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迷い

作者: JP

小説の練習として短編書いてみました!今回は「青春」をテーマにしています。拙い文章ですが、批評頂けると幸いです。

「ごめん、雪。俺はお前とは付き合えない」

「...!!」

「ほんとにごめん」

「ちょっとやめてよー。何本気にしてんの?いつもの冗談でしょ?」

「...だよな、悪い」

そう言って笑う雪の表情は、いつも通りの笑顔だった。だけど、生まれてから17年もの間一緒にいた俺にはその笑顔が、強がりであることが分かってしまう。

「じゃあ私、もう行くね?」

「おう」

学校からの帰り道に何度もしたはずのやり取りなのに、その時の別れはもっと遠くへ行ってしまう。不思議とそんな感覚を抱いてしまった。

一人残された俺は、先程の事を思い出して、今更ながら失ったものの大切さを実感し始める。

「何やってんだよ、俺は...」

雪を泣かせた。その事実がどうしようもなく心を蝕む。感情を麻痺させるために近くのブロック塀を殴るが、嫌な感覚が収まることはなく、拳に鈍い痛みが残るだけに終わる。この息苦しさは、きっと夏の湿気によるものだけではないだろう。


「で?それが君の一番苦い思い出?なんで断っちゃったの?」

「なんかこう、雪との関係が違うかものになってしまうのが怖かったんだと思います。今じゃすっげぇ後悔してますけど」

雪から告白があった次の日、あいつは転校してしまった。俺は何も聞かされていなかったし、周りの友人にも知らせていなかったらしい。転校の知らせを聞いたときは本当に動揺した。冗談を抜きにして、1ヶ月は果てしない後悔と自分への憤りがあった。そして、雪のことを忘れられない日々が続き、気付けば俺も大学生となってしまった。

「関係が壊れるのが怖かった、ね。若いねぇ。」

「若いっていうか、臆病なだけですよ。あいつはあのとき俺に歩み寄ろうとしてくれたのに」

ほんとうにそうだと思う。そのせいで今も後悔し続けている。口に出して改めて実感すると、なんだが余計に悔しさが込み上げてくる。それを押し込めるようにして、手に持ったビールを一気に飲み干す。

「ふーん。それで、なんで今この話をしたの?」

「雪が、俺のバイト先に来たんですよ...」

「えー!すごいじゃん!運命ってあるんだねー。でも久々に再会できた割になんだかあんまり嬉しくなさそうだね」

「えぇ、まあ」

再会出来たことは素直に嬉しい。あいつも告白のことなどなかったかのように、普通に話しかけてくる。しかし、それで良いと思う反面、あの時の真意も知りたいと思ってしまう。本当に俺は臆病で自分勝手だ。

「君はどうしたいの?」

「俺は、あの時のことをもう一度ちゃんと謝りたいです。そんでから、この気持ちを伝えたいです」

「なんだ、答えは出てるんじゃない」

「けど、それは出来ないですよ。そんなことしたら、あいつをまた傷つけてしまう」

「はぁ、どうして自分の頭の中で勝手に結論出しちゃうかな。相手の気持ちなんて見えないのに」

「だからこそ、慎重になるんですよ」

「やっぱり、若いなぁ。よし分かった。今回はお姉さんが一肌脱いであげましょう」

そう言って、おもむろに携帯を取り出した彼女はどこかに連絡を入れる。自分の言いたいことを言い終えた俺は、目の前にある料理を黙々とやっつけていく。

「これでおっけー。じゃあ私はタバコ買いに行ってくるね?」

「あ、じゃあ俺が買ってきますよ」

「いいのいいの、君はここにいて」

二の句を告げる前に彼女はさっさと店外へと出てしまった。一人、取り残されてしまい、仕方なしに新しいドリンクと料理を注文していると不意に後ろから声をかけられた。

「あれ?春?」

「は?雪?お前どうしてここに?」

先ほどまで話題に上がっていた、雪の登場にあきらかに動揺を隠せない。あっけに取られながらししゃもを咥えている今の自分はさぞ馬鹿面をしていることだろう。

「どうしてって言われても、私は楓さんに呼ばれたから来たんだけど」

「...あー、だいたい分かった。すまんそれは多分俺のせいだ」

「どういうこと?」

「まあ、とりあえず来たんだし座れよ。料理も余ってんだ」

「ふーん。春がすぐに言わないってことは珍しく真面目な話しなんだね」

この辺りは付き合いの長さのおかげか、多くを語らずとも察してくれる。だから、こんな状況にされてしまった以上、覚悟を決めるしかないように感じた。

「なあ雪?聞きたいことがあるんだけど?」

「うん?なぁ〜に?」

雪が来てから1時間ほど経った頃、お互いに酔いも少し回ってきたタイミングで問いかけた。情けない話だが、お酒に頼った勢いだった。

「どうしてあの日、俺に告白してくれたんだ?転校するってことも...俺は...」

「だから、あれは冗談だよ。転校のことは単に伝えて忘れてただけっていうか、私昔から抜けたとこあるからさー」

「何年の付き合いだと思ってんだ?お前が嘘つくときの癖ぐらい知ってる」

明確に踏み込む。俺たちの関係がまた壊れてしまうかもしれないという不安を余所に。あの日の真実に。そんな俺の覚悟を理解したのか、雪も笑顔を引っ込める。

「転校のことをみんなに言わなかったのは私の弱さが原因かな」

「弱さ?」

「そう、大好きなみんなにお別れを言うのが辛くて...」

「だから、何も言わずに行ったのか」

ゆっくりと雪はこくりと頷く。その横顔はどこか寂しそうで後悔の色が浮かんでいた。しかし、ここで安易に雪を慰めることはできない。雪の気持ちに対して中途半端な姿勢で応えてしまった俺には。だから、俺はただ静かに雪の言葉の続きを待った。

「でもね、でも。やっぱりずっと一緒にいた春への思いだけは我慢できなかった。だからあの日告白しちゃったんだ。馬鹿だよね私、転校のこと言う気がない癖に告白するなんて」

そういって自嘲気味に笑うが、その声はすぐに周囲の喧騒にかき消されてしまう。

「挙句振られちゃうし。春も迷惑したでしょ?ごめんね。ほんと、私の臆病が駄目だったんだ」

同じだった。雪もあの時、自分の大切なものが壊れるのが嫌ではっきりとした答えを出せずにいた。だが、それでも、雪は俺に気持ちを伝えた。俺とは違い中途半端な形でも、その一点だけは嘘偽りなく。そんな雪の行動を誰が非難できるだろうか。だからこそ、俺は自然に言葉を吐き出していた。

「馬鹿だな」

「え?」

「今改めて、分かったよ。本当に救いようがない馬鹿だ」

「そう...だよね」

「ああ、俺はどうしようもない馬鹿野郎だ。迷う必要なんてなかった。何が一番大切かなんて考えなくてもすぐに分かったのにさ」

「何を言って...」

「雪、俺もお前が好きだった。いや、今でも好きだ。それと本当にごめん」

息をのむ音が聞こえた。先ほどまで騒がしかった店内の喧騒は遠ざかり、意識は雪の反応だけに向かっていた。

「そんな、春が謝ることじゃないし。それに今更そんなこと言われても...」

「分かってる。でも、もう一回チャンスをくれないか?自分勝手だって分かってる。それでも頼む」

これから先、今日のことを忘れた振りをして過ごすこともできるだろう。バイト先でも普通に会話して、昔みたいにたまには遊びにいく。そんな風に、久々に再会できた旧友として。しかし、そんな表面上のものはもういらない。自分が傷つき、相手を傷つけようとも本当に求めているものに手を伸ばす。今度こそ逃げない。

頭を下げてから、永遠とも感じられる時間を経て、雪はようやくぽつぽつと話始めた。

「春はずるいね。そんな言い方されたら私が断れないの分かってるくせに」

そう答えてくれた雪の表情はほんの少しだが、確かに微笑んでいた。その表情を見て、これまで難しく考えていたことがバカバカしく思えてくる。悔しいけど、まさしく楓さんの言った通りだ。しかし、同時に自分たちのような年齢にとって、こんな風な出来事は自然なことなんじゃないかとも思う。様々な、悩みや不安があり、時に迷う。そうして、迷いの中でした選択の積み重なりが、自分を構成していきそして大人になっていく。

「これからも多分、たくさん迷ったり悩んだりすると思う。けど、雪。今度こそお前のことは放さない」

「うん。それは私も。これからは二人で進んでいこ」

これから先のことなんて、どうなるか分からない。ただ、一つだけ確かなことは、俺たちの季節が少しだけ前進したことだ。


「いやー、青春だねー。やっぱり若いって最高!」









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