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銀河辺境オセロット王国  作者: 柏倉
突破脱出行
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序章 銀河紀元727年

『突破脱出行』編

 背の高い黒髪の少年が、人工衛星内の通路を歩いている。その通路の天井は、有害放射線除去つき窓になっていて、星々の輝く光が降り注いでくる。

 人工衛星の外殻は修理や点検、改造工事などの都合で、人工重力を低減させたり切ったりしている。その影響で、外殻付近の通路は人工重力が一定になっていない。

 しかも外殻の人工重力の切り替えに、通路の人工重力制御装置が対応しきれていない。故に、突然重力が増加したり減少したりと、歩きづらい事この上ない。

 そのため、人通りはほとんどない。だが、少年は訓練も兼ねて、この通路を好んで使用している。

 少年の氏名は”フタカミソウヤ”。5年前までは・・・。

 今の彼は”FZ7ZA93C”もしくは”FZ7ZA93Cソウヤ”だった。大シラン帝国の3等級臣民は、姓を持つことを許されていないからだ。

「ソウヤ~」

 甘い響きの声音に振り向くと、栗色の髪の少女が所々でよろめきながら駆け寄ってくる。

 彼女の名は”レイファ”。

 ソウヤと同じく3等級臣民で、”ロン”が彼女の姓である。

「ちょっと待って~」

 その容姿と性格の良さで、同級生を男女問わず魅惑していた。

 そんな彼女の二つ名は”みんなの妹”である。そして一部の男子からは、天使と呼ばれているぐらいだった。

 3等級臣民が購入できる値段の安い地味な服でも、レイファが纏えば華やかに感じるから不思議だ。

 2人は3ヶ月前に学校を卒業したばかりの15歳で、大シラン帝国本星を廻る人工衛星”絶対守護”内で働いている。

 大シラン帝国の3等級臣民は6~11歳まで基礎訓練学校で基礎的な教育をされ、12~15歳の4年間で適性に応じた職業訓練学校に行かされる。卒業後、彼らには就職する道しかなく、どんなに優秀な生徒でも進学という選択肢はありえない。

 走ってソウヤに追いついたレイファは、息を調えてから口を開く。

「ねぇ、ソウヤ~。この道じゃなく、1007号通りの方が近道だし、楽だよ~」

 1007号通りは、2層ほど衛星の内側にある人工重力制御の行き届いた、動く歩道が併設されている大通りである。目的地は1007号通り沿いにあるので、今すぐ2層下に移動した方がいい。

 それに女の子と歩くなら、こんな何もない通路より、店が立ち並ぶ1007号の大通りを選ぶべきだろう。だがソウヤは自分のペースで歩きはじめ、素っ気なく答える。

「そうかぁ?」

 そう、ここで日和るとレイファのペースに巻き込まれ、なし崩し的に言う事を聞いてしまう。5年に及ぶ経験が、ソウヤにそのことを理解させている。

 レイファはソウヤの横にまわり、斜め下から顔を覗き込むようにして微笑む。綺麗な栗色のショートカットの髪から、甘い香りが漂ってきた。

 背の低いレイファがソウヤの顔を見ようとすれば、必然的にこういう位置関係となる。

「一緒に1007号通りから行こうよ~」

 ソウヤは正面を向いたまま歩き、眼を合わせようともしない。

 レイファの魅惑の視線に触れてしまったら負ける、と理解しているからだ。

 彼女の顔全体を見る分には耐性がある。間違いなく美少女の部類に入るが、先輩にして悪友、リーダーにして調整役の”ロン・ジヨウ”と同じ顔をしているからだ。

だが、瞳の魔力には抗えない自信がある。それは胸を張って言える。

 レイファがお願いを口にする時、ソウヤは彼女の瞳を絶対に見ないようにしている。

「オレはこっちがイイんだ。イヤなら、レイファ1人で行けよ」

 ソウヤは人工衛星に新設する設備工事を担当していて、この通路を歩くのは仕事の訓練にもなる。何より彼の目的に必要なのだ。

「えぇ~。たまにはウチのお願いきいてくれてもいいのに~」

 甘い声音の拗ねたような口調と膨らませた頬が、もの凄い強制力を発揮している。

 これは理論の人・・・彼女の兄の”ジヨウ”を振り向かせるために身に着けた、レイファの固有スキルだった。そして兄以外の人に対しては、常に絶大な威力を発揮している。

 それならジヨウだけに発揮すればイイのに、とソウヤは心の底から思っている。

「レイファの場合は、お願いという名の強制だろ」

 ソウヤの口調に変わりはないが、レイファからの浸食があったようだ。

 微かな、本当に微かな笑みが顔に浮かび、ソウヤの長い歩幅はレイファに合わせるように短くなっていた。

「けちぃ~。それじゃあ、今日勝ったら外に食事しに行こうよ~」

 今日はチーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝があり、ソウヤとレイファ、ジヨウに腐れ縁のクローという4人で参加していた。

「祝勝会か・・・みんなで行くか・・・」

 一瞬、レイファの笑顔の下に、少し不満そうな色が浮かんだように見えた。

「もちろん奢ってくれるんだよね~?」

 不満はそこか、とレイファの気持ちを曲解してソウヤは勝手に納得する。

「イイぜ。感謝の気持ちを形で表してやるよ」

「やったぁ~」

 レイファは両手をあげ、ジャンプして喜んだ。昔から本当に嬉しいときの喜び方は変わっていない。他人の眼がある時はしなくなったようだが、オレとジヨウ、クローの前では変わらないレイファの喜ぶ仕草が見られる。

「それが狙いでこっちの通路を使ったのかよ?」

「ん~。ソウヤがここの通路を通るの知ってたしね~」

「知ってた? まさか・・・監視か?」

「知らなかったの~? 監視がウチの仕事だよ~」

「それは知ってるぜ。いや、そうじゃなくて、オレを監視してるのかって訊いてんだ?」

「スペースクラフトワーカーは全員監視の対象で~。発信機を健康診断の時に首の後ろに埋め込むんだよ~。だからね、ソウヤが宇宙空間に放り出されても、発見してあげるよ~」

 魅惑の笑顔で怖い秘密を平然と口にしたレイファの台詞にソウヤは青ざめる。

「まさか衛星内でも監視してんのかよ」

「う~ん、どうかなぁ~」

 レイファはソウヤに笑顔で、どちらとも取れるような答え方をした。

「あっ、と・・・。いや、それより発信機を埋め込んでるってどういうことだよ? そんなの聞いたことないぜ」

「帝国政府が、3等級臣民に情報公開なんてするかな~。どう思う~?」

 ソウヤは後ろ首筋に手を廻しながら、ため息とともに答える。

「しないだろうな」

 ここは大シラン帝国本星から約5万キロの衛星軌道上に浮かぶ一辺200キロの立方体の人工衛星”絶対守護”である。そして帝国の最終防衛ラインにして、3個艦隊約300隻の宇宙戦艦基地でもある。

 通常1個艦隊が常駐し、1個艦隊がドッグで整備、1個艦隊がシラン星系で演習を兼ねて巡回している。敵性国家が本星に攻め入るのは勿論のこと、脱出も至難の業であろう。

 だがソウヤは、4人で帝国を脱出してやると決意していた。

 よし! 難しいことは1人で考えない。全員を巻き込んだ方がイイ考えも浮かぶはずだぜ。特にジヨウには早く知らせて考えさせようとソウヤは決意した。

 その時、レイファが突然笑い出した。

「ソウヤったら、しんけ~ん。いくら管理局でも、そこまでしないよ~。冗談だよ、冗談~」

「・・・な、ん、だ、とぉー」

 心の底から安堵し、精神を立て直したソウヤは立ち止まってレイファと正対した。腰を少し落として無言で顔を近づけると、徐に彼女の両頬を引っ張った。

「ごめんなひゃ~い~」

 レイファは両頬を引っ張られてまともな言葉にならないのだが、声音だけでも彼女を許し、甘やかしてしまいそうになる。しかも上目遣いまで加わっているから、破壊力が半端ない。

 ソウヤは、そういうレイファの態度に少しあざとさを感じてもいた。しかし、他の皆・・・特に元同級生男子たち・・・は天真爛漫で可愛いと言っている。

 可愛いのは認めるが、正直言うと同級生男子の感性が鈍いんじゃないかと疑っている。

 しかし、レイファがこのような態度を見せるのはソウヤにだけであって、本当は彼だけが鈍いのであった。

 その後も2人は他愛ない会話をし、時にレイファはよろめきながら歩いて行った。殺風景な通路を心地よい空気で満たしながら・・・。


 ワープ航法が実用化されたから200年以上の時が過ぎても、人類による他星系開発は進まなかった。それは、ワープポイントの出入り口の座標を自由に設定できないこと、出入り口の片方は恒星付近で、もう片方は星系外となることが原因であった。

 しかし、時空境界突破航法・・・別名”境界突破”の開発により、状況は一変した。

 この技術は、3つのフェーズで実現する航法で、”境界顕現”、”境界突破(境界脱出)”、”境界消滅”と実行する。

 まず、移動元と移動先の時空を繋いだ境界を顕現させる。次に、宇宙船が境界を突破する。つまり、移動先では境界を脱出することになる。そして時空を繋いでいた境界を消滅させる。

 ワープ航法より移動の自由度が圧倒的に高いのだ。

 無論いくつか制限もある。

 たとえば、大きな重力は境界を不安定化させるため、恒星は言うまでもなく、惑星などの質量体の傍でも使用できない等である。それでも、時空境界突破航法の技術の実用化で、人類の活動領域は太陽系から銀河系の他の星系へと拡大していった。

 そして時空境界突破航法の開発から約100年後、人類が初めて太陽系外の惑星に入植を果たす。それを記念して銀河紀元という年号を制定し、その年を銀紀元年とした。

 銀紀元年から更に100年ほど時を重ねると、地球に歴史上初めての統一国家が誕生した。遂に人類は宗教や人種の壁を乗り越え、対話による融和の時代へと移行した・・・訳ではなかった。

 時空境界突破航法の発展により、人類は数多の星系の惑星に入植した。距離の壁は、地球からの命令を弾き返し、その支配から離脱した星系は国家を創建した。次々と星系が建国を宣言すると、地球にある既存国家の影響力が失われていった。

 銀紀80年を超える頃には、国家とは星系もしくは星域単位となり、地球という小さい器の中での争いは、急速に意味をなくしていった。しかし影響力を維持したい地球は、消極的ながら統一国家”地球”を成立させた。

 とはいえ、時代の波は地球を統一したぐらいで押しとどめることは出来ず、統一国家”地球”は数ある星域国家の一つという地位に甘んじる結果となった。

 さらに時は過ぎ、銀紀727年。

 太陽系から飛び出した人類は、銀河系の4分の1にまで活動範囲を拡げていた。

 そして、現時点での人類の活動限界・・・地球から約一万光年離れた銀河系辺縁に、シラン星系を中心とした7星系を統べる”大シラン帝国”が存在する。

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