工作室
図工室の扉を開け中へ入ると、最初に目についたのは生徒が作ったであろう作品の数々だった。
棚の上には粘土で作られた動物や少し個性的な作品が並べられており、電動糸鋸、カッターマット、彫刻などの機材も当時と同じく残っていた。
「光一〜、見て見て〜」
光一が振り返ると雪が両手に何かはめていた。
「バレン」
「……」
シンプルに言葉が出なかった。
「これで版画を擦るんだよね。8年ぶりでも良い手触りだった」
そう言って雪はバレンを元の位置に戻した。
雪は美術系の大学に通っている。昔から絵を描いたり何かを作るのが得意だった。光一は工作はわりと得意だったが絵が壊滅的で雪の描く絵に感動したことがある。
「雪の絵は昔から滅茶苦茶上手かったよな。俺の描く猫なんて生き物かどうかも怪しかったけど、雪の描く猫はほんとに猫だって思ったよ」
「そんなに上手くないって。でも光一の猫は猫には見えなかったのは本当だけどね」
「じゃあ何に見えたよ?」
「ミミズ」
即答だった。
そして少し落ち込んだ。
「でも工作の方は得意だったよね。なんか大っきいの作ってた」
「おう、一回だけあのイノセンにも褒められたことあるぜ」
夏休みの宿題でペットボトルを大量に使った恐竜を作ったことがあった。それを見たイノセンが珍しく褒めてくれたのを覚えている。持ってくるのが大変だったけど。
「あの恐竜は俺の最高傑作かもな」
「確かに、お前にしてはあの恐竜はいい出来栄えだった」
突然男の声がした。驚いて声のした入り口へ振り返ると、そこにはスキンヘッドに少し髭を生やした強面の男が立っていた。
「イ、イノセン!」
それは紛れもなくイノセンだった。
「なんだ、そんなに驚いて。昔を思い出したか」
笑いながら言うイノセンを見て思わず光一は緊張してしまう。悪達の唯一恐れる先生。昔の記憶が蘇り寒気がする。
「いやいや、驚いてなんか……、先生は昔と変わらないですね」
いや、むしろ昔よりゴツくなってないか?
「そう言うお前はちょっと変わったな。少し大人しくなったんじゃないか?」
「ま、まあ僕も今年で二十歳になるので少しは変わったかもしれませんね」
明らかに声が震えていたが上手く返せたと思った。おかしな事をポロッとこぼしてしまえばあのゲンコツが炸裂するのだろうか。
「あのチビがもうそんな歳か。お前ら悪ガキたちには手がかかったぜ」
「ははは……」
苦笑いで精一杯な光一とは違い、笑顔で雪がイノセンに喋りかける。
「先生、お久しぶりです。今日は成人式のビデオレターに使う動画を撮りに来たんですけど、先生のメッセージもお願いしたいんですがよろしいですか?」
イノセンは雪の方に目をやると、さっきまでの威圧感はどこえやら、快く動画を、撮るのを承諾した。
「雪ちゃんの頼みとあっちゃ断るわけにはいかねえだろ。お前だけなら断ってたかもな」
そう言うとどこかの大王様かと言わんばかりに豪快に笑った。