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闇に浮かぶ紅蓮の炎  作者: 夜月 雪那
第二王子
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第二話

 人で埋め尽くされている王都の城下街。昼食の為の食材を買う者。昼食を取る者。走り回る子供達。一見長閑な町並み。だが、一度道を外れれば、そこに広がるのは貧民街。痩せ細った人が道端に座り込み、目だけを光らせる。ここは王都の闇。見てみぬ振りをされ、放置される場所。道端の人々からは気力が感じられない。その貧民街に、美味しそうな匂いが流れる。

「今日の昼だ! 欲しい奴は並べ!」

 響き渡る男の声。それに釣られるように立ち上がり、匂いのする方へと歩き出す人々。その先には、炊き出しを行っている五人の男達。その前には、すぐに長蛇の列が出来上がる。

「横入りすんなよ! そこ! 年寄りを突き飛ばすな! てめぇの飯抜くぞ!」

 その中の一人、茜色の髪に同色の、それより薄い色の瞳の男がもう一度叫ぶ。その隣に立つ男が迷惑そうに目を細める。銀の長髪に赤紫の瞳の男は、隣で叫ぶ男を見下ろす。

「何か文句あんのか、ラグリア。あぁ?」

 ラグリアと呼ばれた銀の髪の男は一層目を細める。茜色の髪の男、イーダンはラグリアを睨み返す。

「うるせぇだと? てめぇが無口すぎるんだよ。その口は飾りか?」

 一切喋らないラグリアの心情をイーダンが読み取って突っ掛かる。仲が悪い筈の二人は、会話をしないのに喧嘩が成り立つ。二人の間で火花が飛び散った。列に並んでいる人々が怯えたように後ずさる。

「二人とも止めなよ、怖がっちゃってるじゃないか」

「やるんなら他所でやってよ、邪魔」

 呆れた様に溜め息を吐いたのはそっくりな容姿をした二人の男。淡い緑の髪に琥珀色の瞳を持つ彼等は双子だ。無造作に髪を伸ばしているのが兄のライウス。三つ編みにしているのが弟のシリウスだ。

「年下が喚くな」

 イーダンがラグリアから視線を外して双子を睨む。しかし、双子は全く動じない。慣れているのだ。こういう時の対処法も心得ている。

「ギルバート様に言い付けるよ?」

「ラグリアとイーダンが仕事サボった、ってね」

 ライウスの言葉をシリウスが引き取る。そういう双子の顔は得意そうな色が浮かんでいる。こう言えば、黙るしかないのを知っているからだ。

 ギルバートとは、彼等五人が尊敬する上司の名前だ。彼等が唯一忠誠を誓った相手。彼等が唯一命令に従う男だ。

「そうだぞ。そんな事してる暇があったら可愛い子を探せ!」

 的外れな事を叫ぶのはザックス。黒髪に朱色の瞳の男だ。性格を一言で言えば、女たらし。言葉を選ぶならば、博愛主義である。

「それは」

「違うと思うよ、ザックス」

 双子が再度溜め息を吐く。五人の中でまともなのはこの二人だけだ。他の三人の言動に突っ込むのは彼等の役目だ。話しながら食事を配っている辺り、とても器用である。

 その時、笑い声が響いた。心底可笑しそうなその声は、食事を受け取る為に並んでいる青年から漏れたものだった。五人の視線が青年に集中する。肩を震わせていた青年はひとしきり笑うと、口を開いた。

「ごめん、噂には聞いていたんだけど、予想以上に面白くて」

 申し訳なさそうに言った彼はローブを頭から羽織り、僅かに見えている口元を緩めた。止まった筈の肩がもう一度震え出す。

「噂だと?」

 イーダンが訝しげな声を出す。笑うのをようやく止めた青年が頷く。ローブを羽織っているせいで、顔が見えない。瞳の色も髪の色も。

「知らない? 君達のやり取りは笑いを誘うから結構噂になってるよ? 城の人達にとってはどうでもいいみたいだけど」

 青年が首を傾げる。その拍子にローブから零れ落ちた一筋の髪は鮮烈な赤色。一度見たら忘れられないような、見事な赤。ブルクリードで赤毛は珍しくないが、ここまで綺麗な赤は珍しい。

「城の人達が気にする訳ないよ」

「自分達の権力を誇示する事しか興味ないんだから」

「国内が見えてないよね」

「見る気がない、の間違いでしょ?」

「それもそうだね」

 双子が笑う。釣られるように、青年も笑いを零す。青年の場合、苦笑している、といった方がぴったりだが。

「城の奴等はどうでも良いんだよ。俺らにゃ関係ねぇ」

 イーダンが吐き捨てると、同意するようにラグリアが頷く。喧嘩はするくせに、気は合うのだから不思議だ。

「そうだね。さて、これで僕は失礼するよ。まだ行きたい所あるし」

 青年は微笑むと、そう言って列を離れて行った。配っていた食事を受け取る事なく。四人はそれを奇異の目で見送る。残る一人のザックスは男には興味が無いと言わんばかりに並んでいた女性に声を掛けている。一人だけ何処までもマイペースである。

「何だったんだろうね?」

「さぁ?」

 双子がお互いを見て首を傾げる。青年の姿は既に無い。方向からして、人で溢れ返っている方に行ったのだろう。身なりを見ても、この貧民街にはおよそ相応しくない物だった。

「忘れろ。俺らが気にしてもしょうがねぇだろ。それより仕事しろ」

「今までサボってた人に言われたくないよね」

「さっきからやってるのにね」

「きっと目が悪いんだよ」

「可哀相にね」

 双子の言葉に、イーダンの眉間に青筋が浮かぶ。ラグリアは涼しい顔で食事を配っている。ザックスは女性しか視界に入っていないらしい。訂正、この双子も大概である。

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