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二十四話

 洞窟をくりぬいて造られた中を歩き、一際大きい空間に進み出ると、ハレイストは丁寧に頭を下げた。

「お呼びですか、女王陛下」

「良く来ましたね、愚図と名高い第二王子殿?」

 ハレイストの言葉に、澄んだ美しい声が答える。その声は辺りに反響し、不思議な雰囲気を作り出す。その声音は嬉しそうで、楽しそうだ。

「耳が痛いですね。皆に愚図と言われます」

 ハレイストは苦笑しながら顔を上げた。

 目の前に居るのはダイヤモンドを埋め込んだかのような銀の輝きを放つ鱗に覆われたドラゴンだった。深い青の瞳は静かだが、強い光を宿している。そして、知性と慈愛に満ちていた。

「そうさせたのは貴方でしょう?」

 ドラゴンが声を立てて可笑しそうに笑う。

「提案したのは貴女ですよ」

 ハレイストが言い返す。しかし、ドラゴンはまだ笑っている。

「陛下、それぐらいにしませんとハレイスト殿が可哀相ですよ」

 そう言って窘めたのはドラゴンの横に立っている白いウサギだった。ウサギの反対側にはクロヒョウが居る。ウサギとクロヒョウの雰囲気は真逆だ。方や穏やかで、もう片方はとげとげしい。役職故だろう。

「久しぶりだね、エルーシオ。サランドも」

 ハレイストはドラゴンから視線を外し、ウサギとクロヒョウに微笑み掛ける。

「お久しぶりですな、ハレイスト殿下」

 エルーシオと呼ばれたウサギが微笑みながら頷く。

「六年ぶりか?」

 サランドと呼ばれたクロヒョウは抑揚の無い声で応じる。

 スフィアランスにおいてエルーシオは人間で言う宰相を務めている。主な仕事は獣達の暮らしを快適にする事と、争いの作戦を考える事。

 対するサランドは人間で言う将軍の役を担っている。主な仕事は獣同士の諍いを止める事と争いの最前線で戦う事。会議の時にジルフィスが言っていた黒い豹とは彼の事だ。

「私の事は名前で呼んでくれないのですか?」

 ドラゴンが少しむくれた声で口を挟む。自分だけ無視されたのが気に食わなかったらしい。

「貴女が人の傷をえぐるからですよ、ルティーナ様」

 ハレイストはそう言って視線をドラゴンに戻した。

 名を呼ばれたドラゴンは嬉しそうな目でハレイストを見返した。

「それくらいで傷付く程繊細でもないでしょう。十歳の子供の癖にあんな事を言ったのですから」

 昔を懐かしむようにルティーナが言う。後半は苦笑気味だ。

「本心ですからね。あの時から目指すものは変わってませんよ」

「普通十歳の子供はあんな事は言いませんよ」

 穏やかに微笑んだハレイストに対してルティーナは呆れた声音で言う。その両隣ではエルーシオとサランドが同意するように頷いている。

「あの本を読んだときから貴女方に会いたいと思っていましたから」

 ハレイストに取って、子供らしい時間は余り無かった。幼い頃から礼儀作法に剣に帝王学に経済学に歴史に、様々な教育を受けた。毎日毎日勉強ばかりしていた。

 特に大人達が熱心に教えたのは獣の事について。大人達曰く、獣は元は我々人の物なのに刃向かうのはおかしい。だから、争いで目に物見せてまた従わせるのです。獣は我々人の物なのですよ。と、ハレイストに繰り返し聞かせた。

 しかし、ハレイストはその言葉を鵜呑みにしなかった。書庫にある本で獣の事を知っていたのだ。そして、ハレイストは獣達に会いたいと思った。その本には、昔の事が書かれていた。昔の自然について。

 ハレイストが獣達に興味を持ち、大人達の言う事に疑問を持つきっかけになった本。

「今でも冒頭部分を覚えていますよ」

 ハレイストはそう言って笑うと、落ち着いた声音で、語り聞かせるように言葉を紡いだ。

「『遥か昔、この星は生命に溢れていた。空には自由で美しい鳥。山には雄雄しく優雅な獣。陸には知性を持ち感情豊かな人。彼等は互いに絶妙なバランスを取りながら共存していた。そのバランスを崩したのは人の知恵だった。知恵を付け過ぎた人は武器を作り、星を支配していった。鳥を殺し獣を飼い、時に同じ人さえも殺した。人はそのまま星を支配した。他者を虐げ星の頂点に立った人の欲望は尽きる事は無い。人が己の愚かさに気付くときは果たして来るのだろうか。私はその時が来るのを願って止まない。』」

ハレイストが言い終えると、エルーシオは関心したように息を吐き、ルティーナは懐かしそうに目を細めた。

「ステリアンの手記ですね。六年前、貴方はその本で私の名を知り、私の名を呼んだのでしたね」

 ルティーナが嬉しそうに言う。ステリアンの本名はステリアン・ヴィル・ヒューズ・アレク・オールソン。ブルクリード王国第四十二代国王だ。今現在の国王は第八十一代だ。

「尊敬する方ですからね。彼の本は片っ端から読みました。勿論、家臣に隠れて、ですが」

 ハレイストは苦笑しながら言う。

 ステリアンは獣達との争いを終わらせ、平和的に解決しようとした。その為にルティーナの元に単身赴き、和平を申し入れた。元々争いを望んでいる訳では無かったルティーナは快諾し、後日場が設けられた。しかし、そこでステリアンの側近が獣側を攻撃。ルティーナをはじめとする獣達は無事に逃げおおせたが、ステリアンは拘束され、そのまま処刑された。

 ステリアンは今でも反逆者として城内では嫌われている。故に、ハレイストが彼の話をすると大人達は皆一様に顔を顰め、説教をした。だから、ハレイストがステリアンの本を読む時は独りでこっそり読んでいたのだ。


やっと出せました女王陛下。

個人的にドラゴン大好きなのでようやく出せて嬉しいです。

過去話については次の章でやりたいと思います。

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