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四十九話

 ルクシオンは青褪めた二人を面白そうに眺めながら冷たい笑みを浮かべる。

「では、以前の報告をもう一度繰り返せ」

「はい。

 ラクサレム・ミト・ウィスプ男爵位大臣がコフィー男爵と密会。内容はマルディーン殿下の誘拐及び暗殺。動機は殿下が王族として相応しくないため。大義名分は亡きイライザ・タク・マクシミリアン侯爵位大臣の意思を引き継ぐ事。

 隠れ蓑としてシェルバート子爵を筆頭に据えましたが、それは形だけです。以降周囲の貴族達に声を掛け、徐々に一派を拡大。尚、両名は獣嫌い。そこで、殿下を秘密の通路を使いスフィアランスに置き去りにし、獣達に殺させる。それを城内で声高に叫び、あたかも殿下を殺されて悔しいと、という顔で獣を殲滅させようとしたようです。私にも一派に入らないかと言われたので、クライス殿下のご命令でスパイとして協力。

 先日計画を実行に移しました。今まで待っていたのは、自分の娘が結婚適齢期まで育つのを待っていたため。弟君を失って傷心の殿下に娘をあてがい権力の拡大を狙っていらようです。どちらかと言うと、こちらが真の目的でしょう」

「ご苦労」

 ガーラントが言い終えると、ルクシオンは軽く労い、ガーラントはそれに頭を下げた。

 その報告をラクサレムとコフィー、その他数十人の貴族は青褪めた顔で聞き、他の貴族は表情を驚愕の色に染めた。四人の大臣は表情を変える事無く室内を油断なく見渡し、ハレイストは何時もと同じように双眸を閉じていた。

「さて、貴様等の誤算は幾つあった?」

 ルクシオンが楽しげにラクサレムを見やる。しかし、ラクサレムは青い顔で睨むばかりで、口を開こうとはしなかった。コフィーに至っては睨む気力すらないらしい。

 ルクシオンは詰まらなさそうに溜め息を吐くと、ゆっくりと口を開いた。

「一つ、貴様等の計画が漏れていた事。

 一つ、ガーラントが味方ではなかった事。

 一つ、ハレイストが生きて帰って来た事。

 一つ、俺は貴様の娘など要らん。

 後は、貴様が無能だった事だな」

 ルクシオンは最後の言葉を嘲笑と共に吐き出した。

 そのあからさまな侮辱にも、ラクサレムは口を開かなかった。ただ、怒りか羞恥ゆえか、握られた拳が小刻みに震えていた。それを冷たく一瞥したルクシオンは室内を見回した。

「何か言い事がある奴はいるか?」

「私からもよろしいですか?」

 完全にやる気と興味を失ったルクシオンの問いに、隣から声が応じた。ルクシオンがそちらを見ると、ハレイストが薄灰色の双眸をルクシオンに向けていた。柔和な笑みを浮かべているが、ルクシオンはそんな弟に違和感を感じた。いや、どちらかと言えば、懐かしい感じだ。

「何だ?」

 自分が抱いた不思議な感情に内心首を傾げつつも、ルクシオンはハレイストに発言を許可した。

「では、私から謝罪と、それに関連して提案を」

「謝罪?」

「ええ」

 ハレイストの言葉に首を傾げたルクシオンに、ハレイストは一層笑みを深くした。

「何故私がスフィアランスに置き去りにされながら生きているのか気になりませんか?」

 それは、確かに気になる事ではあった。しかし、ルクシオンは事情を知っている。何故ハレイストが生きて帰って来たかを。例え置き去りにされたのがハレイストでなくとも、無事にブルクリードに帰ってきただろう。

 が、ハレイストの口ぶりはルクシオンの知らない何かを知っている。ルクシオンが計画を知っているとは言え、知っているのは一部だ。最終目的は知っているが、その途中経過も、首謀者も知らない。その従者でさえ見たことはない。ただ、そのような者がいると知っているだけだ。

「…話せ」

 ルクシオンが低い声で促すと、ハレイストは頷きを返した。

「さて、何から話すべきでしょうか…」

 ハレイストは顎に手を当て、思考を巡らせる。しかし、それはわずかな間だった。言う言葉など、予め決めてある。ただ、いきなり話すよりも、一度間を置いたほうが良いと思っただけだ。

「では、まず十年前の事から話しましょうか。それと、口出しは一切無用でお願いします」

 ハレイストは室内を見回し、誰も声をあげない事を了承の意ととった。最後にルクシオンを見れば、小さく頷かれた。その深緑の瞳はハレイストのみを映していた。

「私は十年前、今回と同じように誘拐され、森で見付かり記憶を失っていた。それは皆が知っている事でしょう」

 ハレイストはそこで一度言葉を切り、貴族達の反応を見る。十年前の出来事を知らない者などいない。それ以来、ハレイストはうつけになったのだから。それ以前は聡明な子供であったというのに。

「簡単に言ってしまえば、あれは演技です」

「…は?」

「演技ですよ」

 ハレイストの言葉に間抜けな声をあげたルクシオンに、ハレイストが笑顔でもう一度繰り返す。が、ルクシオンの頭はハレイストの言葉を飲み込めていない。

 それが分かったハレイストは、言葉を付け足して繰り返した。

「記憶を失ったのは演技です。実際は失っていませんよ」

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