第3話 呑気な神様
(アハハ♪真君驚いてるね♪)
場の空気なんてまった読まず、相変わらず楽しそうな神様の声。
聞いているだけで頭痛を覚えるそれに業を煮やし、僕は吐き捨てるように問い掛けた。
(これって、神様の仕業なんですね?)
僕の質問に対して、神様は嬉しそうにほくそ笑む。
なぜ見えるのかって?
それは、目の前に半透明な神様の姿があるからだ。
(そうだよぉ~♪せっかく真君の第二の人生だからね♪趣向を凝らしてみたのさぁ~♪ユーモアユーモア♪)
本当にこの神様はどうしようもない人だ。
というか神様ってもっと尊大で忙しい人じゃないの?
こう毎日僕のところに顔を出していていいのだろうか?
ちょっと心配になるよ?
(アハハ♪大丈夫だよ~♪天使ちゃん達が頑張ってるからボクが少しくらい遊んでても問題ナイナ~イ♪)
忘れてたよ。
神様は僕の思考を読めるんだった。
本当に、無駄なところでハイスペックなんだから。
というか想像通り神の使いである天使が部下なんですね。
神様に無理難題押し付けられて、小間使いみたいに働く天使の姿を見てみたいような見たくないような....
ブラック企業ですか?
(...それで、神様?これはいったいなんですか?)
(よくぞ聞いてくれました!!これはこの世界の人達の強さを簡単に見える様に可視化したものだよ~♪)
(はぁ....)
(むむ!?もっと驚いてくれてもいいと思うんだ!!ボクは!!)
(いえ、じゅうぶん驚いてますよ)
(そうかなぁ?ま、いいか♪で、これなんだけど実は――元々あるものなんだ)
(そうなんですか?)
(実はそうなのだよぉ♪真君の前に冒険者君達が居るよね?)
(はい)
(彼女達が所属する冒険者ギルドに登録すれば、今真君が見ている情報をそこで配られるギルドカードを通して見る事ができるのさぁ)
(物凄い高度な技術ですね?)
(まぁねぇ~♪目に見えて強く成れると、人族は頑張るものだからねぇ~♪)
なんか、目の前に人参ぶら下げられた馬みたいな物を想像してしまった。
欲深な人間は現金な者だ。
(ところで、それがなぜ今見えるんですか?)
(それはねぇ....とりあえず一度ウィンドウを閉じてみようか)
今ウィンドウって言った!?
まんまゲームじゃないか!!
言われるままに目に映るアリスの情報を閉じるように意識する。
すると、面白いくらい簡単に文字列が消えていき、指示される通りに思考で選択すると自分の情報が浮かび上がった。
(見えたね♪それが真君――ウィル君の今の情報だよ♪)
本当に楽しそうな神様だ。
でもね?
僕の情報、おかしいと思うんだ。
名前 :ウィル・ア・テラ
種族 :聖魔竜族
ジョブ:超越者
LV : ∞
HP : ∞
MP : ∞
力 : ∞
敏捷 : ∞
体力 : ∞
知力 : ∞
魔力 : ∞
パッシブスキル
アクティブスキル
固有スキル
全知全能
真偽の神眼
竜化
神の友
精霊の友
魔族の友
エルフの友
ナニコレ?
英数字が何も無いんだけど。
(実はねぇ....称号も考えているんだけど、数がやたら多くてさぁ....もう少し時間をくれればなんとかするよ!!)
いや、そんな称号なんていらないから。
とりあえず、僕の情報についてきちんと説明してください。
(ん?お気に召さないのかな?まったく、真君は見かけに寄らず我が侭なんだから♪)
(いや、何が我が侭なのかわかりませんけど、とりあえず説明して下さい。『∞』って何ですか?
ジョブが『超越者』って?スキル欄が無記入なんですけど?)
(ああ、それは無限って意味だよぉ♪いやだなぁ♪ジョブは思い付かなくてねぇ...
スキルに《全知全能》があるでしょ?真君はなんでもできるって事だから心配しないでね♪
それと、他のスキル欄が無記入なのは全てのスキルを有しているっていう意味だよ♪
最後に、他人の情報が見えるのは、《看破の魔眼》と同じ様な効果のある《真偽の魔眼》を持ってるからさ♪)
立て続けになんて事を言うのだろうか、この神様は。
寄りにもよって全知全能って、神様じゃあるまいし。
(いや、本当に真君は神と同じ存在なんだよ?まぁこの世界限定でだけどね♪)
ついにとんでもない事言い出したよ....
なんで僕が神様なんて者にならなきゃいけないのか....
(アハハ♪真君?欲しいって言ったじゃないか。思い出が欲しいって)
(いえ、確かに言いましたけど....)
(大丈夫大丈夫♪真君ならできるって♪神様のボクが保証するよ♪)
そんな保証いらないんだけど。
(そうそう、言い忘れていたけど)
(これ以上何かあるんですか?)
(うん。真君の情報は、真君自身とボクにしか見えないからね♪
他の人には適当に剣士とかそんな感じで見るように細工しておいたよ♪
それと、薄々気付いていると思うけど、この世界では人の命はとても軽いんだ。
奴隷や人殺しなんて日常茶飯事で、真君が居た世界より殺伐としている。
だからね?もし真君や真君の大事な人が危ない目に会うようなら、迷わず相手を殺めていいよ)
(そんな事....)
(うん。真君の言いたい事はとてもよくわかるよ。だけどね?それがこの世界のルールなんだ。
だからって気に病む必要はないよ。真君の殺めた人は、ボクが魂の浄化をして再誕させるからね)
それって、つまり――
(穢れた魂を浄化するって事だよ。所謂人助けみたいなものだね)
(そんな事できるんですか?)
(当然でしょ?だってボクは――神様なんだから)
その一言で、僕は何故か救われた気がした。
戦争に使う武器や防具がある世界なんだ。
ウィルさんとは違い、僕がずっと憧れていた旅行なんてすれば、間違い無くそういった輩に出会う事もあるだろう。
盗賊や暗殺者。
人殺しや人攫いなど絶対居るだろう。
なにせ、僕が居た地球ですら非合法な人身売買や臓器売買をされていたのだから。
(神様)
(なにかな?)
(ありがとうございます)
僕の事を考えてここまでしてくれたんだ。
僕の夢を叶える為に転生までさせてくれて、それだけじゃなく夢自体を叶えてくれる為に力をくれた。
神様、本当にありがとうございます。
(いいんだよ、真君。この世界を――ボクが造った世界を楽しんで)
(はい!!)
(良い返事だね♪それじゃ、ボクはそろそろ失礼するよ♪)
(神様!!本当にありがとうございます!!)
(アハハ♪それじゃぁね~♪)
神様はそう言って笑い、半透明の姿を消した。
やがて止まっていた時が動き出し、心配そうに僕の顔を覗き込むアリスと視線が絡まる。
「ウィル様?大丈夫ですか?」
「うん。もう大丈夫だよ。目にゴミが入ったみたいだ」
「それは一大事です!!ささ、ウィル様?こちらに顔を向けて下さい!!」
ずずいっと迫るアリスの顔。
神様の存在を知る僕には、まるで女神の様に美しい顔が近づいて来て、思わずその顔に見惚れてしまう。
僕を心配し、潤んだ緋色の瞳。
びっくりするくらい小さな顔に、ピンク色の柔らかそうな唇。
思わず初めての口付けを許してしまいそうに――って、さっきから思考がエロおやじだよ!!
「だ、大丈夫だから!!」
「本当に大丈夫ですか?ウィル様」
「う、うん!!」
ムリヤリ思考を引き剥がし、努めて平静を装う。
そうしなければ本当にアリスの事をどうにかしてしまいそうだ。
なんだってこんなに美人なんだか。
ウィルさんは、よくこんな美人と400年も一緒に居て耐えられたよね?
アリスが毒舌家だからだろうか?
そういえば、彼女達を紹介されてからアリスの毒舌が止まっているような....
気のせいかな?
って、いけないけない。
他の事を考えよう。
またアリスに対して邪な事を考えてしまいそうだ。
心配してくれるアリスにお礼を告げて、紅茶を飲みつつ近くに居たエイナに視線を移す。
神様に言われた事を思い出しながら《真偽の魔眼》を使い、情報を覗き見てみた。
名前 :エイナ・ハーベスト
種族 :人間
ジョブ:教師 戦士
LV :23
HP :240
MP :45
力 :97
敏捷 :56
体力 :82
知力 :64
魔力 :32
パッシブスキル
剣術
腕力上昇
歌唱
アクティブスキル
剣技
闘技
礼儀作法
算術
生活魔法
固有スキル
なし
「ブフッ!?」
「まぁ、大変!!ご主人様!!」
思わず飲んでいた紅茶を噴出してしまった。
慌ててエイミーが差し出してくれたハンカチを受け取り口元を拭う。
汚してしまったテーブルは、アデルとブリジットが手分けして掃除してくれた。
代わりの紅茶をエイナに淹れて貰い、監督役に徹していたアリスが満足そうにウンウン頷いていた。
そんな事よりも、エイナの情報だ。
アリスに比べて、あまりにも低すぎる。
いやまぁ、アリスも魔族だかなんだかの聖竜族なんだから長命で強いんだろうけど.....
っていうか、なんでアリスは僕のメイドなんかしてるんだ?
聖竜族がなんなのかわからないけど、僕と同じ竜族なんでしょ?
それが、なんで同じ種族に仕えているんだ?
聞いてみようかな。
「ねぇアリス?」
「なんでしょうか?」
「なんでアリスは僕に仕えてくれてるの?」
「えっ!?」
もしかして聞いちゃいけない事だったのだろうか?
でも、ウィルさんの記憶の中でもアリスが僕に仕える事は曖昧だったんだよね。
おじぃちゃんからの指示でっていう事以外、特に無かったし。
「.....ガーランド竜王陛下のご指示ですよ?忘れてしまったのですか?」
「それは覚えてるんだけど」
「それ以上でもそれ以下でもございません。申し訳ございません。私はそろそろ雌豚に躾けの時間ですので」
「あ、アリス?」
「あなた達。ウィル様に粗相の無い様にするのですよ」
これ以上話しは無いとばかりに、踵を返して立ち去ってしまったアリス。
僕はただその後姿を眺め、聞いてはいけない事だったのかと再確認した。
だって、アリスはもしかしたら.....
泣いていたかもしれないから。