四十五話
「さて、次に会うのは何処ででしょうね?」
スフィアランスからブルクリードへ続く洞窟の入り口に、ハレイストとルティーナ、ラミアとエルシオン、大勢の獣達の姿があった。サランドは争いがあるので居ない。
「願わくば、平和的に再会したいですね」
ルティーナの問いに、ハレイストが苦笑しながら答える。
「では、頑張って下さい。協力は惜しみませんよ」
「勿論。頼りにしていますよ」
この計画の結末は、ハレイストに掛かっている。ハレイストが、どうやって貴族や民を納得させるか。つまり、争いを止めさせる事を、だ。
その為に、自らを偽り、情報を集め、仲間を集めた。民に対する根回しもした。
「ラミアも、ハレイストを支えて下さいね」
「勿論です。主に仇なす輩は斬って捨てます」
ルティーナの言葉に、ラミアは笑顔で即答した。実際、ブルクリードに戻ったら、縛って放置してある誘拐犯で遊ぶのだろう。ラミアを含めた四人で。
ハレイストは心の中で誘拐犯に合掌した。奇跡的に命はあっても、廃人と化すだろう男に対して。
「そろそろ戻られた方がよろしいですよ、争いが始まる前に」
エルシオンが口を挟む。
争いが始まるのは、セオリア河が完全に干上がる正午を少し過ぎた頃。後一時間もすれば正午になる。流石にそれまでに戻らないとトーレインとエレンが心配するだろう。
「貴方の兄上の反応を見てみたいのですが、無理ですね」
「貴女が来たら大混乱が起きますよ」
残念そうに言うルティーナに、ハレイストが苦笑する。
ハレイストはルティーナにルクシオンの事を話したのだ。心配してくれる、とても優しい兄だ、と。偶に、いや、しょっちゅう行き過ぎる事はあるが。
その人物像は、ルティーナの好奇心を刺激したらしい。
「いずれ、好きなだけ会えるようになりますよ」
「それもそうですね」
ハレイストが言うと、ルティーナは嬉しそうに頷いた。その横で、エルシオンも微笑んでいる。ラミアは、誇らしげな顔をしていた。
「じゃ、行こうか、ラミア」
「はい、主」
ハレイストが言うと、ラミアは笑顔で頷いた。
「では、また近いうちに会いましょう」
「えぇ、楽しみにしていますよ」
「頑張って下さいね、ハレイスト殿」
ハレイストが言うと、ルティーナとエルシオンがそれぞれ言葉を返す。
その言葉に背を押されて、ハレイストとラミアはブルクリードへと帰って行った。
計画を実行する為に。
「今日も双方共に死傷者はなし、か」
夕方になり、セオリア河に水が戻ると、人と獣の双方は自らの領地に帰った。
人の陣地の最前、中央部でルクシオンが溜め息を吐く。それは落胆の溜め息ではなく、安堵の溜め息だ。
「良いじゃん、これも計画のうちだよ?」
その背後に控えているシルヴィが言う。
「そろそろ首謀者を教えてくれても良いだろう?」
「それも計画のうちだから駄目だな。ま、敵じゃない事は確かだ」
ルクシオンが不機嫌に言えば、ジルフィスが笑いながら却下する。
そう、ルクシオンはこの計画の首謀者を知らない。誰が人と獣、双方に死傷者が出ないようにしているのか。誰がこの国を変えようとしているのか。
知っているのは王国騎士団長と、隊長、近衛騎士団隊長と副隊長。それと、首謀者の従者だけだ。
「それは分かるが、納得いかん」
ルクシオンは肘を突いて不満げな表情をする。
生来、ルクシオンは隠し事や駆け引きが苦手だ。協力してくれるのは有り難いが、顔を見せないのは納得がいかないのだ。
「今は言えん。いずれ分かる」
ガーランドが抑揚なく言い捨てる。無礼な態度だが、これがガーランドの素だ。それに、ルクシオンが気にしていないので直す気も無い。
こういうところは兄弟で似ているのだった。
「いずれ、か」
ルクシオンは短く息を吐くと、徐に立ち上がった。
「城に帰還する。全軍に伝えよ」
「はっ」
ルクシオンがそう言うと、ジルフィス、シルヴィ、ガーランドは天幕を出て行き、帰還命令を全軍に回した。
「さて、後はお帰りを待つだけだな。情報は?」
「ちゃんと揃ってるわ。あの忌々しい爺共を城から一掃出来るわね」
青年の問いに、少女が応える。その顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。
「婆もだろ」
青年が笑いながら付け足す。
主の帰りを待ち、次の会議で行動を起こす。この時の為に、年月を費やした。
「貴方は良いわよね、最後までついていけるんだもの」
少女が忌々しげに青年を睨むと、青年は笑った。
「お前はこっちで一緒に居るべき人がいるだろう?」
「…そんな甲斐性があるかしらね、あの男に」
少女は溜め息を吐き、一人の青年の姿を脳裏に浮かべる。普段はしっかりしているくせに、恋愛事になると途端に情けなくなる。
「情けないところも好きなんだろ?」
「惚れた弱みね」
青年がからかうように言うと、少女は諦めたように息を吐いた。
「ま、全てはその時に、な」
「今は、始まりの時を待ちましょうか」
主が帰ってきて、会議の時に、行動を起こすのを。
一ヶ月もの間更新しなくてごめんなさい<(._.)>
方向性が大方決まったので、ぼちぼち更新を再開しようかと思います。
相変わらずのろま更新ですが、宜しくお願いします。




