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生まれ変わりはドラゴンで  作者: 椎名 隆次
第一章 転生先はファンタジー世界
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閑話 アリス・ヴァン・フォルス


 まったく信じられませんでした。

 長く長い時間を共にしてきたあのウィル様が、まさか鳥になって異世界へ旅立ってしまうなんて。


 初めは本当に苦痛でした。

 行き場の無い私を拾ってくださった、竜王ガーランド陛下にはいくら感謝してもし足りないくらいです。

 でも、私みたいなはぐれ竜が、いったいどうして第二王子のウィル様と許婚の関係になど....

 

「アリスよ。どうか、孫の事を頼んだぞ」


 あの日、ウィル様にダンジョンを造る様言い付けられたガーランド陛下は、私にそう懇願されたのです。

 そして、ウィル様の許婚であると明かされたのもその時でした。


 魔竜族の両親を持つ私が、一体全体どういう理由か聖竜族として生を受け、両親共に迫害の憂き目にあっていたというのに。

 私達を保護してくださったガーランド陛下には感謝はしています。

 だけど、だけど、だけど!!

 あんな人形みたいなウィル様と婚姻を結ばなければいけないなんて、理解できません!!

 

 初めは、小さな洞窟でした。

 雨風に晒され地殻変動でできたのでしょう。

 そこを住処としてダンジョンを造り上げ、ガーランド陛下から贈られて来た魔物達を配置しました。

 私の主であるウィル様は、その間何もしません。

 一度だけ、本当にたったの一度だけ外出されたのですが、何があったのか泣きながら帰られた時があります。

 それからはまるで引き篭もりです。

 用意した食事は食べてくださいますが、無気力なのかガーランド陛下の言い付けである性技の特訓も一切されません。

 王族で男性として生まれたからには、慣習に従う義務があるというのに。

 許婚の私としては嬉しいですよ?

 長生きのドラゴンが言うのもおかしいですけど、(つがい)となる殿方には、自分だけを見ていて欲しいと思う乙女心だってあるのです。

 でも、あんなボーっとして自分というものを持っていない、陰険引き篭もりと好き好んで添い遂げようだなんて誰が思うというのですか?

 それでも私なりに一生懸命尽くして来たつもりです。


 だけど....


 そう。つい先日の話しです。

 朝、いつもの様にウィル様を起こしに部屋を訪ねたら、私の事を不思議な者でも見るようにキョトンと惚けていらっしゃったのです。

 あのウィル様がですよ?

 まるで私に初めて会ったかのような、そんな感じでした。

 それからも変なんです。

 寝惚けていらしたのか、私の名前も、ましてご自身の名前まで忘れていらっしゃって....

 前日に食べた、熊肉のウコの葉味噌煮込みのせいでしょうか?

 ウコの葉に、幻覚作用なんて無いはずなのに。

 

 だけど、なんだかとっても新鮮でした。

 何も知らないウィル様は、まるで子供の様にコロコロと表情が変わって可愛らしくて。

 初めての事です。

 私がウィル様に好意を持つなんて。

 しかも、引き篭もりのウィル様がお一人で散歩に行かれたのですよ?

 私の為にお花なんて摘んで来てくださって。

 指先に泥まで付けて帰って来るなんて、本当に子供の様。


 でも、私の不安は確信に変わったのです。

 あの日、あの時こっそりとダンジョンを抜け出したウィル様は、見た事も無いような黒魔法をお使いになられて....

 それだけじゃありません。

 あの《竜化》したお姿は、間違い無く聖魔竜族。

 月の光を浴びて浮かび上がったあの白銀色の鱗。

 私の様に真っ白ではなく、まして、ガーランド陛下の様に漆黒のお姿でもない。

 私は、400年もの長い間一緒に居たというのに、まったく気付きもしませんでした。

 まさかウィル様が、伝説の聖魔竜だったなんて....

 ガーランド陛下は当然ご存知だったのでしょう。

 だから、はぐれの私を許婚にされた。

 ウィル様の正体を知った今ならば、ガーランド陛下の御心も理解できます。

 魔竜族の祖にして、神の御使い。

 外界に興味を持たれたウィル様に、この先どんな事が起きるのか、浅はかな私には想像もできません。

 ただ、願わくば、ずっとウィル様のお傍に....





















 なんて、感傷に浸る間もありませんでした!!

 勝手にお一人で人族の街【都市ロハス】へお出掛けになられてしまったウィル様。

 慌てて後を追い、矮小な人族の衛兵達に声を掛けられていたウィル様をお助けします。

 子供の様にボーっとしているウィル様はとても可愛らしいですが、連れ攫われたりしないか心配で心配でたまりません!!

 なんとかお助けする事ができて、ひと安心です。


 ですが、私の心配事はそれだけじゃなかったのです。

 突然変わってしまったウィル様。

 きっと私には言えない何かがあるのだと、不躾にもお伺いしたのです。

 そして....知ってしまいました。

 長い間お仕えしていたウィル様は、異世界へと旅立ってしまったという事を。

 無気力なウィル様にも、夢というものがあったという事を。

 まさか、鳥に成って自由に空を飛びたいだなんて、予想だにしていませんでしたけど。

 でも、良いのです。

 だって、今私の前に居るこのウィル様は、失礼ですがとても好みの男性なのです。

 あどけない表情を見せてくれたり、時折背伸びした態度や言動をしてみたり、実に可愛らしいのです。


 し、しかもですよ?


 わ、私の事を、す、好きと言ってくれたのです。

 こ、こんな胸の大きな駄肉の私をですよ?

 前のウィル様は絶対にお断りですけど、今のウィル様なら全然おっけーなのです!!

 で、でもでも。

 突然ギュッてされて、耳元で愛を囁かれても困ってしまうのです。

 今まで散々意地悪をしてきた私には、見た目がウィル様のままなのでハードルが高いのですよ。

 でもでも、早く返事をしないともしかしたら.....

 だ、だけど勇気が....


「アリス様?そろそろ昼食の仕込みを始めようと思うのですが」

 

 私がいつまでも自室でボーっとしていたからか、エイナが呼びに来てくれました。

 彼女はダンジョンで捕らえた元冒険者なのですが、ウィル様の指示の下解放しても、頑なにここで働きたいと懇願してきた子なのです。

 しかも、事もあろうにウィル様に好意を寄せているという....

 以前のウィル様に対してならば別段私もとやかく言うつもりもありません。

 ガーランド陛下のご指示である、身体を重ねるという行為も目を瞑りましょう。

 ですが、今のウィル様に言い寄るような真似だけはけしてさせませんからね!!

 有能だから置いてあげているだけです!!

 それ以外でも何でも無いのですよ!!


「今行きます。フィリス達はまだ訓練中ですね?」


「はい。アリス様の言い付け通りです」


「そうですか、わかりました」


 元貴族のエイナや、農家生まれで幼い頃より商家で奉公していたアデル達とは違い、生粋の冒険者であったフェリス達約40名は、まだまだウィル様の侍女(メイド)をできるほど所作が洗練されていません。

 その為に私自らが指導しているのですが、いざという時ウィル様をお守りできるだけの力すらないので、いったいいつになったらお目見えできるのか....

 本当にままならないものです。


 エイナと共に厨房へ赴き、昼食の準備を始めます。

 元貴族という肩書きのエイナも、没落故か元教師という職業故か、それなりに自分で料理をしていたみたいで、なかなかに料理の腕が高いのです。

 ですが、私には遠く及ばないものの、実家が農家のエイミーとブリジットが作る料理は、見た目はともかく素朴な味わいがなんとも言えない絶品なのです。

 ウィル様も、この子達のスープには美味しそうに呻っていらっしゃいましたし。


「アリス!!」


 そこへ、何かに急かされたご様子のウィル様がいらっしゃいました。

 丁度スープの味見をしていた私は、不覚にも咽てしまったのです。

 厨房の様な使用人が働く場所に主であるウィル様が入って来てはいけないと注意するべきなのでしょうけど、今の私はウィル様にメロメロなのでそんな考えはまったく浮かびません。

 それよりも、うぃ、ウィル様が近いのです!!

 それはもう、鼻と鼻が触れ合う程に近くて、これは間違いなく欲情してらっしゃるのですね!?

 ゆ、昨夜も今朝も告白の返事をはぐらかしていたから、ウィル様はとうとう我慢できなくなって発情してしまったに違いありません!!

 

「だ、ダメですよ、ウィル様....こ、こんな明るいうちからベットにだなんて....」

 

 私はもう、真っ赤も真っ赤、真っ赤っかです。

 ま、まさかエイナ達の前でこんなにも求められるだなんて....

 わ、わかりました!!

 アリス・ヴァン・フォルス、か、覚悟を決めます!!

 こ、こんな駄肉ですけど、こ、この身をウィル様に捧げる決心をいたします!!


「そうじゃないんだ。アリス、実は――」


 へっ?

 

 私の勘違いを即座に訂正したウィル様は、事もあろうに人族に手助けするとおっしゃられました。

 私の純情を返せ!!と、ウィル様を小一時間説教したいです!!

 もちろん主人であるウィル様に――特に、今のウィル様にそんな事はできません。


 あれよあれよという間に人族の下へ連れていかれました。


 ですが、おかしいのです。

 昨夜、確かに説明はされていましたよ?

 前世で病に倒れ亡くなったという話しも、それを不憫に思われた神に出会いウィル様の身体に転生したという事も。

 その話しを聞いて思わず涙を流してしまったものです。

 ですが、なんですか?このとても巨大な《転移門》は。

 いったいどれほどの魔力量を有していらっしゃるのですか?

 神が与えた恩恵(ギフト)というのは、あの見た事も無い黒魔法の事ではないのですか?


 ウィル様に紹介された、マザー・アリシアという女性。

 雌豚の人族にしては、なかなかの美形でした。

 何より、私の様な駄肉がありません。

 人族の年齢はわかりずらいですが、30代くらいでしょうか?

 さぞや異性におモテになることでしょう。

 どうでもいいですが。


「アリス、見ていて」


 私と同じ様に青の盟約を盾にウィル様を窘めるマザー・アリシア。

 愚かで浅慮なる人族と同意見など虫唾が奔る思いですが、まぁいいでしょう。

 そんなことよりもウィル様です。

 何度も私からも忠告を申し上げているのですが、ウィル様は頑なに聞き入れてくださいません。

 さらに、見ていてなどと言いながら、まさかの召喚魔法を行使されたのです。

 それも、1体ではなく一気に100体ですよ!?

 私も確かに突然変異の聖竜族ですから、召喚魔法を扱う事ができます。

 ですが、ウィル様の様に同時に100体なんて無理です!!

 せいぜい、5体....できるかな....できるよね....うん、私だもん。

 そのくらいです。

 それを二種類もの英霊を別々に計100体なんておかしいですよ!!

 

 啞然とする私を置いて、ウィル様はさらに召喚魔法を行使されました。

 それも、聖獣。

 純潔の処女を尊ぶまさかの《一角獣(ユニコーン)》。

 召喚魔法でも高位にあたる上級の召喚術のはずなのに、ウィル様はこともなげに召喚してしまいました。

 長年研鑽を積んで来た私でも、とてもではないですが召喚できません。

 そもそも聖獣とは、魔族にとって相反する存在なのです。

 突然変異の聖竜族の私ならともかく――そうでした。

 ウィル様は伝説の祖、聖魔竜族なのでした。

 それならば納得です。

 聖なる力も魔なる力も併せ持つウィル様だからこそ成せるものなのですね。

 

「それじゃ、アリス。行って来ます!!ついでに、帰って来たら子供達がお腹を空かせているはずだから昼食の用意もお願いね!!」


 そう言い残して行ってしまったウィル様。

 まったく、お人好しが過ぎます。


 ですが....そんなウィル様も素敵です....


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