プロローグ:最弱どころか完全無視ですよ
僕がこの世界へ転生してきたのは、もう15年程前の話だ。
前世で飽きてロクにレベリングもしなかったゲームに酷似していたこの世界へ来た時、僕は過剰な期待と共に一種の恐怖を抱いた。
だが、そんな些細な事は直ぐに消えてしまったーーそれも、悪い意味で。
宿の一室。僕は今日も「ステータス」を見てため息を吐く。
----
《ステータス》
HP:5
MP0
ATK:1
DEF:2
----
これだけを見ても分からないだろうから、一般人のステータスを見せておこう。
----
《ステータス(平均値)》
HP:200
MP:30
ATK:50
DEF:50
----
もう分かったと思うが、このステータスは「最弱」に値する物である。MPなんて0だよ、0。僕は魔法を直接使うことも出来ないが、その程度は些細な事だ。
路地を走り回る子供とぶつかった事がある。その瞬間、僕は下半身の骨に幾つかヒビが入って動けなくなった。
またある時は、宿で出されたスープに口を付けた。凄く熱かった。出来たてをくれたのは良いが、そのお陰で僕は喉を炎で炙られたかのような刺激を受けて気絶した。実際に火傷していた。
虚弱体質なんてそんなヤワな物ではない。本当に虫以下の能力しかない僕だが、あえて僕は問いたい。
「最弱がザコだなんて誰が決めた?」
と。恐らく、これを聞いた奴は「負け惜しみ乙」とか「何言ってんだコイツ」とか言うのだろうが、この言葉に一つ付け足そう。
「ザコどころか完全無視ですよ!?」
そう、ステータスの所為で存在感が薄すぎるのである。具体的に言うと、目の前に居ても認識さえされない程度には存在感が薄い。
確かに、顔も体も貧相な物で、それこそスラム出身と間違われるレベルではあるけれど、それを抜きにしても存在感の薄さは異常だった。
人と話していても相手は直ぐに僕を見失う。
因みに、感覚が鋭いモンスターと出会えば速攻で襲われる。
そんな僕がこのパーティに入ったのは、タダの偶然だ。たまたま街中で見掛けた彼らを、街に住む人間として案内したのがキッカケだった。
僕は内心で感動していた。今まで、誰からも認識さえされなかった僕が、初めて声を掛けられた時の感動は筆舌に尽くしがたい。
そのことを彼らに打ち明けると、彼らは苦笑して言った。
「まぁ、確かに存在感薄かったな。その所為で気になったってのもあるけど」
その言葉を聞いて、僕は悟った。この機会を逃してはいけない、この人達以外に「僕」を認識してくれる人は居ない、と。
僕は足手まといになるのを覚悟で、彼らに頼み込んだ。そうすると、リーダーの剣士が笑った。
「構わねえよ、護衛対象が居た方が面白い。お前の命は、俺が預かる」
それを聞いた仲間の人も笑っていた。なんて凄い人達なんだろうと思った。彼らは命を賭けて冒険をしているのに、足手纏いな僕を一緒に連れて行ってくれたのである。
だが当然、その旅路は困難を極めた。
何せ、最弱である。
つまづいて転んで脳震盪で気絶し、落ちてきた鳥の糞で頭蓋骨にヒビが入った。焚き木に近づいてガス中毒になり、焼き魚を取ろうとして右手が使えなくなった。
そしてその度に、僧侶のサーティさんはこんな僕を回復してくれた。他の仲間も、笑って許してくれた。
ーーーー僕は、このパーティが好きだ。
それは紛れも無い事実だ。だが、足を引っ張っているのも事実だった。……僕は、どうすれば良いのだろうか。
我儘なのは分かっていた。だから、より一層罪悪感がのしかかる。そんな時に、リーダーであるライドさんが笑った。
「何をくよくよしてんだ、行くぞ」
僕は手を引かれて、ライドさんに肩を叩かれ、温かく迎えられた。
叩かれた肩は脱臼していた。軽くライドさんを叩いたら、今度は指を捻挫した。
ちくせう。




