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四十三話

「申し開きがあれば聞こうか、イライザ・タク・マクシミリアン」

 低い声が威圧的に言う。

 玉座に座るのはブルクリード王国第八十一代目国王、エディンズ・ラル・ヒューズ・トゥル・トスカーナ。ハレイストとルクシオンの実の父だ。妃は一人もいない。二人いたが、つい最近亡くなった。その頃から、あまり人前に姿を出さなくなったのだ。

「何もございません、陛下」

 兵に両手を後ろでに縛られ、膝を着いた格好でイライザが答える。その声音は不思議なくらいに穏やかだ。

「理由を聞こうか?ハレイストを誘拐した理由を。それと、居場所を」

 エディンズのその言葉に、イライザは笑みを浮かべた。

「殿下はいずれ、内乱の火種となります。それを防ぐ為にございますよ。居場所は、言っても無駄でしょう」

 イライザは笑みを浮かべたまま答えた。そこには、後悔も、何かを達成した喜びもない。

「何故」

 エディンズは数秒の沈黙の後、短く言葉を発した。言葉は短いが、イライザは意味を理解した。居場所を言わない理由ではなく、何故争いの火種になるか、と言いたいのだろう。

 国王は、私的な感情を持ってはならない。少なくとも、公の場では。

「ハレイスト殿下は、いずれこの国に転機をもたらします。それが吉と出るか凶と出るか、それは分かりません」

「国は、人は時と共に移ろい変わり行く。それは避けられぬ」

 イライザの言葉に、エディンズは静かに返す。瞳には何の色も浮かんでいないが、声はどこか悲しそうだった。

 エディンズの斜め後ろに立つルクシオンは冷たい目でイライザを見下ろしていた。その体には力が込められている。笑みを浮かべるイライザに対する怒りを抑える為に。

「内乱となるかもしれないのですよ?」

「その時はその時だ。今は、その時ではない」

 念を押すように言うイライザに、エディンズは興味なさそうに答える。実際、未来の、かもしれない、などという話に興味はなかった。大切なのは今だ。今をどうにかしなければ未来などない。今あってこその未来だ。

「それに、あれに人を殺すなど出来ぬ」

 エディンズは笑う。ハレイストは、自分の為と言って貴族達が誰かを殺そうとすれば、必ず止めるだろう。

「…その認識が間違っていない事を願います」

 イライザは溜め息と共に言葉を吐き出した。

 エディンズは興味のないものにはとことん興味を示さない。興味のあるものには全力を注ぐが、そうでないものは頭の片隅にも置かない。

「それに―――」

 エディンズは何かを呟いたが、イライザも、背後に立つルクシオンにも聞き取る事は出来なかった。

 ルクシオンが内心で首を傾げた時、扉の外が騒がしくなった。幾人かの慌しい足音がする。それは、段々近付いて来ていた。

 外で制止する声と、それに怒鳴り返している声がする。だが、重厚な扉は音は通しても、言葉は通さない。

「何事だ」

 エディンズが声を上げると、制止を振り切ったらしい人物が扉を勢い良く開け放ち、大股で入って来た。入って来たのは、王国騎士団長のフェルクートだった。何時もは穏やかな雰囲気をしている彼は、珍しく慌てていた。

「発言をお許し下さい、陛下」

 フェルクートはエディンズの前まで来ると、片足を立てて膝を着いた。

「申せ」

「ハレイスト第二王子殿下が近くの森で意識がない状態で見付かりました。今は自室にて休んでおられます。もうじき目を覚ます、との事です」

 エディンズが短く言うと、フェルクートは早口で報告する。

 その言葉を聞き、その場にいた貴族や大臣達の表情に驚きと安堵が浮かぶ。中でも、イライザの驚きようと、ルクシオンの安堵の表情が際立っていた。

 ルクシオンは直ぐにでもハレイストの元に行きたい思いだったが、今は国王による尋問中だ。

「行ってやれ。儂は後から行く」

「っ。失礼します」

 ルクシオンは一礼すると、フェルクートを伴って駆け足で出て行った。

 それを見送ったエディンズは、茫然としているイライザに笑いかけた。皮肉げな笑みを。

「だ、そうだ。無駄ではなかったらしいぞ?我が愚息は帰って来た。いや、見付かった、と言うべきか」

 エディンズは楽しそうに笑う。ハレイストが無事に帰って来るとは思っていなかったらしい。それは、イライザにも言える事だった。

 エディンズは知らないが、イライザがハレイストを置いてくるように言ったのはスフィアランスだ。依頼した彼等が秘密の通路を知っているというから。

 それに、ハレイストが消えたのは昨日の夕方。既に丸一日経っている。敵対している国に置き去りにされて、何故無事でいるのか。

 いや、気を失っていたのだから、無事とは言い切れないかもしれない。それでも、殺されていないのだ。それは、何故か。

「未来の希望となる為、か」

 そうだと良い。イライザは小さく呟きながら思った。

「これ以上言う事はあるか、イライザ・タク・マクシミリアン」

 エディンズが俯くイライザに言う。イライザはそれに対して無言で首を振った。

「連れて行け」

 エディンズはイライザを抑えている兵士に命じた。行く先は地下牢。その先に待っているのは極刑だ。

 だが、イライザは不思議と怖くなかった。死ぬ前に、未来への希望を見たからだ。それを知るのは今の所本人を除いてイライザのみ。少なくとも、この国では。

 エディンズはイライザが連れて行かれるのを最後まで見届ける事なく立ち上がり、足早に部屋を後にした。

あれ?おかしいな、終わらなかった…orz

すみません、追憶の章、もう一話お付き合い下さい。

次は終わらせます!    …………多分


誤字・脱字・矛盾点などありましたら教えて頂けると嬉しいです。

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