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三十二話

「つまり、貴方は見知らぬ男に意識を奪われ、気付いたら此処にいた。一緒にいた少女の無事は分からない、と?」

 ハレイストの話しを静かに聞いていたルティーナは、一通り聞き終えると、ハレイストのそう尋ねた。深い青の瞳は真っ直ぐにハレイストを射抜く。

「はい」

 ルティーナが言った言葉にハレイストは頷く。

 そのまま何かを考え込むように黙ったルティーナを、ハレイストは静かに観察し始めた。

 今は少し伏せられた瞳は全てを見抜くかのように澄み切っていた。ハレイストの周りにいる貴族達のように濁った瞳とは違う。理知的で落ち着いた声音も、下卑たあの声とは違う。

 ハレイストからすれば、獣達を侮辱する彼等の方が侮辱されるべきだと思えた。

「質問があるのですが、よろしいですか?」

 ハレイストは思考に耽るルティーナに恐る恐る声を掛けた。

 その声に伏せていた目をハレイストに向けたルティーナは口角を上げて淡く微笑んだ。

「敬語は要りませんよ。堅苦しいのは嫌いです」

 温かいその微笑に、ハレイストは詰めていた息を吐き出した。思考を中断させてしまい、怒られるのかと思ったが、そうはならなかった事に安堵した。

「それで、質問とは?」

 ルティーナはそんなハレイストを微笑ましく思いながら尋ねた。

「何故人と獣は争うですか?」

 ハレイストは敬語を止める事無く、単刀直入に尋ねた。ルティーナに、トディスにしたものと同じ質問をした。知りたいのならば、知っている者に聞け、と言うトディスの言葉に従って。

「…貴方はどうしてだと思いますか?」

 その質問にルティーナは一度、ゆっくり瞬きをすると、逆に尋ねた。その瞳には、試すような色が浮かんでいた。ハレイストには分からない程上手く隠されているが。

 逆に尋ねられたハレイストはトディスに尋ねられた時と同じように真剣に悩み始めた。ルティーナとエルーシオ、サランドは黙ってそれを見詰める。

 暫く悩んだハレイストは、下を向いたまま口を開いた。

「獣如きが人間に刃向かうのは我慢ならない。獣は血に飢え、争いを望んでいるから、人間は応戦するしかない」

「っそれは!」

 小さく呟いたハレイストに、サランドは抗議の声を挙げたが、ルティーナの見据えられ、口を閉じた。ルティーナはそれを見届けると、視線をハレイストに戻した。言葉の続きを待つかのように。

「周りの大人達は、貴族達は皆そう言います」

 ハレイストはなおも俯いたまま言葉を続けた。

「ですが」

 ハレイストはその言葉と同時に顔を上げ、ルティーナの瞳を真っ直ぐに見詰めた。

「私はそうは思いません。少なくとも、私から見た貴方方は優しく、美しい。私からすれば、そう言う貴族達の方が余程血に飢えている」

 ハレイストが力強く言った言葉に、サランドは驚き、エルーシオは悲しそうな表情をした。サランドは十歳の子供が発した言葉の力強さに。エルーシオはたった十歳の子供がそんな事を思ってしまった事に対しての感情だ。

 しかし、ルティーナは静かにハレイストを見下ろしていた。

「そこで、聞きます。貴女方は、争いを望んでいますか?」

「いいえ。私達は静かに暮らしたいだけです。人の子が安寧を乱すから、応じているだけ」

 ルティーナの静かな答えに、ハレイストは言葉を続けた。

「では、和平を申し入れたら、受けてくれますか?」

 ルティーナの深い青の瞳が細められる。しかし、ハレイストは怯える風でもなく、返事を待つ。

「約六百年前の出来事を知っていますか?」

 ルティーナの抑揚のない声音にハレイストは下を向いた。上から鋭い視線が降り注ぐ。それは、背後からも同様だ。

 言って良いのか分からない、だが、自分の思いを伝えるなら言うべきだろう。それにより、この事態がどう転ぼうと。

 ハレイストはそう思い、気を落ち着ける為に深呼吸をする。そして、再び顔を上げ、言葉を紡いだ、人が知らぬはずの、その名を。

「…知っています、ルティーナ・ラフィーリア様」

 瞬間、背後から殺気がハレイストを襲う。今にも飛び掛って来そうだ。その隣では、笑みを浮かべたまま穏やかな雰囲気を放っている。対照的な反応だ。

「何故私の名を知っているのですか?」

 高く澄んだルティーナの声に微かな警戒が混じる。

「ステリアン・ヴィル・ヒューズ・アレク・オールソン様の手記を片っ端から読みましたから」

 ハレイストはズボンのポッケに手を入れ、一冊の古びた手帳を取り出す。その手帳は長い年月を経ているだろうに、紙が黄ばんでいる以外傷んでいる所は無かった。

その手帳を、ハレイストはルティーナに見せるように掲げた。何の変哲もない、一冊の手帳。

 かつて獣達との争いを平和的な方法で解決しようとした唯一の国王。ハレイストが憧れる人。唯一、獣と友と呼べる関係になった男。民に好かれ、貴族達に疎まれた孤独な王。

「では、その出来事を知ってなお、それを言いますか?」

 ルティーナはその手帳を一瞥すると、ハレイストに視線を戻した。その瞳から、警戒の色は消えていない。

「言います。私が思うに、この争いは無意味ですから」

 ハレイストは強い口調で言い切った。

言葉遊び(?)に入れませんでした…


そういえば、城で兄の様子を書いていなかったので、次はラミアが城に戻った直後の話しを書こうと思います。

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