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転生 魔王討伐軍

くだらないって思ったって日常なんて変わりはしない。ある日いきなり死ぬようなことも無ければ国が無くなるなんて事も無い法治国家である日本に置いていきなり射殺される事も無い。今日も変わり映えのない、くだらねぇ一日を過ごすんだろう。


そう思ってた。


有り得ない光景を目にするまでは。





「死んじゃいましたねぇ〜」


何なんだろうコイツ。

最初に思ったのはそんなくだらない事で、自分が不思議な空間にいるとか、さっき窓の外で見た異常な光景とかそういうのも色々あったが最初に思ったのは、

目の前で死因レアですね〜とかいいながらケラケラ笑ってるこいつを泣かす。これでも喧嘩は強いんだ。


「ずみまぜんでじた・・・」


鼻水か鼻血か分からないものを啜りながら、さながらギャグ漫画のようにボコボコになった顔で謝る謎の少女(?)を目の前で土下座させ、俺が引きずり下ろすまで少女が座っていた椅子に座りながら問う。


「さっきアンタが説明してくれた通りなら、俺は本来防げるはずだった事故で、しかも世にも奇妙な事故で死んだ訳だ」


「ふぁい・・・、その通りです」


今だ土下座したまま答える少女をそのままに俺は溜息をつく。そして手元の本を広げる。


「あー・・・、本当だ。俺今日この時間は補習授業って事になってるなぁ・・・」


この本には世界で生きる人達がその時に起こす行動やら生きる期間やらが載っていて、その行動の通りに人ってのは動くらしい。しかし何故か俺だけがそれから外れ、世にも奇妙な事故の被害者となったらしい。

本には確りと、『氷雨 火音(ひさめ かのん)、自動車に潰され死亡』と記されていた。


「俺さぁ・・・、マンションの五階に居たはずなんだけど?なーんで飛んできた車に潰されなくちゃいけねーんですかねぇ・・・」


「それですよね・・・、あー面白」


「アァ?」


「すいませんでした笑わないのでホント勘弁してください何でもしませんので」


「しねえのかよ」


睨みつけるとガタガタ震えながら再び土下座へと移行する女神(笑)もうマジコイツ足乗せにしていいかな丁度いい場所にあるし。こんなんでも一応神様だしそれはどうかと思わなくも無いけど、少しぐらい憂さ晴らししたっていいと思う。しないけど。


「で、なんでアンタは俺の前に出てきたの?聞いた限りじゃアンタに責は無い。確かに世界の決め事とやらから俺は外れたのかも知れないけど、それだって偶然の事故の様なモンだろ?」


「確かにそれは事故ですし私にも責任とかそういうのがある訳ではないです。でもですねー、一人の人が使い切る命。要するに寿命ってやつですがそれって決まってるんですよ」


「・・・何を当たり前な事を、寿命ってのはその人が生きれる年数って言うのは誰だって」


「そうじゃなくてですね、寿命が決まっているって言うのは、誰が、何時、何処で、どういう理由で死ぬか、って言うのまで決まってるんです。なのできちんとその期間生きてもらわなきゃコチラも困るんですよ」


「・・・そこまで決まってんのね。だけどそれで困るって言うのは何故?」


「企業秘密です・・・って言いたいところですけどまあ良いですかね。要は輪廻転生の順番が狂うから困るってヤツです。この人はこの日に死ぬからコレに生まれ変わるって言うのも決まってるので、狂わされると困るんですよ」


「ああうん。なんとなくわかった」


取り敢えず俺はまだ生きられて、くだらない日常から開放される事は無いんだなって事はわかった。


「まあ後は生き返り先・・・というかこの場合転生とでも言うんでしょうね〜。その事について説明しましょうか」


「ちょっと待って、俺は生き返るだけじゃ無いのか?」


「生き返るって言っても事故が夢でしたーってなる訳無いじゃないですか。事故が起きたのは現実なんですからそればっかりはどうしようも無いです」


言い分は分かる。確かに現実で起こった事故が煙の様に消える事は無いし、夢でしたー何てオチに出来る訳でもない。だから死んだ人間である俺は元々住んでた場所にひょっこり帰る訳にも行かない。


「という訳でまあ別の世界に生き返って貰う訳なんですが、その世界で必要になる身分とか、お金とか、その他諸々はこっちで用意してあげます。それ以上に問題なのは貴方に差し上げる能力ってヤツで、コレばっかりは本人に確認取らないといけないじゃないですか」


テンプレ的に言うならお主に転生特典を差し上げよう!ってヤツです。と言ってドヤ顔の女神をブン殴ってやりたい。って思うのは俺だけじゃないと思う。何故か知らないがこの女神言動がいちいちムカつく。ドヤ顔可愛いからムカつく。


「まあいいわ。能力って何でもいいの?」


「ええ、なんでも構いませんよ〜。あんまりトンデモだと無理ですけど」


「トンデモって・・・」


「世界を滅ぼす力とか、世界征服だとか、無敵能力だとか。厨二病の妄想こじらせた産物じゃ無ければいいですよー。危険でなければ大丈夫なので。

ほら、男の子ならそう言うのにあこがれるでしょ?」


「・・・俺女」


そういった瞬間に、可愛そうなモノを見る目で俺の胸を視てきたコイツを蹴り飛ばしたのは間違ってないと信じたい。悪かったな貧乳で。


「で、では能力は頭の中に描いた物体を現実に呼び出す能力と、身体力強化で、いいですね」


再びギャグ漫画のようにボコボコにされた女神に見送られ、俺の意識は闇に沈んだ。





「・・・・・・殿!・・・い殿!傭兵殿!」


「ん・・・あぁ、悪い。惚けてた」


俺の返答を聞いた鎧の兵士っぽいのは再び前を向いて歩き出したので、それについて行く。頭の中から引っ張り出した記憶で、自身のステータスと状況を確認する。

魔導都市グリモア。都市というよりは国といった感じだが、コレでも都市だ。魔法を使う者達が集まり、魔法の研究や、魔道具などの研究をしている。

武術都市ダイアモンド。魔術を使わない、使えない者や。武に憧れ、誇りを持つ者達が治める都市。都市に住む人達全てが屈強な武人達である。

この二つの都市が合わさって出来ているのが、王都ジェイル。魔術と武術を繋ぐ鎖なんだそうだ。

そして今俺が歩いてるのがその王都ジェイルにある王宮。王は世襲では無く、没する事に交代で都市の優秀な人材から選ばれ、政治を行う。

次に俺だが、都市グリモアのフリーの傭兵。要するに金次第で何でもやる何でも屋。一応腕が立つことで有名らしい。そして国の外で、人間を苦しめてきた魔物共の王が、とうとう人間を滅ぼそうとしているらしい。しかし人間とて黙って滅ぼされる訳じゃ無い。魔物共に対抗するために軍を編成。俺はその一員として呼ばれた、という事らしい。

今代の王様はグリモア側からの王様で、ダイアモンドの女性と結婚。今の所王子が一人、王女様が一人居る。王子の方は魔術の際に秀でているが、王女は武術と魔術に秀でている。という事になっているらしい。

らしい。と言うのもコレは全てこっちに来てから頭の中に入っていた記憶で、これが全て正しいと言う事を今の所証明する手立てが無い。どうしたモノか、とそこまで考えた所で、荘厳な扉の前で待っていろと告げられ、衛兵だけが中に入る。そうした後扉が開かれる。

中はよくあるファンタジーゲームの王城。と言った雰囲気で、横に大臣達が一列に並び、その奥の玉座に、豪華な青いマントの様なモノを纏い、その下には金で刺繍が入った青い服。その横に妃様が座り、その装いは目が眩しくなりそうな白いドレスを纏っていた。そこから少し離れた後に、赤いショートヘアに、銀色の軽鎧を纏った少女と、青いローブを纏った青年が立っていて、あの二人が王子と王女だろうと推測する。

そこで、王様の横に控えて居た鎧の大男が前に出て、口を開く。


「これより王が発言される!静聴せよ!」


その一言で部屋の中に静寂が訪れる。横にいた大臣たちが未だに少しヒソヒソと喋っているが、それら全てを無視し、王様に目を向ける。


「此度そなたを呼んだのは、魔王の件である。そなたも知っているであろう辺境の魔族共を纏め、人類を滅ぼさんとする者が現れた。我らも黙って滅ぼされる訳にはいかぬ為、軍をもってこれらを討滅する。貴殿にはその中に加わってもらう」


そこまで言って、王様は口を閉じる。大体分かった。よくある人類が滅ぼされそうだからどうにかしろって言うパターンだろう。ゲームと違って一人で行けとか言われないだけマシなのかも知れない。


「これは王の勅命にあらせられる!ありがたく命を受けよ!」


先程静聴せよとか叫んだおっさんが再び叫ぶ。近くにいるんだから叫ばなくても聞こえるっつーのに。

八つ当たり気味におっさんを睨みつけ、王様に向き直る。そして右手の中指を立てて一言。


「お断りだバーカ」


笑顔で言ってあげる事にした。



Side イア


傭兵を雇ったと聞いた。とても腕の立つ傭兵だと。私は兄上とは違い魔術の突出した才能は無い、精々人より少し優れている程度だ。兄上は魔術に関しては国内トップクラス。逆立ちしたって適わない。だから私は武も嗜んだ。今でこそ強いが最初は酷かったものだ。それでも自身は王の娘だ。いずれは何らかの形で民を守る事をしたい。その一心で努力した。

魔王が出現し、それを討伐する軍勢を起こすと聞いた時は真っ先に志願した。この時にこそ自身の力を活かすべきだと思ったから。その末席に傭兵が加わる。腕に不安は無い。だが民を守ろうと決起した軍と傭兵が同じ扱いかと思うと、複雑な気分ではあった。

そして今日、傭兵は現れた。白銀の髪に吊目の凛々しい顔スラリとした身体。黒い革のコートを纏い、全身が黒い服で覆われていた。その傭兵に王が声をかける。今回呼んだ理由を説明して居る。それが終わった後、その傭兵は恐ろしく妖艶な、誰もが見惚れる笑顔で


「お断りだバーカ」


中指を立てて言い放った。

一瞬、場内に沈黙が降りる。しかし、直ぐにザワザワと騒がしくなる中、


「この、無礼者が!」


という怒号が飛ぶ。その言葉に傭兵は面倒臭そうに振り向く。


「無礼者・・・俺の事か?」


「貴様以外に誰が居る!ここは畏れおおくも王の御前であるぞ!貴様の様な流れ者が呼ばれただけでも光栄と思わなければいかぬ場所!更には王直々に命令をくださったのだ。慎んで拝命するのが当然と言うものであろう!それを貴様は断るだけでは無く無礼な態度!貴様王をなんと心得る!」


「玉座に座ったオッサンだろ?それ以上でもそれ以下でもねえ」


その言葉に再び室内が騒然とする。あろう事か王をオッサンと呼び、敬意を現さない者など初めてだ。もはやこの場で殺されても文句は言えないと言うのに、この傭兵は堂々たる態度を崩さず、コチラを見下しているのでは無いかと言わんばかりの態度をとる。


「貴様!撤回しろ!」


兄上が叫ぶ。その叫びに反応したのか傭兵がコチラを向く。その時に目が合った。それだけだ、それだけなのに私は一瞬飲まれた気がした。何も写していない黒く綺麗な瞳。しかし奥は泥の様に澱んでいる。戦場や鍛錬、王の娘であり軍人であると言う立場から色んな人間に合ってきたし、悲惨な過去の人間も視てきた。それでも、あんな目をする人間にはあったことが無い。


「撤回しろ!我れらが王は!我らが父をその辺の凡愚共と一緒にするな!」


「ハッ、さっすが王子様だ。忠誠心と愛国心は人一倍ですってね。

ああ、いや、王様はかなり強い魔術師なんだっけ?そりゃ確かにその辺の凡愚共と比べちゃ失礼か」


そう言った傭兵の顔には嘲りが浮いていて、


「追いつけもしない人間と比べられちゃあ凡愚共が可愛そうだ。異常者と一般人を比べちゃいけねえな」


「貴様アアアアアアァァァァァァァ!」


最大の嘲りを持って吐き出された言葉に兄上が激昴、右手をかざす


「冷徹の刃をにて断罪せよ!『アイスブレイド』!」


その言葉と共に傭兵の頭上に氷で出来た刃が降り注ぐ。初級魔法のアイスブレイドでも、兄上の様に優れた術師が撃てば優れた魔法となる。防げない、そう思っていた。


「流石は王子様。初級魔法を広範囲殺戮魔法に変えるとはね」


何処から取り出したのかは分からない。黒い長剣を両手に握り、傭兵は降り注ぐ氷刃を斬り散らす。その全てを斬り払い、悠然と立つ。その顔には賞賛が浮かんでいる。


「吹きつけろ、場にある全てを―――――!?」


再度の詠唱、しかしそれは途中で中断される。

いつの間に迫ったかなんてわからない。一瞬で兄上の前まで移動した傭兵は兄上の両腕を切り落とす態勢で止まっていた。


「これ以上続けるんならアンタの両腕を切り落さなきゃいけなくなる。俺だって死にたくはないんでね」


間に合わない。今から詠唱をしようものならそれよりも早く確実に傭兵の剣が兄上の両腕を切り落とす。室内に再び静寂が降りる。緊張感からか震える人間も居る。私だってその一人だ。初めて人間を恐ろしいと思った。自分より強い人間なら沢山居た。それでも怖いとは思わなかった。


「傭兵よ」


王が口を開く。その言葉に傭兵が長剣をどこかにしまい、目を向ける。


「我が命を断る理由を教えよ、なぜ断る」


「笑わせんなよオッサン。俺は王に忠を尽くし、国を愛す軍人じゃない。金の為に戦う傭兵だ。アンタの命令に従うメリットが俺には無い。金払いの無い人間の命令なんぞ聞くものか」


顔に嘲りを浮かべて傭兵は笑う。俺を動かしたければ金を払え。と


「魔王を討伐した後然るべき報酬を約束する。それでは不服か」


「バカにしてんのならそう言えよオッサン。前払いで五百万、後払いで五百万。人間相手は別料金、一人につき十万。文句があるのならこの話は無しだ」


これが基本料金。と言った後、傭兵はそれに、と付け加えた。


「今回は別に滅んだって何も変わりゃしないヤツらを助けなきゃいけないんだ。基本料金+五千万。一ギルだって負けてやらねえ」


そう言って不敵に笑う。周りがザワザワと再び騒ぎ出すがそれを歯牙にもかけず、傭兵は王の方を向く。


「それとさ」


傭兵が私の方を向く。未だ兄上は身構えているが視界に入れてもいないのか、私だけを見ている。その直後、


「んっ!?」


傭兵の顔が目の前まで来たかと思うと、私の唇に唇を重ねた。

周りが騒然とするが、私は正直それどころじゃない。舌に口内を蹂躙され、息が切れる。多分顔だって真っ赤だと思う。傭兵の顔が離れ、私と傭兵の唇の間に銀の糸が引く。それを乱雑に拭った後、再び傭兵が王の方を向いて、言葉を放つ。


「この子、俺に頂戴」


私は、唖然とするしかなかった。



その後の事はよく覚えていない。取り敢えず傭兵に報酬は払う事になったし、私に関しても私が良いと言うなら良いらしい。傭兵は私の部隊に配属され、私の部下となり、今は私と共に出立の準備をしている。


「お姫様は随分しっかり準備をしているんだねえ」


さっきまで部屋の壁に寄りかかっていた傭兵が、コチラに声を投げる。


「当然だ。いざと言う時に物が無い。では困る。むしろ私は貴方がそんな軽装でいいのかと聞きたい」


「いーんじゃない?俺に求められているのは道中の露払い。魔王自体は軍で討伐するんだろうし。要するに魔王の所までのアンタらのお守りが俺の仕事」


そう言って再び壁に背中を預ける。


「そういう物なのか・・・?

ああ、そうだ。紹介が遅れた。私はイア。イア・エスメラルダだ。よろしく頼む」


「知ってるよお姫様。有名だからね。俺はカノン・ヒサメ、よく間違えられるけど女。よろしく」


告げられた性別に驚く。確かに男と言うには線が細いと思ったが、


「女だったのか」


「その言葉、男口調のお姫様には言われたくないな〜、まあお姫様は私と違ってスタイルいいし?間違えられる事も少ないんだろうねえ」


そう言うヒサメの顔は哀愁に満ちていて、苦労したんだなぁとしか言えなくなってしまう。


「ま、早くしなよお姫様。さっきから短気な軍団長が外でカリカリしてる」


「なっ!それを早く言え!」


慌てて荷物を詰め込み出した私をクスクス笑いながらヒサメは部屋から出て言った。



Side カノン


カリカリしている軍団長にもうすぐ来るんじゃね?と伝え、俺とお姫様の為に用意された馬車に乗り込む。移動はある程度までは馬車で行き、ある程度行った先からは歩いての行軍になるらしい。因みに千人が一つの馬車に乗れるレベルの大きな馬車が有るらしく、それを使う。俺やお姫様、一部の将達は個人ないし数人での馬車になる。俺達は女性というのもあって二人での馬車なんだとか。

先に乗り込んで待っていると、お姫様が少し疲れたような顔で乗り込んで来た。


「お疲れのようで」


「まあ、私が悪いのだがな」


「まだ時間内だってのに、カリカリしてる軍団長もどうかと思うけどな」


「仕方ないだろう。魔王を討伐する軍勢の総指揮を王より任せられたのだ。期待と名誉に応えねばと張り切っているのだろう」


「ふーん・・・、俺にはわからないな」


雑談混じりに喋っていると、全軍集合!という掛け声とともに、準備が終わって集合した兵士達が王城の前に整列している。俺達も例外ではなく、馬車から出て、総指揮官の後方に陣取る。

バルコニーの様な場所に王と王妃が現れ、話す。


「この軍は魔王を討伐する軍である。全員の肩にこの国の未来がかかっていると考えよ。

そなた等が背負うのは未来であり、愛しき人の命である」


そこで一度言葉を切り、力強く、王が叫ぶ。


「全軍、進撃し、生還せよ。我が命である!」


「「「「「Yes,my lord!」」」」」


全員が敬礼し、馬車に乗り込む。そして、指揮官が発する。


「全軍!進撃!」


馬車が動き出し、開け放たれた扉から出る。総勢五十万。この国の全軍を集結したらしい。それを横目に、寝転がる。


「寝るつもりか?ヒサメ」


「寝れる時に寝ておく。間違った事はしていないつもりだけど?」


お姫様にそれだけ言って目を閉じる。旅は長い。今は寝ておく。



起きた時には夜で、野営地が決まった所だった。起き上がった俺にお姫様が水筒を渡してくれる。


「随分とよく寝ていたな、まさか夜までぐっすりだとは思わなかった」


「ま、昼間は俺が必要な事なんてほとんど無いだろうしな、寧ろ夜の方が魔物は活発だ。面倒が起きなきゃいいけど」


そう呟いた私の元に、総指揮官様が来る。


「総指揮官のガイ・ドレイクだ」


睨みつけて来るので睨み返す。


「ヒサメ・カノンだけど?」


「昼間、寝ていたとの報告を受けている。夜間の見張りについてもらう」


「断る。と言ったら?」


「貴殿の報酬が減るだけだ」


「そいつは怖い」


そうおどけて見せた俺を相変わらず睨みつける。


「ま、断る理由も無いしね、精々金の為に働かせて貰いますよ」


それだけ聞くとガイと名乗った男は何も言わずに踵を返し、戻って行った。


「・・・随分とまあお堅いことで」


「彼はダイアモンド領の軍人だからな。厳格なのだろう」


ダイアモンド領の軍人はお堅いって言うのは本当だったらしい。元々夜間の見張り組として組まれていたお姫様と一緒に松明を持って周囲を回る。


「魔物と言うのは夜の方が活発な動きをする。と言われてはいるが、今夜は何もなさそうだな」


「だと良いけどね」


お姫様に適当に相槌を打ちながら、油断なく周囲を見渡す。そして、


「ま、大人しく寝かせてくれないことだけは確かかな」


そう言うと共に、ナイフを一つ呼び出し草むらに投擲する。何か肉に刺さるような音と共に草むらが騒がしくなる。


「チッ・・・、もう既に集まってやがったのか」


草むらから人間よりは背が低く、緑色の小鬼が数匹飛び出して来た。それぞれ手に錆び付いた包丁や棍棒などを握ってはいるが、その程度だ。


「近くに巣穴でもあったかそれとも晩飯の匂いに引きずられて来たか、まあどっちでもいいか」


即座に臨戦態勢に入ったお姫様を横目に確認しながら、手にナイフを三本呼び出し再び投擲。流石に真正面から投げつければ避けられるが、離れた一匹に近づき黒い長剣で首を飛ばす。直ぐに左手にソードメイスを呼び出し背後に振るう。肉と骨の砕ける鈍い音で仕留めた事を確認。直ぐに右手でナイフを投げる。今にも飛び掛らんとしていた一匹の右足に命中し、転ばせる事に成功。前に転けたヤツにつまずいて後ろのヤツらも転ける。そうして折り重なった所に大剣を呼び出し振り下ろし纏めて殺す。数を確認して、最初に見た数と合っていることを確認してからお姫様の所に戻る。


「数が少なきゃこんな物か、どーしたお姫様」


「・・・お前、強いんだな」


「何を今更」


不敵に笑って野営地に戻る。今夜はもうこれ以上何もありません様に、と祈りながら。

果たしてハイファンタジーと名乗っていいものなのか

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