ヒロインは傍観者
「グリシーナ、貴様との婚約は破棄する。貴様がナナに危害を加えていたことはわかっている。」
「グリシーナ様、お願いですから、罪を認めになってくださいませっ。」
初めまして、皆さま。私、このたび王子殿下もとい残念イケメンに婚約破棄された公爵令嬢ですわ。
あろうことか、我が国誇るバカ王子に剣を突き付けられております。しかも、魔法学校の卒業式後のパーティー、陛下や王太子殿下もいらっしゃる格式高いパーティーですわ。もし、この方が王太子だったら私、亡命してでもこの国から逃げ出しておりますわ。
それから、念のためこの国の常識について語っておきます。皆さまとは違うかもしれませんので。この国は王を中心とした貴族社会で成り立っていますわ。そして、魔法を使える者は人口の三分の一ほどです。その中でも、力の強いものは、精霊と契約を結びます。力の強い精霊ほどきれいな人型ですわね。精霊は契約主の魔力を食らって代わりに強い魔法を与えます。もちろん、契約を結べるのは自分の持つ魔力と波長の合うもののみ。私の場合、夜を司る精霊のアーベントですわね。この精霊、結構強いのですが気に入る魔力がほぼほぼないことで有名ですので私が契約したとき皆さま喜ばれ、驚かれましたわ。
それもあってイクスィス様――残念王子ですわ――との婚約が進んだのですが、先ほどから彼らが訴えているのは何事でしょう?
「グリシーナ、貴様はナナが特待生だからと言って、魔法を使ってナナの目を一時的に見えなくして、事故に合わせようとしたな。その時は俺が近くにいたから無事だった。それに自分の茶会に招いたときは服装を侮辱したそうだな。すべて、分かっている。」
「グリシーナ様、どうか謝ってくださいませ。そしたら、イクスィス様は許してくださいますっ」
「ナナ、こんなやつに慈悲なんかかけなくてもいい。グリシーナ今なら謝罪を受け入れてやる。貴様にはもったいないほどのチャンスだ。」
私はそれに向けて冷たい視線を送るだけ。もちろん回りの貴族の皆さまも。あたりまえでしょう。婚約というのは個人の問題ではございません。それに、今回の婚約はアーベントと私を国に残しておくためもので王家のほうから持ち掛けられたものです。本当ならば王太子殿下とがよかったのでしょうがまず、王太子殿下とはあり得ませんし公爵家はなるべく長子が継ぐという伝統がございますので下に弟がおりますが私にイクスィス様が婿養子になるという感じでした。それを、いくら魔力が多いからって平民の、それも礼儀のなっていない少女のために独断で破棄するというのは愚か者でしょう。第一、私はいやがらせなどやっておりませんし、やることもできませんわ。私、成績優秀なのでテストと大事な式以外は欠席してもよいので、ずっと城に行って王妃様のお話し相手――実際は着せ替え人形ですが――になっております。
「私はそのようなことをやっておりません。もし、お疑いになるならば王妃様に伺いになってくださいますよう。それから、婚約破棄のことですが喜んで破棄させていただきますわ。私もお父様も陛下も困っていたので。イクスィス様、剣を下していただけますか?」
あっさりと婚約破棄を認められて呆然としているイクスィス様の剣を扇でそらします。それでやっと気が付いたらしいイクスィス様はナナさんと抱き合います。そして、喜び合いながらも、罪を認めろと言ってきております。なんですの? この馬鹿王子は、私の言った言葉の意味を分かっていらっしゃらないようですね。私はお父様、つまりは貴族にも、陛下、つまり王族の方々にも貴様は王族としてやっていけないだろ、と言われたというのをわざわざある程度貴族文化の言葉の曲解になれたものならわかる程度に言葉を選んであげたというのに。周りの貴族達はあなた方のことを笑っていますわよ。
「私の魔法では、ナナさんの目を見えなくすることはできませんわ。アーベントが手伝ってくれたらできますけれども、彼は自分が興味あるもの以外に魔法を使う、しかも危害を加えるような魔法はやりませんので。」
「そんなもの、貴様の魔法は『闇』。わざわざ精霊の力なくてもできるだろう。」
「あら、何を勘違いされていますの? 私の魔法は『闇』ではございませんわ。そうですよね。お父様、両陛下、王太子殿下。」
私が今の今まで無言を貫いてきたお父様たちのほうを振り返ります。お父様と両陛下は、まったく、なぜこんな面白い茶番を終わらせる、とか思ってる顔です。王太子殿下は笑いをかみ殺していますしね。
「確かに、娘の魔法は『闇』ではないな。」
「それよりも、なんでこんな面白い事を終わらせてしまったのよ。グリシーナ。もっと見てみたかったのに。」
「申し訳ございません。王妃様」
「ああ、それからイクスィスは王族から除籍してある。よって、婚約も破棄だな。イクスィスはそこの、ナナといったかと好きなように暮らせばいい。グリシーナには巫女の地位をやろう。その魔法と慈悲を多くの民に分けてやってほしい。」
「父上っ? なぜ、俺が除籍されなければならないのですかっ? それに、なんでこんな奴が巫女に? 大きな癒しの力を持つナナではないのですかっ?」
一応、説明いたしますと巫女というのは神に祈りをささげ、その魔力を持って民に救いを与える者です。王太子が王になるときに巫女も選ばれます。本当はナナさんのはずだったのですが、私の力が三年前の測定で巫女にふさわしいと分かったのでこうなりました。ああ、巫女でも結婚できますけどね。色彩の魔力を持ったものは全属性光以外なら操れますわ。
「それは、私が説明しよう。グリシーナには『色彩』の魔力がある。それでだ。除籍した理由はお前が私の弟だと国が馬鹿にされるから。分かったか? 平民。」
「平民って、王太子殿下、ひどいです。イクスィス様は炎の精霊に愛されておいでですのよ。王太子殿下は精霊と契約もしてないじゃないですかっ。」
「衛兵、そこの娘をとらえよ。名誉棄損だ。ああ、そうだ。私は契約はしていない。」
「離してっ、だったら、イクスィス様のほうが王太子にふさわしいじゃないっ。あんたなんか無能のくせに。」
「ナナを離せっ、貴様。ナナのいう通り無能のくせに、なんで俺が平民に落とされなきゃならないっ」
私はその茶番を無言で見ている。王太子殿下は思いっきり楽しんでいらっしゃるけれどもこれ以上やると、流石にかわいそうになってくるのでとどめを刺してあげたらどうでしょうか? するとそれが伝わったのか王太子殿下は周りの美形青年貴族もかすむほどのほれぼれするほどの動きで私をお呼びになりました。やりたいことはわかっているので、魔力を練りながら近づきます。
「グリシーナ、頼む。」
「分かりましたわ。」
私はそういうと、周りに様々な色の球体を生み出します。それは、炎のようだったり、水のようだったりしていますが。そしてそれを王太子殿下の周りに並べます。殿下はそれに触れていきます。
すると、球体が光輝き、魔石となっていきます。魔石というのは高密度な魔力と聖なる光が当たった時のみできるものです。そして、聖なる光は様々な条件がそろった太陽の光か、光の属性の魔法でしか作れません。
周りは騒然となっております。あたりまえでしょう。今まで魔法の才能が無いと思っていた殿下がまさかの光属性で、色彩の魔力を持ったものもいるのだから。そして、何よりも驚いているのはあのお二人でしょう。
その間に城からはじき出されましたが、ナナさんは最後におかしなことを言っておられましたね。
「嘘よっ、その力は、ヒロインの私のものになるはずなのにっ、断罪イベントの後で、わかるんじゃなかったのっ。」
あれは、いったい何だったのでしょうか。
今日は、殿下の戴冠式です。それに伴い私が巫女になる日でもあります。私は専用の服に着替え、教会で冠が殿下の頭の上に乗せられ、殿下が王位に就くのを見守り、そのあとに、巫女の拝命を受けました。
ああ、ちなみに殿下いや陛下は独身です。珍しいことに、ですが恋はしてそうです。相手方はものすごいアプローチしています。
ちなみに私もですが、私は職権乱用してでも結婚したくありませんわ。なので、今は、陛下のラブロマンスを書き綴ってみています。我らが凛々しい 女 王 陛 下 と私の弟の恋物語を。
読んでくれてありがとうございました。もし何か指摘がございましたら教えてくださるとありがたいです。