第一話:慣れって怖いよね
今日も僕たちのパーティは旅を続ける。その道のりは険しく、僕にとってはまるで死地の様だった。
山を登ろうとすれば、小石や枝を始めとする脅威が多々潜んでいる。砂利なんかも足を取られる可能性があるので危険だ。
だが、僕は死ぬ気で仲間についていった。元より望んだのは僕である。音を上げるなどとんでもない。
「大丈夫?」
魔術師のメリアさんは、お姉さんキャラだ。とても頼りになる人だけど、少し性格が荒っぽい。救われてる部分もあるけど、癖で僕を引っ叩くので毎度脳震盪とか頭蓋骨陥没で死にかける。
「は、はい……」
「この坂を越えれば、直ぐに次の村よ。頑張りなさい」
息を切らしながら答えれば、僕に檄を飛ばしてくれる。本当に頼りになる人だ。
勿論。リーダーで剣士のライドさんも、盾役のルドガーさんも、僧侶のサーティさんもみんな頼りになるし、大好きだが。
「……おい、見えたぞ!」
戦闘を行く盾役のルドガーさんが叫んだ。魔術師のメリアさんが僕の手を引いて、坂の上へと走っていく。
「うわぁ!? っとと」
「ほら、もう着いた」
死の危険をヒシヒシと感じながらも顔をあげれば、そこには比較的大規模な村があった。それなりに人もいる様で、こちらを見つけて手を振っている人が何人か居る。
僕達は急かされる様に村へと向かった。
宿屋での会話。パーティの一番後ろに居た僕は、食事を取る人々を眺めていた。
「はい、えーっと……4名様ですか?」
「いえ、5人です」
「後から1名いらっしゃるということで?」
「いや、ここに今5人居ます」
「え?」
「ほら、1、2、3、4、5人目」
「あ、えっ? あ、すいません!」
そして、後ろから聞こえてくる会話はいつも通りの光景である。因みにカウントされなかった約1名様は紛れもなくこの僕だ。
一先ず男女別の2、3で分けて部屋を取った僕達は、自由行動をする事になった。この村は「街」と呼んでも差し支えない程の規模があったが、城壁にあたる物が無いとこの世界では「街」と呼ばれないのである。
取り敢えず僕は僧侶のサーティさんと一緒に村の中を見て回ることにした。因みにサーティさんと一緒なのはいざという時に僕を回復させてくれるのがサーティさんしか居ないからである。
「しっかし、貴方も中々ですよね」
「何がですか?」
一緒に街の通りを歩いてーーかなり注意深くーーいると、唐突にサーティさんが切り出した。
「だって、私達以外からは殆ど気付かれないで、しかもその体質で過ごしてきたんでしょう? 凄い精神力ですよね……」
「あぁ、まぁ痛みなんかは慣れましたね」
というか慣れないとやっていけない。ちょっとしたことで捻挫や骨折、脱臼なんてのは当たり前の話だ。それにゲームの世界だからか傷口はよっぽどのことがない限り残らないので、僕の体はあんなに壊れてもいつも全快状態だ。
……回復薬がないとどうしようもなくなるけどね。
「そういえば、貴方って魔道具とか、罠とかは使えないの?」
「……へ?」
そんな中で、サーティさんはいきなり切り出した。その言葉に硬直し、僕は少し考える。
魔道具とは、魔力を利用した道具のことだ。ただし、その中には使用者の魔力ではなく空間中の魔力のみを消費する物もある。MP0の僕であっても、恐らくその類ならば簡単に使えるだろう。
そして罠は言わずもがな。展開式の落とし穴や、電気網などその種類は多岐に渡る。どれも携帯用に軽量化が進んでいて、状況に応じて使い分ける事が出来ればかなり旅が楽になるだろう。
「……多分、使えます。けど、僕は相手に近づけませんよ?」
「それもそうね……んー」
使うにしても、そんな大規模な奴は一人じゃ持ち歩けないし……パーティの後ろから支援に回るっていう手もあるけど……。
「……あ」
そこで思い出す。
僕は人間や、それと同等かそれ以下の感覚器官しか持たない生物からは「認識されない」。それこそ僕自身が空気であるかの如く、見向きもされない。
「これは……使える、のか?」
複雑な感情を抱きながらも、試してみる価値はあるかもしれないと僕は思った。だが、それはかなり危険だ。何せ防御2のHP1ですから!
とは言っても、一応後方からの支援なら安全に出来るだろう、という訳で、幾つかの魔道具や罠を購入することにした。
疑問符を浮かべるサーティさん、可愛いです。




