出会い
「寒いなぁ…」
マフラーをきゅっと握りしめて、空を見上げた。
今にも雪が降りそうな冷え込み。
「友達…友達ねぇ」
言ってみたものの、友達って誰だろう。
正直、私に友達らしい友達っていないかもしれない。いや、いない。だって、作ってこなかったから。
家族以外の人と、心を通わせる…そんな気持ちを味わいたくなかった。
いつか無くなると知っていたから…。
「アケミちゃんかなぁ…」
強いて言えば、彼女かな。
高校に入ってから、よく話しかけてくれる子を思い浮かべてみた。
「…いいや。やめとこ」
話すようになった。でも、唐突に遊びに誘える仲ではない。…と思う。友達作ったことないからわからないけど。
入退院を繰り返し、一週間の内に何度も体調を崩す。外で駆け回ることすらしたことない。こんな自分と友達になってほしい…なんて、思えるわけない。
そうだ!お気に入りの海辺に行こう。あそこなら、こんな寒いなか行く人もいないだろう。
少し、一人になりたい。
なにも考えない時間がほしい。そう思った。
その海辺は、病院からそう遠くない。昔から、たまに病院終わりに寄っていた。
あまり冬に行くのは避けていたが、今日は体調も良い方なので良いだろう。
少し足取り軽く、人通りもまばらな海岸に向かう道を歩く。
数分歩くだけで息切れしてきたが、その頃には綺麗に管理された海が見えてきた。
サーっと潮の香りが、私を包んだ。
泳いだ事もないが、昔から海が好きだった。
「やっぱり、こんな寒いところ誰もいないよね」
もとから、そんなに知名度のある海ではない。サーフィンをするような人も中々いない田舎なので、やっぱり人なんていない、静かで冷たい海。
鞄からハンカチを出すと、私は砂浜にひいて座った。
「はぁ…綺麗だなぁ」
潮風が、全身を纏っていく。冷たい風が、海辺に来て、さらに強くなっている気がした。
「もう…良いよね?」
そう呟いて……呟いた瞬間、涙がこぼれた。
「お母さんのバカっ!バカバカバカっ!」
涙と一緒に、気持ちもこぼれ落ちる。
我慢してた。
どうして?
なんで?
なんで、そんなに…
私を産んだことを後悔するの?
そう、思ってしまう。
お母さんは、体を強く埋めなかった事を言ってるのはわかる。でも…でも、わかっていても
「元気な子供じゃなくて…私が産まれてごめんね」
もし、私じゃなかったら。
その思いが、私を支配する。
もっと、強い別の子がお母さんの子供だったら、もっとお母さんは笑って生きてくれてるのかな?
「ごめん…なさい」
死ぬのは悲しくない。
でも、お母さんがずっと泣いてるのは悲しい。
笑ってるお母さんより、泣いてるお母さんばかり見て生きてきた。
「産まれてきて…ごめんなさい」
ポロポロ涙があふれた。
「あのー…」
そんな時、後ろから声がした。
「えっ!」
慌てて振り向いた時、綺麗な黒い瞳と目が合う。
「ごめんね、大変そうなときに声かけて」
「あっ…いえっ」
いつの間にか、私の後ろに、同い年くらいの男の子が立っていた。
しゅっとした背の高い男の子。こちらをにこりと見ている、でも意思の強い光の灯った瞳がこちらを見つめている。
「あの…なにか?」
ハッとして、慌てて涙をぬぐった。
「あのぉ…泣いてる君には大変申し訳ないのだけど」
「はい」
「僕、これからここで死ぬので、どこか行ってもらっていい?」
「………え?」
それが…私と彼の出会いだった。




