雨使いの能力値。
この世界は不公平だ。いきなりこんなこと言われても否定も肯定もできないと思う。
私なんて産まれたときから15年たったけどやっぱり人とは違う。
名前なんて雨使千雨だ。
雨で始まって雨で終わる。どう考えたって雨女。
人を暗くさせる雨。何だか酷い。
「ちーうっ!」
「う……、あんまり大きな声で人の名前を呼ばないでよ。恥ずかしい……」
この私と正反対の元気な男子は太陽晴太。名前的にもう明るい。人を笑顔にできる存在。私と晴太は幼なじみでよく晴れ男と雨女なんて言われたものだ。
「千雨がボーッとしてたってことは、能力値のことだろ?……また変わらなかったのか?」
「…………まぁ、ね。一定。いつもと変わらず14」
この世界ではいわゆる超能力というものが存在していて、その能力は人によってさまざまだが強さを分けることができる。それが能力値。1から100まであって、私は産まれたときから14なのだ。
「晴太も、今日能力値測ったの?」
「あー、うん」
「……ど、どうだった?」
「んと、この間が63で今日が65だったな」
才能とはこんなにも憎く思えるものなのか。
いつものことなのだ。本当に、いつもと変わらない。能力値を測ったその日のうちはモヤモヤとした感情に心が埋め尽くされる。
「えっと……その、千雨。今日久しぶりにゲーセン行かない?」
私がほんの少しへこんでいたのを気付いたのか、無理やり話題を変えてきた晴太。
久しぶりに二人で出掛けることを提案してきた。
まぁ、ゲーセンならストレス解消には最適だ。
と思いカエルの刺繍がついている財布の中を覗いてみる。
…………手持ちたったの300円。
「ごめん晴太。今日はパス」
「やっぱり怒ってたの!?」
「ちーがーう!お金ない……だけ…………」
「あ……うん。なんなら貸そうか?」
「遊ぶお金を借りるなんて、それはちょっと……」
その後少し話してじゃあね、と言って晴太とは別れて帰った。
本屋行きたいしね。お金ないけど……。
覗くだけならタダだし……。
今日は昼間雨が降っていた。だから道には水溜まりがいくつかある。
「……雨女」
水溜まりを覗き込むとセルリアンブルーの瞳が二つ映っていた。ショートカットの髪も同じように青い。
赤いものがあるとすれば黒いヘッドフォンに入っているラインと線だけ。
雨女と言われても仕方がない。
無愛想な少女がたった一人、水溜まりに映ってるだけだなのだから。
しばらく眺めていると急に風が吹いて水溜まりの水が揺れだした。
「……何っ?」
「こんにちはー!雨使千雨ちゃんですよね?」
目の前に現れたのは若い女の人。
いや、どこから現れた!?
第一印象、元気な人。
茶髪の肩くらいの長さでまぁつり目。見た目からして二十代だろう。
「な、なんですか貴女……」
「私はですね、千雨ちゃんみたいに能力値のことで悩んでいる子に救いの手を差し伸べる超優しい通りすがりの美人さんです!」
「はぁ……。私、そーゆう詐欺系お断りです」
「まだ本題にも入ってませんし、詐欺でもないデスヨ!!」
美人ということは否定しない。本当に美人だと思うし。けれど言ってることがなんか嘘っぽいのだ。
だって能力値のことで悩んでいる子に手を差し伸べるって……今の技術では能力値が低い子は変わらず低い子、が当たり前だし。
私自身どーにもこーにもできないってわかってる。
「詐欺じゃないなら何ですか……?」
「疑い晴れないんですね……。えと、私、こーいうものです!」
ポケットをゴソゴソと探りカードのようなものを差し出してきた。そこにかかれていたのは、
〈SS能力開発科。美咲果菜〉
「SS能力……?開発?」
「あー、それ、えすえすじゃなくてスペシャルシークレットって読むんです」
「ほへ~……スペシャルシークレット…………」
なんだそりゃ?
「頭の上に分かりやすくはてなを浮かべないでくださいよ……。千雨ちゃんみたいな能力値の低い子は能力自体がまだ目覚めていないんです。だから目覚める前にすっごい最強能力を持たせちゃおう!と思いまして。で、その最強能力のことをSSって言うんです」
「え、なにそれこわいです……」
開発科ってことはもしかしなくても実験とかなのかな。じゃ私動物?実験体?
若くして命を無くすの?
ここまで不幸に好かれてるとは……。
「ドン引きしないでください!!……はぁ…………千雨ちゃんだって、本当は才能に恵まれた晴太君と比べられるのはうんざりでしょう?」
「んなっ……晴太は関係ないでしょ!それに才能は……しかたない…………」
小さい頃からずっとずっと比べられてきた。
一緒にいるだけでヒソヒソと影で何かを言われていた。
でもそれは私が悪い。私が弱いから、ただ、それだけのこと。
「いつか、限界が来ちゃいますよ?もし、もしですよ?我慢の限界が来て、晴太君を傷付けてしまったら……千雨ちゃんはずっと後悔しちゃうんじゃないですか?」
後悔、するかもしれない。
「……じゃあどうすればいいですか」
今は我慢が出来る。けど、未来なんてわからない。
ずっと周りと変わらず私に接してくれた晴太に、恩を仇で返すようなことはしたくない。
「答えはとっても簡単です。千雨ちゃんみたいな子が変われる舞台が、用意されてるんですから!」
そう言った果菜さんの笑顔は先ほどまでの笑顔とは比べ物にならないくらい、輝いているように見えた。