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五十四話

「分かるか?我ら王侯貴族は民なくして生活など出来ないのだ」

 ほら、考えてみればとても簡単な事実。そして、その事実は揺らぎない。

 ラクサレムもようやくそれが分かったのか、焦燥が顔に滲み出る。やっと自分が不利だという事に気付いたのだろうか。ラクサレムと志を同じくしたはずの貴族も、誰も口を開かない。

 諦めのか。見切りをつけたのか。この論争に興味があるのか。

「っ…。だが、それと獣とは関係がないだろう!」

「関係がないだと?どの口がそれを言う。貴様は先程言ったな?獣との争いなど平民がやれば良い、と。獣との争いで犠牲になるのは民だぞ。貴族からの命令のせいで大した装備もなく前線に立たされ、その命を散らしてきたのは民だ。王侯貴族はそれを上から見ていただけだろうが。

 なのに、関係がないだと?ふざけた事を言うな。

 お前は知らないのだろう?民の気持ちを、望んでいるものを」

 焦りを露わにするラクサレムに、ハレイストがここぞとばかりに畳み掛ける。相手が感情を表に出したら、冷静になる前に畳み掛ける。そうして、相手を混乱させて墓穴を掘らせる。そして、揚げ足を取って更に畳み掛ける。相手に冷静にならせる隙を与えない。

「そんなもの知る必要はない!」

「…いい加減にしろよ?貴様に民の現状を見せてやろうか?城下の街は活気に溢れている。だがな、大通りを一歩外れればそこは貧民街だ。痩せこけた人が道の脇に座り、落ち窪んだ瞳には生気がない。

 そんな民を前にして、貴様は同じ事が言えるのか?なんなら、貴様も同じ目に遭わせてやろうか?」

 ハレイストが酷薄な笑みを浮かべる。その表情も、声音も、真剣だ。

「そ、そんな事出来る訳がないだろう!私は大臣だぞ!?」

「貴様は底なしの馬鹿だな。王族に反旗を翻した者が大臣でいられる訳がないだろう。大義名分があるならまだしも、貴様のは私利私欲の塊だ。イライザと貴様を比べるのもおこがましい」

「っ、なら!民は何を望んでいると言うのだ!私を批判するならば、貴様の何が正しいのだ!」

 ラクサレムが吼える。その様子は崖に追い詰められた獅子。いや、獅子の皮を被った兎だ。見せ掛けだけは威勢が良く、その内心は怯えている。目の前の、今まで兎だと思っていた獅子に。

「平和」

 ハレイストはその問いに、たった一言で以って答えた。

 民が望むのは平和。繁栄を望む者もいるかもしれないが、その繁栄が苦難と犠牲の先にあるのならば、多くの民は繁栄など望まないだろう。特に戦争などは望まない。望んで身内を戦場に送り出す民はいないだろう。あるいは、自ら望んで兵士になる者もいるかもしれない。英雄になれる事を夢見て、家族を養う為に。それでも、自ら死を望む者などいない。そして、争いは犠牲に無しには成り立たない。

「だから、私は女王と取り引きをしたのだ。いや、盟約と言っても良いかもな」

「…盟約?」

「そうだ。貴様は私の何が正しいか、と言ったな?」

 ハレイストはラクサレムの言葉を繰り返し、その言葉にラクサレムは無言を以って答える。

「そんなもの知るか」

 しかし、ハレイストの答えは簡潔且つ、ラクサレムの予想の斜め上をいくものだった。

「は…?」

 拍子抜けしたラクサレムは、間抜けな声を出し、間抜けな顔をした。それは他の貴族達も同様で、皆一様に驚き間抜けな顔をしていた。

 ハレイストはそれらを気にした様子もなく続けた。

「私は別に常に正しくありたい訳ではない。偽善者になるつもりもない」

 自分が正しいと主張するのは良いだろう。だが、過信のし過ぎは身を滅ぼす。

 他人の為に己を犠牲にする?一見人想いの言葉に聞こえるが、そんなものは自己満足だ。

 他人の為、何て物はいずれ限界が来る。そして、相手に良かれと思ってやっても、相手にとっては迷惑だったりする。

 他人の為に生きるなど馬鹿げている。他人の為などと、行動を正当化する為の方便でしかない。他人の為と言っておけば、自分の気が楽になるから。

「ただ、私の理想に貴様のような輩は不要で、邪魔だ。私の目指すものは民が平和に暮らせる世だ。別に民の為だけという訳ではない、私の為でもある」

 人は他人の為よりも、自分の為になる事の方がやる気になる。当て嵌まらない人もいるだろうが、そう思う。

「争いが無くなれば仕事も減るし、城下で遊べるだろう?」

 ハレイストはそう言って楽しそうに笑う。悪戯を考えて、大人に仕掛け、それが成功したかのような笑顔。

 ハレイストにとって、城下で遊ぶ事は重要なのだ。何せ、城下には友達や知り合いが沢山いる。だが、仕事が多いと城下へ行けず、彼等とも会えない。争いが続けば、彼等のうちの何人かは徴兵されるだろ。実際、幾人かは戦場に出ている。ハレイストは彼等を失いたくなかった。全国民の為、と言われるといまいちピンと来ないが、友達や知り合いを守る為なら頑張れる。友達や知り合いがいなくなればハレイストは傷付き、悲しむ。

 だから、ハレイストは自分が傷付かない為に獣と手を組んだ。

期末テストが色んな意味で終わりましたww


と言うことで久しぶりに書いたのですが……何というか、もう駄目ですね、これ。

自分でも何がしたいか分からなくなってきましたorz

予定通りに書くとだらだらしそうなので、このまま終わりに向かおうと思います。


今暫く、この拙作にお付き合い頂けると幸いです。

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