しの下を向いて、彼がポツリと言った。


「ごめんね…君には大切な命なのに」

「えっ?」


下を向いて、砂浜の砂たちを指でいじっている。

あまり表情が見えなかった。


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