第1話 異世界転生
忘れた頃に更新するこの作品。
なぜ投稿したのか。
本当に続けるつもりなのか。
作者にもまったくわかりません。
時間つぶしにお読みいただければ幸いです。
白。
僕は今、白い空間に居る。
見渡す限り真っ白。
ここはどこなのだろうか。
なんで僕はこんなところに居るのか。
話は少し遡る。
「残念ですが.......」
無菌室のような殺風景な部屋で、緑色の割烹着を着た妙齢のおじさんがそう言った。
全身血塗れで。
「そんな.......お願いします!どうか、どうか息子を助けて下さい!」
必死に懇願していた。僕の母さんが。
「申し訳ございません。我々ではもう....」
「うっ.......ううっ.......」
ベットに横たわる僕に、母さんが縋り付いて泣き崩れた。
ああ、僕死んだんだ。
それにしても、なんで僕は宙に浮いて自分自身を見ているんだろう...
これが死ぬと魂が身体から離れるという現象なのだろうか...
ああ...なんかどうでもいいや....
だんだん自分が気薄になっていくのがわかる。
このまま消えていくのか...
母さん。今までありがとう。迷惑ばっかりかけてごめんね。大好きだよ....かあ...さ....ん....
そこで、僕の意識は途絶えた。
山吹真。
享年15歳。
7歳という幼い身で腎不全を患い、ずっと人工(血液)透析を続けてきた。
2~3日に1回。約5時間もかけて、血液を循環させる。
幼い少年にとって、それは苦痛以外の何物でもなかった。
だが、この日。彼にとって転帰となる出来事が訪れる。
待望のドナーが現れたのだ。
腎移植。
父親を早くに亡くしていた彼にとって、近親者は母親しかいなかった。
当初、腎不全を発症してしまった際。即座に母親から腎臓を提供してもらう為に検査が行われた。
しかし、またしてもここで、彼に不幸が襲い掛かる。
肉親にもかかわらず、提供者と患者の腎臓は、適合しなかった。
現在、我が国では約27万人が人工透析を行っている。
その中で、日本臓器移植ネットワークに登録している移植希望患者は、全国で1万1628人。
待機患者のうち、運良く移植が回ってくるのは、約1.6%。100人に2人もいないのが現状だ。
打ちひしがれる母子。
何年も、何年も待ち続け、8年の歳月を経て、ようやく待望の生体腎移植が行われた。
だが、結果は凄惨たるものだった。
成長過程であった幼い身体は、長年の無理がたたり、手術に耐えられなかった。
術中死。
拡張機能不全による心不全は、心筋が硬くなり、心臓が十分な血液を取り込めなくなる。
そのために人工心肺に繋げられたのだが、何もかもか手遅れだった。
彼は死んだのだ。
苦しんで苦しんで苦しみ抜いて、希望も、夢も、何もかも叶う事なく、15歳という若さでこの世を去った。
彼の魂は肉体を離れ、とある場所へと送られた。
「白いなぁ.....」
真っ白い世界を眺め、彼はポツリと言葉を漏らす。
病気と言う名の足枷を捨て去り、彼を縛るものは何も無くなった。
自由。
どこにでも行ける。
僕はもう死んでしまったのだから....
「やぁ♪はじめまして♪」
白い空間を眺めていると、不意に声を掛けられた。
能天気な声が聞こえた方へ振り返る。
そこには、小さな...というか、僕と同じくらいの身長に、キラキラ輝く白銀髪の男の子が居た。
「は、はじめまして......」
まさか人が居るなんて、まったく思っていなかった。
だって僕は死んだんだよ?
そうか、ここは天国なんだ。
「あ、あの......ここはどこですか?」
ボクは問い掛けた。
すると、白銀髪の彼は嬉しそうに笑った。
「ここはね。ボクの部屋だよ。『神』である。ボクの......ね」
「えっ!?」
思わず、素っ頓狂な声が出てしまった。
今、神とか言わなかった?
何言ってるの?この子....
「フフ....驚いているようだね♪まぁそうだよね♪突然こんなところに連れてこられて、『神』だ。なんて言われても、信じられないよね♪」
可笑しそうに笑う『神』と名乗る少年。
その顔はあどけなく、僕よりも年下に見えるほどだ。
「あの......かみ、様?連れてこられたって、僕に何か用があるんですか?僕は、死んだはずなんですが.....」
「ああ、そうだよ。君は死んだんだ。本来なら、君は天国に行くはずだったんだけどね。それじゃぁ、あまりにも不憫だと思ってね.....どうだろうか?よかったら、僕が造った『新しい世界』へ行ってみないかい?病院と家を往復するだけの人生なんて、つまらないだろう?思い出.....欲しくはないかい?」
思い出....
ボクには、母さんと過ごした思い出しかない。
透析のおかげで、あまり外で遊べなかったし、なにより、ほとんど学校には行っていなかった。
でも、それだけで十分だと思っていた。
母さんが居てくれたから。
だけど....
なんでだろう。
すごく...すごく心が乾く。
満たして欲しい....母さんだけじゃなく、楽しい思い出で、ボクを満たして....
「...........ほ....です」
「うん?何かな?」
「.....欲しいです!!僕に、僕に思い出をください!!」
気が付けば、叫んでいた。
渇望するように、心からの願いを、僕は告げた。
「そうかそうか♪いいよ♪じゃぁ、すぐ行こう♪今行こう♪さっそく行こう♪て~~い♪♪」
神様は、楽しそうにそう告げると、クルクル回って輝き出した。
まるで、オモチャの人形の様に。
「わっ!?わわ!?」
「そうそう、言い忘れていたけど、ボクの名前は■■■。君とはいずれ、家族になる者だよ♪」
「え!?家族って、それはいったい.....」
「またね♪」
神様はそれだけ言って、白い世界は姿を消した。
暗転。
次に目が覚めたのは、薄暗い室内だった。
天井からは青白い光を放つランタンの様な物が吊るされ、部屋全体を照らし出している。
僕は今、ベットの上で横になっている。
「ここは.....どこだろう?」
上半身を起こし、周囲を見渡す。
石造りの室内に、同じく石畳を敷き詰めた床。
壁には豪華な室内装飾用の織物が飾られ、ベットにはおしゃれな天蓋が垂れ下がっており、マホガニー製と思われるベットは、ふかふかなマットが敷かれている事もあり、とても寝心地が良かった。
「えっと.....」
さっぱりわからなかった。
ここがどこなのか。
なんでこんな豪華な部屋に居るのか。
『自称神様』と名乗る人物は、ボクをどこへ飛ばしたんだろう。
そこへ...
「お目覚めですか?ウィル様」
室内唯一と思われる扉を開き、侍女の格好をした、目の覚めるような絶世の美女が現れた。
燃えるように赤く長い髪に、同じく緋色の瞳。
豊満と言えるほど大きな胸をゆさゆさ揺らし、木製の手押し車を押して、室内へと入ってくる。
「えっと....あの......どちら様ですか?」
「寝惚けておいでですか?ウィル様。その小さな脳みそには、私の名前すら記憶する事が出来ないのですか?」
訂正。
見た目は美女だけど、中身は容赦無いサディストだった。
「ご、ごめんなさい。僕は誰で、あなたはなんというお名前ですか?」
「はぁ....どうやら本当におかしくなってしまったようですね。まぁ....元々おかしな方でしたが」
....やばい。
なんだか、とても人を不愉快にさせる天才のようだ。
「私はあなたの従者兼侍女の『アリス・ヴァン・フォルス』です。そして、あなたは私の主人にして、魔界を統べる十支族がひとつ、魔竜族の『ウィル・ア・テラ』様です」
アリスはそう告げると、慣れた手付きでベットの上に足短なテーブルを置き、そこへ食事を並べ出した。
僕がウィル・ア・テラ?
それにアリスって....いったいどういう事?
不思議そうに首を傾げていると、食事の用意を済ませたアリスは、そそくさと部屋を出て行った。
「ウィル様。冷めないうちに、早くお召し上がり下さい。あまりバカな事言ってると、焼肉にして食べますからね」
扉が閉まる寸前に、アリスはそんな事を言い放った。
焼肉にして食べるって....どんなメイドだよ....
お腹が空いている事もあり、思考を一時中断して、せっかくなので食事をいただいた。
揚げた魚にフライドポテト。
緑物は一切無く、香草の香りだけが唯一の野菜と言えるだろうか。
フィッシュアンドチップス....ここはイギリス?
家では母親が作る日本食を食べ慣れていたため、朝から油物はちょっときつかった。
それでもなんとか完食し、ベットへゴロリと横になる。
ウィルねぇ....って、ちょっと待って!!
アリスさんはさっきなんて言ってた!?
『あなたは私の主人にして、魔界を統べる十支族がひとつ、魔竜族のウィル.ア.テラ様です』
魔竜族ってなんだよ!?
ボクがドラゴンって事!?
慌てて起き上がり、ベット横に備え付けられていたクローゼットへと向かった。
そこには等身大の姿見があり、恐る恐る覗き込んだ。
端整な顔立ちに、肩まで伸びた黒い髪。
鼻筋はスッと通っており、水晶の様な黒い瞳がそこにはあった。
誰ですか?この人物は....
日本に居た頃の僕は、年齢のわりにとても細かった。
病気のせいで青白い顔をしていたし、食事制限のおかげで太る事もなかったからだ。
でも、今、鏡の中に居るのは見た事もない人物。
というか、見た目はこの際どうでもいいんだ。
僕、人間じゃん。ドラゴンじゃないじゃん。
なんだよ...脅かさないでよ....
ホッと胸を撫で下ろしていると、扉を叩いてアリスが帰ってきた。
「ウィル様。お食事は終わりましたか?」
「あ、アリスさん。はい。とても美味しかったです」
僕がお礼を述べると、アリスさんは不思議そうに僕を見詰めた。
なんか変な事言ったかな....
「ウィル様。『アリスさん』だなんて言わないでください。いつも通り『アリス』と呼び捨てでお呼び下さい。なんですか?そういうプレイですか?相変わらず変態ですね」
毒舌家のアリス。
罵るようにウィルにそう言うと、蔑むような目で見やった。
「変態って......そこまで言わなくてもいいんじゃないですか?えっと.....アリス」
ちょっと気恥ずかしかったが、言われる通りに呼び捨てにした。
母親を除き、病院の看護師以外の女性と触れ合う機会が少なかったウィルにとって、女性との距離の取り方がわからない。
「な、なんですか?突然呼び捨てにするなんて....ウィル様は本当に鬼畜ですね」
ウィルに呼び捨てにされ、頬を赤らめるアリス。
サディストというより、ツンデレなのだろうか。
「僕、鬼畜じゃないんだけど....」
「そんな事はどうでもいいのです。ささ、ウィル様。お召し替えを」
アリスの言われるがままに服を脱がされる。
何故かパンツも脱がそうとしたので、そこだけは必死に抵抗した。
「あ、アリス!?全裸になる必要は無いんじゃないかな!?」
「何をおっしゃるのですか。いつもは、勝手にお脱ぎになるではありませんか」
「ほ、ホントに!?僕、いつもそんなことしてるの!?」
最悪だ。
僕はそんな変態だったんだ....
「ええ、本当です。ウィル様は毎日全裸になり、その猛り狂うモノを嫌がる私に無理矢理.....」
「僕そんな人間なの!?ご、ごめんよ。アリス.....」
どうやら本当のようだ。
ウィルよ....どんだけダメ人間なんだよ君は....
僕が、あまりのショックに打ちひしがれていると、アリスは楽しそうにニヤリと笑った。
「いえ、冗談です」
はい?
何言ってるのこのメイドは!!
「冗談なの?」
「はい。今日のウィル様は、どこかおかしいので、受け入れてくださるかと....」
手玉に取れた事がそれほど可笑しかったのか、アリスは嬉しそうに笑った。
ちょっとカチンときたけど、笑うと可愛いんだな...アリスは...
「それでは、冗談はこのくらいにしまして、本日のお仕事です。ウィル様」
急に真面目な顔をする。
お仕事っていったいなんだろうか....
「アリス。仕事って何?それと、魔竜族って言ってたけど、僕はドラゴンなの?」
「どうなされたのですか?ウィル様.....まぁいいでしょう。ウィル様は、偉大なる魔竜族が1人です。強大な魔力を内に秘め、一度ドラゴンへと姿を変えれば、幾千幾万の人間達を屠る事が出来る、魔界最強の種族なのです」
自身満々にアリスが語る。
僕は、どこかおとぎ話を聞いているようだった。
「ドラゴンに姿を変えるって....それじゃ、僕の今の姿は何?」
「四六時中ドラゴンで居るのですか?お風呂に入るのも?イヤですよそんなの。あんな大きな身体、私には洗い流せません。本当にウィル様は鬼畜ですね。ドラゴンの姿でお世話をしろだなんて....」
頬を膨らませて、アリスはプイッと横を向いてしまった。
どうやら、僕の言った事で怒ってしまったようだ。
「えっと....怒らせたならごめん。謝るよ。だから教えて欲しい。ボクはドラゴンで、何か仕事があるんだね?その仕事って何?」
「本当に、どうしてしまったのですか?昨日とは、まるで別人のようです....ハッ!?まさか!?私に裸体を見せ付けるために、わざと話しを引き伸ばしているんですね!?ウィル様の変態!!!」
着替えの途中で質問をした為に、ウィルは半裸のままだった。
突然異世界に誘われ、ウィルは冷静で居られるはずもなく...
「ち、違うよ!!本当にそんな事、考えてないよ!!」
大慌てで胸の股間を両手で覆った。
パンツは履いてるから、ギリギリセーフだろう。
「....本当でしょうか?鬼畜のウィル様の事ですから、疑ってしまいます。それで、お仕事ですが.....いいえ。実際に見ていただきましょう。ささ、ウィル様。早く着替えましょう」
アリスはそう告げると、ウィルを急かして着替えさせた。
黒いズボンに革製のブーツ。
白いワイシャツ上着は燕尾服の様に裾の長いジャケットで、その上に純白のマントを纏わせる。
どこぞの王子様ですか?
着飾った自分の姿を鏡に映し、ボクは首を捻った。
「ささ、ウィル様。行きましょう。早くしないと終わってしまいます」
着替え終わった僕は、アリスに背中を押されて部屋を出た。
長い石壁の廊下に、石畳の床。
天井には規則正しく整列された、青白いランプが並んでいる。
「ど、どこに行くの?」
「行けばわかります。大丈夫ですよ。もしかしたら、新しい側女が手に入るかもしれません」
「え!?側女って何?」
「もう!ウィル様は本当にイヤらしいんですから!!私の口から、それを言わせるおつもりですか?」
何故かアリスは赤面し、ボクをグイグイ押してきた。
側女ってなんだろう....
この時の僕は、アリスが言っている事の意味が、まったくわからなかった。
大きな扉を通り抜け、右へ左へ曲がりくねった廊下をしばらく進むと、螺旋階段のある縦穴へと辿り着いた。
そこでは、信じられない光景が、僕を待っていた。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
異形の化物が咆哮し、天高く掲げた巨大な大鎚を振り下ろす。
ドンッ!!という衝撃音と共に、盛大に土煙が舞い上がり、視界を遮った次の瞬間。
金属音が鳴り響いた。
ギリギリと打ち鳴らされる鉄と鉄。
土煙の中で何かが行われている。
いや、何かではない。
棚引かれる銀線。
打ち鳴らされる金属音。
これは間違い無く、戦闘が行われているのだ。
「はぁあああああああああああああああ!!!!」
晴れる土煙の中から現れたのは、1人の女剣士だった。
大きな両刃の大剣を掲げ、自身よりも何倍もの大きさの異形の化物『牛人』へと果敢に攻める。
走りながら刺突を繰り出し、避けられれば身体を回転させて左薙ぎ。
ミノタウロスが大鎚の柄でそれを防ぐと、上段蹴りをお見舞いし、ひるんで距離を取ったところですかさず跳ねる。
空中で身を縮込ませ、大剣を突き出し身体を回転させる。
回転斬り。
高速で回転する得物と化したその姿は、縦一直線にミノタウロスへと向かって行った。
だが、そこに隙があった。
縦方向には絶大な威力を誇る回転斬りも、左右両側からの攻撃には為す術もない。
相手が、対応出来ないほどの格下であればよかったのだが....
ミノタウロスはその隙に、大鎚を振り抜いた。
回避する事も出来ない女剣士は、大鎚に打ち付けられて壁へと激突する。
「グハッ!?」
全身に奔る衝撃が、痛みとなって駆け巡る。
内臓を傷付けられ、鮮血が口からこぼれ落ちた。
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
女剣士が壁を背に、ズルズルと崩れ落ちると、ミノタウロスは勝利の雄叫びを上げた。
勝負は着いた。
異形の化物である牛人の勝利で。
「はいはい。よくやったわ。ミノちゃん♪」
隣で僕と一緒に傍観していたアリスが、拍手をしながらミノタウロスへと近づいた。
「ちょ!?アリス!!危ないよ!?」
慌てて止めるもアリスはそれを無視する。
ミノタウロスはアリスが近づくと、大鎚を地面へ置き、頭を垂れた。
うそ....でしょ.....
信じられない光景が、今、まさに目の前で再び繰り広げられた。
「よしよしミノちゃんよくやったわ~♪あら?怪我してるわね?治しちゃいましょ♪」
アリスはそう言うとミノタウロスに両手を掲げた。
淡く緑色に輝くミノタウロス。
胸部や脚、腕にあった裂傷が、見る見るうちに治っていく。
なんだこれ.....
「はい♪これで大丈夫♪もう休んでいいわよ~♪ありがとうね♪」
終始ニコニコしているアリスに、ミノタウロスは「ブモッ♪」と答えて立ち去った。
鳴り響く足音が、その巨大さを物語る。
「さぁウィル様。戦利品ですよ?」
いつの間にか気を失った女剣士の側へと移動していたアリス。
女剣士を肩に担いで嬉しそうにそう言った。
「え...戦利品?」
「はい♪それでは行きましょうか♪」
スタスタと前を歩き、アリスは僕を先導してくれた。
ここはいったいどんな世界なのだろうか....
神様と名乗るあの少年は、どうして僕をこの世界に案内したのか....
山吹真という15歳の少年は、魔竜族のウィル・ア・テラとして、転生した。
物語はここから始まる。