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四十四話

「ハレイスト!」

 ルクシオンは弟の名を叫びながらハレイストの私室の扉を開け、続いて寝室の扉を開け放った。背後のフェルクートが呆れた溜め息を吐いたが、ルクシオンはそれを無視した。

「…兄上?」

 ベッドの上で半身を起こしていたハレイストが驚きながら言う。ハレイストは頭に包帯を巻いていた。 ルクシオンはハレイストの頭の包帯を見ると、顔を真っ青にしてハレイストに駆け寄った。

「だ、大丈夫か?包帯なんか巻いて…。他に怪我ないよな?」

 ルクシオンはハレイストに駆け寄ると、宙で手を無意味に彷徨わせ、ハレイストが怪我をしていないか視線を彷徨わせた。ルクシオンはその深緑の瞳に心配と焦りの色を浮かべていた。

 しかし、他に大した怪我が無い事が分かると、安堵の溜め息を吐き、ハレイストから一歩離れた。

 そして、視線を壁際に立っている少年と少女を見て首を傾げる。二人が、とても苦々しい表情をしていたからだ。何かを堪えているような表情。

 よく見ると、二人だけでなく、ルクシオンとフェルクートを除いた部屋にいる全員が同じような表情をしていた。

 何となく、部屋の雰囲気は暗く、空気が重い。

「…どうかしたのか?」

 ルクシオンが硬い声で問う。フェルクートも困惑したように瞳をゆらしている。

 その問いに、ハレイストは苦笑し、暫く誰も答えなかった。

「実は…」

 口を開いたのは、ハレイストを見た医師だった。しかし、それだけ言って、言いにくそうに言葉を濁す。その表情は苦渋に満ちていた。

「言え」

 ルクシオンは瞳を細めて医師を見据えた。

 その鋭い視線を受けた医師は、躊躇ってから再度口を開いた。

「第二王子殿下は、その、記憶を失っております」

 医師が告げた簡潔な答えに、ルクシオンの頭は真っ白になった。

「う、そ、だろ?だって、今、俺の事、兄上って―――」

「そう聞いたんです。彼等に」

 うろたえるルクシオンの言葉を遮って、ベッドの上のハレイストが言う。ハレイストは申し訳無さそうな笑みを浮かべていた。

 その笑みを見た瞬間、ルクシオンはハレイストが記憶を失ったのは本当だと、確信した。以前のハレイストならこんな表情はしない。こんな、気の弱そうな笑みは浮かべない。

 ルクシオンは愕然として、ハレイストを凝視した。そして、一歩踏み出し、ベッドに腰掛けた。

「初めまして、お前の兄のルクシオン・レン・ロウム・クライスだ。よろしく、弟」

 ルクシオンは笑みを浮かべてハレイストに自己紹介をした。

 その行動に、部屋にいた全員が驚いた。勿論、ハレイスト本人も。

 そんな周囲の反応に、ルクシオンは笑いながら言った。

「記憶を失おうがハレイストはハレイストだろ?忘れたなら思い出させるか、これからまた思い出を作るだけだ」

 ルクシオンは周囲を見回しながらそう言って、快活に笑った。それは、本心から出た言葉だった。

 ルクシオンにとって、どんなハレイストだろうが、ハレイストは大事な弟だ。例え、記憶を失って、自分の事を覚えていなくても。

「な、ハレイスト」

 ルクシオンがハレイストに視線を戻すと、ハレイストは涙を浮かべていた。それを見て、ルクシオンが慌てる。

「え、俺何か泣かせるような事言ったか?」

「いいえ」

 慌てるルクシオンを見て、ハレイストは泣きながら笑った。嬉しそうに。

「よろしく、兄上」

「…あぁ、よろしくな、ハレイスト」

 二人が笑い合っていると、その間に白く細い腕が割り込んだ。その腕は、そのままルクシオンを押しのけた。

「エレン・イルミネイトです。貴方様の侍女を務めさせて頂いております」

 壁際に居た少女、エレンはルクシオンを押しのけてハレイストに自己紹介をした。

「ハレイスト・フィス・ノエル・マルディーンです。よろしくね、エレン」

 ハレイストは苦笑しながらエレンに対して名乗る。それに対して嬉しそうな笑みを浮かべたエレンを今度はルクシオンが押しのけ、エレンが押しのけ返す。そのまま、二人は口論に発展した。

「トーレインです。貴方様の執務補佐官を務めております」

 トーレインは壁際から一歩前に踏み出し、丁寧に腰を折って名乗った。

 ハレイストも名乗ろうとしたが、それは叶わなかった。トーレインが名乗ったのを皮切りに、部屋にいた者達全員が一斉になのり始めたからだ。

 ハレイストはそれに驚きつつも、嬉しそうに応じていた。

 その後、入って来たエディンズがこの状況に驚き、事情を聞いて納得すると、自分も名乗った。

「お前の父で国王のエディンズ・ラル・ヒューズ・トゥル・トスカーだ。よろしくな、息子よ」

「よろしくお願いします、父上。陛下と呼んだ方が?」

 ハレイストが首を傾げると、エディンズは首を横に振った。

「公式な場でなければ父上で構わぬ」

「では、父上で」

 そう言って、エディンズとハレイストは笑い合った。

 こうして、記憶を失くしたハレイストは、再出発をしたのだ。

やっと追憶の章が終わりました…!

記憶喪失のハレイスト。こうして愚鈍な王子の出来上がり、です。

そして、ルクシオンはどこまで行ってもルクシオンでした。エレンもですねww


さて、次から新章に入ります。

が、ただでさえ遅い更新が更に遅くなると思います。

理由は、この先の展開を迷っているからです。展開をしっかり考えてから更新したいと思います。


此処まで付き合って頂き、ありがとうございました。

これからも少しでも楽しんでいただけると幸いです。

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