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闇に浮かぶ紅蓮の炎  作者: 夜月 雪那
第二王子
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第六話

 昼食を食べた後、ハレイストは執務室を出た。その後ろに、トーレインと護衛の騎士二人が続く。ハレイストが通り掛かると、その場にいた者全てが脇に避け、頭を下げる。正直に言えばハレイストはこういうのが好きではないのだが、言える訳もない。言ったとしても、起こられるのはハレイストではないからだ。

 ハレイストは無言で長い廊下を会議室へと歩いて行く。その時、反対側から一人の男が歩いて来た。黄土色の髪に若草色の瞳をした彼は、ハレイストを見ると目を輝かせた。

「ハレイスト殿下!」

 嬉しそうに叫んでハレイストに走り寄って来る。その彼は、王国騎士団の茶色の制服に身を包んでいる。若干着崩されているその格好は、彼の性格を表している。

「シルヴィじゃないか、今は伯爵領の視察に行ってたんじゃなかった?」

「終わりましたよ、平和すぎて暇でした」

 立ち止まって二人は話し始める。トーレインは顔を顰めたが、まだ会議まで時間はあるので何も言わなかった。

 王国騎士団は主に王都以外の視察や監視、守護を担当している。王都及び城の守護は近衛騎士団が担当している。王国騎士団にはグラス隊、メルクリー隊、マーダー隊の三つの隊がある。

 シルヴィ・グリナリーはグラス隊の隊長だ。平民出身の彼は、その気さくな性格ゆえに隊員に好かれている。勿論、腕も立つ。名前の後に付いているのはグラス隊の隊長である事を示す名だ。同じく平民出身の王国騎士団団長であるジルフィス・ランディアと幼馴染だ。

「調子はどう?」

「順調ですよ、手応えが無さ過ぎて正直拍子抜けです」

 笑いながら尋ねるハレイストにシルヴィは肩を竦めて見せる。その様子にハレイストは笑みを深めた。

「そんな事言ったら失礼だよ、それでも相手は必死なんだから」

「あいつらに頭隠して尻隠さずって言葉を教えてやりたいです」

 片手で口を隠して肩を震わせるハレイストにシルヴィが真面目な顔付きで言う。それを想像したのか、ハレイストの肩の震えが大きくなる。その後ろではトーレインが硬い表情をしていた。何かを堪えている顔だ。

「まぁ、これからも頑張ってね、色々と」

 ハレイストが笑うのを止めてシルヴィの肩を叩く。

「勿論ですよ、殿下」

 シルヴィが嬉しそうに笑う。ハレイストがよく騎士団の訓練場に出没していたので、その関係でシルヴィはハレイストが大好きだ。変な意味ではなく、王子なのに飾らない所が良いらしい。

「じゃぁね」

「はい、殿下も頑張って下さい」

 シルヴィは歩き去って行くハレイストに頭を下げた。ハレイストの護衛の騎士達は、シルヴィの横を通る時に軽く頭を下げた。近衛騎士団である彼等と王国騎士団であるシルヴィとは上下関係にはないが、隊長と普通の騎士ではどちらが偉いかと聞かれれば勿論隊長だ。それに、シルヴィの人気は王国騎士団に限った事ではない。

 シルヴィはハレイストが廊下の角を曲がって見えなくなると、独り呟いた。

「早く動かないかな~、すっごい楽しみ。我が主殿には頑張ってもらわないと。いや、俺もか」

 シルヴィはそう言って笑うと、鼻歌を歌いながらハレイストとは反対方向に歩き出した。


 シルヴィと別れたハレイスト一行は会議室にようやく到着した。部屋の扉は微かに空いており、中からざわめきが漏れている。笑い声や媚を売る声が聞こえる。ハレイストは眉を顰めると深く息を吸ってから扉を開いた。

 ハレイストが中に入ると、貴族達のざわめきが止み、室内が静まり返る。しかし、直ぐにざわめきが戻る。その場を満たすのは嘲笑と軽蔑と侮蔑。それと、無関心。

 トーレインと騎士達は会議室には入れない。入れるのは貴族と王族だけだ。トーレイン達は用意された控えの間に居る。

 ハレイストは独り、用意された上座の自分席に向かう。貴族達の席は円形に並べられており、前の列から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順に座る。それより一段高い場所に大臣の席。その上に王子の為の席、更に上に国王の為の席が据えられている。

 王族の席は埋まっていないが、それ以外の席は全て埋まっている。

 ハレイストが席に着くと、大臣の一人が話し掛けた。

「娘はお役に立っておりますか?」

「勿論。僕にはもったいないぐらいだよ」

「あの子が貴方の下が良いと言うのですから、どうぞ使ってやって下さいな」

 そう言って笑うのはアイリス・ウル・イルミネイト子爵、ハレイストの侍女エレンの母親だ。エレンと同じ色素の髪と目。今年で五十九歳になる彼女はハレイストを気に入っている。

「そうですぞ。そのまま妃にでもされては如何ですかな?」

「殿下には婚約者もいないからな」

 そう言って笑うのは公爵位大臣のアーノルド・ライ・レオナルド、御歳六十二歳と伯爵位大臣のラウル・ジル・ルカリオス、御歳六十一歳だ。

 この大臣三人組は幼い頃からハレイストを知っている為、我が子を見るような目でハレイストを見ている。その件でよくトディス喧嘩するらしい。と言っても、殴り合い等出来る訳もないので笑顔で遠回しにお互いを罵るらしい。四人共それを楽しんでいるのだから性質が悪い。

「それに、最近また悪戯なさっているようですな?」

「…耳が痛いよ、その話題」

「貴族共がうるさいのか?」

「いや、トディスとトーレインがね」

 アーノルドの言葉に溜め息を吐き、ラウルの言葉に苦笑するハレイスト。その間も、貴族達のざわめきは止まらない。

「何故大臣方はあのような者を」

「優しいからだろう」

「いや、脅しているのかもしれませんぞ」

「あいつにそんな芸当が出来る筈がない」

「それもそうだな」

「全く、王家の恥さらしが」

「ルクシオン殿下とは大違いだな」

「あぁ、殿下は最前線で指揮を執っていらっしゃると言うのに」

「そういえば、争いではまた死傷者が一人も居なかったとか?」

「獣共の死体も拝んでいないがな」

「それでも快挙でしょう」

「だが、これでは争いが終わらん」

「それはそれで良いのでは?」

「まぁな」

 貴族達は笑う。ハレイストに聞こえるか聞こえないか程度の声で。ハレイストは聞こえていないのか、大臣達と談笑している。ハレイストが一方的にからかわれているだけだが。

 その時、会議室の扉が盛大な音を立てて開いた。会議室に居る全員の視線がそちらを向く。そこに立っていたのは一人の青年だった。

「俺の弟を独占するな、この狸共」


やっと登場…!!

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