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銀河辺境オセロット王国  作者: 柏倉
突破脱出行
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第4章 邂逅。そして脱出 「突然の出会い。これは永遠の友情になるわ」 2

 琢磨は1辺5メートル程の立方体ブロックを重力制御で浮遊させる。合計3つのブロックをアゲハの後部格納庫に運び込み、床のカタパルトに固定した。

 それぞれのブロックにオリハルコン合金を使用した特殊有線ケーブルを接続する。

 後部格納庫からアゲハの外に出て搬入口を閉じる。これで後部格納庫は、完全に隔離状態となった。

 アゲハ後部格納庫の搬入口の横にあるドアを開ける。気密エアロックに入り琢磨はコンバットオペレーションルームへと向かう。

 尊大で横柄な音が通路に響く。

 アゲハの翻訳機能を通し、ロイヤルリングで声として認識できる。

『ここは何処か?』

「・・・」

『すぐ近くに貴様が居るのは分かっている・・・たしか琢磨とかいうのだろ』

「・・・音声の切り替えをしててね。無視してた訳じゃないんだ。それに君なら分かるんじゃないかな。ここが何処かなんてさ」

 琢磨は歩きながら黒雷の開発シミュレーションや、他の作業を並行して実施していた。そのため、応じるのが遅れた・・・訳でなかった。正直、相手をするのが面倒だったのだ。

『宇宙船のようであるな』

「流石だね。君は、他の者達より感覚が鋭敏なようだ」

『だが、宇宙船に収納されてから、またもや良く見えなくなった。縛りつけるだけでなく、視界まで奪うとはな。つまらぬ真似をする。何とかするのだ。それと腹が減った』

「何ともしないし、自分の立場が理解できているのかな?」

『無論だとも。貴様らは余を害する気はないのであろう。さもなくば、脱出するのに荷物となる余らを運び入れたりはせぬ。置いていくなり、殺害していくなりすれば良いのだ』

「君が聡いのは知ってるんだよね。できれば協力をしてくれると有難いかな」

 琢磨は基本的に嘘をつかない。

 ただ、本当のことを言わないだけだった。

『誇り高きエルオーガ軍の将校が、貴様らなぞのような下賤の輩に、何故余が手を貸してやらねばならぬ。貴様らは』

「それは残念だね。情報提供してくれる気になってから、声をかけてくれないかな?」

『“マナ”の提供次第では、検討してやっても良いの・・・』

 ロイヤルリング経由でアゲハの”中の人”に命令し、通信を遮断した。

 琢磨には彼と違って忙しい。自由があるならば余とて忙しい、とでも言うかもしれないが・・・。これ以上、実のない会話に付き合えるほど琢磨には暇はなく、お人好しな性格でもない。


 ジヨウとクロー、レイファがアゲハの外までソウヤを迎えにきていた。

「ビンシー6のチェーンソーブレードが通用しないとはな」

 ジヨウはソウヤに気を遣い、負けたのをチェーンソーブレードの所為にした。

 その気づいが解っているから、ソウヤも軽い調子で返す。

「まいったぜ」

「びっくりだよね~。切断されちゃったねぇ~」

「ふむ、まさか・・・貴様のビンシー6のチェーンソーブレードが、飾りであったとはな」

「んな訳あるか。それにしても、腕をアッサリと斬り落とされっとはな・・・」

 ハルナ機に斬り落とされたビンシー6の腕へと、ソウヤは顔を向けた。装甲の切り口に視線をゆっくりと這わせた途端に、背筋が凍りつく。切断面が滑らかで、反射光が眼に入ったからだ。

 武器だけでなく、機体にも圧倒的な性能差があるのをイヤでも理解させられた。

 あの切断面は、刹那の間にビンシー6の腕を黒刀が駆け抜けたからこそ可能となる。それに人型兵器が達人の如き、動作をしなければ不可能である。

「でもね。ビンシー6が最大加速で飛び込んだ時は、期待感あったよ~。ウチ、ソウヤが勝てるかも~って思ったもの」

「ふむ、あの戦法は良かったぞ。結局、貴様は負けたが・・・」

「ああ、ソウヤはビンシー6の性能を限界まで引き出していたな。敗北してしまったが・・・」

「ちょっとの差だったと思うよ・・・ウチ的には。でも、勝てなかったけどね~」

「駆け引きは、オレの方が上だったんだぜ」

「そうだな、わざと議論をヒートアップさせて、実際に人型兵器を使った対決に持って行ったからな。遥菜さんの分かり難い説明からでも、武器性能は差がありすぎて勝てないとは理解できていた。総合勝負に持って行ったのは流石だ、ソウヤ。まあ、敗北してしまったが・・・」

「うむ、それは認めようぞ。貴様の直感が、勝負になるところまで持っていったのだ。だが武器性能だけでなく、機体性能も向こうが上であったのだ。それらを総合して評価すると・・・。貴様は敵戦力を見誤り、良いところなく無残にも敗れ去ったということだぞ」

「でもね、玄人受けする立ち合いだったと思うよ~。そう、一瞬も気を抜けない勝負だったよ。勝負は一瞬で決まっちゃったけどね~」

「テメーらぁあぁああーー」

 握り締めた拳が怒りで震える。だが、怒りのぶつけどころがなかった。

 3人ともソウヤの作戦も、駆け引きも、すべて理解した上で、傷口を拡張して、満遍なく塩を塗りたくってくる。

 ジヨウが恵梨佳から貸りた掌サイズの平面型のコネクトに、呼び出し案内が届いた。

「琢磨さんが全員を呼んでる。アゲハのコンバットオペレーションルームに行こう」

 ジヨウはコネクトのナビに従って、ソウヤたちをコンバットオペレーションルームまで導いた。

 こういうリーダーシップ・・・それが雑務に近ければ近いほど・・・はジヨウが適任だぜ。

 ジヨウを信頼している割には、失礼過ぎることをソウヤは考えていた。

 さっきの立合いの再シミュレーションは、コンバットオペレーションルームに着いてからすればいい。間違いなく遥菜と言い争いになるだろうから、精神的な余裕を確保しておこうと他のことを考えていたのだ。

 部屋に入ると琢磨と遥菜がいなかった。

 肩透かしを食らわされ、ソウヤは遥菜のことを恵梨佳に尋ねる。

「自分の部屋にいますよ。もしかしたら、来ないかもしれないですね。話し合いなら、お父さまと私がいれば済みますから」

 それじゃあ、パイロットとしての遥菜の技量が分からねぇ。

 情報収集はジヨウの得意分野だから任せるとしても、立合った相手がいなければ、入手できない情報もあるんだ。

 負けを認めるざるを得ない。今は・・・。

 だが、2度は負けない。

「ジヨウ、それ借りるぜ。それと、会議始めんのは、ちょっと待っててくれ」

 ソウヤはジヨウからコネクトを奪い取り、コンバットオペレーションルームを飛び出す。

 コネクトの指示通りソウヤは遥菜の部屋へと駆ける。3分とかからずコンバットオペレーションルームから遥菜の部屋の前に到着した。

 遥菜の部屋はここで間違いないな。

、ソウヤは確信していた。

 理由は単純で、ドア一面に様々な花が描かれ、視線の高さにオセロット王国語で”はるな”と書かれていたからだ。

 ドアの前で一瞬躊躇する。たが、アゲハに乗る全員が生き残る為に、これは必要なことだ・・・。

 ソウヤがドアへと一歩踏み出すと、扉が自動で左右に開いた。靴脱ぎ場があって、部屋用サンダルが1つ用意されている。

 これは、オレが来ることを推察してたのか?

 遥菜もオレとの対決・・・いや、会話を望んでいるのだと、直感で理解する。

 それならば、遠慮することはねぇーな。

 サンダルへと履き替え、奥のドアへと歩を進める。

 廊下のドアと同じように両開き扉が左右に開くと、広い部屋の中央に遥菜が立っていた。

 遥菜は頭にタオルを巻き、体には淡い緑色の可愛いレースをあしらった揃いのブラとショーツのみ。その姿で左手を腰にあて、右手で瓶に入ったコーヒー牛乳を呷っていたのだった。

 女子的には、2重の意味で恥ずかしい姿を晒していた。

 しかも、会ったばかりの男子に・・・・。

「きゃあぁ、出ていけ、バカァー。何、考えているのよ。死にたいわけ?」

「死にたくねーから、来たんだ!!」

 オセロット王国に辿り着くために、全体の戦闘力は、高ければ高いほどイイに決まってる。

 だから、オレは強くなる。

 それには原因分析と対策が絶対に必要なんだ。

「なんで、まだいるわけ!? 早く出ていけぇー」

 決意に燃えているソウヤは、叫ぶようにして声をだす。

「話を聞け!」

 しかし視線は、遥菜の瑞々しくキメ細やかな肌に吸いつき離れない。

「後にすればいいでしょ!」

 それは・・・そうだな。

 頭が少し冷えたソウヤは、思考を巡らせる。しかし視線は、遥菜の下着姿から外せないでいた。落ち着いてきたからこそ、彼女のスタイルの良さがわかる。

「アナタ自殺志願者な訳?」

 透明感のある心地よい声に、剣呑な雰囲気が宿り危険な香りを漂わせていた。

「おっ、おう。コンバットオペレーションルームで待ってんぜ」

「いいから出ていけー」

 遥菜は言葉と共に、コーヒー牛乳が入っている強化クリスタル製のボトルを投げた。

 反射的に、ソウヤはボトルを弾き飛ばし、大和流古式空手の構えをとる。

 構えが彼を真剣な表情にし、遥菜の眼と全身に視線を定め、いつでも立合い可能となった。

 ただ、遥菜の立場からすると、それは全身に視線を這わされているようなものだろう。

 遥菜の眼が妖しく光り、姿が陽炎のように揺らいでいる。

 自分の直感を信じ、ソウヤは脚に全力を注ぎ、部屋の外へと無事に飛び出す。

 部屋用サンダルの時は、直感が外れた。

 しかし、今度の直感は当たったようだった。


 ソウヤが遥菜の部屋を電撃訪問してから約10分後、アゲハのコンバットオペレーションルームに全員が集まっていた。

「出会ってから4時間と少々・・・。仲良くなるのが早すぎるかな。父親としては、もう少し相手の中身を見てからにして欲しいな、遥菜」

 琢磨の口調に怒りの成分が感じられなかった。

 ソウヤにとっては、それが怖いような、有り難いような、複雑な気分に陥る。

 未だに遥菜の下着姿が瞼の裏に焼きついている。父親からだったら2、3発殴られても、収支的にはプラスとなる気がするし、覚悟もしていた。

「ソウヤは口先だけじゃないんだから~」

 小声で反論するレイファを、全員が丁重に無視して会話を続ける。

「アイツを宇宙に放り出してやりたいわ。いや、出すわ」

「遥菜。なぜドアが開いたのかな?」

 琢磨の台詞の意図が掴めなかったようで、遥菜は意味が分からないとの表情をみせる。

「・・・・? あっ」

 遥菜が斜め下を向いた。その視線は定まっていない。何かに気付いたらしい。

 それに追い打ちをかけるように琢磨が言う。

「ルーラーリングの説明もせず、アゲハ内での制限設定もせず渡してしまった。人型兵器同士の立合いでは、薄氷を踏むかのような勝利を飾った。それが嬉しかったのかな? それとも疲れたのかな? どっちかは判らないけどさ。部屋に戻って汗を流したかったから、それを優先した。2回はあったチャンスを見逃したんだよね?」

 ハッキリわかった。怒りの成分が無いのは、娘の浅はかな行動に呆れていたからだ。

 遥菜は先ほどまでとは別人のように、身を縮めて、か細い声で返事をする。

「は、い・・・」

「ジヨウ君たちに話しておくけど・・・。遥菜は頭が良く、非常に良くできた娘なんだけど、少々頑固で、活発すぎるんだよね。まだ15歳だから経験不足による暴走は仕方ないのさ。とはいえ・・・」

「15歳!?」

 ジヨウが驚愕の声を上げた。

「ジヨウ君、どうかしたのかな?」

 ジヨウ、ソウヤ、レイファ、クローが次々と本気で否定の言葉を投げかけた。

 それが余程不本意だったようで、遥菜は口を尖らせながら意味のない反論をする。

「どういう意味よ? アタシが15歳だと何かいけない訳?」

「年上じゃなく・・・。同い年かよ」

「あなた15歳なの?」

「ソウヤとクロー、それにレイファは15歳で、俺は17歳だ」

 ジヨウが歳を紹介すると、琢磨が軽い感じで恵梨佳の歳をばらす。

「因みに恵梨佳は18歳なんだよね」

「ウ、ソ・・・。ウチ・・・てっきり20歳以上かな~って・・・・・」

 ソウヤとクローは絶句し、ジヨウがボソリと呟く。

「俺は、22歳ぐらいだと思ってた・・・」

 ジヨウとレイファ兄妹の台詞に、恵梨佳の表情が険しくなっていく。

 恵梨佳が口を開く前に、琢磨が提案する。

「丁度良い機会だから、君達に船のこと。敵のこと。武器のこと・・・。いろいろ説明しておこうかな。どうも、娘たちに任せると、年が近い所為か君たちと反発してしまうようだからね。ここは僕の出番・・・。よし、説明しようか。うん、説明しようか。さあ、ここからは一言たりとも聞き逃してはいけないからね。僕の貴重な時間を割くのだからさ」

「それは俺たちにとっては願ってもないこと。お願いしてもイイですか?」

 ジヨウは真摯な声で依頼した。唯一、この集団を纏められる人物に丸投げできるのだから。

「お父さま、時間は大丈夫ですか?」

「後、2時間ぐらいの余裕はあるさ」

 情報は多ければ多いほどイイんだぜ。琢磨・・・色々と疑わしいが、時間がないのことはホントらしい。


 2時間は与えすぎかな。

 しかし彼らを信用させ、協力させるには充分なコミュニケーションが必要だろうし・・・。

 生まれ育ちの背景が異なり過ぎるから、お互いを理解しあうのは難しい。だが共通の目的を与えれば、それに向かい協力ができる。組織の外部に共通の敵ができれば、内部は固まる。その為に使う時間は、決して無駄とはならないさ。

 琢磨はそう自分を納得させ、ディスプレイとホログラフィーを駆使して説明を始める。

 宇宙には原子等の通常の物質が4.9%、ダークマターが26.8%、ダークエナジーが68.3%の割合で構成されていると推測されている。しかも、一様ではなく偏在している。

 ダークマターにはオリハルコンやミスリルのように良く知られた物質から、未だ性質の解析できていない物質まである。無論、ダークマターだけで構成された知的生命体も存在する。

 周知のとおり、ダークマターは電磁相互作用しない。それにダークマターの多くは、通常物質とは引力干渉と、衝突以外の作用をしない。要は、レーザー兵器はまったく通用しない。ビーム兵器なら、荷電粒子との衝突で破壊は可能なのさ。

 準惑星の防御衛星は、暗黒銀河からきたエルオーガ軍に対抗するため、主砲を改良していてさ。レーザービームに、あるダークエナジーを混合させてるんだよね。因みにダークエナジーにも多数の種類がある。殆どのダークエナジーは、斥力を発生することが知られているかな。オセロット王国の中ではだけどね。

 僕達は主砲で、このダークレーザービームを発射できるように改良したんだけどさ。その所為で発射間隔が大分延びてしまったんだよね。今は連射可能にするのと、小型化が喫緊の課題かな。

 敵は、エルオーガ国。

 まあ、オセロット王国の誰かが名付けたんだけどね。敵種族は、エルフ型と鬼型が存在している。通称”エルフ”と”鬼”と呼んでてね。どうも暗黒銀河には、この種族の他も存在することが判明しているけど・・・今回の敵は、エルフと鬼の2種族だね。彼等種族は共存共栄の関係にあり、エルフは長命で知的、鬼は短命で好戦的という特徴を有している。

 ああ、それと彼等はオセロット王国の敵というより、人類の敵だからね。

 僕達は光・・・つまり電磁波でものを視、音・・・つまり空気の振動で会話する。しかし彼らは、重力波でモノを視、ダークマター”エリアル”の振動で会話をする。

 ただし現時点では、エルフ型と鬼型以外の暗黒種族がどうコミュニケーションを取っているかまでは、分からないけどね。

「ふむ。何故、エルフと鬼なぞと名付けたのか・・・やはり、外見からであるのか?」

 クローの意見にジヨウが反対を述べる。

「どうやって視るんだ、クロー? 重力波測定装置では、詳細な姿までは無理だろ」

「触ってみるのはどうかな~。そうすれば、大体の形は見当つくんじゃないかな~」

 知的な会話は愉しいね。さて、彼らは気付くかな?

「僕達の触覚では、全体像の形を把握するのは難しいね」

「触って、いちいち確認するのは面倒だぜ。ペンキの中にでも漬けこめばイイんじゃねーか?」

 驚いたね。ソウヤ君は意外と賢いらしい。

 ソウヤの適当な意見に、琢磨は即座にお墨付きを与える。

「正解だよ、ソウヤ君。まーペンキの中にいれた訳じゃないけどね。視えないんなら色を付ければ良い。すると僕達にも形が良く解るからね。彼らの姿は、まさにエルフと鬼だったんだ」

 ソウヤたち4人は、唖然とした表情をみせた。

 ソウヤは自分の直感的な答えが当たったことに、他の3人は暗黒種族の姿形に・・・。

「そう別に難しく考えることじゃないのさ。電磁相互作用しないなら、電磁相互作用する物質を表面に塗布すれば良い」

「なるほど。しかし、ダークマターに塗布できる通常物質の調査が・・・」

 ジヨウの考えが言葉となって漏れ出した。その言葉の続きを琢磨が引き取る。

「最初は、かなり大変だったんだよね。だけど塗布できる通常物質を一つ発見した後は簡単だったかな。だけどね・・・どんな事でもそうだろうけど、一番は発想できるか・・・閃くか、が重要なのさ。科学技術なんて、他の分野で当たり前にやってることを自分のやってる分野に応用すれば、即座に解決っていうのが多くあるからね。今回は、模型作りが趣味の研究員が色を塗ることを思いついたのさ。しかも、ダークマターの材質ごとに色を使い分けようとの提案だった。この提案が、なかなか良かったな」

「そうか~、直感は重要なんだ。直感力ならソウヤだね~」

「こういうのは、やはりソウヤだな」

 ジヨウは呆れ成分を多めだった。そしてクローは皮肉成分を多めに込める。

「ふむ。さすが直感力だけの男だぞ、ソウヤ」

「クロー。テメーだけ、褒めてねーぜ」

「アタシの下着姿を覗いたのも、その直感力だった訳。下劣な直感力だわ」

「ざけんな! そんな直感力あるか!」

「ソウヤ君には、その直観力で、キセンシを操縦してもらおうかな。覗きの罰としてね」

 “キセンシ”は、オセロット王国軍の主力人型兵器である。

「パパ!」

「うむ。ならば、我も覗かねばなるまい」

「恵里佳さんでも良いのかな?」

 決意を語ったクローに、相手の変更を要望したジヨウ。

「ジヨウにぃ~。クロー~」

 レイファは、笑顔で口から甘い声音を響かせているのだが、不思議なことに妖しい雰囲気が漂ってきた。

 なかなか、どうして、個性豊かで愉快な4人組だね。シラン帝国の少年少女は、みんな逞しいのかな? それとも彼等が特別なのか・・・。

「我は、キセンシを操縦するために・・・」

「俺は、ちょっと訊いてみただけで・・・」

 ああ、とりあえず普通の少年の一面はあるらしい。ならば、父親としての発言をしてみようかな。

「僕は、恵梨佳と遥菜の父親なんだけどね」

 ジヨウとクローは、2人揃って俊敏に頭を下げる。

「「すみませんでした!」」

 目上の人に礼儀正しく対処できるのは、大和流古式空手での修行の賜物だった。

 そうか・・・ある程度は良識を持っているのなら、大丈夫かな。それならダメ元で、全員参加でも構わないさ

「ちょうど4機あるから、4人仲良く遥菜の元で、心身共に特訓してもらおうかな」

「機体性能が同じなら負けないぜ」

 キセンシとエイシは、違う機体で性能も異なるのだが、ソウヤはそこまで知らなかった。

 ソウヤが遥菜を見ると、突き刺すような強い視線で彼女が睨んでくる。遥菜の佳麗な顔で睨まれると、表情に凄みがある。だが、そんな表情をしていても彼女は眩い美少女だった。

「心が折れるくらい徹底的に鍛えてあげるわ」

「芯の強さには自信があるぜ」

「なら、ひき潰すわ。ミンチにしても売れないだろうし、食べられないでしょうけどね」

 眼は笑っていないのに、遥菜は凄く良い笑顔をみせた。それは相手に、冷汗を強制的に流させる凄みのある笑みであった。

 ああ、ボクの娘ながらに怖ろしいことだ・・・。間違いなく母親の血を受け継いでいる。


 琢磨がソウヤ達に出会って、3日が経過した。

 現在アゲハは、準惑星の重力圏の影響範囲から離れ、境界突破航法装置“マーブル1”の近くに停止している。

「さてジヨウ君、手順通りに始めてくれないかな」

 ジヨウの顔が強張り、緊張に手に汗を握っている。

「はっ、はい。了解しました」

 ジヨウはこの3日間で、すっかり琢磨の助手と化していた。

 琢磨は、準惑星から脱出する為の準備をしながら、ジヨウに様々な情報を提供してみた。

 驚きだったな。彼は兵士とかリーダーというより、エンジンアとか研究者の資質が多いようだ。優秀さと技術に対する真摯な姿勢は、高評価といえる。だからマニュアルと共に、作業を徐々に任せていく。・・・というより、押し付けていった。

 オセロット王国と大シラン帝国は、言語体系が異なる。しかし電子機器や機械の仕様、コンピューター言語などの技術標準は、事実上オセロット王国製に準拠されている。これもジヨウに作業を手伝わせるのに功を奏した。

 天の川銀河系”ペルセウス腕”に位置する国の中で、オセロット王国が科学技術や研究分野で圧倒的に、かつ最先端を独走している。

 ちなみに天の川銀河系は、銀河中心から伸びた渦状腕が存在する棒渦巻銀河であり、ペルセウス腕は太陽系が存在するオリオン腕の隣である。六千光年以上離れているので、オリオン腕の科学技術交流がなく、どちらの技術水準が高いかは判らないのだが・・・。

 アゲハのコンバットオペレーションルームに宇宙船の全乗員7名が揃っていた。

「気軽に行こう、ジヨウ。設定した命令を実行するだけの簡単なお仕事なんだぜ」

 今からジヨウが実行しようとしているのは、準惑星にあるマーブル軍事先端研究所の研究施設と、最新武装に換装された防衛衛星を破壊する命令だった。

「ふむ・・・。いいや、ソウヤよ。あそこには軍事機密が満載なのだぞ。故に、確実に精確に撃滅せねばならん」

 研究施設や防衛衛星には、都合よく自爆装置など存在していない。何より、自爆装置がある施設や設備で働きたい者はいないだろう。

 ジヨウが実行する命令は、第一段階で無人防衛衛星が研究施設を攻撃し、破壊する。第二段階で、衛星の姿勢制御推進装置で移動し、他の無人防衛衛星を攻撃し、破壊する。最終段階で、残った無人防衛衛星自体を、準惑星に突入、衝突させ破壊する。

 これだけの施設を破壊すると聞いた時、ジヨウの表情は引き攣り、ソウヤは太々しい笑みを浮かべ「愉しみだぜ」と言い、クローは「どれほどのものか、確認してやろうぞ」と嘯いた。最後に、レイファは「ふ~ん、お風呂入ってくるね~」と言ったのだった。

 一番肝の据わっているのは、レイファちゃん・・・かな?

 単に興味がないだけかもしれないが・・・。それはそれで、興味深い人柄ではあるね。それとも自分に出来ることはないと達観しているのかな。

「さあ、ジヨウ君。君の手で、オセロット王国の最先端科学技術の塊であるマーブル先端軍事研究所を闇に葬るのだ。そう、中途半端は一番良くないことだね。だから夢と希望と今後の生活をかけて、この研究所に集まった研究者達の未練を断ち切るために、完全なる無へと帰せしめるのだ」

「琢磨さん。何か愉しそうに聞こえるんですけど、気の所為ですか?」

 ジヨウ君は、微妙に震える声で非難の言葉を発したが、ボクは全く気にならない。

「それは気の所為だね。僕はマーブル軍事先端研究所の所長なんだから、そんなことないさ。さあ、ジヨウ君。君の手で実行するんだ。さっさと済ませてしまおうか。今後はアゲハの管制コントロールにキセンシの装備の換装方法、何よりもボクの研究開発を手伝ってもらうんだからね。ボク達がここで、停滞している暇はないのさ」

 ジヨウは表情を引き締め、力強く返事をした後、コマンドを発する。

「CAIコール。実行命令、マーブル秘匿作戦」

 決意さえすれば、落ち着いて作業を遂行する能力がジヨウ君にはある。考えすぎるが故、周囲を説得しようとするが故、弱腰に見える時もあるが・・・。ボクの仕事を手伝わせるに値する人材だろう。

 しかし、それは琢磨の見立てが間違っている。ジヨウの近くに、行動力過多で直感力優先のソウヤと間違った方向に正しく振る舞うクローが、比較対象になっているからだ。

 メインディスプレイに、作戦実行を促す表示がされた。

 ジヨウが、ルーラーリングからコネクト経由で、アゲハのシステムに命令の実行を許可する。

 重要なコマンドは、声だけで実行するのは不可能になっているのだ。声は簡単に模倣できるが、ルーラーリングは生体情報のチェックをしていて、他人への成り済ましが不可能なためだ。

 ジヨウが作戦を実行した瞬間から、音のない世界で光の饗宴が3時間に及び繰り広げられた。

 ソウヤ、クロー、レイファ、そして遥菜は展望ルームに移動して、絢爛華麗で、様々な色の光の乱舞を存分に楽しんだ。

 その間、恵梨佳とジヨウはデータ収集チェックに追われていた。そして、恵梨佳とジヨウの実施している定型的作業以外は、琢磨がすべて担当していた。

 準惑星の周囲には帝国軍、幻影艦隊との戦闘の影響が色濃く残っていて、無数のデブリが浮遊している。そのデブリが防衛衛星の進路を妨害したり、情報収集通信衛星のデータ採取の邪魔をしたりしてイレギュラーがかなり発生していた。それらのイレギュラーに対して再計画と再計算に再調整、実行を琢磨が一人で実施していたのだった。

 光の饗宴が終了したあと、コンバットオペレーションルームにソウヤたちが戻り、コーヒーブレイクとなった。

「凄かったぜ。特に最後の準惑星への衛星落としが・・・」

 ホログラフィー表示用円卓を囲んでの会話は、自然とさっきまでの衛星破壊になっていた。

「まったくだ。我は公転している準惑星が軌道を変える瞬間を初めて見たぞ」

 男子の感想はひたすら破壊に関してで、女子の感想は光の光景についてある。

「すっごい光だったね~」

「光の色が素晴らしかったわ。複数の光線の交わりによって織りなす光の道が出来て、どこまでも歩いていけるみたいで・・・」

 そして琢磨達の会話は、感想ですらない。

「この船には、君の知識欲を刺激し満足させる情報があるね。それこそ人生を何度繰り返しても、目を通せないほどあるかな。しかも、研究開発の設備も併設してあるのさ。どうだい、僕の助手をすれば、この銀河の最新技術と最先端研究成果に触れられるようになるんだよね」

「いいんですか?」

「無論、構わないさ」

「やらせてください、お願いします」

 良し、言質は取った。

 存分に能力を振るわせてあげよう。それこそ限界ギリギリまで、頭脳を酷使してあげるさ

 琢磨は心の中で悪人の笑みを浮かべたが、もちろん表情には出していない。

「お父さま、ジヨウ君。そろそろ境界突破航法の予定時間です」

 琢磨とジヨウの会話に恵梨佳が割り込み、ソウヤが質問をする。

「他にも衛星が残ってんぜ。あれはいいのかよ」

「あれは旧型の情報収集通信衛星だから破壊するまでもないさ。重要なのは、この研究所の最新研究成果だからね。それではジヨウ君、予定通りにしてくれないかな」

「はい。境界突破の準備に入ります。琢磨さん、恵梨佳さん、遥菜さんは席に座ってください。レイファも適当な席に。クロー、ソウヤ・・・は、どうでもいい」

「意味が分からんぞ」

「なんだ、それ」

「お前らは、少しぐらいの揺れじゃ転ばないだろ。転んだとしても、俺は気にならないしな」

 続けて文句を口にする2人を無視して、ジヨウは準備を進める。

 さすが直感力に優れたソウヤ君だ。指摘された情報収集通信衛星は、旧型である。そう嘘はついていない。

 しかし、その情報通信衛星は索敵衛星であった。

 敵にとって有益な情報の塊で、研究所の所長でもあった琢磨が、その価値を知らない訳がない。そして、それを帝国軍が見逃すはずもない。

 索敵衛星には、ソウヤたちがアゲハに乗船してオセロット王国に向かうという情報が、映像などで残っている。琢磨は、彼らが大シラン帝国軍を裏切ったという情報をワザと残したのだ。

 これでソウヤたち4人には、大シラン帝国に戻るという選択肢が消滅した。

「CAIコール、実行命令、時空境界突破」

 ジヨウの命令で、アゲハは時空の境界を越えマーブル星系からオセロット王国へと旅立った。

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