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闇に浮かぶ紅蓮の炎  作者: 夜月 雪那
第二王子
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第四話

 暗い夜の闇の中、光輝く城。そこでは、夜会が開かれていた。着飾り、自慢話をする貴族。美しく着飾った令嬢。誰もが羨むような夢の光景だ。

 そんな中、ハレイストは辟易していた。周りから突き刺さる侮蔑の混じった視線。早く部屋に帰りたいが、ダンスを一曲も踊らないのは不味い。その容姿ゆえ、相手に困る事は無いのだが。

「せめて兄上が居てくれたら…」

 会場の壁に凭れ掛かりながらハレイストが呟く。微かに俯き、憂鬱そうな雰囲気は令嬢達の溜め息を誘う。令嬢達にとっては、ハレイストに関する噂等どうでも良かった。ようは見目が良ければいいのだ。もしくは家柄。ハレイストは王子としては無能であっても、年頃の令嬢達にとっては超優良物件だ。ハレイストに申し込まれた縁談は数知れず。中には十歳の子供や二十後半の女性も居た。全て断ったが。

「ハレイスト様、踊らなくてよろしいのですか?せめて二、三曲は踊って下さい。相手は誰でもよろしいのですから」

「エレン。君は踊らないのかい?」

「主を差し置いて踊る事など出来ませんわ」

「気にしなくて良いのに」

「ハレイスト様はもっと気にして下さいませ。だから貴族の方々に良いように言われるのですよ」

 ハレイストに近づいてきた少女が口を尖らせる。緩く波打った栗色の髪を一つに纏めた少女は人目を引く容姿をしている。一言で言えば、美少女である。可憐な容姿をしているが、髪と同じ栗色の瞳は意志の強い光を宿している。

「事実だからしょうがないんじゃない?」

「ハレイスト様!そんな事はありませんわ。貴族達の目が可笑しいのです。ハレイスト様は-」

「エレン」

 少女、エレン・イルミネイトの言葉をハレイストが強い口調で遮る。脳が指令を出すよりも速く、エレンは口を噤んだ。その場だけ、気温が下がったような錯覚を起こす。

「ここでは駄目だよ。今は、ね」

 ハレイストが柔らかく微笑む。人々を魅了するその笑みは、逆らう事を許さない空気を纏っていた。エレンは無意識の内に息を呑む。ハレイストが纏うのは、人の上に立つ物のそれだ。

「私と踊って頂けますか?麗しの姫君」

 ハレイストは笑みを深めると、右手を胸の上に置き、左手をエレンに差し出した。王子が最初に踊るのは、それなりに家柄の良い女性と決まっている。エレンはハレイストの侍女だが、大臣の一人であるイルミネイト子爵の一人娘でもある。家柄、容姿共に申し分無い。ハレイストの婚約者候補の中でも有力な部類だ。

「喜んで」

 エレンは深く息を吸うと、花が咲くような笑みを浮かべながらハレイストの手を取った。そのまま会場の中央に歩みでると、音楽が始まった。これからが、夜会の本番である。会場の貴族達の視線を一身に受けながら、二人は優雅に踊りだした。

 一曲目が終わると、他の貴族達も中央に歩み出てくる。二人の周囲は瞬く間に踊る男女で囲まれる。ハレイストとエレンは二曲目を踊り終えたところで中央から抜け出した。二人はすぐに囲まれ、それぞれ別の貴族や貴族令嬢と踊り始める。夜会はまだまだ続く、様々な思惑を孕みながら--。


「どうだった?」

「予想通りです。証拠は掴みました。これならば、他の奴らも時間の問題でしょう」

「なるべく急いでくれ、そろそろ飽きてきた」

 夜会の会場の隅、人目に付き難い場所で二人の人物が言葉を交わす。口調からして、主とその従者だろう。誰も二人の存在を気に掛けていない。

「かしこまりました。もう少し人員を増やしますか?」

 従者が言うと、主は少し考える様子を見せてから、静かに首を振る。

「いや、あまり大事にしない方が良いだろう」

「では、発破を掛けておきましょう」

 主の言葉に従者がそう返すと、主が苦笑した。

「程ほどにしておけよ、泣き付かれるのはごめんだ」

「そんな事してたんですか。…あいつらはっ」

 従者が怒りに声を荒げる。といっても、会場の人々の気を引かない程度に。

「それは良いから急げよ、もう少し下準備をしたら行動に移す」

「勿論です。私も早くこの茶番劇を終わらせたいですから」

 主が真剣声音で言うと、従者も真剣な面持ちで返す。その言葉に主は満足そうに頷くと、会場の中を見た。中央で踊っている貴族達を。

「今の第二王子殿下には早々に御退場願おうか」

「御意」

 主が楽しそうに言うと、従者は深く頭を下げた。己の唯一にして絶対的な主に、敬意と一生の忠誠を心に誓いながら。


「全く忌々しい小僧め」

「いやいや、子爵殿、彼を王位に就けて我々が導いて差し上げれば良いのですよ」

 自分より位の高い子爵に男爵は媚を売るように言う。子爵の言う小僧とは第二王子のハレイストの事だ。

「それで獣どもを一掃させるか?今の国王は争いこそすれ余りやる気が無いようだしな」

「子爵殿なら可能でしょう。とても賢くていらっしゃるのですから」

 男爵の世辞に子爵は満更でもなさそうに笑う。しかし、男爵の方は内心嘲笑っていた。男爵にとってこの子爵は隠れ蓑でしかない。自分が行っている不正が発覚しても、この子爵に責任転嫁すればいいのだ。保身の為ならば世辞等幾らでも言ってやるさ、とういのが男爵の本音だった。だからこそ、このおだてやすい子爵に取り入ったのだから。

「ふふふ、この国の最高の地位から眺める景色は絶景だろうな」

 子爵が笑う。何処から来ているのかわからない自信を漲らせて。男爵は同意する様に頷きながらも、腹の内で子爵を見下す。


こうして、夜会の夜は更けていく。煌びやかな雰囲気に暗い感情を隠して--。

ちょっと雲行きが怪しくなって来ました。次回はハレイストの兄を出す予定です。ついでに、うざったい貴族達も出します。ハレイストの公務の様子でも書こうかな…

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