六十二話
「では、決を採ろうか」
――翌日、会議で停戦条約を結ぶ事が決定された。
その知らせはスカラを通してルティーナに。城に出入りしている商人達から民衆へと広がった。
それと共に、もう一つ、広まった話がある。
停戦条約の提案が可決され、逆賊達に沙汰が申し渡された。中心人物数名には爵位及び領地の剥奪。その他は当主は隠居し、正統な後継者へ爵位を引き継ぐ事。子息令嬢の場合は、爵位継承権の剥奪。
明日の話はさて置き、貴族達が集まる会議室では、ほぼ満場一致で停戦条約が可決された。
室内に安堵の空気が流れ、皆の気が緩み、少し騒がしくなった時、エディンズが一つ手を叩いた。その音は、小さいながらも皆の気を引いた。
ハレイストとルクシオンが室内を見回した事もあり、話していた貴族達は話すのを止め、エディンズに注目した。
「皆に言う事がある。
まず、停戦条約が可決された事を嬉しく思う。これで男手も家に戻り、食料の問題等も何とかなるだろう。
だが、今まで虐げられてきた民の不満は収まらないだろう。そこで、儂と獣の女王は、この期に際して、この首差し出す事にした」
自分に視線を集まった事を確認したエディンズが厳かに告げる。その内容に、誰もが驚愕し、言葉を無くした。ある者は口をぽかんと開け、またある者は目を見開き、またある者は困惑の色を浮かべた。
最初に我に返ったのはルクシオンだった。
「父上!本気ですか!?」
公の場である事も忘れ、父と呼んだルクシオンに、エディンズは父としてではなく、国王として目を向ける。
「無論だ。この老いぼれの命でこの先楽になるのだ。その方が良いと、分かっているだろう?」
エディンズの言葉に、ルクシオンは悔しげに唇を噛んで口を閉ざす。国王が貴族を野放しにしていた事により、民は少なからず不満を抱いている。他にも、国王の命令により、夫、父親、恋人達を連れて行かれたのだ。ここ十年で死んだ者はいないが、それ以前に犠牲になった者達は帰らない。その事を恨む民も多いだろう。
今ならば、民の怒りと恨みが国王に向いている今ならば、国王の命を以ってそれらを治められるかもしれない。
それを、ルクシオンも分かっている。
「ハレイストも、異論はないな?」
沈黙したルクシオンを見て、エディンズは次いでハレイストに目をやる。ハレイストは、黙って目を閉じていた。
「…陛下の御心のままに」
数拍の間を置き、ハレイストは薄く目を開け、視線を伏せたまま答えた。その答えに、エディンズは少なからず驚いた。ルクシオンのように、自分を責める目を向けてくると思っていたのだ。だが、ハレイストは静かに目を伏せ、動揺する風もなく、落ち着いた声で言ってのけた。
そんなハレイストを訝しく思いながらも、エディンズは口を開いて会議の閉会を告げた。
「停戦条約に関しては、日程の調整を行い、決定次第追って通達する。詳細は儂と女王とで決める。以上で、会議を閉会とする」
エディンズはそう言うと、席を立ち、一人会議室を出て行く。エディンズの姿が見えなくってからルクシオンとハレイストが続く。次に大臣達。
彼らがいなくなり、残された貴族達は口々に騒ぎ始める。
停戦条約と反乱を目論んだ者達への沙汰と並び、この話もまた、瞬く間に民衆へと広がった。
だが、前者二つに対しては何らかの反応を示した民衆は、後者の話には不気味な程に無反応だった。それは国王への恨み故か。はたまた、状況を理解したくな、又は、出来ない、それ故か。
貴族や国王がそれを知るのは、まだ先の話。
執筆再開するとか言ったのに一ヶ月以上放置してすみませんでした<(_ _)>
ここ最近執筆意欲が著しく低下しまして……orz
一応先の展開は考えてあるので、ゆっくりではありますが、今度こそ再開します。
駄目駄目な作者ですが、見捨てないで下さると嬉しいです。