第1章 ソウヤ、ジヨウ、クロー、レイファ 「主役はオレだぜ!」 1
ソウヤとレイファの2人は、目的のゲームセンターに到着した。
そこは3階建てで、すべてのフロアが大小さまざまなゲームで埋め尽くされた巨大ゲームセンターである。
今日は、チーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝戦が開催される予定だ。
この大会は絶対守護内の各ゲームセンターと接続した大掛かりなもので、優勝チームには多額の賞金が出る。
1チーム4人までなのだが、ソウヤたちは前回大会まで3人で参加していた。しかし、4人1チームを想定しているだけに、3人では明らかに戦力不足だった。
それでも初回大会から3回連続決勝進出していて、今回は優勝の最有力といわれている。
だが、ソウヤたちはゲームセンターに入らなかった。
ゲームセンター横の広場に、人だかりができていたからだ。
嫌な・・・ホントは愉しそうな・・・予感がする。
予想どおり、知っている声が人だかりの輪の中心から聞こえてくる。
「我はファイアット家29代目にして、中興の祖となるクロース・ファイアットだぞ」
「はぁ? オメーは何者だってんだ? オレたちと同じ3等級臣民じゃねーのか。3等級臣民に姓はねーんだ。お高くとまってんじゃねー」
輪の中心で、ソウヤたちの知り合い2人が言い争いしている。その雲行きはかなり怪しく、いつ殴り合い・・・いや、立合いが始まってもおかしくない雰囲気だった。
その緊張感あふれる空気の中、レイファは対峙している2人の間を抜け、向こう側へと嬉しそうに走っていった。
レイファの行動によって言い争いは止まったが、それでも緊張感は薄れていない。
その緊張感の真っただ中を、次はソウヤが片手を挙げ、ゆっくりと歩いてレイファの後を追う。
レイファとソウヤが通り抜けると、2人は何事もなかったかのように言い争いを再開した。レイファとソウヤの行動は、2人とって普段通りのことだからだ。
レイファが走って近づいた先に、端整な顔立ちに隙のない姿勢で立っている男がいた。
存在感のある男ではあるのだが、成人男性の標準身長より背が低い所為か凄みに欠ける。
「ジヨウにぃ。クローとウェンハイは、どうしたの~」
魂が引き合うのか? それともブラコンだからなのか? レイファは人の輪から、兄であるジヨウをすぐに見つけていた。
理論の人”ジヨウ”はレイファの二つ上の兄で、外見は栗色の髪の毛を短髪にし、レイファの顔を鋭利にする。そして落ち着いた態度をとらせると、ジヨウが出来上がる。
ジヨウは腕組みしたまま、レイファに事情説明を始める。
「最初は、今日の決勝戦の話だったんだがな・・・。いつの間にか、いつもの議論になったんだ。人としての誇りはないのかというクローに、現実を見つめろというウェンハイの主義主張の平行線だ。交わることのない議論だな・・・」
「人だかりになってんのは、何でだよ?」
ソウヤが口を挟むと、ジヨウが素っ気なく言い捨てる。
「知ってるからだろ」
当然ソウヤとレイファも知っている。
ソウヤは嬉しそうな表情をし、レイファは整った眉を少し顰める。
「やっぱりかよ」
「そうなっちゃうのかな~」
人だかりの連中は、期待に満ちた顔で成り行きを見守っている。
中心にいる2人の言い争いは、すでに罵り合いへと発展していたのだ。
「ゲーム開始も近いから、早くした方がよさそうだな」
ため息を吐き仕方ないという表情で、ジヨウがクローとウェンハイの間に、手を叩きながら入って行く。
「はいはい。いいか、防具がないから目突き金的禁止。他は大和流古式空手の立合いルールだ、いいな。はい、それでは始め」
ジヨウは手慣れた様子で、2人の立合いをスタートさせた。
クローとウェンハイ、それにジヨウとソウヤは、大和流古式空手を習っている同門の仲だった。無論、大和流古式空手も他の武術道場同様に喧嘩を禁止している。しかし同門同士の立合いは修練の一環として禁止していない。
主義主張の違いから、クローとウェンハイは頻繁に立合いという名の喧嘩をしていた。
身長はクローの方が10センチ以上高い。だが、ウェンハイは筋肉量が多く、クローより体重がある。また、持久力でもウェンハイに軍配が上がる。
型と技の派手さではクローだが、不器用なウェンハイは強くなるため、多種多様な技を修得するより、少ない技を極めんと修行していた。
そして対戦成績は、圧倒的にウェンハイが上だった。
速射砲のごとく矢継早に正拳突きを繰り出すウェンハイに対して、クローはサイドステップで避けるだけで有効な攻撃を出せていない。
しかしクローは、ウェンハイの正拳突きの撃ち終わりに反撃に転じた。
右斜め後ろへとバックステップしてから、右下段廻し蹴りを放つ。ウェンハイは左脚を少し浮かして脛で蹴りを受ける。
だがクローの反撃は止まらない。クローは右脚を戻し地に足をつけた瞬間、左膝蹴りをウェンハイの顔へと飛ばす。
その場でウェンハイはクロスアームブロックで受けきると、左脚を踏み込み左ロングフックをクローのボディーへと叩き込んだ。
よろけるクローに、ウェンハイは追撃の正拳4連撃を放つ。
だが、クローは姿勢を立て直し、華麗なステップでウェンハイを中心として円を描くように躱す。
金髪碧眼で彫りが深く、クロースは紳士的振る舞いを信条としている。それ故に大和流古式空手の技も、優雅とか華麗とかの基準で修練する技を選んでいた。
技の選り好みはしても、クローは修練を重ねている。
クローは勢いをつけて、重い左前蹴りを放つ。
その威力をウェンハイは再度クロスアームブロックと鍛え上げた下半身で抑え込む。蹴りを受けきり、反撃の下段蹴りをクローの軸足に叩き込んだ。
慣れない足技のせいか、ウェンハイは次の技への連絡が上手くいかなかった。しゃがみ込んだクローへの追撃にもたついてしまったのだ。
その隙を逃さずクローはしゃがみ込んだ姿勢で足払いをかけ、ウェンハイを転がす。
距離をとって対峙するや否や、2人は同時に動き出し、更に激しい技の応酬を繰り返す。
ソウヤたちの間近で、いつ終わるともしれない足技と手技の見応えある攻防が続く。
野次馬たちの様子は、興奮から熱狂へと変化していた。
5分以上に及ぶ一進一退の立合いに変化を求めたのか、ウェンハイが上段右廻し蹴りを放つ。それをクローはバックステップで後ろに躱してから、左廻し蹴り、そして後ろ蹴りに繋げる。
ウェンハイはクローの後ろ蹴りを拳で弾きつつ受け流す。
前のめりになって、クローの体勢が崩れた。
絶好のチャンスだ。ウェンハイの右正拳突きがクローの顔面を襲う。
しかし意気込み過ぎたのか、それともクローの蹴りによるダメージの影響か、軸足が定まらずウェンハイも体勢を崩してしまう。
無理に倒れないようにすると、却って大きなケガを招くことがある。
ウェンハイはそのような愚を犯すまいと、前方に回転して立ち上がる際には大きく前へとジャンプしてクローとの間合いをとった。
その行為は、対峙している相手に対しては正しかった。だが、周囲に対しては正しくなかった。
ウェンハイは勢いよく見物人の輪に突っ込むことになったのだ。
そして、その位置にレイファがいた。
立ち竦むレイファをソウヤは後ろから抱き寄せ半転し、ウェンハイの突進を背中で防御する。
猛烈な勢いでウェンハイがソウヤの背中に衝突したため、ソウヤはレイファの柔らかい体を強く抱きしめることになった。
レイファは頬だけでなく耳朶まで朱に染め、両手を頬に添え放心している。
「ウェンハイ! 気をつけやがれ!!」
ソウヤはレイファを抱きしめたまま、険しい顔で叫んだ。ソウヤの声は、意外にも耳に心地よい透明な声質をしていて、見物人の喧噪にかき消されることなく、周囲に響く。
「周囲を巻き込むな。レイファが怯えてんだろうが!」
「ぜってぇー違う!」
怒鳴り声で応酬したウェンハイの意見に”うんうん”と野次馬の大多数が首肯している。
2人の周囲の人間にすら察せられるのに、ソウヤは全く察することが出来ていない。
「バカ言うなっ。顔真っ赤にして、震えてんだろうが。オレは、テメーを許さねぇーぜっ!!」
ソウヤはレイファの体を離すと、ウェンハイに猛烈な勢いで襲いかかった。
飛ぶように左前蹴りを放ち、左脚が着地した瞬間、跳ねるように右上段廻し蹴りを放つ。そこから、半回転して後ろ下段蹴りへと繋ぐ。
クローのことを舐めていた訳ではなかったのだろうが、ソウヤが相手ということでウェンハイの気合いが上昇する。
「ぐおぉおぉー、普通は青くなる。どりゃあぁぁぁーー」
ウェンハイの指摘は100%正しい。
レイファはソウヤに抱きしめられ、照れていたのである。
しかし、熱くなったソウヤが冷静な判断をできるはずもない。
ウェンハイ得意の近接の間合いに入ってもソウヤは、アッパーにフック、飛び膝蹴りと流れるように技を連絡させる。
堪らず間合いを取ったウェンハイを追うように、ソウヤは次々多彩な技を繰り出す。
実際のところ、ソウヤはクローとウェンハイの立合いを見物していて、ウズウズしていた。
レイファの危機は、ソウヤに立合いへ参加させる絶好の口実となり、その機会を逃さなかったのだ。
「そんなこと知るかぁー。せぇいやぁー」
ソウヤの暴言にウェンハイが律儀に応じる。
「訊いたのはオメーだー。ぐぅおりゃー」
ソウヤの左上段回し蹴りをダッキングで躱し、ウェンハイは左正拳突きで応戦する。だが、ソウヤは左正拳突きを右腕で外へと弾き、その流れで右膝蹴りをウェンハイの胸に炸裂させた。
「黙って死ねやぁあああーー」
ソウヤは右膝蹴りの勢いにのって更なる攻勢をかける。
ウェンハイは防御を固め鎧のような筋肉で耐える。
ソウヤの流麗にして重たく、虚実を織り交ぜた連続攻撃をウェンハイは防ぎきった。
仕切りなおすようにソウヤは一旦距離をとり、ウェンハイと対峙する。
「いいか、2人とも。目突き金的禁止で、大和流古式空手の試合ルールだからな」
本来、ジヨウは審判としてソウヤの乱入を防ぐ義務があるはずなのだが、全く止める気配がなかった。妹を危険な目に合わせたウェンハイを許していない、という分かり易い理由からだ。
だが、野次馬は誰も気にしていない。
それどころか、ソウヤ対ウェンハイのスピーディーな技の応酬に目を奪われている。
野次馬の中でソウヤとウェンハイを知っている者は、期待以上の展開に胸を躍らせている。
なぜなら、昨年”絶対守護”内で開催された総合格闘技大会18歳以下の決勝カードだからだ。
クローは不満そうな表情を浮かべていたが、大きく肩で息を吐き地面に座り込んでいる。
ソウヤの攻防一体の流れるような動作に対して、ウェンハイは武骨で直線的な攻撃に、鉄壁の防御で対抗している。
素人目にも素晴らしい攻防が展開されているのが分かる。
しかし、素人には分からないかもしれないが、2人とも虚実を織り交ぜ戦っている。
そのハイレベルな攻防は、玄人も満足させる立合いであった。
4週間前。
帝国3等級臣民街の大型ゲームセンター各店に、突如として一辺3メートルにも及ぶ立方体4台1セットで設置された。立方体は1人乗りの対戦型ネットワークゲームである。
その中に入ると外からの音は一切聞こえず、宇宙で本物の人型兵器”ビンシー6”を操縦し、戦っているかのようにな感覚が実現されている。
何より操縦席は、ビンシー6を完全に再現したと謳われていて、それまでの対戦型ネットワークゲームとは比べ物にならない臨場感があった。
どう、何もかもゲームの範疇を越えていたのだ。
ただ一つ、既存のゲーム以下となのは、ゲーム名がないぐらいである。
使用する人型兵器の名からビンシーとか、あのゲームとか、みんな適当に呼んでいる。そもそも、ゲームメーカーが何処かも明かされていない。
こんな怪しげな対戦型ネットワークゲームだが皆を夢中にさせる魅力があった。それは、ゲームの内容でも機械の性能でもなく、週に一度開催される大会の賞金だった。
3等級臣民の平均月収の5倍を超える額の賞金が優勝チームに支払われる。
その賞金の高額さから、エントリーするチームは大会を重ねる毎に増えていった。
大会にエントリーすると、まずゲームのコンピューターと4対4の対戦をする。その対戦でのポイント上位80チームが大会本選へと進める。エントリー期間は3日間で、挑戦は1チーム1回のみ。しかも1人1チームのみにしか所属できないルールになっている。
大会本選も同様に3日間に亘って実施される。本選へと進んだチームは、4ブロックに振り分けられ、チーム対チームのトーナメント形式で争われる。勝利条件は、1時間内で敵を全滅させるか、損害ポイントで上回ることである。
ただ、3日目の決勝では、各ブロックを勝ち抜いてきた4チームによるバトルロワイアル形式で、3チームが全滅するまで続けられる完全決着ルールになっている。
誰が何故、何の目的で実施しているのか様々な憶測が流れている。
しかし、ゲームの魅力と賞金の高額さから詮索は後回しにされ、若者の間ではゲーム攻略の話題が中心になっていた。
第4回大会本選の3日目、18時40分。決勝ゲームの開始20分前になった。
ソウヤたちがやってきた大型ゲームセンターには、立方体が16台設置されていて、最大4チームが参加できる。
そして、このゲームセンターでは決勝に2チームが進出し参戦する。
ソウヤたちのチームと、ウェンハイたちのチームだった。
彼らはゲーム開始の30分前まで、ゲームセンター近くの広場で立合い演じていた。
今ソウヤ、クロー、ウェンハイは、3人並べて座らされ、レイファに少々手荒に、しかし完璧な治療をしてもらっている。
手荒な処置なのは、決勝戦前なのに立合いしたことに対する彼女からのお仕置きだった。
「はい、終わったよ~」
「助かったぞ、レイファ」
先に治療が終わったクローがレイファに礼をし、ソウヤも素直に言う。
「おお、いつもありがとな。助かるぜ」
「オレまでワリーな」
ウェンハイが、治療してもらった腕の具合を確認した後、頭を下げる。
「いいよ~。同門の仲間でしょ」
「「「違う!」」」
3人の声が揃う。
「そうね~。・・・だけど、みんな同門だよね~」
レイファから甘い声音が奏でられ、柔らかい笑顔で凝視してきた。彼女の瞳の力に対抗できず、3人とも視線を逸らす。
「そうだよね~」
笑顔の質が、もう一段あがる。
傍からみれば、可愛い笑顔を向けられているようだろうが、近くに寄れば分かる。笑顔に隠された意味と圧力が・・・。それは有無を言わせぬ、強制力のある意志のこもった笑顔だった。
「「「は・・・い、そうです」」」
3人とも素直に降参した。
レイファに、こういうところでは、まったく敵わないし抵抗できない。
ウェンハイは、もう一度レイファに礼を言うと、仲間たちの元へと行く。
ここからは、ウェンハイと敵同士だ。
さっきまでも敵同士ではあったが・・・。
ソウヤ、クロー、レイファ、ジヨウの4人は、それぞれゲームの立方体内に入る。
そこで待機しながら、チーム内通信でゲームの話をする。
『ステージは何処になるのかな~。ウチは小惑星ステージがいいんだよね~。隠れやすいし、ゆっくりできるしね~』
『レイファ。頼むから、真面目に戦ってくれ。今回は勝ちたいんだ』
「大丈夫だ。レイファは後ろでゆっくりしててイイぜ」
『そうとも、前回までの我ではない。任せるが良いぞ』
「クローだけでは、どのチーム相手でもムリだぜ」
『なんだと・・・』
ソウヤとクローの低レベルの言い争いが始まった。
2人の醸し出す険悪な雰囲気を無視するようにレイファが口を挟む。
『祝勝会はどこにする~。ウチ、鳳凰楼がいいな~。美味しいし、ゆっくり食べられるしね~』
『鳳凰楼でもいいけど、レイファは話してないで食べるのに集中しろよ。レイファが食べ終わるのを待つのは大変なんだからな』
「イイんじゃないか。レイファはいつも通り愉しく喋って、ゆっくり食べろよ。今夜は祝勝会なんだぜ」
『ふむ、我なら一晩中でも構わんぞ。明日、仕事は休みだからな』
賞金の掛かった決勝戦前の貴重な準備時間なのに、4人には緊張感の欠片も存在しない。
そして、いよいよ決勝開始15分前になり、画面に今回のステージ情報が表示された。
ステージは移動要塞”トリプルアロー”。勝利条件は自チーム以外の敵チーム殲滅と、トリプルアローの占拠となっていた。
トリプルアローとは、大シラン帝国軍が誇る巨大移動要塞である。
本体は1辺40キロメートル六角柱で、高さ30キロメートルある。
六角柱の側面一つおきに、長さ30キロメートルの四角柱、通称“アロー”が取り付けてある。そのアローが六角柱の本体に接している面は、一辺が15キロメートルもある正方形である。
アローの先端からは、戦艦が電磁カタパルトで高速発艦できるようになっている。
その他、トリプルアローの解説だけでなくステージの前提やら制限事項やらがドキュメントとして添付されている。開くと膨大かつ詳細で、しかも多岐に亘る情報が載っていた。
故に、通常プレイヤーが確認するのは、最初の数ページのステージ概要情報ぐらいである。
『ふむ。さて、ジヨウ。どうするのだ?』
クローの質問に、ワンテンポおいてからジヨウの返答がある。ジヨウはドキュメントを確認しながらの会話しているようで、視線をレンズに向けていない。
『・・・よし、小惑星ステージと同じ戦法を使おう。トリプルアローに張り付いて、レイファが狙撃。クローとソウヤは、迎撃と囮役だ』
『ふむ、前衛は我だけでも構わんぞ』
『狙撃はウチに任せて~』
レイファは甘い声音にのせて緩やかな口調で答えた。
だがソウヤから、いつもの返しがなかった。いつもなら「クローは逃げ回ってればイイぜ。敵はオレが片づけてやるからよ」のような暴言に近いセリフを吐く場面だ。
『ソウヤ~? もしかしてケガが痛むの~』
『ならば囮は無理でも、我の盾になるが良いぞ』
『しっかりしろ、ソウヤ。どうしたんだ?』
「ああ・・・」
反射的に返事をしたが、心ここにあらずのようだ。
メインディスプレイの表示が3分前となった瞬間、ソウヤの思考を阻害していた靄が晴れた。
ソウヤが叫ぶ。
「占拠だ、占拠! トリプルアローを真っ先に占拠すんだ!!」
突然の大声に、三者三様の言い方でソウヤの大声を叱責した後、ジヨウが反論する。
『勝利条件は、敵チームを殲滅して、トリプルアローを占拠することになっている』
「先に占拠しても問題ないぜ」
『占拠しなくてもいいと思うけど~。盾として利用できれば、狙撃できるよ~』
『ほう、なるほど。占拠を先にすべき・・・か。それなら我も賛成しようぞ』
『え~、なんで~』
『占拠できれば、トリプルアローの索敵システムが使えるのだぞ。それに防衛システムの兵装が動けば、敵チームなぞ簡単に殲滅できよう』
『そうか~。その方が楽そうだね~。さすがソウヤ、楽する方法考えるのは得意だよね~』
「レイファ。それ、褒めてんのかよ?」
『えぇ~、心から褒めてるよ~』
甘く優しい声に、棒読み気味のセリフをのせ、似合わない悪い笑顔をしていては、説得力がまったくなかった。
着眼点とか勘の良さとかは、誰もが認めるソウヤの長所なのだ。しかし、発揮する場面に問題が多々あり、あまり褒められはしなかった。
たとえば、課題の解釈を曲解してサボる方法だったりと・・・。
それぞれがソウヤのアイディアを元に作戦の検討を始めたので、4人に会話がなくなる。
しばらくして、ソウヤがジヨウに問い掛ける。
「可能か? ジヨウ」
『出来そうだな。トリプルアローの設計図と兵装仕様、システムマニュアルの要点を送る』
膨大なドキュメントから必要な情報だけを抜き出して作られた12ページの資料が、ジヨウから送られてきた。資料の中にはトリプルアローへの進入経路の情報もある。
このような芸が細かい仕事は流石だった。
何ページに記載されているかを伝えられても、そのページから必要箇所を探すのに苦労する。それに、複数ページをゲーム開始後に確認しようにも、システムマニュアルから、すぐには取り出せないだろう。戦闘状態になると尚更である。
目的に向かって必要な情報を把握する能力、目的を達成するために遂行する行動計画の立案能力、それらをジヨウは兼ね備えている。
だが、重大な決断するのに慎重がすぎるのが、ロン・ジヨウである。
そしてジヨウは、今も決断を躊躇しているらしい。
「トリプルアローに行こうぜ、ジヨウ! 行って不利になることはないんだ!!」
『ジヨウにぃ、どうせトリプルアローを盾に使う予定だったんだから、やってもいいよね~』
『・・・よし、第一目標はトリプルアローの占拠だ。次に敵を殲滅する。行くこう。さあ、斬り拓け』
ソウヤ、クロー、レイファが声を揃えて応じる。
『『「承知!!」』』
ゲームは公正性を保つため、またチーム戦というゲームの性質上、同一チームの機体は1ヶ所に出現する。そして、どの敵チームからも索敵されない場所からスタートとなる。
ただ、そのままだと戦闘にならない可能性もある。そこでステージは時間が経過するごとに縮小する仕様になっている。決勝戦は1時間後にステージの縮小が終了し、どの位置からでも敵を索敵可能となる。
今回の決勝ステージは、巨大移動要塞”トリプルアロー”。
そしてトリプルアローが、中央に存在する。
つまりゲーム終了間際の最終決戦場所は、トリプルアローを中心とした宙域になる。
3チームがゲーム開始とともにトリプルアローを目指し、1チームはステージの端へと向かう。
ジヨウチームは、ソウヤとクローをツートップに据え、後方にジヨウ、3人から少し離れた上方にスナイパーのレイファという編隊を組んでいる。
そして、全速力でトリプルアローを目指している。
ソウヤは左横に視線を送る。
すると側方のディスプレイには、クロー機・・・アタッカー仕様の人型兵器”ビンシー6”が視界に入る。
それは武骨で、デザイン性をまったく感じさせないフォルムである。
身長が約30メートル、両手にレーザービーム銃を持ち、前腕外側の装甲には、飛び出し式のチェーンソーブレードが仕込まれている。背中と脚部はジェット推進装置が装備され、頭部には各種センサーが配備されている。人の各部に箱を被せてランドセルを背負わせ、身長の半分の長さのライフルを両手に持たせるとビンシー6の姿になる。
クロー機はソウヤと同じ機体、同じ仕様である。つまり宙を翔けるクロー機の姿は、ソウヤ機の姿でもある。
優雅さと機能美のないビンシー6の外観を、ソウヤの美意識が猛烈に拒否していた。
人型兵器に美しさを求めるのは不合理であるとは分かっているのだが・・・。
『左前方に敵を発見』
ジヨウから通信が入った。
彼の駆る機体の索敵システムに、4機の敵が引っかかったのだ。
ジヨウはビンシー6の隊長機仕様を選択していた。
それは、武装よりも生存率と索敵システムを高めた機体で、部隊の指揮を最後まで執るための仕様である。
ただ、指揮機でない機種の索敵システムでも、攻撃範囲に入る前に敵を捉えることは可能なため、大抵のユーザーは武装重視のアタッカー仕様を好んで使用している。
『あの編隊の組み方は、ウェンハイたちだな』
全員アタッカーという超攻撃的布陣のウェンハイチームは、4機が背中合わせになり、四方を監視しながら、頭頂へと進むように編隊を組んでいる。
ビンシー6の角張った武骨なフォルムの4機が固まって飛行している。適度に距離をあけているソウヤたちの編隊とは好対照である。
「やっちまおうぜ、ジヨウ」
『我も賛成だぞ』
楽するために考えた作戦を台無しにするソウヤとクローの意見だった。
しかも、ソウヤは作戦の発案者である。
『2人とも血の気が多すぎだろ!』
ジヨウは怒鳴り、頭痛を覚えたかのように顔を顰めた。
そこに、レイファからは気楽な声が聴こえてくる。
『落ち着こうよ~。それに、ウチは逃げてもいいと思うよ~』
『レイファは、もう少しやる気をだすんだ』
ジヨウの苦労は絶えない。
ジヨウを信用しているからこそ、3人は好き勝手なことを言うし、最終的にはジヨウの決定には従っている。決定にも文句は言うのだが・・・。
『避けるぞ!』
『戦えば倒せるが・・・。しかし、ジヨウがそう言うのなら仕方がない。これは貸しだぞ』
『なんでだ!!』
「鳳凰楼、おごりでいいぜ!」
『だから、なんでだ!』
『仕方ないよ、ジヨウにぃ~。多数決なんだから~』
『それ、意味不明だろ・・・』
愚痴を零しながらもジヨウは、ソウヤたち3機に短距離機密通信でルートの指示をだしたのだった。
ウェンハイたちの飛行ルートから、3つのアローの内、1つを目指していることが推測できる。
ジヨウは大回りして別のアローを目指すルートを選択した。ジヨウらしい理知的な判断からなる堅実で最適なルートだったが、相手は上手ではなく、2、3下手だった。
『ジヨウにぃ。ウェンハイチームに見つかったみたいだよ~』
トリプルアローのアローに取り付く前に、トリプルアロー本体の上部からウェンハイたちが現れたのだった。ジヨウ機の索敵システムがウェンハイたちを捉えたのは、レイファ機よりほんの数瞬早いだけだった。
ウェンハイたちはイノシシのように猪突猛進してからアロー下部を根元まで直進した。トリプルアローの中心となる六角形の本体を潜り抜けてから上部に出た。そして、ジヨウたちの向かっているアローの先端へと直進してきたのだった。
いくら指揮機のもつ高性能索敵システムでも、トリプルアローの陰になっていたウェンハイたちの動きは捉えきれなかった。
『バカな・・・。なんでだ?』
ドキュメントにあるトリプルアローの設計図をジヨウが確認する。
設計図から想定できる敵の待ち伏せポイント近くは、慎重に飛ぶため速度が落ちる。それか、敵を待ち伏せするためトリプルアローに取り付くとジヨウは推測していた。
しかし、ウェンハイたちは全速力でトリプルアローの周りを飛行しただけだった。
弾丸状態で飛行を続けていることから、トリプルアロー周辺の偵察ではない。
ジヨウには彼らの意図する目的が掴めなかった。
それはそうだろう。
理論の人ジヨウには、ウェンハイたちが単に大シラン帝国軍が誇る巨大移動要塞”トリプルアロー”の周囲を飛行したかっただけというの理由には、到底たどり着けない。
『ふむ、語るに落ちたとはこういう事だぞ、ジヨウよ。本当は戦いたかったのだな?』
『そんな訳あるか!』
「ウェンハイはオレの獲物だぜ。ヤツはオレが叩く」
『そんな美味しいこと許せんな。我がやるぞ。諦めるが良い』
『勝手に決めるな!!』
「何だ? ジヨウもウェンハイを倒したいのかよ」
『そうじゃない。トリプルアローを目指すのが優先だ。避けきるんだ』
「ムリだぜ。タイミング的にも、オレの気分的にも」
ソウヤの声に緊張感の欠片もない。あるのは巧妙に隠されている戦闘意欲だけだ。
ジヨウチームとウェンハイチームは、互いに攻撃可能な戦闘領域へと踏み入る。
『いいか、一撃離脱だからな!』
離脱を諦めたジヨウは、有無を言わさぬ強い口調で念を押した後、一呼吸置いて吼える。
『斬り拓け!!』
3人の返事が見事に調和する。
『『「承知」』』
ウェンハイたちは四方に散開し包囲殲滅を画策する。しかし、ワンテンポ動きが遅れた機体があった。
ジヨウはその機体に狙いを定め、ソウヤとクローを突撃させる。
他の3機は、レイファの大型レーザービームライフルで牽制し、距離を保たせる。
レイファの装備はスナイパー仕様なので、アタッカー仕様より攻撃距離が長く精密射撃が可能な装備だ。しかし、俊敏さではアタッカー仕様に敵わない。
そのためレイファ機を護るため、装甲が厚く盾を装備しているジヨウの隊長機が付き添っている。
遭遇戦だったので、ウェンハイたちは戦術も何もなく、ただ戦闘へと突入したようだった。ソウヤたちのように指揮官がいて、自在に幾つものフォーメーションを駆使して戦闘できるチーム相手には無謀といえる。散開したのも、個々に動いた結果のようだった。
なんだかんだ言っても、ジヨウの指揮センスはゲーム参加者の中では一つ頭が抜け出ている。ソウヤとクローに狙われた機体は上下方向から、レーザービームで貫かれ撃破された。
人間、左右から同時に狙われるより、上下からの方が対応しにくい。普段生活している重力下の環境では、上と下からの同時に攻撃されることはまずありえないからだ。宇宙戦闘の素人では尚更である。
撃破して空いたスペースを、ジヨウチーム4機は通り抜けアローの先端に取りつき迎撃態勢を整える。
戦況が不利になったウェンハイチームは、このまま遭遇戦を続けるほど愚かでなく撤退していった。
『開始15分で撃墜数1か・・・まずまずの戦果だ』
「マジかよ・・・?」
『ソウヤ~。どうしたの~?』
「撃墜ボーナスが・・・、クローに付与されてる・・・」
ゲーム情報用サブディスプレイには、自チームが撃墜した相手の表示されるようになっている。そこにはゾンギーと表示され、そのすぐ下にクロースの名前があった。
『フッハッハハハ。それは貴様の実力が不足している所為だぞ』
「そんな訳あるか! オレは2発ヒットさせたんだぜ。テメーは1発だろうが」
『ソウヤよ、貴様に師範の言葉を伝えてやろうぞ。実戦での負けに言い訳は無用だ!』
そんな2人の会話を聞いて呆れた・・・。いや、いつものことなので、諦めたようにレイファとジヨウが呟く。
『・・・はぁ~』
『・・・バカ2人だな』




