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二十九話

「面白い二人組みだったな。え~と、確か茜色の髪の方がイーダンで銀色の髪の方がラグリアだったかな?で、ギルの部下」

 ハレイストは大通りを歩きながら誰にも聞こえないように呟いた。

「援助が決まったら実行はあの二人に任せようかな、楽しそうだし」

 ハレイストはあの二人が食事を配りながら先程のように喧嘩をしている光景を思い浮かべて笑いを零した。是非一度見に行こう、と心に決めて。絶対面白いだろうな、というある種の確信と共に。

 その後も、ハレイストは街をあても無く歩いた。

 辺りを飛び交う店主の威勢の良い声。店主に値切るように催促している買い物客。道端で世間話に華を咲かせる女性達。辺りを走り回るハレイストと同い年ぐらいの子供達。

「…兄上に久しぶりにお土産でも買おうかな。お小遣いは溜まる一方だし」

 ハレイストは子供達から視線を外すと、大通りに出ている様々な店を眺めた。

 が、これといって良さそうな物が無い。というか、ハレイストの身長では周りの大人達に遮られて店が良く見えない。

 今は丁度昼時、昼食の為に食材を買い求める客で大通りはごった返している。今お土産を探すのは無理そうだ。せめてもう少し経ってから、人が少なくなってからの方が良いだろう。

 そう判断したハレイストは大通りを外れ、貧民街とは逆の方向へ歩き出した。向かう先は王都の端、大陸の端、海に面した場所だ。

 ハレイストはそこで静かに海を眺めるのが好きだった。何処までも広がる青い海と、遥か彼方で海と空が混じっている景色を見るのが。時折、近くを魚が通ったする。何故か魚はトレニアルの影響を受けず、人語を理解する事は無く、人語を話す事も無かった。

 何故魚達が影響を受けなかったのか、それは古代の技術が失われた今となっては誰も解明出来ない謎だ。そもそも、解明しようとする人間が居ないが。

 ハレイストは一人黙々と歩いた。

 暫くすると、波の音が聞こえてきた。緩く一定のリズムを刻むその音は、耳に心地よい。

 その音を耳にしたハレイストの歩みは益々速くなる。最後には駆け出していた。ハレイストの耳には、波の音と自分が踏みしめる草の音しか聞こえていない。他の音は意識から一切合切排除された。

 そして、急に視界が開け、眼前に一面の青が広がった。

「わぁ…」

 視界を覆い尽くす海の青に、ハレイストは感嘆の溜め息を吐いた。穏やかな波は寄せては引き、水平線は遥か彼方だ。水平線には、小さな小さな黒い点が幾つか点在している。荒廃してしまった他の大陸だ。

 ハレイストは行ってみたいと思ったが、海を渡る術が無い。船というのを造れば海を渡れるらしいが、造り方の書いてある本は城には無かった。

 ハレイストは久しぶりに見る海に見入った。

 だから、気付かなかった、背後から誰かが近づいて来た事に。

「何の用だ」

 ハレイストの背後で少女の冷めた声がした。

 不思議に思ったハレイストが振り返ると、漆黒に身を包んだ漆黒の少女が数人の男と対峙していた。数人の男達は全員長剣を構え、対峙する少女も剣を構えている。

「何の用だ、だと?決まってんだろ、お前の後ろの王子に用があるんだよ」

 男達の一人がニヤニヤと剣の切っ先を揺らしながら言う。他の男達も同じ笑みを浮かべていた。

「主には触れさせません」

 男達と対峙している少女、ラミアが冷たく言い放つ。ラミアは王族を守る影としての教育を幼い頃から受けている。相手が一人ならば倒せるだろう。

 しかし、彼女はまだ八歳の少女だ。しかも、相手は大柄で屈強そうな男達。ラミアでは敵わないだろう。ハレイストは静かに隠し持っていた短剣を構えた。

「ははは、餓鬼が悪足掻きか?」

 男が声を立てて笑う。嘲りを含む笑いが男達から漏れる。

「せいぜい楽しませてくれ」

 一人の男の言葉を合図に、男達が地を蹴った。

 上から振り下ろされる剣をラミアは辛うじて自分の剣で受け止めた。男は身長差を生かして剣を交えたまま腕に力を込める。それに耐え切れる程の力が八歳の少女にある訳も無く、ラミアは膝を着いてしまう。

 その横を二人の男がすり抜けた。目指すはハレイスト唯一人。

 ハレイストは意識を男二人に集中させる。と言っても、分が悪い事には変わりない。

「でも、抵抗ぐらいはしないとね」

 ハレイストは小さく呟いた。脳裏に浮かぶのは、幼い頃から追い続けている背中。決して後ろを振り返る事の無い、一人の男の背中。少しでも認めて欲しくて、視界に入れて欲しくて。いつしか、見てもらう事を諦めた。

 これ以上、疎まれるのは嫌だから。

「もう遅いかな?」

 ハレイストは小さく笑う。視界の端には男に上から押し潰されそうになっているラミア。正面には向かって来る二人の男。背後には海。

 ハレイストは斬りかかって来た一人目の男の剣を受け止めた。

 しかし、次の瞬間には後ろから首に手刀を食らわされ、意識を奪われた。ほぼ同時に、ラミアも意識を奪われた。

 男達は剣を鞘に戻すと、一人の男がハレイストを担ぎ上げ、去って行った。ラミアは置き去りにしたまま。


 その後、意識を取り戻したラミアは急いで城に戻り、ルクシオンに報告した。

 すぐさま捜索隊が編制され、国内全土を探したが、ハレイストは見付からなかった。

 

お久しぶりです!

拙い文章ですみません、特に中盤から最後にかけて…いや、全部か。

次はいつ投稿出来るかわかりませんが、なるべく早く投稿したいと思います。

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