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銀河辺境オセロット王国  作者: 柏倉
突破脱出行
12/25

第6章 暗黒種族 「僕の優先順位からするとね。君たちは殲滅かな」 2

 午後の学習カリキュラムを終えた遥菜は、レイファとお喋りがしたいと考えながら、第3パーティールームに向かっていた。

 他の会場は絨毯敷きになっているのだが、第3パーティールームだけは、床も壁も板張りである。

 第3パーティールームは100人前後の小規模パーティールームで、格闘訓練に向いている。

 ソウヤたちは道場と呼んで、昼食後の2時間を鍛錬に充てている。

 エイシの操縦訓練に、1日10時間以上も費やしている。それにも拘らず元気な男達だ。

 遥菜が会場に入ると、男3人が約束組手をしている。

「ソウヤたちのやっているのは空手なの?」

 入り口近くで壁を背にして座っているレイファに、遥菜は隣に座り声をかけた。

「そうなのぉ~。大和流古式空手だよ~」

「残念ながら、ソウヤが一番強そうにみえるわ」

「そうなんだよねぇ~」

 甘い声音で、嬉しそうに返事したレイファの笑顔につられ、遥菜も微笑みを浮かべた。

 恵梨ネーとも仲は良いが、姉以外にも同性がいるのは嬉しく、お喋りはストレスの発散になる。そして、彼女の心地好い天使のような笑顔は、遥菜の心を癒してくれる。

「あとね~。ウチ達が暮らしてた”絶対守護”内で開催された総合格闘技大会18歳以下の部で、ソウヤが準優勝したの~」

「素晴らしい成績とは思うわ。思うけど・・・。何というか、準優勝というのが、微妙に凄くないわね」

「優勝すると思ってたんだけどねぇ~、準々決勝で足首を捻挫しちゃって、決勝はウェンハイに・・・」

「ウェンハイ? この前の帝国軍パイロット?」

「う、うん。ソウヤとウェンハイは、大和流古式空手の同門でライバルだったの~。練習の終わりに、いっつも立合いしていて。大体は、時間切れの引き分けだったんだよね~」

 その瞬間、遥菜は閃いた。

 たしか、ドラマで観たことがあるわ。

 全力を尽くして戦うと、2人の間のたわだかまりは消え去り、笑顔になっていた。

 そして、ソウヤとウェンハイもそういう関係だったという。

 そうならアタシでも・・・。

「ソウヤッ!!」

 遥菜が突然大声で呼び掛けた。

 ソウヤたちは組手をやめて、遥菜に注目する。

「今からアタシと勝負しなさい。アナタの歪んだ精神を真っ直ぐに矯正してあげるわ。ついでに、アタシのストレス発散も兼ねてあげるからっ!」

 遥菜は右手にソウヤを指差し、左手を腰にあて、傲然と言い放った。

「オレたちは道場で、日々大和流古式空手の鍛錬をしてきたんだぜ。オレの相手がテメーに務まるかよ。素人とまではいかないようだが、オレの相手にはなんねぇーぜ」

 なんてことなの・・・。

 ソウヤの分際で、呆れ果てた表情と揶揄する口調で冷静に応じてきたわ。

 ・・・だけどね。戦ってもらうわよ。

「ビンシーのチェーンソーブレードは真っ二つにしてあげたわ。イイかしら・・・アナタの眼はね。言うほどの実績はないのよ」

 事実を辛辣な口調で挑発する。

「チェーンソーブレードん時は、視る目がなかった。それは認めるぜ。だがよ、立合いや喧嘩なら日常茶飯事だったんぜ。テメーじゃムリだ」

 どんな日常を送っていたのよ、アナタ。・・・いや、アナタ達。

「遥菜、止めた方が良い。ソウヤとじゃ体格からして違いすぎだろ」

「私の方は気にしないで、ソウヤがケガしそうになったら、止めてくれればいいわ」

 遥菜の揺るがない決意を持つ視線に、ジヨウは抗えなかった。だが彼は、争いを最小限に抑える術は心得ている。絶対守護内では日常茶飯事のことだったからだ。

「仕方ないな。ただし、大和流古式空手の立合いルールで行う。大和流古式空手の立合いルールは、倒れた者への攻撃は禁止。また、3秒以内に立ち上がること。相手が立ったら構えてなくとも攻撃OK。負けはギブアップか、3秒以内に立ち上がれないか、もしくは審判が判断する。防具がないから追加ルールで、目突き金的禁止。それと、審判は俺が務める。立合いは10分間。10分以内に勝負がつかない場合は、ダメージにかかわらず引き分けとする。これ以上は譲歩しない。2人共、それでいいな!」

 ジヨウが早口でだが、断固とした口調で全員に言い放った。

 ソウヤと遥菜は、それぞれの言葉で肯定の返事をした。


 遥菜はワンピースを脱ぎ、艶やかな黒髪を一つにまとめていた。

 統合マテリアルスーツを身に着けているということは予測通りだった。

 しかし、体の形が良く分かる魅力的な姿にソウヤの目が、つい吸い寄せられてしまう。

 均整のとれた肉体に、女性としての魅力を追加した体型。

 エメラルドグリーンを基調とした花柄の統合マテリアルスーツ。

 凝視しそうになるのを理性で無理ヤリに押さえつけ、ソウヤは道着っぽい服を調える。

 オセロット王国の全土に根を下ろしている武道の道着を、レイファが大和流古式空手風に手直ししたものだった。しかし大和流古式空手の道着と比較すると、生地が厚く動きにくい。

 効率的な攻防一体の技術と、虚実を織り交ぜ相手を翻弄する技が持ち味の大和流古式空手には、全く適さない道着である事この上ない。

「ソウヤよ。負けそうになったら我が手助けしてやろうぞ」

「バカ言うな。オレか負ける要素なんてねーぜ」

 ソウヤは渋々とだが体を動かし、全身の感覚を研ぎ澄ませ立合いに備える。

 それにしても、メンドーなことになったぜ。遥菜の技は未知数だが、筋力と体力は圧倒的にオレの方だろう。技が互角ならケガをさせずに抑え込めるだろうが・・・。

「ソウヤァ~。負けそうになっても、顔はダメだよ~」

 甘い声音で、レイファが注意してきた。

 ソウヤは、うっかりレイファに顔を向けてしまい、魅惑の笑顔を視界におさめてしまう。レイファの視線が、瞳が、語っている。顔への攻撃はマジ許さないと・・・。

 レイファの瞳の魔力には抗えない。

 ああっと、不満気に肯定するのが精一杯だ。

 しかし納得できないぜ。

「2人とも、何でオレが負ける前提なんだ」

 それに、だいたい何がしたいんだ、遥菜は?

 言い争いは数えきれない程したが、本音で言い合えるのはイイことだ。

 ソウヤは、そう考えている。だから、今までにあった遥菜との対立は、まったく気にしていなかった。そんな事ぐらいで神経使ってたら、絶対守護ではやってけない。

「はじめ、の合図で立合いを開始する」

 ソウヤと遥菜が、立合いの準備を終えたことを見てとり、ジヨウが宣言した。

 遥菜が道場の中央にいるジヨウとソウヤに近づく。ソウヤの体が自動的に戦闘モードに突入する。

「正々堂々と相手して、叩き潰してあげるわ」

 遥菜の凛としたソプラノの声が部屋に響き、ジヨウの長いため息が低音域をカバーした。合唱の最後は、テノールの声域の「はじめ」で締められた。

 遥菜が距離を詰め、ネコ科のような、しなやかで力強い動きで間合いに入ってくる。

 そこからネコ騙し、次いで道着の襟と袖が掴まれ、遥菜が背負い投げを放ち、ソウヤは床に叩きつけられた。

 オセロット王国で武道と云えば柔道で、ソウヤたちが着ている道着は元々柔道着だった。

 何をされたのか、どういう風に投げられたのかは見えていた。なぜ遥菜に自分が投げられたのか、自分に何が起こったのかが、理解できなかった。

 ネコ騙しの前に、体が浮き上がるような感覚を捉え、サイドステップで一旦態勢を整えようとしようとしたのだったが、次の瞬間床に背をついていた。

 絶対守護の外殻近傍の通路を歩いていた時の感覚に似ている。

 重力が変化したのか?

 意図的にやったてーのか?

 マジかよ?

 カラクリはどうなってんだ?

 驚きのあまりソウヤの心が麻痺する。

 だが、体は戦闘モードに入っていたため、反射的に右脚を繰り出し、遥菜の脇腹に蹴りを入れてから立ち上がる。右足には分厚い木の板を蹴ったような感触が残っていた。

 その違和感は、遥菜が平然と起き上がったのを見て確信に変わった。

 鍛え上げられた筋肉ではあり得ない。統合マテリアルスーツの性能か? 今、それを判断する必要はない。生半可な攻撃は通用しないという事実に対しての対策をとるだけだ。

 対策として簡単なのは、統合マテリアルスーツに覆われていない場所を攻撃するのだが、顔は攻撃してはならない。

 決断すべきは、全力で戦わなければオレがやられる。

 相手が女だろうが、負けてやるのは性に合わない。覚悟してもらうぜ!

 決意を心で叫び、ソウヤ得意の流麗な連続技で容赦のない反撃にでる。


 ソウヤの蹴りが唸り、拳が空気を切り裂く。

「虚実交えての連携を使っているぞ。ソウヤは本気のようだ。それを躱す遥菜もやるようだが・・・なんだ? なにか変だぞ。どう考えれば良いのだ?」

 隣に聞いたクローはすぐに間違いに気付いた。隣にいたのはレイファで、両手を握り合わせ顎の下に持っていき、眼を輝かせながら両者の攻防・・・ではなく、ソウヤを見つめていた。

 吐息を一つ吐くと、クローは審判をしているジヨウの斜め後ろに移動し尋ねた。

「本気のソウヤの攻撃が通用してないようだぞ。ほとんど躱されている」

「そうだな。あたった攻撃もきっちり防御されている。しかも、ソウヤの攻撃が微妙にずれているようだ。いや、遥菜がずらしているのか? とにかく、受け流されてるな」

 ソウヤの攻撃は見た目の流麗さの割に鋭く、重く、速い。それがフェイントを織り交ぜ、連続して繰り出されるているのだ。クローですら、受け切れない攻撃が次々と遥菜を襲っている。

 だが、ソウヤの攻めは通用せず、遥菜の攻撃の圧力が、徐々に増していった。


 暫くして、遥菜の圧勝で勝負が決着した。

 ソウヤはダメージでなく、疲労で動けなくなっていた。

 倒れこんでいるソウヤに向かって彼女は、立合いをしてまでも言いたかった事を伝える。

「生きる為に強くなりなさい。アタシより強くなりなさい。・・・それで、全員で、オセロット王国にいくわ。だから・・・その気になったらアタシの部屋にきなさい」

「ダメッ! 女子の部屋になんて・・・あの、その・・・良くない・・・と思うんだよね~」

 頬を朱に染め、だんだんとレイファの甘い声が小さくなっていく。

 その表情から、遥菜は言葉の綾に気付き、顔を耳まで真っ赤にして大きな声でいう

「あ、いや、違うわ・・・いや、違わないけど・・・違うわ。今度は勝手に入れないようになっているから、コネクトで通信してきなさい。それで・・・、えっと・・・」

 レイファから伝染したのか、いつもきっぱりと物を言う遥菜にしては珍しく言い淀んだ。そして一旦深呼吸してから、ソウヤに指さして傲然と言い放つ。

「アタシの使った技のカラクリと、エイシの操縦のコツを教えてあげるわ。わかった? それだけだからね。それ以上でも、それ以下でもないわ」

 上半身を起こして唖然としているソウヤ。

 呆れ返っているジヨウとクロー。

 レイファは、どうして良いか分からないという表情を浮かべている。

 皆の態度に迷いつつも、遥菜は確認のためソウヤに尋ねる。

「どう、スッキリしたでしょ。これで、少しだけ仲良くなれるわ」

「なれるかぁあああ!」

「遥菜~。たぶん、それ違うよ~」

「うむ。一方的に叩きのめしたら、友情ではなく憎しみが生まれるだけだぞ」

「男と女が戦う時点で間違ってるだろ」

 戸惑い顔に浮かべたあと、今度は別の意味で顔を赤く染めて、遥菜は文句を口にする。

「まったく、もう一人弟が出来た気分だわ」

 完全に逆ギレだった。

「オレが弟かよ。逆だ! テメーが妹の間違いだぜ」

「いいえ、どう考えても、アナタが弟だわ」

 そう言い放ち、これ以上顔に赤くなる場所がなくなった遥菜が、部屋から立ち去った。

 遥菜が出ていった扉から視線を剥がし、ソウヤは首を巡らし、ジヨウとクローをみる。

「弟だろうな」

「弟に違いないぞ」

「なんで即答なんだよ」

 ソウヤはレイファに期待を込めた視線を送ったが、やはり期待通りの回答は得られない。

「遥菜さんの弟なら、いいかな~って・・・」

「裏切り者ばかりだぜ」

 大の字になって、ソウヤは独り言を口にする。

「それにしても、なんなんだよアイツは・・・。いきなり絡んでくる。弟認定する。それにカラクリってよぉ・・・。でも・・・なんかスッキリしたぜ」

 ソウヤは直感力が鋭く、頭の回転も速く、知恵もある。

 それでいて遥菜の推察通り、彼は根が単純でもあった。


 アゲハが三連続時空境界突破航法を実行した。再度三連続時空境界突破航法を用いれば、時空境界突破航法ネットワーク装置に辿り着ける。

 しかし、時空境界突破航法するには約24時間必要である。それは、時空境界突破航法装置のミスリル合金キャパシタへのエナジー注入にかかる時間である。

 その間、各々はいつもと同じ生活を送っている。

 つまり、ソウヤたちは訓練。琢磨は研究開発。そして恵梨佳と遥菜は、王都の友人と通信用境界ネットワークを使って連絡していた。

 そして訓練を終え、自由時間になったソウヤは、琢磨を問い詰めるため研究室へと向かった。

 話す内容は決まっている。

 だが、問い詰め方が・・・追い詰め方がわからない。ジヨウなら理路整然と訊きたいことを確認するだろう。クローなら議論を吹っかけ、どういう理屈か分からないが、いつの間にか相手を尋問している。レイファなら・・・さあ、どうだろうか?

 ソウヤは研究室の一つ手前の曲がり角で立ち止まり、質問したい内容を纏めようとする。

「何かな? ソウヤ君」

 逡巡している間に琢磨から声をかけられた。

 ソウヤの位置から琢磨の姿はみえない。しかし気配は感じる。

 曲がり角の先に、琢磨がいるようだった。

 訪問は知らせていた訳でもねー。それなのに、なぜ分かんだ? オレの姿は、まだ見えていないはずだ。

 琢磨さんは、何でもありなのかよ。マジ世の中間違ってんぜ。

 嘆息したソウヤは、観念して琢磨の前に姿をみせる。

「話したいことでもあるのかな?」

「まあぁ、なぁ」

 とりあえず返事をしたが、心の準備が調わないまま対峙したので、話に纏まりを欠く。

「・・・ジヨウは、琢磨さんを信用してる。クローはお互い様だと考えている。レイファは・・・なに考えてんのか良く分かんねぇーな・・・気付いてないかも知れないが・・・。だがオレは、琢磨さんが重要なことを隠してるっての分かるぜ」

「具体的には何かな?」

「・・・分からねぇーから、訊いてんだぜ?」

「隠している事は、ないはずだね。言わなかったことは多々あるかな」

 それを隠してるって言うんだぜ、との言葉を飲み込み追及する。

「琢磨さんたちが王族だとは知らなかったぜ」

「あー言わなかったね。だけど、その結果みんな仲良くなれたよね?」

「ああ、叩きのめされるぐらいによ」

「父親としては、過度なスキンシップは控えてもらいたいな」

 食事の時にソウヤが遥菜に叩きのめされたのが話題に上がり、恵梨佳は透明感のある声で遥菜を窘め、琢磨は愉快そうにしていた。

「アンタの娘に直接言ってもらいたいな? こっちは、ケンカをムリヤリ買わされたんだぜ。その上、ボッタクられたみたいなもんだ。オレは100パーセント被害者なんだ。だけどよ・・・絶対守護でも、あんな手を使ってくる奴はいなかった。正直勉強になったぜ。知らないってことは危険だということも実感した。少しだけジヨウを尊敬する気になったぜ。ただ、どんなことでも知ろうとする知識欲にだけだけどな。だが、ポイントがズレてる。オセロット王国の最先端技術とか最新の研究とか知ろうとして、肝心のことを知ろうとしてない。・・・アンタ、一体何者だ? 早乙女琢磨・・・オセロット王国の王族にして、マーブル軍事先端研究所の所長。天才科学者としても有名。そして・・・」

 オセロット王国の生活、文化の学習という名目で、多くの時間をドラマや映画鑑賞に割いていたが、ニュースも目にしている。アゲハにアーカイブされているニュースには、当然王族の情報も多く存在している。

「・・・死の遣し手」

 それは、琢磨がテロリスト約30名を、文字通り殲滅した事件から名付けられた異名だった。

 不埒にも国王専用宇宙船のお披露目式典に潜入したテロリストが、招待客と船員を人質にとった。その中には、式典のために国王を始めとし、琢磨の妻である揚羽、それに多くの王族が乗船していた。

 琢磨の行動は単独でテロリストに立ち向かい、人質全員を無傷で救出した勇敢な人物として賞賛された。

 しかし自身は傷一つすら負わず、テロリストが全員死亡。テロリストの中に少年少女が数名いた。その結果、少ないながら非難がでた。

 だが、琢磨に面と向かって非難する者はいなかった。

 どのようにテロリスト全員を離れた場所から同時に殺害したのか? その方法は発表されていない。”死の遣し手”への恐怖が、表立っての非難を消し去り、裏側での無責任な噂話となったのだ。

 この事件以降、人々の琢磨を見る目には、恐怖の色が薄く重なるようになっていた。

「まあ、その通りかな」

「琢磨さん、少しは謙遜するとこだぜ」

「僕が謙遜すると、嫌味に聞こえるらしくてね。事実は事実として受け止めるようにしてるんだよね。ソウヤ君、それで? 君は、どうしてそんなにも僕のことを渇望してるのかな?」

「渇望なんてしてねぇーぜ。知らないで後悔はしたくないってだけだ」

「僕の事をかい?」

 どうして微妙に肯定しづらい言葉を選ぶんだ?

「オレが欲しいのは、琢磨さんの考えと知識だぜ」

 絶対守護で紅雀蜂と喧嘩した時も、軍隊に所属してからの地獄の訓練の時も、マーブル軍事先端研究所攻略の初陣の時も、帝国軍の追撃隊との戦闘の時も、ソウヤは己の死を考えたことはなかった。

 自分は死なない、と心の底から信じていた。

 だから、ジヨウたちを護れると・・・。

 しかし、その確信を遥菜によって、いとも簡単に砕かれた。

 人型兵器での立合いでは、ビンシー6のチェーンソーブレードを真っ二つに断ち斬られた。遥菜との立合いでは叩き伏せられた。2回とも、遥菜がオレを殺す気だったら死んでた。

 ソウヤは、己の慢心が死を引き寄せることを覚った。そして、このままでは護れないことも・・・。

「オレが幻影艦隊を知れば知るほど、攻撃や防御のバリエーションが増えんだぜ。それが生死を分けるかも知れない。知識は、いくら増やしても無駄にならないところがイイぜ。オレはジヨウたちを護るんだ! いや琢磨さんも含めて護る。オレの周りの人間が死ぬのは赦せねぇ」

 いきなり、琢磨が声をあげて笑った。

 その瞬間、頭の血が沸騰しかけたが、嘲るのでなく本当に愉しそうな笑いなので、リアクションに困る。相手がクローだったらボディーに正拳を喰らわすところだが、琢磨さん相手には出来ない。

 ソウヤはそこまで、礼儀知らずでも命知らずでもない。

 それにしても、琢磨さんが声をあげて笑っているのを初めて見たぜ。

 琢磨は両手を広げ、真剣な表情でソウヤへと語りかける。今までの軽い感じから一転、声に重い圧力がかかっている。

 そして彼の言葉は、ソウヤの耳を離さない。

「いいだろう。知ることが後悔を生むことも教えてあげよう。君に、恵梨佳と遥菜さえ知らない真実を公開する。その秘密を抱え込むも、ジヨウ君たちに話すのも自由にしていい。無論、恵梨佳と遥菜に話しても構わない。まずは、僕と秘密を共有しようか。ただしソウヤ君、君には、もはや後戻りできる道はなくなる。これが君の希求する将来へと繋がっている道だとは保証できないし、似通っているかどうかさえ僕には判断できない。君が知ろうとしている情報は、君の一生を縛ることになる。君にとっては分の悪い賭けにしかならない」

 グリーンの鋭い眼差しの圧力に晒されながらも、気合いを入れ踏み止まる。

「知らないで後悔するよりはマシだぜ・・・。その御大層な秘密の共有っていうのは、琢磨さんの口調の変化だけ、なんていう詰まらない話じゃねぇーよな?」

 2度も遥菜に後れを取った。

 侮っていた気持ちもあったのだろうが、それ以上に情報不足だった。己の常識だけで相手の実力を計っていた。

 知らない部分は推測して対処するしかない。だが、今度の相手は謎ばかりの暗黒種族で、敵の情報が圧倒的に足りない。そして幻影艦隊は、帝国軍を凌駕する戦闘力を持っている。

「良いのか?」

 オレは知るべきなんだ。

 そうでないと、護れる人も護れねぇーぜ。

「覚悟はあるぜ」

「さあ、来い」

 ソウヤは琢磨に連れられて、アゲハ最奥の研究室へと案内された。

「ここが暗黒種族研究の最先端にして、僕とアゲハの共同作業所だ」

「ココが?」

 僕とアゲハの共同作業所という言葉に引っ掛かりを覚えたが、目の前に広がる光景に驚愕し考える余裕がなかった。

 研究室の中は柔らかい光で満ちていて、何も置かれていなかった。いや、何もなかった。

 アイボリーホワイトの壁に床、天井のみで、研究室というには広い空間があるだけだった。

 だが、この部屋には何かを感じる。これはアゲハにきて2度目の感覚だった。

 1度目はロイヤルリングを嵌めた時だった。今は、あの時の何倍も鋭敏な感覚になっている。

 ここには、己の五感を越えた何かがある。そんな感じだった。

「存分にオセロット王国軍の極秘機密に触れてもらおうか?」

 琢磨の良く通る声が部屋に響くと、突如映像が全面に映し出された。壁、床、天井をも含めた全面にだ。

「何だ、ココは? これが研究室かよ」

「僕専用の研究室だよ。他の人では、多分使いこなせないんじゃないかな? さあ・・・」

 この時すでに、琢磨の口調が戻っているのだが、ソウヤは気付けない。

 琢磨が話している間にも、ソウヤには理解できない様々な情報が表示されるているからだ。理解できたのは、正面の壁に捕らえられている緑色のエルフ型が、映し出されているということだった。

 エルフ型は手枷足枷を嵌められている。その枷に繋がれた鎖は、壁の穴の奥へと続いている。

 ヤツはエルオーガ軍の兵士か?

 捕虜になっていんのか?

 しかし、伝説上のエルフと似ているのは耳ぐらいかよ。

 ブキミな顔だぜ。

 口は体の中央付近に縦についていて、眼は4つ、髪は・・・髪の毛ではなく、頭から長い触手が数多く生えていた。

「あれが・・・エルフ型だってのかよ・・・」

「その通りだね」

「命名したヤツのセンスを疑うぜ」

 ソウヤは毒づくことによって、驚愕から立ち直ろうとしていた。


 はじめは、いつものように冗談と話を逸らすことで、会話を終わらせようとしていた。しかし、『オレの周りの人間が死ぬのは赦せねぇ』とのソウヤの言葉で気が変わった。黒曜石の瞳に鋭い光を宿して放った彼の台詞は、グリーンの瞳を持つ青年の20年以上前の台詞と酷似していた。

 それにソウヤの瞳の色は、揚羽や子供達に良く似ている。そのことも、気紛れで決断するには重大すぎる決定を琢磨が下した理由の一つだった。

 ソウヤを琢磨専用の研究室に招き入れた時、琢磨にしては珍しく動揺を表情に出してしまった。ソウヤは何もない研究室に驚愕したため、気付いていなかったようだったが・・・。

 この研究室には、エイシの100倍ではきかないほどの量のオリハルコンを使用していている。オリハルコン同士はダーク光子と呼ばれる粒子波で交信する。

 琢磨はロイヤルリングで、精神感応共有の最高レベル”全拡張”まで可能である。

 その琢磨の高い能力が、緻密で精密な感覚が、感じとっていた。ソウヤが全身で壁へ、床へ、天井へと、交信していることを・・・。

 早乙女家を継承する前の口調から、後天的に培った軽い調子に戻った。

 瞼に掛かった銀色の前髪をはらい、エルフ型の個体名”ヘリオー”に声をかける。

「やあ、久しぶりに話さないかな?」

『今さら、貴様と話すことなどない』

 琢磨は横も見ずとも、ソウヤが隣にきているとわかっている。

 今、彼の黒曜石の瞳は、画面に釘付けになっているだろう。

「つれないね。会話できない理由でもあるのかな?」

『誇り高き、このヘリオー様に働いた数々の無礼を、余は一生忘れない。必ずや貴様に復讐を果たす。決して許しはしない。余以上の屈辱を与え、四肢をもぎ、貴様の大切なものを無残に滅し、絶望と無力感に苛ませながら、貴様の存在を無へと帰せしめよう』

「いつもより饒舌だね。立場を忘れているのかな? それとも、良い事でもあるのかな?」

『ふっふっふっ。何を想像しても構わんが、貴様ら如き、宇宙の数パーセントの物質しか利用できていない種族に負けるエルオーガ連合国家ではない。今のうち、我が世の春を謳歌しているがよい。すぐに貴様との立場を逆転させてやる』

 事前に予想していた通りの結論に達し、琢磨のグリーンの瞳が妖しく光を放つ。

「ところで、自分自身に様という敬称をつけているけど、恥ずかしくないのかな?」

『エルオーガ連合国家の中心にして指導国家。それが我がエルフ族よ』

「エルフ族の王家っていうのは大変なんだね。最前線で武勲をあげねばならないとは・・・」

『くっふっふっふっふ・・・貴様が、どうやって、それを知りえたが判らんが、余を取引材料にするつもりか? 貴様らに残されたのは、エルオーガ連合国家による一方的な蹂躙だけだ』

「ざっけんなよ。テメーらなんざ、まとめて倒してやるぜ。このブキミ星人が・・・」

『ほう。珍しく、別の下等生物もいるようだが・・・。ふっふっふっふっはっはっはっは・・・これから貴様らは、奴隷としての一生を過ごすがよい。いや、そうだな・・・先程、生意気な口をきいたのは、奴隷にしてやっても良い・・・が、琢磨といったかな。貴様には今までの礼がある。特別に余のペットにして、いたぶり、弄び、小突き回し、心が折れても、精神が崩壊しても生かし続けておく。決して死なせはせぬ』

 ヘリオーは酷薄な笑みを口(胴体)に浮かべ、無慈悲な宣言を冷たい口調で言い放つ。

 琢磨にとって、これ以上の会話は無意味であり、あとは処分するだけであった。

 共同作業所は、宙の中を生身で漂うかのような感覚に陥る幻想的な空間と化す。

 通信を切断し、高精細な全面ディスプレイの映像をアゲハの外へと切り替え、琢磨はアゲハ後部ブロックのハッチを開く。後部ブロックには1辺5メートルの立方体が4つあり、それぞれに暗黒種族を1体ずつ捕えていた。

 立方体を固定していたドッキングロックをはずし、アゲハから次々に宙へ放出する。

 暗黒種族を載せた立方体は明滅発光し、夜空に瞬く星のように輝いている。

 次の瞬間、闇光りする凄まじい威力のレーザービームが、明滅発光しているブロックを捉え、呑み込み尽くした。

 レーザービームが通ったあとには、何者の存在も許されず、宙があるだけだった。

 新兵器”黒雷クロイカヅチ”・・・琢磨が開発していた雷の改良版で、通常レーザービームにダークエナジー”リパル“を加えた対エルオーガ軍兵器。

 琢磨は試射を兼ねて暗黒種族を処分したのだった。

「なんでヤツを始末したんだ? ホントは殺さなくても良かったんじゃないのか?」

「リスクを排除するのに理由が必要かな?」

「気に食わないヤツだったが、捕虜じゃなかったのかよ」

「捕虜の定義には、ホモサピエンスしか含まれてない。暗黒種族は、いわば生き物という扱いだね。人類と暗黒種族がお互いを認め合った後、漸く捕虜という概念が持ち込まれるようになるね。今の段階では、ヘリオーの立場は実験動物かな」

「人じゃない・・・と。人同士ですら殺し合うってことを考えると、実験動物っていうより・・・そうだな、ヤツは害獣といったとこか。なんせ人に危害を加えるんだから、人の居住域から駆除しねぇーとな。それで・・・暗黒種族を始末した理由は何だったんだ? 生意気な口を利いたからって、琢磨さんは研究価値のありそうな実験動物を手放すようには思えないぜ?」

 琢磨はソウヤの勘の良さに舌を巻いた。彼は僕の性格や思考を理解して答えに至ったのではなく、直感力で答えを導き出したに違いない。

「ヘリオーは、どうやら王族らしくてね。エルオーガ軍は彼を救出したいらしく、最前線の戦線を崩してまでも、マーブル軍事先端研究所に艦隊を派遣してきたぐらいなんだよね」

「幻影艦隊がヘリオーを助けに来るってことか?」

「エルフ型は、どうやら時空境界突破しての情報伝達手段があるらしい。マーブル軍事先端研究所の位置を割り出し侵攻してきたこと。救援部隊を編成してアゲハの進路の行く手を阻むように進路をとってること。このことから確実と言って良いだろうね」

「情報伝達手段だって・・・いったいどうやって? ・・・んっ、そうか、オレたちからは視えない何かをヤツは身につけてた。そういうことか・・・」

 基本的に琢磨は人を騙さない。ただ、進んで手の内を明かさないだけだ。話を微妙に、自然な雰囲気で逸らすという彼の得意技を、自問自答しているソウヤ対して発揮する。

「ヘリオーは、中々尻尾を出さなくて、まだ精確には分かってないんだよね」

 そう、精確には分かっていないが、正確には分かっている。

 ヘリオーが尊大な態度で食事として要求していたダークマター“マナ“は、ある種のダークエナジーを吸着させ、時空境界突破しての情報伝達を可能とする。そこまでは解析できていた。

 しかし、吸着させているダークエナジーは、琢磨達人類にとって未知の物質だった。ゆえに、精確な解析は未だ完了していない。

 そう、”マナ“は食料ではなかった。

 味方へ救助要請の為、ヘリオーは努力を重ねていた。

 ただ、彼は救出されるその瞬間まで、演技をするべきだったのだ。

「だけど、ヘリオーを連れたままでいる。それは何処へ逃れても、エルオーガ軍に捜し出されるというリスクを抱えたままになるんだよね」

 ソウヤの瞳の色から、猜疑心が薄らいでいるのを琢磨は見て取った。しかし疑いを拭いきれてはいないようだ。

 これぐらいで人を信じきってしまうようでは、単純すぎて自分すら護れないだろうね。とりあえず、及第点かな。

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