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二十八話

 ハレイストは城下街に降りると、行くあてもなく歩き始めた。その視線は一箇所に留まる事は無く、常に辺りを見回している。

 何度も城下街には来ているが、ハレイストが飽きる事は無い。まぁ、まだ十歳で余り城から出る事も無いのだから当然と言えば当然だろう。城下街を歩くハレイストは城内では見せる事が無いであろう無防備な姿だ。

 ハレイストは何を思ったのか、大通りを外れて貧民街に足を踏み入れた。

 そして、驚きの余り動きを止めた。トディスから貧民街の様子を聞いてはいたが、予想以上に酷い有様だったのだ。道端に人が寝転び、何日も経っているで人の遺体まで放置されていた。その遺体は服を一切着ておらず、肉が腐っていた。それを気にする者はいない。これが日常茶飯事なのだろう。

「こんな所にお坊ちゃまが何の用だ」

 ハレイストが呆然としていると、背後から鋭い声がした。振り向けば、そこに立っているのはハレイストより五つ程年上の少年二人だった。一人は茜色の髪と似た色の瞳。もう一人は銀色の髪に赤紫瞳をしていた。口を開いたのは茜色の髪の背の低い方の少年だ。

「お坊ちゃま?」

 ハレイストは少年の言葉に首を傾げた。

「そんな綺麗な手した奴がお坊ちゃまじゃなければ何なんだよ」

 少年は忌々しげに吐き捨てた。どうやら金持ちが嫌いらしい、とハレイストは思った。まぁ、貴族達があんなんじゃそう思うのも仕方ないかな、僕もあんまり好きじゃないし、と内心で呟く。

「ここは、何時もこんななの?」

 ハレイストは辺りを見回しながら少年に尋ねた。視界に入るのは大通りとは百八十度違う光景。そこにいる人々からは生気が感じられず、目は虚ろだ。

「あぁ」

 ハレイストの唐突な問いに少年は戸惑いながら頷く。

「誰もこの状況を改善しようとはしないの?」

「金がねぇんだよ」

 ハレイストの言葉に少年は悔しそうに言う。この少年はこの状況をどうにかしたいが、どうにか出来るほどの力も財力も無いらしい。一般人なのだから当たり前だろう。まだ少年なのだし。

「あれば改善できる?」

 ハレイストはなおも尋ねた。その視線は貧民街を真っ直ぐに見詰めており、真剣だ。

「出来るだろうな」

 少年は戸惑いながら頷いた。その隣に立つ銀髪の少年は興味深そうにハレイストを見ている。

 そんな二人を他所に、ハレイストは真剣に悩み始めた。

「会議に提案すべきかな?でも、あの貴族達が頷くとも思えないし。やっぱり兄上かトールに相談しようかな?改善するなら衛生状況と食事面かな。あとは数人警護をおいて…」

 ハレイストは小声で考えを巡らせる。浮かんだ案を却下しては次の案を考える。自然、ハレイストの表情は大人びたものに変わった。およそ十歳とは思えない程に。

 ハレイストは自分の考えに没頭した。これはハレイストの悪い癖だ。何かを本気で考えると周りが一切見えなくなり、周りの音が聞こえなくなる。

「おい!」

 ハレイストは肩を揺すられてようやく我に返った。目の前には心配そうな表情をした茜色の髪の少年が居た。その斜め後ろで銀色の髪の少年も僅かに心配そうな表情をしていた。

「あ、ごめん。つい考え事を…」

 ハレイスト慌ててが謝ると、少年達は安堵の溜め息を吐いた。どうやらかなり心配を掛けてしまったらしい。初対面の相手を心配する程度には優しいようだ。

 ハレイストは一度思考を止めた。これは城に帰ってからトール達と考えれば良いだろう。

「急に黙るからびっくりしたじゃねぇか。何度呼んでも反応しねぇし」

 茜色の髪の少年が呆れたように言う。ハレイストはそれを聞いて、小さく笑った。

「心配してくれてありがとう。言葉遣いは荒いのに優しいんだね?」

「なっ…!」

 ハレイストがそう言うと、少年は顔を赤くした。優しいと言われる事に慣れていないのだろう。口をパクパクさせているが、言葉が出て来ない。

 すると、銀色の髪の少年が茜色の髪の少年の肩に手を置いた。何か喋るのかと思いきや、無言。ただ黙って茜色の少年を見下ろしている。

「俺の負けだと?」

 茜色の少年は銀色の髪の少年を見上げて睨み付けた。

「勝ち負けとか関係無いだろうが。あ?年下相手に情けないだと?うるせぇ!負けてねぇって言ってんだろうが!」

 ハレイストは独りで喋り始めた少年を見て首を傾げる。茜色の髪の少年は一方的に喋っている。対峙する少年は全く表情を変えない。

 これは、会話が成り立ってるのかな?いや、会話と言うよりは、意思の疎通かな?一人は話してないし、とハレイストは心の中で呟いた。

 その間も奇妙な言い合いは続く。茜色の髪の少年が銀色の髪の少年を考えを読み取り反論する。また読み取っては反論する。その繰り返しだ。

 ハレイストは最初は楽しそうに見ていたが、暫くすると飽きて来た。

 一言言ってから立ち去ろうと思ったが、言っても聞こえなさそうなので、ハレイストは無言でその場を後にした。

 少年二人がハレイストが居なくなった事に気付いたのは大分時間が経ってからだった。

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