雨使いと三日月の夜。
「で、ここどこですか?知らない人についていっちゃダメってお母さんが……。それに、これ誘拐ですか?拉致監禁するんですか?ウワーコワイデスー」
「勝手な疑いを掛けて決めつけないの!先生怒るよ!?」
いつから貴女が先生になりましたか?
めっと言う仕草をして頬を膨らませる果菜さん。
美人で可愛いとか憧れる。胸も大きいし羨ましいな、なんて思いながら自分の胸を見てみる……。うん……わかってたけど悲しくなるね……。
「じゃあ先生、改めて聞きますけど、ここはどこですか?」
「……ふっふっふー、ここはですねSSの研究室なのです!」
一瞬の沈黙。そして言葉を一つの吐く。
「……馬鹿ですか」
平屋の少し大きめな家。
町の中にあるから全くと言っていいほど研究室とは思えない。変な音もしないし……。
「フェイクなのです!」
「……なるほど……。研究室っていうからガシャンッパリンッ、見たいな音がするのかなーなんて思ってました」
「真顔でなんてことを言うんですかッ!それにそんな音がしたとして、何の研究ですか!?」
「モンスターと戦う時の戦闘についてとか ……?」
「しません!」
「じゃ魔王と戦う……」
「それもしません!!」
はぁー、と言って呆れだしている果菜さん。
まぁおふざけだけどね、うん。
果菜さんが疲れた声で「もう入りましょう……」と言うのでゆっくりと玄関から家に入った。
しんとした静かな家、それが第一印象だ。
なぜなら、出迎えもなく足音すら聞こえないから。
誰も住んでいないのか、生活感すらない。
……変な音しないし。
「……あの…………」
「大丈夫ですよ、ここで合ってます」
果菜さんは迷うことなくリビングの方へと歩いていく。リビングには先ほど通ってきた部屋とは違い、家具が置いてあった。テレビやソファー、机……だがどれも使った形跡はなく、新品の用に見える。
「むむむ…………これはもったいない……」
テレビの画面でっかいし……。これ使わないなんて考えられない。
「あはは……誰もここでテレビ見ないんですよ。あ、こっちです。行きますよー」
リビングの机の下を指差していたためじっと見つめてみる。するとそこには開けられる扉があった。
パコッと開けるとそこには階段が見える。
机を避けてギシギシと音を立てる階段をゆっくりと二人で降りていく。
「なんか怪しい……まぁ元から怪しいとは思ってたけど…………変な音しないし」
「ひどいですね……信頼のしの字もないデス…………」
「逆に会ったばかりの人に信頼されるなんて思ってたんですか……?変な音しないし」
「はい…………。てゆーかいつまでも変な音を引っ張らないでください!!」
この人の思考が心配になってきたよ……。
地下とかこの平屋にあるとは思ってもいなかった。
こんなに平屋が大きいなら使わないのはもったいない、そう思うのは私だけだろうか。
「お、果菜も帰ってきたみたいだよー」
私と果菜さんが階段から降り終ると、そこには学校の体育館半分の大きさの部屋が広がっていた。
そして果菜さんを見て誰かに声をかけていたメガネの男の人がこっちへ徐々にやって来ている。
何となくだけど私を見ていないか……?
「はじめまして雨使さん。俺は神河晶良。よろしくね」
「は、はい。よろしく……です…………?」
いきなり話しかけられてついつい驚いてしまう。
晴太以外に男の人と話すなんて久しぶりすぎて上手く言葉がでない。
「おい晶良、もしかしてその子も俺と同じなのか?」
数秒後、奥から出てきた少年は私と晴太の通う学校の一番近くにある学校の制服を着ていた。下校の時に見かけたことがある。
「そうそう。月夜と同じだよ」
「そうか。えっと……俺は三日月月夜だ。お前は?」
「……雨使千雨」
同じ……と言うことは能力値が低いんだろう。
見た目と中身が合ってないとはこんなことを言うのか。焦げ茶色のピョンピョン跳ねた髪に着崩れている制服。どちらかと言えば目付きがいいとは言えない。能力をバンバン使って暴れていそうな見た目だ。
「うん、相性は悪くないみたいだね」
「一安心だよ」
何やら晶良さんと果菜さんは二人で話をしていた。
私達はそれを横目で見ながら自己紹介を終える。
二人の会話はどうやら私達の相性のようだ。
悪くないみたい、と二人は言うが私は月夜が苦手だ。第一印象の問題じゃないが、なんとなく苦手。
そういう相手って新しいクラスとかになると必ず1人はいるもんでしょ。
「…………あの私、何でここに連れてこられたんでしょうか……?からかってるなら、帰してくださいね?私暇じゃないし、多分」
「ち、違いますよ!えと、じゃあせめて説明だけでも聞いてください!」
ゆっくり頷くと果菜さんが安心したような表情をした。
「えと私達は千雨ちゃんと月夜くんにSS能力を授けるのですが、その能力はあまりに大きすぎるものなのでテストがあります。そのテストが私達開発者に能力を授けられた人達とその能力で戦うというものデス」
「今まで授けた人達は七人、あ、もちろん月夜も含めてね。千雨ちゃんもいれると八人だよ。能力は最強過ぎるから完全にその人のものにはならないんだ。だから僕らはそのテストで勝ち残った二人にだけ、お試し用じゃなくて本物をあげようと思ってる」
仮契約か……。まぁ最強能力を簡単に手に入れられるとは思ってなかったけどちょっとショックだ。
いや、ちょっとどころじゃくショックかも。
人生そんなに甘くないって?
人生は味しないんだよ。そもそも、そもそも、食べ物じゃないし。
なんて心の中で愚痴ってみる。
「……それで私達二人をチームにすると?」
「そう」
「お断りします。私、ソロでいいです」
「ダメ」
「なんでですか、理由は?」
「えー、二人ともいー感じだし?バランス的にもねー」
「わー、見事なまでの適当ですねー!」
そしてなぜかチームになることになったんだが、気持ち悪いほどに晶良さんと果菜さんは同じような笑みを浮かべている。
「なんですか」
「いやー、最強能力を与えるんだし、少しくらい俺らに何かあってもいいんじゃないかなって」
「……月夜、手持ちは?」
「300円」
「わかった。じゃ私の合わせて600円ね。
これでジュースでも買ってください」
「最強能力安っ!?」
「ブーブー言わないでください。どうせ仮契約なんでしょう?」
「くっ……それを言われたら言い返せない!
仕方ない、ジュース買います、ありがとう」
こうして私達二人は、たった300円で最強能力を仮契約することになったのだった。
なんて、語り初めてみる。
……そうだ。言い忘れていたけれど、これは私達二人が、本物の最強と、最高のチームになるまでの物語なんだ。