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銀河辺境オセロット王国  作者: 柏倉
突破脱出行
13/25

第7章 斬り拓け 「全員で運命を斬り拓く!」 1

 オセロット王家直轄の特務4艦隊から、アゲハ救援のため、王国軍一の進軍速度を誇る特務第3艦隊が派遣された。琢磨の希望通り、通称”颯艦隊”である。

 楓艦隊が境界脱出をすると、即座にアゲハのセントラルシステムの通信リンクを確立する。お互いの艦のセントラルシステムで情報が共有され、アゲハの戦況は手にとるようにわかった。

「パウエル提督。早乙女閣下がエイシで出撃した模様です」

 パウエル提督の副官が、議論に没頭している幕僚たちに気付かせるように声を張って報告した。集まっていた颯艦隊の幕僚に戦慄が奔る。

 老齢入り、体重の増加と反比例して髪の量も減らしたと噂されているパウエル提督が呻く。

「琢磨殿が出撃とは・・・急がねばなるまい」

「パウエル提督。楓艦隊の全艦で進軍すると、急いでも到着まで3時間はかかります。現在、その前提で作戦を立案中でありますが・・・」

 パウエル提督と同年齢だが、毛髪が豊富な楓艦隊参謀長”ギンツブルク”少将は、全幕僚に聞こえるように声を出した。全員で情報共有し、この状況打開方法を検討してもらうための発言だった。

 良く引き締まった肉体をもつ男性幕僚が発言する。

「パウエル提督! 小官の艦隊なら、2時間で戦場に到着できます。先行する許可を頂きたく・・・。琢磨殿達の救援が、今回の颯艦隊の任務です。間に合わなかったでは、済みません」

 40代新進気鋭の棚橋少将だった。

 髪型といい、顔立ちといい、軽薄な外見の持ち主だが、それに似つかわしくない落ち着いた雰囲気を醸し出している。彼は軽薄ではあるが、時と場所を弁えることのできる人物である。

 棚橋部隊は、先遣隊として本隊より早くこの宙域に境界脱出していた。そのため、すぐにでも作戦行動を開始できる。

「作戦はどうするのだ?」

 棚橋艦隊はマツドノ級戦艦10隻である。敵を駆逐するには不十分な戦闘力であり、また防御に専念するにしても、劣勢を強いられるに違いない。

「壁であります!」

 棚橋少将の作戦は、アゲハのいる宙域に到着したら、艦隊をアゲハと敵の間に無理やり入り込む。そしてアゲハへの攻撃を自分たちの艦隊に誘導するというものだった。

 自信満々に答える棚橋少将を、全幕僚が不安一杯の表情で見つめた。棚橋少将の作戦は、作戦といえる内容ではない。それは全員が理解していたし、棚橋少将自身も理解している。

 それ以外に作戦がないことも全幕僚の意見の一致するところである・・・。

「自分は本艦隊の作戦参謀として、棚橋提督の作戦を支持します。部下には先行した棚橋艦隊との連携を前提に作戦を立案させます。どうですか?」

 作戦参謀長のギンツブルク少将が徐に周囲へと視線を廻し、全員の顔を見て意見を求めた。すると楓艦隊の提督と幕僚から、様々な意見が出された。そして議論検討の結果、アゲハを救出するには棚橋提督出撃が、最も有効であるとの結論に達したのだ。

 それは議論開始から結論に至るまで、10分程でしかなかった。

 時間が貴重であるからこそ、議論のための議論のような無駄な意見は全くなかった。

 楓艦隊はオセロット王国一の進軍速度を誇る。それは楓艦隊所属の全兵士が、常に様々な無駄を省き、小さな改善を積み重ねる。その努力を怠らないからだ。

 会議でも効率的な議論をし、素早く結論を出すために工夫を凝らしている。

 アゲハの護衛を第一目標とし、棚橋提督率いる艦隊の先発が決定した。

「許可する。壁らしく振る舞ってこい。色気をだすな! 壁に徹するのだ!!」

 パウエル提督の檄に、最敬礼をもって棚橋提督が応じる。

「了解しました。ただちに棚橋艦隊出陣いたします。それでは、お先に失礼いたします」

 パウエル提督は、攻勢に出て損害を増やすなと釘を指したつもりだった。

 棚橋提督の20代のような若々しい返事。

 楓艦隊旗艦の作戦会議室から颯爽と立ち去る後ろ姿。

 それらは雄弁に物語っていた。

 優秀な艦隊司令官は、総司令官から命令意図を正確に察する必要がある。

 今回の場合、楓艦隊の本体が到着するまで損害を最小限に止めよとなる。

 そして、意図を取り違えていないからこそ、パウエル提督は不安になっているのである。

 攻勢の時機を逸することは、勝利から遠ざかり自軍の損害の増加を意味する。故に仕方なく攻勢に出ねばならない時がある。

 棚橋提督の背中は、攻勢の時機を虎視眈々と狙っていると語っていたのだ。

「作戦は防御陣を敷いている棚橋艦隊と呼応して、暗黒種族を撃退する。そのケースで、幾つかのプランを用意する。それで宜しいですか、パウエル提督」

「最悪のケース・・・棚橋艦隊が壊滅状態のケースも検討しておかねばなるまい」

「艦隊運用を寸断され、個々に対応している状態もプランニングの必要があると? そのような状況に陥ることを早乙女閣下が許可するでしょうか? 棚橋艦隊が攻勢に出ようとしても、自分と王位継承権所持者が2人乗船している船を危険に晒すとは、小官には想像できませんが? 棚橋提督にしても作戦指揮権は自分にあるからと、あの”死の遣し手”相手に強気に出られるとは・・・」

 ギンツブルク参謀はパウエル提督に話しながらも、周囲の空気が変化しているのを感じていた。

 提督の一人が、ギンツブルク参謀に向かって発言する。

「貴官は、本当の琢磨殿を知らないようだ」

 その発言に作戦会議室にいる殆どのメンバーが頷いた。ギンツブルク参謀を擁護するように、楓艦隊副指令官”フランソワ・アングレール”少将が言葉を発する。

「仕方ないだろう。ギンツブルク参謀は、琢磨殿がマーブル軍事先端研究所の所長に赴任された後に、参謀本部から楓艦隊に配属となったのだ」

「どういうことでしょうか?」

 困惑の表情を浮かべ、尋ねたギンツブルク参謀に、パウエル提督が説明する。

「噂と実物は異なるということだ。冷徹でも快楽殺人者でもない。琢磨殿は優先順位を間違えない。その優先順位を実現するのに、ただ容赦をしないだけだ。オセロット王家直轄の楓艦隊に所属したからには、軍事に関わっている王族の方々の性格を把握してもらわねばならない」

 ギンツブルク参謀の疑問は、まだ氷解していない。

「つまり、どういことでしょうか?」

 ギンツブルク参謀はパウエル提督から聞かされた琢磨の為人の所為で、嫌な予感と危機感で一杯になりながらも質問を重ねた。

「王位継承権所持者の2人を護るためには、棚橋艦隊どころか己すら危険に晒すのに躊躇しない。それが琢磨殿の在り様だ」

 作戦会議室にいるほぼ全員がパウエル提督の発言に納得している様子から、最悪のケースが、一番発生率の高いケースになるだろうと予測できる。

 楓艦隊が手間暇かけてまで提督、幕僚を集めての古典的な作戦会議を実施するのには、理由がある。

 オセロット王国のルーラーリングを使えば、各艦に居ながらにして全員が一つの作戦会議室に集まったかのような会議ができる。臨場感に溢れ、データ共有も視覚拡張で問題ない。

 しかし棚橋提督が背中が物語っていた様子や、ギンツブルク参謀が周囲の空気の変化を捉える事は出来なかっただろう。

 楓艦隊は全員の意思統一と、作戦の目的共有を重視している。

 不測の事態で司令官と通信が繋がらない時や、各提督の裁量で艦隊運用する範囲を大きくするためだ。

「了解しました。最善から最悪まで、すべてのケースを考慮したプランを立案する。特に棚橋艦隊が攻勢に出たケースを重点的にプランニングする。どうですか、パウエル提督?」

 オセロット王家直轄の特務4艦隊はオセロット王国軍から人的供給をしているが、指揮命令系統は全く別となっている。

 オセロット王国軍参謀本部で俊英として名を馳せたギンツブルク少将は、その理由を楓艦隊への転属半年で、今更ながらに理解したのだった。

「理解が早くて助かる、ギンツブルク楓艦隊参謀長」

 そして理解したとのお墨付きを、パウエル提督は与えたのだった。

 ギンツブルク”楓艦隊参謀長”と・・・。


 現在のオセロット王国の・・・人類の技術で、境界顕現先の座標を精確に指定することは、不可能である。

 通常の恒星間宇宙船では、目標座標から1000万キロメートルの誤差があっても珍しくない。しかしオセロット王国の最新技術を搭載しているアゲハなら、太陽系の太陽の直径139万キロメートルぐらいに納まる。

 そして、それは楓艦隊も同様である。

「うーん。想定・・・というより、境界脱出位置が希望より遠かったな。それも仕方ないか・・・希望とは、希に叶う望みという意味だからね」

 コンバットオペレーションルームでの、作戦会議という名の琢磨からの作戦説明会に、アゲハの乗員全員が集まっていた。

「お父さま。30分足らずで、暗黒戦艦主砲の射程距離圏内に入ります」

〈楓艦隊全艦が境界脱出を完了するのに約1時間。アゲハとの合流までは約4時間です〉

「でも、楓の棚橋艦隊が境界脱出しているのよ。棚橋提督なら、すぐにでも助けに来てくれるわ」

「ふむ。だがカエル艦隊全体は、陣形すら整ってないようだぞ」

「クロー。楓艦隊だよ~」

 ソウヤは自分に気合を入れる為にも、景気の良いことを口走る。

「オレとジヨウ、クローの3人で、幻影艦隊なんざ、軽く殲滅してやんぜ」

 レイファだけは、何があっても助ける。ついでに遥菜と恵梨佳も助けてやんぜ。

 琢磨さんだけは生き残りそうだけどな。たとえ、誰かが裏切ったとしても・・・。

「アナタ、バカ? 敵艦は18隻なのよ。クモなんか1000匹はいるわ」

 冷たい現実を直視させてくれてありがとよ。激励までは望んでねーけど、せめてヤル気を維持できるような台詞が欲しかったぜ。

 アゲハの”中の人”が大型メインディスプレイに、見えない艦隊を見えるよう加工して輝点で表示している。敵戦艦とクモは色に違いで分かるようになっているが、数までは数えきれない。ただ情報ディスプレイに敵戦艦とクモの集計数が表示されていた。

「そんなの情報ディスプレイの数字を見りゃ分かんぜ!」

 大型ディスプレイと情報ディスプレに視線を往復させていたジヨウが提案する。

「よし! 琢磨さん、撤退しましょう」

「ジヨウにぃ、撤退ってドコに行くの~」

「ジヨウよ、撤退を撤回するのだ!」

 クローは金髪碧眼の濃い顔を、キメ顔でジヨウに反対意見を表明した。

 紳士然とした態度と表情は、クローに良く似合っている。それは認めるが、はっきり言って正面から相手にするにはウザすぎる。

 ソウヤはクローを貶しておく事にする。

「それで、ウマいこと言ったつもりかよ、クロー。つまらないぜ。黙ってろや」

「アナタ達、バカ? 今が、どんな時だか理解できているの? 30分で接敵するのよ」

「うむ、我の活躍の時がきたのだぞ」

「いいや、幻影艦隊殲滅の時だぜ」

「仕方ないな」

 ジヨウは呟いた後、声も高らかに宣言する。

「全員で斬り拓け」

 それに対してレイファは、いつものように判断しづらい口調で応じる。

「ウチね~。ジヨウにぃとクロー・・・それに、ソウヤを信じるよ~」

「バカですか、あなた達は・・・。アホですか、レイファ以外は・・・。何を勝手に決めているのです。あなた達は、お父さまの指示通りに従っていなさい。あなた達4人で考えた結果より、遥かに素晴らしい作戦が立案されますよ」

 盛り上がる4人に、恵梨佳が冷たい言葉を投げかけた。

 ここで、漸く全員の視線が琢磨に集まった。

 作戦案・・・ではなく、琢磨によって立案され、琢磨によって決定した作戦の説明が開始された。

 琢磨の説明にあわせて”中の人”がソウヤたちに、ルーラーリングにクールグラスとコネクトを併用して無理やり視覚拡張させた。

 送り込まれた情報によって、弥が上にも戦闘前らしくなってきた。

 視覚拡張が始まりと同様、突如終了した。

「・・・というわけで、作戦自体は説明したとおり簡単でシンプルだ。ただ、最後まで作戦をやりきるのは、厳しく難しい戦いになるね。いいかい、キーワードは”乱戦”。楓艦隊の救援が到着するまで、ドロドロの泥仕合に持ち込むんだ。敵も味方も消耗しているけれど、決定打がない。そんな状態を作り出せばいい。勝利条件は全員が生き残ること、敗北条件は誰かが死亡したらかな」

「あぁーイイ条件だな。オレには、幻影艦隊殲滅ぐらいの勝利条件でも軽いもんだぜ」

「ふむ、慌てるでない皆の者よ。そして、震えるでない臆病者どもよ。怯えるでない弱き者どもよ。我がいる限り、誰一人として犠牲者は出さぬぞ! 我についてくるのだ!」

「調子にのるなソウヤ、クロー。琢磨さんの指示は、必ず守るんだ! いいなっ! ・・・あとな、レイファは絶対に護れっ!!」

 このシスコンがっ・・・。

 だがな。レイファ含めて、オレは全員を護りきってみせるぜ!


 1時間後、つまり暗黒種族との接敵から30分が経っていた。

 調子にのっていたソウヤとクローの心身は消耗し、機体の装甲も損耗が激しい。

 出撃したソウヤ機、クロー機、レイファ機、ハルナ機は、既にクモとの交戦に手一杯となっている。

 だからといって、現状アゲハからの支援も受けられない。

 なぜなら、アゲハは射程外から幻影艦隊戦艦の主砲に威嚇され、自由な位置取りを奪われていた。その状態でクモの攻撃にも晒され、ソウヤ達の援護すらできない。

 アゲハのコンバットルームでは、今にも撃破されそうな雰囲気の中、クモの猛攻に耐えに耐えていた。主にジヨウが・・・。

「どうかなジヨウ君? もう、大丈夫だよね」

 この状況下で、琢磨はジヨウの訓練をしているのだった。

「ハッ、ハイ!」

 反射的に返事をしたジヨウに、軽やかな口調で指示する。

「それじゃあ、ここは頼むとしようかな」

 恵梨佳とアゲハの命運を託すにしては、琢磨は飄々とした態度をとった。

「はっ? い、いえ。まだです」

 ジヨウは速攻で否定したが、琢磨はコンバットオペレーションルームから、滑るように退出していった。

 ジヨウは軽く絶望した。

 絶望に軽いなんてあり得ないのだが、軽く絶望したとしか言い難い気持ちだった。

 もう、やるしかないな。

 決断力に欠けるが、ジヨウは動き始めたら迷わない。

 ”中の人”の強力なアシストを受け、ジヨウは上下前後左右へと、全方位にいるクモに攻撃を仕掛ける。

 アゲハの攻撃の中でも新兵器”黒雷”の威力は凄まじく、アゲハの下から後方にかけてのクモを鎧袖一触で蹴散らす。闇光りする黒雷のレーザービームの通り道上のクモは消滅し、近くにいたクモは斥力場に切り裂きかれた。

 アゲハ前方への攻撃は、超電磁砲が超高速で硬質の質量体を発射しクモを撃ち抜く。上方向へはミサイルが火焔を噴きながら飛翔し、上だけでなく左右前後へと敵を求めて突き進む。

 だが、主力武装で8門あるレーザービームは、アゲハの防御と黒雷にエナジーを消費されていて使用できない状態にある。それはレーザービーム8門より黒雷2門の方が、幻影艦隊に有効だろう。そう琢磨が判断した結果である。

 アゲハ防御担当の恵梨佳は、直径10メートルの半球形で、表面を鏡面加工した斥力場ラウンドシールド”舞”を一心不乱に操っている。

 一心不乱というのは大げさでなく、舞の数が多すぎて、エイシの操縦以上にシビアな精神集中が求められている。彼女が精神感応できる最大数であるロイヤルリング5つを身につけて対応しているのだ。

 ”中の人”の演算能力と恵梨香の能力を最大限に発揮させ、100台以上の“舞”を操っている。

 “舞”はアゲハ船体の周囲を高速で移動し、クモの視えないビーム攻撃を弾いて防ぐ。

 琢磨から託されたアゲハを、ジヨウと恵梨香の2人で良く耐えていた。だが8割方は”中の人”の実力によるものである。何せ”中の人”は、アゲハの操船まで行っているのだ。

「何で幻影艦隊は、主砲でアゲハを狙わないんだ?」

 ジヨウの呟きに応じるように、恵梨佳が”中の人”に問い質す。

「中の人。説明可能ですか?」

〈説明可能です〉

「端的に説明しなさい」

〈エルオーガ連合国家の王族が船内に存在する、と敵が考えている為だと推測されます〉

「王族だって?・・・そんな奴が船内にいるのか?」

〈いません〉

「いない?・・・どういうことかしら?」

 恵梨佳の質問に”中の人”は答えない。

 本当、人工知能の癖にオセロット王国製のCAI+Uというのは中々良い性格をしてるな。

「何で幻影艦隊は、エルオーガ国の王族がアゲハ内にいると考えてるんだ? その推測の根拠は何だい?」

〈エルオーガ連合国家の通信手段を使用して、船内から王族が救援要請しているのように、欺瞞情報を流しています〉

「何で、黙ってたんだい?」

〈訊かれませんでした〉

「その性格は琢磨さんと一緒だな。そのあたりは機密ということか?」

 ソウヤ達には、俺が琢磨さんを信用しきってると見えてるようだ。

 だが、それは違う。

 琢磨さんを良い人だと、俺は思ってる。

 しかし彼の地位と立場が、発言を不自由にさせてるんだろうな。

 そして、それが俺達の利益に繋がるかは分からない。それを理解してる。

 だから研究者として、開発者としては尊敬しているが、崇拝している訳じゃない。

〈性格が似ているかどうかは判断できません。ただし、私はマイマスターの望まれる行動、言動をするようオプションコアが増設されたCAI+Uです〉

「流石はオセロット王国製の独自発想人工知能の学習機能という訳かい・・・。要は、琢磨さんの思考回路を学習してるようなもんか?」

 少し理解が違うのだが、”中の人”は指摘や訂正をしない。普通の人工知能ならジヨウの質問に答えるのだが、アゲハの人工知能は答えない。琢磨色のオプションコアの為せる業である。

「・・・なんて迷惑なオプションなんだ」

 ジヨウの嘆きは、オセロット王国製の独自発想人工知能への云われなき誹謗中傷であった。

 通常の人工知能にある素直さがないという意味で迷惑との判断しているのだろう。しかしオプションコアという機能が悪い訳ではなく、オプションコアの中身が迷惑なだけである。

〈オプション機能が諸悪の根源ではありません。コアの中身次第で、学習内容の利用方法はまったく異なります〉

 ”中の人”は、オプションコア機能について擁護した。ただ、その発言は、琢磨のフォローに全くなっていなかった。

 そこに、さらにフォローになっていない発言がジヨウから飛び出す。

「いくら俺でも、琢磨さんを迷惑な性格だ、などと貶めるよう意図はないんだ。そんな恩知らずでもないし、自殺願望がある訳でもないな」

「そうですか? 私にはジヨウ君が、とても失礼な人に見えますね。あなたの言いようは、お父さまが非常識みたいです」

「琢磨さんを一度、離れた位置から冷静な眼でみ視るんだな」

 激論になりそうな雰囲気の中、激戦の最中にいるソウヤから通信が入った。

『いい加減にしろや、ジヨウ。何やってんだ! さっきからアゲハが危ねーんだぜ』

「大丈夫だ。ヤツらは、アゲハには本気で手を出せないんだ」

『聞いてたぜ。だがよ、ヤツ等はその王族さえ無事ならイイんだ。王族のいる場所に攻撃を当てないよう端っこから攻略されてくぜ。侵入されたら、船内が見えない敵だらけになるんだ』

 続いて透明感のある溌剌とした声音の叱責が、コンバットオペレーションルームに響く。

『中の人に任せっきりにならないでっ! 主体的に戦わないと駄目だわ』

 遥菜の声だった。

 ソウヤ機はアゲハを護る行動に移るが、その行く手には3機のクモに塞がれた。

 ソウヤの性格上、行く手を塞がれたら、選択肢は蹴散らすの一択だ。

 レーザービームライフル”雷”の3連射でクモを一蹴する。しかし、回避行動が疎かになる。ソウヤ機の後ろから追い縋っているクモ5匹のクモにとって、ソウヤ機は絶好の的になっていた。

 クモが斥力ビームの刃で、ソウヤ機を破壊しようとした刹那。

 5条の雷光が、追い縋っていたクモ全機を貫く。ハルナ機とクロー機の”雷”による攻撃だった。

 だが、2匹のクモが全壊を免れた。

 いくら高性能なオセロット王国製の武器でも、レーザーはダークマターを透過する。ビーム・・・荷電粒子の威力だけでは、直撃でも全壊させられないこともある。

『危ないわ! 気をつけなさい、ソウヤ』

 依然としてソウヤ機に危機が・・・迫ってはいなかった。

 刹那の時が稼げれば、ソウヤが持ち直すには充分だ。一瞬にして2匹のクモをソウヤ機の雷で破壊した。

『ソウヤよ。貴様は我がいないと、クモ如きすら潰せないのか?』

『ざけんなっ! その言い方だと、オレが虫ごときに怯えてるみたいだぜ』

『そう思われたくなければ、我の足を引っ張る行為は慎むのだぞ』

 ソウヤ機がクロー機の後ろに回り込んだクモを雷一閃で撃破した。

『そうでもないぜ』

『一匹ぐらいで・・・』

 クロー機が、瞬く間に3機のクモを雷で戦闘不能にする。

『どうだ? ソウヤよっ』

『・・・口よりキセンシを動かせやっ!』

 ソウヤ機は、ハルナ機を囲もうとしたクモの一隊に、雷とミサイルを集中させて崩す。

 遥菜は、クロー機とソウヤ機の後方から迫るクモを誘導ミサイルで破壊する。

「ソウヤ、クロー、遥菜。フォローしあうんだ・・・」

 ソウヤたちの無茶苦茶な連携に、ジヨウが叱責する。

『してるわ』

「じゃあ、協力するんだ!」

『してるぜ!』

「クモに包囲されるな」

『当然だぞ!』

「・・・がぁぅーー・・・。よし分かったぁー。斬り拓け!!」

『『『承知』』』

『盛り上がっているところ悪いけどね。良いかな、ジヨウ君。そろそろ指定宙域まで後退の時刻になるからね』

「がぁうぅー」

 どうして、こうもやりづらいんだ。絶対守護にいた時より俺比で、2倍以上のやりづらさだった。

『どうしたのかな?』

「いえ、了解です。琢磨さん」

 このメンバーの中で、唯一琢磨さんの指示には素直に従える。しかし研究を手伝っていたから分かったが、彼もかなり理不尽だった。性格的な意味でなく、能力、存在的な意味で・・・

。そう、規格外すぎる頭脳を持つが故に、琢磨の考えを理解するのは難し過ぎるのだ。

「恵梨佳さんは指定宙域への航路を確保。中の人はアゲハを誘導。ソウヤ、クロー、遥菜は、琢磨さんと合流したら後退するんだ。琢磨さん、準備が完了したら連絡をください。格納庫のハッチを開きます」


 琢磨専用のエイシ”タクマ”は蒼銀色をしていて、今は雷神仕様である。

 雷神仕様のエイシは攻撃に特化している・・・というより、特化し過ぎている。

 重要部分以外の装甲を外して、装備可能な限りの火力を持たせる仕様である。

 本来、流麗な外見をしているエイシなのたが、腕と脚と腰に多弾頭ミサイルポッドを装備していて、全体的に曲線が減り華麗さが失われる。

 装備したミサイルポッドは、対エルオーガ軍兵器として4年前に開発されたものだった。キセンシなどの人型兵器だけでなく、様々な兵器に装備できるようになっている。現在も改良を進められているが、戦時下なのでデザインは後回しにされていた。

 また、エルオーガ軍に有効となるようレーザービーム”雷”の改良も進めている。量産可能な形での開発が完了したのは、マーブル軍事先端研究所が襲われる直前だった。

 しかし琢磨は、改良した”雷”ですら、幻影艦隊と渡り合うには不十分と考えている。

 それがレーザービームのエナジーにダークエナジー“リパル”を併用したモデル・・・ダークレーザービーム”黒雷”の開発へと繋がっていった。

 威力の試験は、捕らえていた暗黒種族の処分で実施済みだ。

 通常は耐久試験など、他にも多くの試験をクリアしてからでないと実戦投入できない。今回は1回試射しただけで、アゲハに装備して実戦投入した。

 しかし、エイシ用のレーザービームライフルに”リバル”モジュールを搭載した”黒雷”は、試射すらしていない。数え上げたら限がないリスク一杯の状態にも拘わらず、琢磨は実戦で使用するのを躊躇していなかった。

 エイシ”タクマ”機のコクピットで、次々と装備される兵器の稼働チェックをしながら琢磨は呟く。

「黒雷のモジュールが上手く動作してくれると良いんだけどね。まあ、ダメなら雷を使えばいいし、なんとかなるかな・・・」

 コンバットオペレーションルームで心配している恵梨佳に聴かせ、安心させるためだった。

 戦場での兵器の不具合は、死に直結する。

 さて、自分自身の能力を信じて実戦試験を始めようかな・・・。

 まあ、もし試験に失敗しても、命をかければ恵梨佳達を護りきれるだろうね。なにせ、有効なことが証明された危険な切り札もあるしね。

 両手に黒雷レーザービームライフルを持った雷神仕様のタクマ機の出撃準備が調った。

「ダンスの準備は調った。残念なことに音は宙に響かず、輝きを放つ物体も殆どない。だけど・・・さあ、派手に舞い踊ろうかな」

 琢磨は覚悟を決め、その覚悟を顔に出さないようにして、淡々と自分もパーティーに参加することを表明した。

『お父さま、敵”クモ”の新手がアゲハ左後方より接近しています。数、およそ50体。どうやら、挟撃するために迂回していた部隊のようです』

「了解したよ。ボクは、そっちを壊滅してくる。ジヨウ君、出撃良いかな」

『いつでも発艦可能ですが・・・』

 緊張感のない声で出撃可能かを質すも、敵の攻撃は緊迫感に溢れている。

「では、発艦しようかなぁ」

 出撃するや否や、琢磨の搭乗する雷神仕様のエイシが、敵味方に凄まじい破壊力を見せつけたのだった。


 最大出力の黒雷2挺が闇光りの輝線を描き、それぞれがクモに直撃する。

 直撃の2体は消滅した。そして黒雷の闇光りの光条近くにいたクモ7体は、斥力によって切り刻まれたかのように破壊された。

 琢磨は全速力でアゲハからエイシを離脱させると、装備していた多弾頭誘導ミサイルを全弾発射する。分離した弾頭の数は百数十発となり、敵のクモに襲いかかる。

 ミサイルの嵐を偶然にも逃れられたクモを、通常出力に戻した黒雷のダークレーザービームが精確に突き刺さっていく。

 次の刹那、命中しなかったミサイルが同時に爆発した。敵クモ部隊の隊形後方に達した瞬間に琢磨がリモート爆破したのだった。敵隊列が混乱した好機を逃さず、琢磨は黒雷を連射モードでクモを薙ぎ払う。

 琢磨は出撃して数分で、アゲハ後方から迫ってきた敵クモ部隊の4割強を削ったのだ。

 闇雲に攻撃するクモ、呆然としているのか動けないクモ、当初予定していた進路を進むクモ。撃破した4割の中に、敵クモ部隊の司令官がいたのかな。

 司令官がいないと、群れとして機能しない。

 そういう報告を受けていたが、実際眼にすると呆れるばかりの光景だな。

 頭脳労働・・・つまり司令官をしているエルフ型を見つけ、倒すことが勝利への近道か。

 それが難しいんだけどね、と小さく呟いた琢磨の声をマイクが拾ったようで、恵梨佳から通信があった。

『どうしました、お父さま? 聞き取れなかったのですが?』

「あぁー・・・今、戦っているクモ部隊を殲滅してから遥菜達の支援に行くからね」

『かしこまりました。遥菜達は、一進一退の状況ですが、小破以上の被害はないようです』

「それは良かった。ジヨウ君、アゲハの側面対宙砲火の準備できるかな?」

「準備は完了してます。いつでも」

 指示を出しながらも、エルフ型撃破という偶然の幸運を逃す琢磨ではなく、幸運を余さず吸い取るための行動を即座に開始していた。

 ミサイルポッドをパージしたエイシ”タクマ”機は中央突破ではなく、弧を描くようにクモ部隊の右側面に周った。両手の黒雷は絶え間なく闇光りの輝線を宙に生成していて、その度にクモの数を減らしていく。

 機動性能では、圧倒的に人類の技術が優勢な上、オセロット王国の最新鋭技術満載のエイシに、混乱した敵は全くついてこられない。琢磨はクモの攻撃を、機体性能を活かして避けつつ、遥菜達の状況を確認した。

 だが、いつの間にかクモ部隊は、砲火を中央に集中できる半包囲の陣形を整えていた。副司令官なりが部隊を掌握したのかな・・・。

 部隊を指揮する者のいる、統率のとれた軍隊は手強い。

 琢磨は黒雷を連射モードで牽制しながら敵の砲火を防御するのに手一杯となった。

 半包囲に対しては敵正面を中央突破で同士討ちを狙うため、戦力を正面に集中するのが定石。しかし、琢磨は半包囲を抜けようと横方向・・・包囲の端の方へと移動した。

 エイシの機動力はクモと比較して圧倒的だが、それでも敵の包囲から抜け出せない。

 牽制の意味も込めて黒雷レーザービームライフルを連射モードにしてクモの数を削っていく。だが、タクマ機の装甲も徐々に削られていった。

 流石に数が多すぎるな。

 クモの攻撃を避けきれない。

 右脚の膝下に被弾。

 琢磨は即座に膝関節部より下をパージし、イレギュラーな動作を抑える処置をする。しかし、推進力の減少に伴う機動性能の低下は避けられない。

 統率力の戻ったクモの部隊に、琢磨は死の淵へと追い詰められようとしている。

 その時、突然クモ部隊に、強烈な攻撃が加えられた。

 琢磨は巧妙にアゲハの攻撃範囲へとクモ部隊を誘導していたのだった。

 アゲハから宇宙戦艦なみの火力が容赦なく降り注ぐ。

 タクマ機は弧を描きアゲハを盾とする。その最中に黒雷エナジーモジュールを交換した。そして黒雷レーザービームライフルを通常モードに戻し、反対側のクモ部隊の前衛側面へと回り込み、再度クモ部隊に攻撃を仕掛ける。

 琢磨の精確な狙いとアゲハの主砲が、クモを撃破し、着実に数を減らしていく。

 アゲハ左後方から当初約50体で迫ってきたクモ部隊を10体に満たない数まで撃ち減らす。敵は漸く撤退を開始するが、琢磨は追撃戦を仕掛け、残り4体まで減らした。

 ただし、その時点で深追いを止めた。

「恵梨佳、黒雷の回収よろしく」

『了解しました、お父さま』

 琢磨は、銃身が融解した黒雷レーザービームライフルをアゲハに送る。そして戦線維持・・・ではなく、混戦維持のために重要となる戦場へと翔ける。

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