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三十八話

「殿下、犯人の情報が入りました」

 近衛には普段どおりに仕事をしているように言い付けたルクシオンは、報告を待つ為に執務室に向かっていた。そこに、頭上から声が掛かった。その声の主は、ルクシオンの影であるシェリアのものだった。

「報告」

 ルクシオンは歩みを止めずに報告を促す。

「城下のシザーズの酒場にて約二時間後に依頼主から犯人達が報酬を受け取るようです。犯人達は城下である程度知名度のあるアローズと言う集団です。依頼主は分かっていません。が、恐らく候爵位大臣のイライザ・タク・マクシミリアンかと思われます」

 シェリアの声はルクシオンと付かず離れずで追って来た。

「レインズ達に偵察に行かせて来い。俺はハレイストの部屋にいる」

「御意」

 ルクシオンは行き先をハレイストに私室に変更した。犯人が見付かったのだ、公務をする気にはなれない。

 それに、ハレイストの私室で少しでも早く情報を欲しがっている者が二人いる。犯人達の情報を教えれば暴走しそうだが、抑えれば何とかなるだおろう。

 それよりも、情報を黙っていれば、後が怖い。精神的に立ち直れなくなりそうだ。

 ルクシオンはこれから向かう部屋で落ち着き無く過ごしているであろう二人の姿を思い浮かべて苦笑を浮かべる。

 犯人達の目星が付いた。後は捕まえるだけ。それは大して苦労しないだろう。

 ただし、犯人達には自分達の犯した罪の重さをしっかりと認識してもらう。それを楽しみにしているルクシオンは、明るい事を意識的に考えるようにしていた。

 でなければ、ハレイストが心配で今すぐ城を飛び出してしまいそうだ。そんな事は現実には出来ないが。

「…急ぐか」

 ルクシオンは小さく呟き、歩みを速めた。



 洞窟から出たハレイストとレドラは森の中を歩いていた。木の陰から、ハレイストを伺う獣達もいる。興味はあるが、人間が怖いのだろう。怖いけど、興味がある。怖いもの見たさ、と言うやつだ。

 ハレイストは笑みを浮かべたまま先導するレドラに着いて行く。

 その後ろを、一定の距離を開けて獣達が行く。

 一種の行列だ。先頭と後方の間が大分あるが。

 やがて、レドラは一本の木の前で立ち止まった。太く大きい立派な木は、長い年月を感じさせた。レドラは、上を向いて声を張り上げた。

「カテリ婆さん、いるか?」

 釣られるようにしてハレイストも木を見上げる。が、獣の姿は見えない。

 ハレイストは落胆した気分を味わいつつ、レドラに話しかけようとした。その時、頭上からしわがれた声が聞こえた。

「何の用じゃ、レドラ坊や」

 上を見ると、一羽のトリが枝に止まっていた。あれは本に載っていたフクロウと言う獣だろうか、とハレイストは思った。

「用があるのは俺じゃない」

 レドラは首を振り、ハレイストを視線で促す。

「初めまして、ハレイスト・フィス・ノエル・マルディーンです」

 ハレイストはレドラより一歩前に出ると、フクロウに向かって丁寧に一礼する。

 敢えてフルネームで言ったのは、このフクロウには何もかも知られているような気がしたからだ。根拠は無い。ただ、何となくそう思った。

 そこで、フクロウは初めてハレイストを見た。そして、嬉しそうに笑った。

「やっと来たのかい、ハル坊や。待って居ったよ、お主が生を受けた十年前からずっと、の」

「ずっと…?」

 ハレイストが驚愕の表情を浮かべる。今のフクロウの言葉を信じるならば、このフクロウはハレイストが此処に来るのを知っていたかのようだ。

「私はカテリじゃ。カテリ婆さんと呼ばれておる」

 カテリはハレイストの反応に満足そうに笑いながら名乗った。

「時として、予言者、記録者とも呼ばれておる。他には聞く者、見届ける者、とかの。あり過ぎて忘れてしもうたが」

 カテリはからからと笑う。

 ハレイストは、カテリについて知りたくなった。予言者とは、未来を何処まで見通せるのか。何を聞き、何を見届けるのか。ハレイストの好奇心は大いに刺激された。

「未来は不確かじゃ。些細な事で変化する。じゃが、お主が此処に来る事は決まっておった。何時来るかは分からなかったがの」

 カテリはそう言うと、真剣味を含んだ目でハレイストを射抜いた。

「未来を、知りたいかい?暫定的でしかないがの」

 ハレイストは反射的に頷きそうになったが、ルティーナと交わした言葉を思い出し、首を横に振った。

「未来は、自らの手で切り開きます。私が、未来を知る必要はありません」

 不確かな予言を頼る気はない。ただ、好奇心がくすぐられただけだ。

「それを聞いて安心したよ。

 では、話そうかの。この争いの始まりの物語を」

 カテリは嬉しそうに笑うと、ハレイストに言った。ハレイストが聞きたい事も知っているらしい。つまり、人と獣の争いの発端である、トレニアル戦争の真実を。人間に都合の良いように解釈された物ではなく、客観的な事実を。

「お願いします」

 ハレイストは頭を下げた。驚いてはいない。何故聞きたいことを知っているのか、という質問はしない。このフクロウは全てを知っている。過去も、現在も、未来も。

「私は記録者。過去の出来事を全て記録する者。

 私は聞く者。空気の、土の、水の、火の、全ての声を聞く者。

 私は見届ける者。この世界の行く末を見届ける為に存在する者。

 話してやろう、この争いの、原初の事実を」

 カテリはゆっくりと語り始めた。

 辺りは静まりかえり、カテリの語りだけが響いていた。

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