理科室
それから、職員室にいた他の先生達にも挨拶をして、最後に藤岡先生にお礼を言ってから二人は職員室をあとにした。現在職員室を出て理科室に向かっている。
「先生達全然変わってなかったね」
「だな。そう言えばイノセンいなかったな」
「そう言えばそうだね。でも内心ホッとしてるんじゃないの?」
「良く分かったな」
今回のビデオレターにはサプライズの意味も込めてイノセンにお願いしようと言う事になっていたのだが、職員室にはいなかった。光一は少しホッとしていたが、結局会いに行くのだから出来れば早めに撮りたいと言う気持ちも少しあった。
理科室に着くと横を歩いていた雪が光一の後ろへ隠れるなり、ポツリと言った。
「開けて」
「……、怖いの?」
うん、と雪は頷く。そう言えば雪は怖がりだった事を光一は思い出した。確かあれは小学二年生の時の事、体育館で何か鬼が出てくるような劇を見たことがあった。その時光一の隣に座っていた雪がその迫力と体育館の暗さで泣き出した事があったのだ。周りの友達からは光一が泣かせたんだと噂されて腹を立てた記憶も一緒に思い出され、気が悪くなった。
理科室のドアを開け中へ入る。教室とは違う理科室独特の匂いが光一の鼻をついた。
「ガイコツ動いてない?人体模型は?」
「動いてねえよ。真っ昼間だし人体模型は元々無いし」
光一の言う通り雪の怖がるようなものは何も無かった。ただそう言われてみるとこんな噂を思い出す。
「そう言えばこの学校にもあったよな学校七不思議」
ニヤリと光一が言うと、雪はビクッとして顔を引きつらせた。
学校七不思議。それはどこの学校に居ても一度は耳にする事があるだろう。真夜中にひとりでに動き出す人体模型やガイコツ。誰もいない音楽室から鳴り響くピアノの音。女子トイレを入って三番目のトイレに現れるトイレの花子さん。そんな定番的な怖い噂がやはりこの学校にもあったのだ。
「ちょ、ちょっと待って。この話終了。怖いの禁止、ダメ絶対!」
ややパニック気味の雪が光一に講義する。
「大丈夫だよ。なんせまだ11時だからな。流石にビビり過ぎ」
「そんなの分かんないじゃん。昼間に出てくるお化けがいてもおかしくないし、だいたい夜中にしか出てこないなんて油断してるよ!お化けは神出鬼没なんだよ!」
雪の言葉を半分聞き流しながら理科室を見て回る。理科室の机は他の教室とは違って蛇口が付いている。実験で使うためだ。だがこの蛇口は七不思議の1つとして噂されてたことを思い出した。
「そう言えば、この蛇口からは血の水が出るって噂が……」
「わーわーわー!」
耳を両手で塞いで聞こえないようにする雪を見て可笑しくなった。
「大丈夫だよ。この噂の正体は知ってるんだ」
そう言うと光一は蛇口を捻り始めた。4回くらい捻ると蛇口から水が流れ出す。
だがその色を見て雪は飛び上がりそうになった。
「血!?」
流れてきた水の色は明らかに普通とは違った赤っぽい水が流れ出したのだ。
だが光一はケロッとした顔でこの水の正体を明かした。
「サビだな。」
そう、この水道は古くなっており水を出して5秒間ぐらいはサビの混ざった水が出るのだ。5つある机の中でこの場所しかこの現象が起きない事を光一は知っていた。
血の蛇口の真相を知った雪は落ち着きを取り戻すと光一に尋ねた。
「でもどうして光一はその事を知ってたの?」
その質問に光一はまたもケロッとした顔で答えた。
「だってこの噂流したの俺だからさ」
「え?」
そのままの口調で光一は続けた。
「読書タイムの時間ってあっただろ?1日10分は本を読むってやつ。それで怖い本を借りて読んでたんだよ。そしたらさ、その中にあったんだ。学校の七不思議ってやつが」
「……うん、それで?」
「それでさ、この学校にもそういった噂があるんだと思って色々聞いてみたんだよ。でもさ、これが無くってさ。そこで俺はこう考えた。じゃあ無いなら俺が作った噂を広めたらいいってな」
そこまで聞くと雪は気づいたようだ。
「じゃああの噂って全部光一の作り話!?」
「左様」
ニヤリと笑う光一の顔にグーパンチが飛んできた。
「いてててて、何もグーパンしなくても」
「怖がって損したよ!はやく次の教室行こー」
そう言うと雪は理科室から出て行ってしまった。
「少しからかいすぎたか……」
光一もあとに続こうと理科室から出ようとした時、あるものが目に入った。
「……理科準備室」
理科準備室は理科室ともう一つの理科室の間にある部屋のことで中には実験で使う薬品などが置いてある。人体模型等があるのもここだ。
「あっこはあんまり入った事ないな……」
一瞬入ろうかと考えたが、特に用もないし雪が先に出ていったこともあったので今は止めておこうと思った。
しかし、ここでも光一は少しだけあの日の事を思い出した。
「……、かくれんぼしたんだっけ?」
思い出したと言ってもそれはひどく曖昧なもので、ちゃんと思い出すことが出来ない。途切れ途切れどころか欠片が1つか2つあるくらいだ。
何だっけ…。なんとか思い出そうと考えていると外から雪の自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
「何してるのー?先行っちゃうよー」
ハッとしてから返事をする。
「あ、あぁ。行くよ」
そう返すと光一は理科室を後にした。階段の真ん中あたりで待っていた雪を見つけると再び階段を登り始める。
「次は図工室ね。あれまだあるかな?バレン」
「普通にあるだろ。あれ」
バレンとは版画を作るときにこするあれである。雪はバレンがあって欲しいらしい。
「あれすっごく手触りいいんだよね」
「手触りって……。そんなの特に考えなかったな」
光一は雪と会話しながらもさっきの事が引っかかっていた。かくれんぼをしたような……、でもいつだったろうか?思い出そうとするがやはり思い出せない。
いや、そんなに考えることはないだろう。他の教室を見ていたりしてふと思い出すかも知れない。そう思うことにしてこの記憶は保留にしておいた。
「よし、着いたね」