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闇に浮かぶ紅蓮の炎  作者: 夜月 雪那
第二王子
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第七話

 その青年は背後からの陽光に短い金の髪を輝かせながら入って来た。深緑の瞳はアーノルド達三人を鋭く射抜いている。明らかに騎士のような体格をした青年は貴族達の事等視界に入っていないかのように大股で室内を歩く。

「俺の弟を汚すな、老いぼれ」

 そのままハレイストと三人組の間に立った。三人組を射殺しそうな勢いで睨み付ける。彼はブルクリード王国第一王子、ルクシオン・レン・ロウム・クライス。ハレイストの異母兄である。ついでに言えば、ブラコンだ。

「何の事ですかな?」

「ただ話していただけですわ」

「汚す、とは失敬な」

 三人組はそう言って笑う。ラウルだけは無表情だ。彼の表情を見分けられるのはアーノルドとアイリスぐらいだろう。それ程に三人の付き合いは長い。

「久しぶりに弟に会えたんだぞ、俺は。俺から弟を奪うな」

 ルクシオンが唸る様に言う。その体格と形相が相まって猛獣のようだ。しかし、三人組は全く動じない。それどころか。

「その顔ですとハレイスト殿下に怖がられますぞ」

「嫌われますわね」

「嫌われても良いんじゃないか?」

 とのたまった。その後に高笑いをする。ラウルだけは表情を変えなかったが。

 しかし、その言葉の効果は絶大だった。ルクシオンは顔色を一気に変えて後を振り返った。その視線の先ではハレイストが欠伸をしていた。ルクシオンの視線に気付いハレイストが微笑む。

「お帰りなさい、兄上。一週間ぶりですね」

 ハレイストが挨拶をするが、ルクシオンは答えない。その体が小刻みに震え出す。ハレイストが不思議そうに首を傾げた。なぜかルクシオンの眦に涙が浮かんでいたのだ。しかも、体は前を向き、顔だけ後ろを向いているという微妙な体勢のまま動かない。その後ろでは大臣三人組がニヤニヤしている。他の貴族達は何事かと狼狽している。

 室内に奇妙な沈黙が流れた。誰も身じろぎさえしない。

「兄上?どうかしまし--]

尋ねようと口を開いたハレイストの言葉は最後まで続かなかった。急にルクシオンが抱きついてきたのだ。泣きながら。

「あ、兄上!?」

 ハレイストが驚いて声を上げる。ルクシオンの顔を見ようとしても、ルクシオンの力が強すぎて体を押し返せない。しばらく呆然としていると、頭上からすすり泣くような音と共に小さな声がした。

「お、俺の事、嫌いにならないよな?」

 微かに震えている声にハレイストは微笑した。この兄は優しい心根をしている。最前線に立ってはいるが、本当は争い等望んでいない。ハレイストに争いを見せないために己を犠牲にしているのだ。国王である父には誰も逆らえないから。それを分からない貴族達。いや、分かろうとしない。国の上層部は腐っているものだから。権力を手にすれば、民の事等忘れてしまうから。

「嫌いになどなりませんよ。兄上はこんな私にも優しくしてくれますから」

 ハレイストは宥める様にルクシオンの背を叩く。微笑ましい光景だが、貴族達にとっては忌々しい光景でしかなかった。ルクシオンはハレイストに愛情を惜しげもなく注いでいる。そこに、ハレイストが殺されない理由がある。ハレイストが殺されればルクシオンは血眼になって犯人を捜すだろう。おそらくその

追及を逃れられる者はいないだろう。国王でも無い限り。

「ほ、本当か?」

「はい」

 ルクシオンが体を離しながら言う。ハレイストは微笑みながら頷いた。途端にルクシオンの表情が明るくなる。それをハレイストは眩しそうに見た。

「そろそろ会議を始めませんかの?」

「美しい兄弟愛を確認するのは後にして下さいません?」

「これでも忙しいのだが」

 三つの声が二人の間に割って入る。二人がそちらに視線を向けると大臣三人組が居た。アーノルドはニヤニヤしながら。アイリスは微笑みながら。ラウルは詰まらなそうに。

「それもそうだな」

 ルクシオンはそう言うとハレイストを解放し、自分の席に着いた。ハレイストも同じように席に着く。先程までの情けない雰囲気は消え去り、堂々とした顔付きになったルクシオンが室内を見渡す。全員が席に着き、ルクシオンを見上げていた。ハレイストと大臣五人だけは前を向いている。

「今日、国王陛下は不在だ。なので、代わりに私が会議を取り仕切る。異論は無いな?」

 そう言ってもう一度見渡す。誰も動かないのを見て一つ頷くと、会議の開始を宣言する。

「では、貴族会議を始める。議題は次の獣との争いについて。まずは報告を聞いて頂こう。ジルフィス」

「はっ」

 ルクシオンの言葉に、一人の男が立ち上がる。黒の騎士が着るような服を身に纏う彼はジルフィス・ランディア。王国騎士団団長だ。二十八歳の彼は銀の髪に銀の瞳をしている。二つ名は銀の鷹。争いの時は常にルクシオンの傍に居る。

「前回の争いではこちらに死者はいません。獣には重症を負ったのが数匹。しかし、止めを刺す所でに黒い豹に邪魔されました。獣を盾にする計画を実行しようとしましたが、動きが俊敏過ぎて不可能でした。動きが遅いのも居ましたが、サイズが大き過ぎます。今回はこれぐらいでしょうか」

「御苦労」

 報告を終えたジルフィスにルクシオンが声を掛けると、ジルフィスは頭を下げて腰を下ろした。

「さて、また計画が失敗した訳だが。何か他に案はあるか?」

 ルクシオンが辺りを睥睨する。一人の壮年の男が手を上げる。それを視認したルクシオンが発言を許可する様に頷く。それを受けた男が立ち上がる。

「恐れながら申し上げます。ハレイスト殿下はもう十六歳でいらっしゃいます」

「それがどうした?」

 

ルクシオンはハレイスト大好きです。弟が絡んだときだけ人が変わります。普段はかっこいいんですよ。

会議の話はまだ続きます。ただ、次の投稿は遅くなるかもしれません…

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