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三十三話

 意識を奪われ、そう経たないうちに意識を浮上させたラミアは直ぐに周囲を見回した。が、自分の主の姿は無く、男達の姿も無い。

 今から探しても手遅れだ。そう判断したラミアは舌打ちをすると、城に向かって駆け出した。森の中を風のように駆け抜けて行く。その心中は、主の安否に対する不安と、自分の不甲斐無さに対する怒りだった。

 城着いたラミアは、誰にも気付かれないように、姿を見られなように目的の場所へ急ぐ。この時間なら、自室にいるはずだ、と踏んで。それも、一人で書類と格闘しているだろう。とても嫌そうな顔で。

 案の定、ラミアが目的の部屋に着いた時、その部屋の主は書類と格闘していた。嫌そうな、面倒くさそうな雰囲気を隠そうともせずに書類に目を通している。

 ラミアは部屋の主の前に姿を見せた。

 急に現れたラミアに、部屋の主、ルクシオンは驚きを隠そうともせずに目を見開いた。まぁ、その驚きも尤もではある。

 王族専属の護衛である影と呼ばれる者達は、己の主以外に姿を見せる事は余り無い。黒髪に黒い瞳に漆黒の服。そして、表には出て来ない。だから、影。

「無礼をお許し下さい、クライス殿下」

 驚いているルクシオンに構わず、ラミアは頭を下げた。しかし、その声音は何処か慇懃だ。影は主にしか敬意を払わない。幼い頃から主に絶対の忠誠を誓い、それ以外の者に心を許すな、と教えられる。影が、主を裏切る事の無いように。

「構わん。それで、用件は何だ?」

「主が誘拐されました。行方は分かりません。分かるのは攫って行った男達の人相だけです」

 ルクシオンの問いに、ラミアは簡潔に答えた。

 その言葉を聞いた瞬間、ルクシオンは椅子を蹴倒して立ち上がった。

「レインズ!レインズは居るか!」

 ルクシオンが叫ぶと、ラミアの隣に一人の男が現れた。最初からそこに居たかのような彼はレインズ・アスト。灰色の髪と瞳。何処か印象の薄い彼は王族専属の諜報部隊隊長だ。

「ハレイストが何者かに攫われた。急ぎ情報を集めろ。それと、騎士団長を呼んで来い」

「御意」

 ルクシオンの言葉にレインズは短く了承の意を返すと、その場から姿を消した。

「ラミアは人相を書いてくれ。それを元に犯人共を捜す」

 ルクシオンが間髪入れずに放った言葉にラミアは頷くと、ルクシオンが差し出した紙とペンを受け取り、覚えている限りで男達の人相を手早く描いていく。

 それを見ているルクシオンの頭の中では、二つの事項が同時に考えられていた。

 一つは、ハレイストをどうやって捜すか。これは犯人達を見つけなければどうしようもないだろう。

 もう一つは、犯人達の処遇。捕まえた場合、どうするか。それを考えるルクシオンの顔は冷たい笑みを浮かべていた。

「殿下、その笑みはお止め下さい。それを見た大半の者が逃げ出しますよ。私の部下が逃げたらどうしてくれるんですか」

 そう言って笑いながら入ってきたのは王国騎士団長を務めるフェルクート・ランディアだ。その後ろには、一人の騎士が立っていた。その騎士はルクシオンの笑みを見て顔を真っ青にしていた。

 ルクシオンはその騎士を見て笑みを引っ込めると、早速本題に入った。

「用件は理解しているか?」

「第二王子殿下が誘拐された」

 ルクシオンの問いに、フェルクートは簡潔に答えた。ルクシオンは頷いたが、騎士は驚いた顔をした。聞いていなかったらしい。それでも、二人の会話を邪魔する気は無いようだ。

「騎士団には諜報部隊と連絡を取りながら城下街でハレイストを捜せ。犯人達は殺さずに連れて来いよ」

 ルクシオンは凄絶な笑みを浮かべた。

 だからそれ止めろ、とフェルクートは言いたくなったが、言わなかった。今はそれどころではない。

「何か手掛かりは?」

 何の手掛かりもなく城下街を捜すのは無謀過ぎる。既に王都から出て別の領に行っている可能性もある。捜索範囲が広過ぎて人員が足りない。

 フェルクートの問いに、ルクシオンは黙って右の手の平を宙に向けて開いた。

 その行動にフェルクートと騎士が首を傾げていると、ルクシオンの手の平に向けて、天井から紙が数枚落ちてきた。ご丁寧に重しまでしてある。

「手掛かりはこれだ」

 驚いている二人を他所に、ルクシオンは紙をフェルクートに手渡した。その紙には、男達の人相が描かれていた。特徴が良く捉えられており、手配書としては上出来だ。

 ちなみに、それを書いた本人の姿は何時の間にか消えていた。しかし、紙が天井から落ちて来たという事は、居なくなった訳ではないらしい。

「これなら捜せそうですね」

 一枚一枚確認したフェルクートが満足そうに頷く。紙が何処から現れたかは気にしない事にしたらしい。

「頼んだ。レインズ達も情報収集に当たっている。直ぐに捜索を開始しろ。ハレイストの不在が不審に思われる前に」

 ハレイストはよく城下に出掛ける。一日居ないだけなら周りも不思議には思わないだろう。

 だが、数日続けば流石に不審に思われる。厄介事はなるべく避けたい。何より、ルクシオンは弟が貴族達に責められるのではないか、と心配だった。

「了解しました」

 そう言って一礼してから出て行こうとしたフェルクートと騎士の男にルクシオンは声を掛けた。

「レインズにもその絵を見せろよ」

「勿論ですよ」

 フェルクートはそう言って笑うと、足早に部屋を出て行った。

 二人と入れ違いに、ルクシオンの前に二人の人影が現れた。二人とも黒髪に黒の瞳に漆黒の服装。顔立ちも似ている。

「殿下、此度は私が力不足な為に、申し訳ありません」

 ラミアはそう言って深く頭を下げる。拳を握る手は微かに震え、声音は今にも泣きそうだった。影と言っても、まだ八歳の少女。それでも、ラミアにそんな弱音は許されない。王族を守る立場なのだから。

 その隣に立つ女性はラミアを無言で見下ろしている。彼女はシェリア・ストリクス、ラミアの母親だ。シェリアはルクシオンの影を務めている。

「主、お傍を離れてもよろしいですか?」

 ラミアから視線を外したシェリアは、ルクシオンにそう尋ねた。その声はラミア以上に抑揚に欠けている。また、表情も全くの無表情だ。実の娘が頭を下げているのを見ても、表情一つ動かさない。

「あぁ。弟を捜してくれ」

 ルクシオンが頷くと、シェリアは一礼してラミアと共に姿を消した。これから二人で捜しに行くのだろう。

 諜報部隊、王国騎士団、影。ブルクリード王国の守護を司る近衛以外の全ての組織がハレイストを捜し始めた。近衛には別の事をやってもらわなけらばならない。

 ルクシオンは近衛の訓練場に向かって歩き出した。今日は訓練場の方にある執務室で書類を片付けているであろう人物を訪ねる為に。

「俺は、黒幕捜し、だな」

 ハレイストを攫ったであろう男達を唆したか、依頼した馬鹿を捜さなければならない。近衛に協力してもらいながら。

 ルクシオンも城下へ行ってハレイストを捜したいが、自分の身分が、年齢が、それを許さない。

「覚悟しろよ、糞共め」

 ルクシオンは犯人達に悪態をつきながら、廊下を進んで行った。

今回は微妙に長くなりました。

フェルクートはジルフィスの一代前の騎士団長です。

今の所過去編以降の登場予定はありません。


お気に入り登録してくれた方、ありがとうございます!

これからも頑張っていきたいと思います。

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