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三十話

 ハレイストが意識を取り戻した時、最初に感じた感覚は冷たさだった。左半身が冷たくて硬い物に触れている。

「起きたか、人の子よ」

 ハレイストがぼんやりとしていると、頭上から低い声が響いた。その声は周囲に反響する。

「サランド、暫くそっとしてあげてください。大丈夫ですか?」

 最初の声とは対照的な穏やかな声がたしなめる。後半はハレイストに向かって尋ねられた。

 ハレイストは自分が尋ねられている事を数秒掛けて理解すると、答える前に取り敢えず地面から体を起こした。

「多分大丈夫だと」

 ハレイストの言葉はそこで途切れた。目の前の光景が信じられなかったからだ。

 まず、ハレイストが居る場所。見た事も無い洞窟。しかも広い。

 次に、声を発した人物。いや、人物、と言うのは適切ではない。ハレイストの視界に映っているのはクロヒョウとウサギなのだから。

 ハレイストは中途半端に体を起こしたまま動きを止めた。瞳に驚愕の色を浮かべながら目の前の獣を凝視する。

「どうかなさいましたかな?」

 自分と隣に居るクロヒョウを見て固まるハレイストにウサギは首を傾げる。クロヒョウも不思議そうな表情をしていた。

 獣って意外に表情豊かなんだな、とハレイストは若干現実逃避をした。

「あの…?」

「え、あ、大丈夫です」

 怪訝そうに目を細めたウサギに対して、やっと我に返ったハレイストは慌てて返事をした。

「そうですか、それは良かった」

 ウサギはほっとしたように息を吐き出した。隣のクロヒョウは無表情になった。

 しかし、ハレイストの思考は混乱の極みにあった。

 何故目の前に獣が居るのか。そもそも何故自分は此処に居るのか。男達は自分をどうしたかったのか。ラミアは無事なのだろうか。

「説明しましょうか?」

 ハレイストが混乱しているのが分かったのか、ウサギがそう提案する。ハレイストはありがたくその申し出を受けた。ウサギだろうが何だろうが、とりあえず状況を理解したい。憧れの獣と話してみたいし、聞きたい事もある。

「では、自己紹介からいきましょうかの。私はエルーシオ、女王陛下の側近を務めております」

 エルーシオと名乗ったウサギは礼儀正しく頭を下げた。顔を上げると視線を隣にやり、クロヒョウ自己紹介を促した。

「サランドだ。同じく側近をしている」

 サランドと名乗ったクロヒョウは言葉に少なに言うと、ハレイストに背を向けて歩き去った。エルーシオはハレイストに笑顔を向けたままだ。

「始めまして、ハレイスト・フィス・ノエル・マルディーンです」

 ハレイストも名を名乗った。最初は偽名を使おうかとも思ったが、相手が礼儀正しく接してくれているのだから、こちらも礼儀正しくするのが筋だろうと思い、やめた。それに、ハレイストには彼等は自分を傷付けないだろう、と言う確信めいたものがあった。

 そもそも、殺すだけなら意識の無いうちにやってしまえば良いのだから。

「存じておりますよ。正直に名乗るとは流石に思いませんでしたがね」

 エルーシオが笑みを零しながら言う。

 ハレイストはエルーシオの言葉に驚いた。

「知っていたんですか?」

 ハレイストにまた一つ疑問が増えた。何故、王子と分かってたのに生かしておいたのか。せめて拘束しておけば交渉材料に使えただろうに。そもそも、何故ハレイストが王子だと知っているのか。

「我々の諜報部隊は優秀ですからな」

 ハレイストが不思議そうにしているのを表情から読み取ったエルーシオが意味深に笑いながら言う。

 ハレイストはエルーシオの言う諜報部隊に興味を持ったが、尋ねる事はしなかった。恐らく答えてくれないだろうし、何故か笑顔が怖かった。一見穏やかなのに、怖い。

「と、それより、現状の説明でしたな」

 エルーシオが片手で拳を作り、もう片方の手の平を叩く。知的な雰囲気を醸し出していようが何だろうが、ウサギがその仕草をするととても可愛い。ハレイストはエルーシオの白くて柔らかそうな毛を無性に撫でたくなたった。勿論、理性で何とか押し止めたが。

「まず、此処が何処かお分かりですかな?」

「スフィアランス、ですか?」

 エルーシオの問いにハレイストが恐る恐る答えると、エルーシオは満足そうに頷いた。

「その通りです。その中でも此処は国の中枢部分です。まぁ、陛下の側近が居る時点で分かるとは思いますが」

 エルーシオがハレイストをちらりと見たので、ハレイストは理解している、と言うように頷く。

「見回りをしていた兵が貴方を発見したらしく、指示を仰ぐために此処に連れて来たのです。そこで、貴方が第二王子だと気付いたので、そのまま保護したのですよ。が、移動させる前に目を覚まされたので、この状況です」

 申し訳なさそうにいうエルーシオに、ハレイストは気にしないで下さい、と言うように笑顔を向けた。殺されても文句の言えない立場だ。人間は過去に獣を虐げ、今も争いを仕掛けているのだから。

「僕はどうなるんでしょう?」

「取り敢えず、女王陛下にお会いして頂きましょうかな」

こんばんわ!

まずはエルーシオとサランド登場です。

次はルティーナ辺りかな?

ハレイストが誘拐されて、兄が城でどうしているかも書きたいな~、と思っています。

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