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五十話

「…は?」

 理解していないのか、したくないのか、ルクシオンはもう一度間の抜けた声を吐き出した。他の貴族達と貴族達を囲む騎士達は驚愕の余り口が開いている。

 それを見て楽しそうにしているのは、アーノルド、ラウル、アイリス、ジルフィス、イルニス、シルヴィの七人だ。ガーラントは何時ものように無表情だったが、わずかに口元が緩んでいる。

「記憶を失った事にした方が色々と都合が良かったので」

 ハレイストはルクシオンに対して笑顔で言い切った。

「…実の兄にぐらい教えても良いんじゃないか?」

 ルクシオンは椅子の肘掛に肘を乗せ、額を押さえて沈み切った声を出した。それを聞いたアーノルドの肩が揺れる。

「兄上は隠し事は苦手でしょう?」

「……そうだな」

 ハレイストの言葉に、ルクシオンは力なく項垂れる。隠し事は苦手。ハレイストが記憶を失っていないと当時知っていたら、確実に態度に出ていただろう。そして、周りの貴族達にも知られてしまっていたはずだ。

 ルクシオンは自分の欠点を理解している。つまり、嘘がつけない事、沸点が低い事、特にハレイストに関しては。それと、貴族達の駆け引きが苦手な事。最後のは為政者にとっては致命的だ。為政者は常に誰かと駆け引きをしているようなものなのだから。

「で、都合が良かったとは?」

 立ち直ったのか、それとも開き直ったのか。とにかく、ルクシオンは顔を上げてハレイストを見た。それに、ハレイストは笑みを返す。

「何となく予想はついているのでは?」

「どうせなら本人の口から聞きたいからな」

「それも道理ですね」

 ルクシオンの言葉にハレイストは頷き、目を閉じる。

 次に目を開いた時、そこにいたのは別人。あくまでも、皆が知るハレイストとは、という意味だ。纏う空気は柔らかいものから冷たいものへ。眼光は穏やかなものから鋭いものへ。笑みを浮かべていた口元は変わらず笑みを。ただし、その笑みの質を変えて。

「まず、皆を騙していた事を謝る。だが、これは私の目的の為に必要だった事を理解してほしい」

 ハレイストは口調を変え、声音を変えて話し出した。

 その堂々とした佇まいに貴族は息を呑み、三人の大臣は笑みを零した。貴族を囲む騎士たちもわずかに口元をほころばせ、ルクシオンは一見無表情だが、驚愕の色を瞳に浮かべている。

「十年前、私は攫われてスフィアランスに置き去りにされた。そこで獣と会ったのだ」

 その言葉に、幾人かの貴族が息を呑む。ルクシオンも驚いてた。ハレイストがスフィアランスに置き去りにされた事は一部の人間しか知らない。彼ら知っているのは、ハレイストが誘拐され、発見された時には既に記憶を失っていた事だけ。

「だが、私は殺されなかった。そればかりか、私は女王に会った。獣の頂点に立つドラゴンに。

 彼女は言った。昔は確かに人間を憎んだが、今は違う、と。今は人間と和平をし、静かに暮らしたいと言った。むしろ、今は人間に感謝している、とも言った。過去に囚われていた彼女を開放したのが一人の人間だからだ。皆も知っている人物だぞ。その者の名はステリアン。第四十二代目国王、ステリアン・ヴィル・ヒューズ・アレク・オールソンだ。彼と彼女は言わば盟友だった。それを、当時の愚かな大臣達が壊したのだ。折角の機会を」

 ハレイストは最後の言葉を憎憎しげに吐き出した。当時和平が成っていれば、人々の生活はもっと豊かだったはずだ。今のように、城下に貧民が溢れる事も無かっただろう。何より、争いでの犠牲者を無くす事が出来たのに。

「っ、だが、先に手を出したのは獣だ!」

「その認識が既に間違っているのだ!」

 たまらず叫んだ貴族に、ハレイストが鋭く言い返す。睨まれた貴族は怯えた顔をし、力が抜けて椅子に座り込んだ。

 ハレイストは息をつき、激昂した事を反省しつつ気持ちを落ち着けた。ここで感情的になっても良い事等無い。駆け引きは何時も冷静に、客観的に、相手の調子に乗せられないように。

「預言者や記録者、聞く者、見届けるもの。この名前に聞き覚えのある者は多いだろう。当然だ。歴史に度々出て来る存在だからな。子供でも知っている」

 ハレイストの言葉に、怪訝な雰囲気が漂う。ハレイストが言った事は常識である。ただ、本当に存在しているのかは知らない。今までも、その名を騙った偽者が幾度も世に現れた。そんな事を言って、ハレイストは何が言いたいのか。

 誰も口を開かず、ハレイストの次の言葉を待った。

「その者から聞いた話をしてやろう。人間が偽り、事実を歪めてしまった原初の話の、本当の話を」

 それは偽者だったのでは、とは、誰も言わない。ハレイストに睨まれる事を恐れているから。そして、ハレイストの薄灰色の瞳があまりにも真剣で、嘘をついているとは思えなかったから。ハレイストの言葉に呑まれたこの場の全員は、ハレイストの話に耳を傾けた。

次の更新は比較的早く出来る予定です。

既に書いてあるものに若干手を加えるだけなので。

頑張って二、三日以内に更新したいと思います。

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