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二十六話

 トリ達は勢いのままにハレイスト目掛けて羽ばたいて来る。空間を羽音が埋め尽くした。自分の息遣いさえ聞こえない。

「落ち着きなさい、ハレイストに怪我をさせるつもりですか?」

 決して大きくは無い、しかし、よく響き渡る声が興奮したトリ達を冷静にした。それでも、トリ達は嬉しそうな視線をハレイストに向けている。

 その視線を痛いほどに感じながらハレイストは安堵の溜め息を吐いた。今大怪我をしてしまったら洒落にならない。

「ありがとうございます、ルティーナ様」

「外に出たらこんなものではすみませんよ?」

 ハレイストがお礼を言うと、ルティーナが鈴を転がしたような声で笑う。エルーシオもその隣で苦笑している。サランドは相変わらず表情の変化が乏しい。

「女王陛下、ハレイスト様はずっと此処に居られるのですか?」

 トリのうちの一羽が恐る恐る問いを発する。ハレイスト達がそちらを見ると、トリ達の中から一羽だけ前に出ていた。他のトリ達は様々な視線をハレイストに向けていた。歓喜、懐古、憧憬、安堵、焦燥等、実に感情豊かだ。

 問いを発したのはトリ達を纏めるタカのジュークだ。鋭い眼光を放つ目は今は寂しげな色を浮かべている。

「これから外に行くよ。ちょっと怖いけど」

 ハレイストはジュークを安心させるように笑みを浮かべた。後半は誰にも聞こえないように小さく小さく呟いた。

 ジューク達が勢い良く飛んで来ただけでも生命の危機を感じるのにこれ以上…。

 ハレイストは寒気がしたのでそれ以上考えるのを止めた。外に出れば分かる事だ。

 そうしている間に、地平線の彼方に陽が昇り始めた。人間が、獣が、活動を始める時間だ。

「行こうか」

 ハレイストは途端に目を輝かせたトリ達に微笑みかけながら外へと足を向けた。後ろから、トリ達が騒がしく付いてくる。斜め後ろにラミアが少し距離を置いて付いてくる。ルティーナ達は出て来ない。他の獣達に遠慮しているのだろう。彼等は既にハレイストを独占、ではないがそれに近い事をしたから。

 洞窟の中の廊下を進み、幾つかの角を曲がる、前方に光が見えた。外に続く出口だ。

 外から聞こえるざわめきに耳を傾けながら、ハレイストは外に出た。


「作戦の準備の方はどうだ?」

 セオリア河沿岸に陣を構えているブルクリード王国騎士団。その本部である天幕の中には、ルクシオンを始め、騎士団の上層部が揃っていた。

「会議の決定通りに配置してあります」

 ルクシオンの言葉に、騎士団長であるジルフィスが答える。

 会議で決定した作戦はこうだ。いくら感情があろうとも本性は唯の獣。ならば、餌で釣ってはどうか。餌で釣り、その隙に倒そうと言うのだ。

 お粗末だとは思うが仕方が無い。今まで色んな策を講じたが、どれも通用しなかったのだ。

 一時期、獣達は人の心が読めるのではないか、という憶測が飛び交ったが、そんな非現実的な話は誰も信じなかった。

 それならば、獣の間諜が居るのでは、という事になった。が、結局間諜らしき獣は一匹、一羽たりとも見付からなかった。

「会議の作戦は段々拙くなっていくな」

 ルクシオンは軽く息を吐いた。それに同意するように天幕の中に居る全員が頷く。

「所詮権力の上に胡坐を掻いて座って居るだけの連中ですから」

 メルクリー隊隊長のガーランド・アズーレが無表情で淡々と言う。空色の髪に銀白色の瞳を持つ彼は生真面目な性格ゆえに融通が利かない。それと、思った事を直ぐに口にするタイプだ。相手が誰であろうとも。

 会議に出席する貴族達は自分達の考える作戦の拙さが分かっていない。完璧だと思っている節がある。こんな作戦の何処にそんな自信がもてるのかが謎で仕方ない。

 これで作戦が失敗すると、騎士団を攻めるのだ。曰く、「我等の考えた作戦は完璧だったのに、貴様等の力量不足のせいで!」らしい。この作戦のどこら辺が完璧なのか是非教えて欲しい、とルクシオン始め騎士団の面々は思うのだが、口をはさまずに勝手に言わせている。口をはさむと相手が激昂して面倒だからだ。時間と労力の無駄、とも言う。

 この作戦自体が時間と労力の無駄だが。

「それを本人達に言ってあげたら?」

「何故俺がそんな無意味なことをせねばならん。どうせ聞かんだろうが」

 グラス隊隊長のシルヴィが若草色の瞳を可笑しそうに細めて言うと、ガーランドは何の遠慮も無く言い捨てた。その表情は全く変化が無い。毛色は違うが、何処かの誰かを彷彿とさせる。ガーランドの方が口数は多いが。

「そんな事はどうでも良い。それより、準備はちゃんと出来たのか?」

 ルクシオンが真面目な顔で言う。冷酷ささえ孕むその雰囲気は正に上に立つ者として相応しい。

「指示通りに」

「そうか」

 ガーランドが無機質な声で応じる。ルクシオンはその言葉を聞いて小さく頷くと、遠くを見るような目をした。ガーランドとシルヴィも同じ方向をみて、同じように何かに思いを馳せた。

「計画実行まであと少し、だな」

 ルクシオンの呟きには誰も答えなかったが、思いは同じだった。

 悪に裁きを、弱者に救いの手を、差別など無く、皆が笑える明るく希望に満ちた世界を。光溢れる未来を掴むために。動き始めるまであと少し。

さて、再会編はこれで終了です。

次は作者の趣味、というか願望により過去編に入りたいと思います。

過去編は六年前の話、ハレイストがどうやって獣に会ったのか、どうして性格が変わったのかを書きたいと思います。

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