第8話 救出完了!!そして宴♪
名前を間違えていたので訂正しました。
帰りの駄賃と言う感じで、第1~6階層にはまだまだ魔物達が存在していた。
先行させた《暗黒騎士》と《聖騎士》が綺麗に掃除をしてくれて、ハラヘリな僕らの行く手を遮る者は無い。
きっと僕の言い付け通りに、アリスがごはんを作ってくれているはずだ。
あーんはさすがに恥ずかしいけど、アリスの料理はとても美味しいから楽しみだ。
も1つおまけに屋台のおじさんオススメの、ホルのバター包み焼きもチャレンジしたいところだ。
まだ14時過ぎたばっかりだし、売り切れるなんて事は無いだろう。
でも、屋台のおじさんがオススメしたのは全部美味しかったからなぁ.....
もしかするともしかするのかもしれない。
うぅ....
これは急いで帰らねば!!
《一角獣》にお願いして速度を上げる。
追随する《暗黒騎士》と《聖騎士》も着いて来ようと懸命に馬を走らせるが、どうやら救助した冒険者達が邪魔みたいで速度が出せない。
さすがに離れる訳にはいかず速度を抑えてもらったけれど、そう言えばいつの間にか随分と静かだな。
不思議に思い振り返って見れば、案の定彼らはグッタリと気絶していた。
麦袋の様に馬にのっぺりと乗せられる様は、まんま荷物の様だ。
それにしても、荷物持ちの子供達は偉いと思う。
装備品か、はたまた魔物の素材なのかわからないが、意識も無いのに大きな麻袋を抱えて必死に落とさない様にしているのは凄いよね。
The・職人って感じ?
やがて、長かったように感じる【音叉の洞窟】もやっと抜けて、中天の太陽が昇る空が見えた。
さてさてマップを確認っと。
僕が【音叉の洞窟】に突入する時は冒険者ギルド前に居たギルマスのローデルは、集まった冒険者達を連れて街道を西へと行軍している。
あれだけの短時間で30人近く集められたのはたいしたものだと思うけど、既に救出済みだと知ったら驚くだろう。
ダンジョン前にキャンプを張っていた冒険者達に手を振りつつ、速度を緩めず帰路に着く。
街道を二股のT字路に差しかかり【都市ロハス】に向けて東へ進んだところでローデルの一行に出会った。
「な、なな、なんだお前達は!?」
6台の馬車を引き連れ、先頭を馬に跨って道案内していたローデルは、僕達を見るや驚いて馬を止めた。
その拍子で馬車も止まり、なんだなんだと冒険者が御者席から顔を覗かせる。
「冒険者ギルドマスターのローデル・ヨハネスですね?」
《演者》と《詐欺師》スキルが発動し、怏々に話す僕。
ローデルは「いかにも」と肯定しつつ、荷物と化した冒険者達を一瞥しながら、再び僕に視線を戻した。
「僕の名前はウィル・ア・テラ。魔竜族の第二王子です」
《一角獣》に騎乗したまま会釈を交わす。
さすが《演者》と《乗馬》スキルといったところで、裸馬の上でも体の軸がぶれる事はなかった。
「なんと!?引き篭もり王子か!?」
またその異名か。
なんだか慣れつつある自分が憎い。
「まぁ、その引き篭もり王子です。【音叉の洞窟】で事故に会った彼らは、無事に救出しましたよ」
「ま、誠か!?で、ではその者達が!?」
「ええ、そうです。ご子息のアレス・ヨハネスも無事ですよ」
そう言い《暗黒騎士》と《聖騎士》に指示し、彼らを地面へ降ろさせる。
馬車から降りてきた冒険者達も手伝い、彼らの無事を喜んだ。
気絶してるのは僕のせいだけど、わざわざ言わなくていいよね?
「なんと....私はなんと感謝すればいいのか.....」
我が子を抱き絞めながら大粒の涙を流すローデル。
危険な冒険者の荷物持ちなんてさせなきゃいいのになんて思うけど、ギルドマスターの彼なりに何か理由があるのだろう。
将来アレスにギルドマスターを継がせる為、とかね?
ひとしきり泣いた後、唐突にこんな事を聞いて来た。
「しかし、よろしいのでしょうか?青の盟約に反しているのでは.....」
「いえ、僕はドラゴンの力を使って彼らを助けた訳ではありませんので」
アリスやアリシアに言ったセリフをそのまま使い、僕はローデルに説明した。
「....確かに仰るとおりですな。ですが、魔竜族の方が召喚魔法を使えるなど聞いた事もございません」
そうなんだよね。
取扱説明書によると、魔竜族が召喚魔法を使えるなんて書いてなかったんだよね。
だけど、なぜかアリスは使える。
もちろん、神様から恩恵を貰った僕も。
とりあえず適当に誤魔化しておくか。
「ですが、僕は使えるんですよ。引き篭もっていた理由もそういったところがあるので、あまり深く詮索しないでいただきたい」
....その理由はどうなんだろうか?
《詐欺師》スキルさんや?
地味に心を抉られたよ?
「....なるほど。種族の問題なのですな。これは失礼しました」
引き篭もりの理由をそれで納得するな!!と、小一時間ばかり問い詰めたい。
上手くいってよかったけどさ!!
「では、僕は孤児院の子達をマザー・アリシアの下へ連れて行きますので、後の事はお任せしていいですか?」
「お礼がまだ....」
「そういった事はまた後日にしましょう。子供達をとても心配していたマザー・アリシアに、彼らの無事を早く伝えてあげたいのですよ」
「....そういうことでしたら」
まだ話し足りない様子のローデルを言い含めて、冒険者の荷物を手放した子供達を《聖騎士》に担がせる。
ここまで頑張ってくれた《暗黒騎士》と《聖騎士》達にお礼を言いながら送還し、出しっぱなしにしていた300体を《一角獣》合わせて6体に減少させた。
さすがにあの数を街に入れる訳にはいかないだろう。
行きはアリスとアリシアを納得させる為に100体も出したけどさ。
救出隊の冒険者達にもお礼を言われ、「今度美味い酒をごちそうするぜ!!」と何故か約束させられつつその場を後にする。
実に快活で気の良い連中というのが冒険者達の第一印象だ。
....無法者じゃなかったのか。
ちょっと残念。
街に近づくにつれて速度を落とし、西門の衛兵に身分証のブローチを見せて入門する。
物凄くビシッとした敬礼をしてくれた衛兵達は、頼りになる実にカッコイイものだった。
「戻りましたよ~?」
西から東へメインストリートを抜けて孤児院の前へ辿り着き、扉を叩いて帰還を告げる。
マップ表示ではアリスとアリシア。
それにベラとジーン少年達が中に居る。
「ウィル様!!」
子供達を《聖騎士》から降ろし庭先に寝かせていると、扉を開き軽快な足音をさせてアリスが飛び込んできた。
慌ててアリスの身体を抱き留めて、身体を支えてあげる。
「ただいま、アリス」
「おかえりなさいませ、ウィル様」
こんなに心配してくれるなんて思わなかった。
それと――こんな状況だけど、密着してるからアリスの胸のボリュームが服越しに当たって物凄い事に....
う~ん、このまま抱き付いていたら反応してしまいそうだ。
まだ告白の答えを聞いてないんだからダメだダメだ!!
煩悩退散、煩悩退散。
「戻られたのですね!?ウィル様!!」
「マザー・アリシア。はい、ただいま戻りました。レンバルト君達は無事ですよ。寝てますけど」
アリスを引っ付けたまま、やってきたアリシアにレンバルト達を見せる。
寝てるのではなく気絶しているのだが、言わぬが花と言うものだろう。
それにしても、アリスはいつまでくっついているつもりだろうか?
婚約者と公言しているので、いいっちゃいいんだけど....
僕も結構恥ずかしいんだよ?
いままでお母さんとか看護士さん以外で異性とこんな間近で接する機会なんてなかったし。
一緒に入院していた子達は――幼女だしノーカンだよね?
「よかった....本当によかった....」
僕とアリスのイチャイチャなんて見向きもしないで、アリシアはレンバルト達を抱き寄せ感激の涙を流し始める。
そこへやって来たベラも交えて、子供達の帰還をたいそう喜んでいた。
いや、みんな無視するのはいいんだけど、アリスは本当にいつまでくっついているつもりなの?
ほら、見てごらん?
ジーンやデリー達が見ているよ?
教育上よくないと思うんだけど....
いつまで経っても離れないアリスは置いておいて、ジーンとデリー。
それにクララとローリーにお願いして、大銅貨1枚で買えるだけホルのバター包み焼きを買ってきて貰うことにした。
売り切れたりしたらしゃれにならない。
大喜びで駆け出す4人に、転んで怪我をしないように叫んでおいた。
「おうじしゃま!!これおいしいの!!」
午後16時過ぎ。
かなり遅めの昼食を始めた僕と孤児院一同。
気絶していたレンバルト達も目を覚まし、アリスやアリシア達の用意した食事をみんなで食べている。
「本当によかったわ...」
ひさびさのご馳走だからか、子供達の食事の手が止まる事はない。
ポツポツと働きに出ていた子供達も帰って来ていて、食事に参加し始めているのだが....
「ご主人様!!このスープは自信作なんです!!」
「ずるいよエイミー!!私も作ったんだからね!!」
おわかりいただけるだろうか?
せっかくだからうちのメイド達も呼んで、食事持ち込みで参加させているのだが、何しろ人数が多い。
エイナにアデルにエイミー、ブリジットはもちろん。
初顔合わせと言っていい程の、フェリス達40人のメイド隊も合流しているのだ。
これに加え、これから帰って来る孤児院の子供達を入れると、総勢70人オーバーだ。
当然孤児院に全員入れる訳もなく、1階の食堂と裏庭まで併用してもかなり手狭な状況だ。
どうしてこうなったんだか....
「ウィル様、あーん」
この状況でまだあーんをしようとしますか?アリスさん。
ほら、年少組みのクララとローリー達が真似して、ジーンとデリーが困っているじゃないですか。
「い、いや、自分で食べられるから」
「もう!!ウィル様ったら!!わ、わかりました。で、では口移しで....」
「いやいやいや!!ここじゃだめだから!!」
とんでもないな、アリスは!!
というか、告白の返事はどうなったの!?
なんでそんなに積極的なの!?
返事はオーケーって事!?
誰か教えてよ!!
「おうじしゃま?なくなっちゃうよ?」
木製のスプーンを咥えながら、ホルのバター包み焼きを指差しクララがそう告げてくる。
どうやら、ホルと言う魚にバターと香辛料を加えて、大きな葉で包み込んで焼き上げる料理みたいだ。
「せめて一口!!」
悲痛な叫びを上げながら、なんとか一口分だけは確保した。
口腔内に広がるバターの香り。
香辛料は塩と胡椒だけみたいで、ちょっとピリ辛だけどなかなかに美味しい。
お酒も使っているみたいだ。
屋台のおじさんオススメははずれがないね。
今度改めてお礼を言っておかないと。
メイド隊の中にこの孤児院卒の子が居たらしく、ベラと和気藹々と雑談を繰り広げている。
どれだけの期間あのダンジョンに捕まっていたのか知らないけれど、最低限水と食料はアリスが与えていたみたいだし、ひどい扱いをしていなかったようでよかったよ。
段々と人が増えて用意していた料理が足りなくなってきた。
手隙の人間を見つけて、お金を渡して屋台やら酒場で追加の食事を買ってくるように指示しておく。
会費は潤沢にあるし、【音叉の洞窟】で見つけた品や、その気になれば倒して回収した魔物達を売れば食事代くらいは問題なく賄えるだろう。
あれだけの資産があるのに、結構せこいな、僕は。
「ウィル様。助けていただいたばかりか、こんなによくしていただいて言葉もありません。本当に、ありがとう」
楽しそうに食事をする子供達を見ていたアリシアが、隙を見つけて感謝を述べる。
僕も子供の笑顔は好きだし、食事を振舞っているのも自分の我が侭だからそこまで深く感謝される謂れは無い。
そう言ったんだけど――
「それでも、感謝だけはさせて。この子達のこんなに明るい笑顔を見るのは、本当に久しぶりなの」
「...わかりました。そこまで言われるのでしたら、感謝だけはお受けします」
「ありがとう」
微笑む妙齢の女性というのは、どうしてこう色気があるのか。
そういえば、病院の看護師さんも1人だけ妙に色気のある人が居たな。
お医者さんと結婚したみたいだけど。
「うぃるしゃま。はーん」
って、アリスはどうしたの!?
しないって言ったのに、なんで口移しで食べさせようとしているの!?
いやダメだから!!
子供達が見てるから!!
肝心な答えを言わずに暴走する1人の痴女を入れて、メイド隊と孤児院の子供達の宴は、夜半過ぎまで続くのだった。
「なんだ?随分賑やかな家だな」
「知らねぇのか?ここ、孤児院だぞ」
「ほぉ~そうなのか。じゃぁ、随分賑やかな孤児院だな」
「ちげぇねぇな」
「あ、お父さん」
「え、エイミー!?お、お前、冒険者になって行方不明だったんじゃ!?」
「エヘヘ~♪今は王子様のところでメイドしてるんだ~♪」
「なんだって!?」
「ちょっとエイミー?早く追加の料理買いに行かないと、アリス様に叱られるよ?」
「ぶ、ブリジット~~~!?」
「あれ、お父さん?」
「お前、おまえぇぇぇ~~~~!!」
「やだっ!?ちょっと、いい大人が泣かないでよ!!みっともないでしょ!?」
「だって、だってよぉ~~~!!」
「もう!!私は無事よ。変な事もされてないし、今はエイミーと一緒に王子様のところで立派に働いてるんだから」
「おいおい!?王子様っていったいどこの誰なんだ!?」
「エヘヘ~♪そ・れ・は・ね♪」
「「私達のご主人様は、ドラゴンの王子様だよ♪」」