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闇に浮かぶ紅蓮の炎  作者: 夜月 雪那
第二王子
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第五話

 ルード城のとある一室では、ハレイストが公務を行っていた。自分の管轄である城下の貧民街に関する資料や国民、貴族からの嘆願書が執務机に山と積まれている。

 ハレイストはその山に埋もれるようにしながら公務をこなしていた。その斜め前では、トーレインが資料の選別を行っている。部屋にはペンを走らせる音と、書類を捲る音だけが響く。

「はぁ~」

 ハレイストの口から溜め息が零れるが、トーレインは聞こえていないかの様に全くの無反応だ。

「トーレイン」

「喋ってる暇があったら手を動かして下さい。また徹夜したいんですか?」

 ハレイストが名を呼ぶと、視線を上げる事もせずにトーレインが切って捨てる。その反応にハレイストは口を尖らせるが、トーレインはそれを綺麗に無視。

「でもね、疲れたんだよ。この資料は訳わかんない事書いてあるし。それに、休憩しないと頭がいかれちゃうよ」

「先程休憩したばかりでしょう。わからないならば辞書を引いてはいかがですか?それと、殿下の頭はそれ以上おかしくなる事は無いので大丈夫です」

「…君ってさ、何気なく酷いよね。一応僕君の主なんだけど」

「主ならばそれらしい振る舞いをして下さい」

 さりげなく酷い事を言ったトーレインにハレイストが反論を試みるが、正論で返された。しかも、事実なので反論出来ない。この間、トーレインは仕事の手も止めず、視線も上げなかった。

「それと、今日は午後から貴族会議ですよ。議題は頭に入っていますか?」

 仕事が終わったのか、トーレインが書類を片手に立ち上がる。彼の机には、朝はあった大量の書類は既に無い。ハレイストの方は全くと言っていいほど減っていない。

「議題?何だっけか」

 ハレイストが首を傾げると、トーレインが盛大に溜め息を吐く。額に片手を置いて溜め息を吐く様子は完全に呆れている。

「今度の獣との争いについてですよ。ルクシオン殿下も出席されます」

「そういえばそうだったね。どうやって獣を殲滅するか、だっけ?どうせ碌な案なんて出ないのにね」

 ハレイストが可笑しそうに笑う。貴族会議では何時もまともな案が出ない。兵士を増やしてはどうか、農民を鍛えて争いに使うのはどうか。スフィアランスに火を放つのはどうか。火を放つのは効果的だろう。スフィアランスの国土は大半が森だ。あとは山ぐらいだろうか。しかし、火矢を放つにはセオリア河のせいで届かず、川に落ちる。ならばと、争いの最中に放てば鳥に咥えられて捨てられる。これは最近行われた作戦で、不意を突いて放った筈なのにあっさり失敗した。どのような作戦を立てても、見破られているかの様にことごとく失敗する。農民を鍛えるのは時間が掛かり過ぎる。兵士はこれ以上増やせない。見事に堂々巡りである。

 そして、最終的にハレイストを罵る内容になっているから不思議だ。彼等曰く、ハレイストがしっかりしていないのがいけないらしい。こじつけもいい所である。ハレイストがしっかりしても戦力が増える訳ではないし、作戦にしても専門の者がいる。王子というだけで大して知識も無い者が考えるより専門の者に任せた方が良いのは当然だ。

「気休めにはなるのでは?どうせ陛下も真剣には聞いていらっしゃいませんし、適当に聞き流せば良いのです。殿下が戦場に立たれる事はありませんから。ルクシオン殿下は別ですが」

「兄上は戦場に最前線に立たれるからね。異名は金の獅子だっけ?ぴったりだよね、考えた人を褒めたいぐらい」

「それよりルクシオン殿下を褒められては如何ですか?そうすればあの方のやる気が更に上がると思いますよ」

 トーレインは持っていた書類を呼びつけた侍従に持って行かせると、ハレイストの机上から幾つかの書類を手に取る。口ではあれこれ言いながらも、意外と優しい青年だ。それを言えば、「私も早く休みたいのですよ、誰かのせいで休みが碌に取れないので。家に帰って妻と過ごしたいのですがね」と言われるのが目に見えているので言わない。 

 ちなみに、トーレインの妻の名はリリアーヌ・ヴィルヘルム。二十一歳の彼より一つ年下だ。金の髪に紫の瞳をした彼女は一時期ルクシオンの婚約者として名が挙がっていたが、本人の希望でトーレインと結婚した。彼女の家は余り家柄に拘らないので、結婚出来たのだ。二人は立派な恋愛結婚である。

「兄上を僕が褒めるのは何か違うと思うんだけど?」

「何であれ、あの方がやる気を出してくれるならばかまいません」

 首をひねるハレイストにトーレインが冷徹に言い放つ。言いつつ、自分の執務机に戻った彼は仕事を始める。

「今でも十分なやる気だと思うけど?」

 ハレイストもゆっくりと手を動かしながら言う。流石にトーレインに全部やって貰うのはまずいと思ったのだろう。といっても、トーレインとハレイストの仕事の比率は七対三だが。

「やる気は有り過ぎて困る事はありませんから。殿下はもう少しやる気を出して下さい。早くしないと貴族会議に間に合いませんよ」

「…サボっちゃ駄目?」

「駄目です」

 少し間をおいてから呟いたハレイストの言葉をトーレインが即座に否定する。まだ何か言おうとするハレイストを視線で黙らせると、黙々と書類を片付け始める。その様子に諦めた様な溜め息を吐いてから、ハレイストもペンを走らせた。

あれ?兄が名前しか出てきませんでしたね、おかしいな…

次こそは出しますよ!

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