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十八話

 夕方、ハレイスト達は戻って来たレオナルド公の屋敷でぐったりとしていた。

 それもしょうがないだろう。今日の事を思えば--。


 街に着いたハレイスト一行を出迎えたのは熱の篭もった歓声だった。そして、街を彩る鮮やかな飾り。

 そのまま強制的に連行された先の広場で待っていたのは広場を埋め尽くす人。広場に入り切らず、広場に続く道にも人が溢れていた。老若男女問わず、沢山の人が集まっていた。

 人々はそれぞれ興奮で目を輝かせていた。三年ぶりに会えた懐かしの王子だ。

 祭りでは、街で店を経営する主人達から食べ物や酒が無料で振舞われた。街は熱気に包まれた。

 そんな中、広場に設置された舞台で寸劇が始まった。その面白可笑しい様子に、人々は笑った。

 その後は告白大会や武術大会が開かれた。告白大会ではハレイスト達に告白する者が沢山居た。ハレイストは丁寧に、エレンはばっさりと、トーレインは既婚者である事を告げて、イルニスは真っ赤になりながら断った。そのイルニスの反応が奥様方のお気に召したらしく、イルニスは奥様方に捕まった。

 それでも、武術大会が開かれる頃には開放された。イルニスは出るつもりはなかったのだが、人々の要望で出る事になった。騎士の腕前を見られる機会等そうそう無いからだ。まして、隊長ともなれば。

 イルニスは剣術、弓術、馬術、体術等、開かれた大会の全ての部門で優勝を収めた。その事にイルニスは安堵の溜め息を吐いた。王国騎士団隊長ともあろう者がこんな所で負ける訳にはいかないのだ。それは体裁の問題と、自身の矜持の問題だ。

 それに、シルヴィに負けたなんて事が知られればからかってくるに違いない。それだけは何としても阻止したい、と思うイルニスだった。

 此処で不思議に思うのは、何故此処まで盛大な祭りの準備が出来たか、という事だ。ハレイストの視察が決定したのは一週間前。たかが一週間では此処まで盛大な祭りの準備は出来ない。

 不思議に思ったハレイストが街の人に尋ねると、「領主様が教えて下さった」と答えた。領主様とは、公爵位大臣のアーノルド・ライ・レオナルドの事だ。今現在彼は領地に居ない。ハレイストに付いて行くとごねたらしいが、ルクシオンに却下されていた。

 しかし、本人でさえ一週間、前に知ったばかりだと言うのに、何故か一ヶ月前から知っていた公爵の不思議。いや、アーノルドならば当然とも言える。アーノルドの政治的手腕は素晴らしく、その情報網も広い。

 アーノルドを敵に回せば確実に社会的に抹殺されるだろう。ルクシオンを敵に回せば文字通り抹殺されるが。

 と、まぁそんな事はどうでも良い。祭りには全く関係無いのだから。

 本来ならば夜まで続くはずだった祭りは、夕方ごろには取り止めになった。理由は簡単。人が足りないからだ。

 無料で振舞われた酒を浴びるように飲む人が続出し、その人々が酔いつぶれた。子供達はハレイストの近くではしゃぎ過ぎたのか、疲れて眠ってしまった。沢山用意されたはずの食べ物も何時の間にか底を付いた。

 つまり、祭りを続けたくとも続けられないのだ。

 街の人々は断腸の思いでその事をハレイスト達に告げた。表面上は相手を気遣う様に答えたハレイストだが、内心では助かった、と思っていた。恐らくそれはエレンやトーレイン、イルニスにも言えた事だろう。

 祭りが続く事およそ五時間。彼等はずっと誰かに捕まっていた。

 一人と話し終えたと思ったら次の集団が。その次は個人が。更に集団が。というように、彼等の前の人波が途絶える事は無かった。自然と休む暇も無くなる。

 街の人々と祭りの続きは後日改めて行う事を約束し、屋敷に帰って来たのだ。

 

--そして、今に至る。

「何故貴方はそんなに人気なんですか」

 椅子に座り、ぐったりと天井を仰ぐトーレインが恨めしげに言う。

「民に好かれるのは素晴らしい事です」

 椅子に座り、レイスの淹れた紅茶を飲みながらイルニスが言う。普段から鍛えているイルニスはそれ程疲れていないらしい。それでも疲労の色は見て取れるが。

 ちなみに、一番体力が無いであろうエレンは既に部屋で休んでいる。本人はハレイストが休むまで休まない、と言い張ったのだが、ハレイストが命じて無理矢理休ませた。視察は明日もあるのだ、此処で体調を崩されては困る。

「限度があるでしょう、限度が」

「うん、僕もあそこまで歓迎してくれるのは予想外だった」

 呆れた声を出すトーレインにハレイストが呻く様に同意する。

 ハレイストの予想では街の人々に見つかり、もみくちゃにはされるだろうが、まさか祭りまで開かれるとは思わなかったのだ。いや、普通思わないだろう。三年ぶりとは言え、たった一人の為に。

 そもそも、国民の大半は王族が嫌いなのだ。特に、国王が。

 現国王は貴族達を好きにのさばらせ、貴族達は調子に乗って民を圧迫する。そんな状況で王族を好きになれと言う方が無理だろう。

 それを打開しようとしているのがルクシオンなのだ。

 しかし、ルクシオンは争いの準備等で忙しく、時間が無い。また、貴族達も不正の尻尾を簡単には出さないのだ。大した頭脳は持っていないくせに悪知恵だけはあるのが腹立たしい。

「結構な事ではありませんか。民に見捨てられた王は碌な人生を歩みませんよ?」

 紅茶の準備を終えたレイスが穏やかに言う。

「それは父上を馬鹿にしてるのかな?」

 レイスの言葉にハレイストが反応する。民に見捨てられた王。現国王はもう直ぐ民に見捨てられるだろう。何かまともな政策を打ち出せば別だが。

「国王陛下をかばいますか?殿下は今の国王は国王に相応しいとお考えですか?」

 レイスはあくまで笑みを浮かべたままハレイストに尋ねる。決して馬鹿にしている訳ではなく、純粋な疑問。

 真っ直ぐ見てくるレイスに、ハレイストは視線を逸らした。

「分からないよ。僕に政治は分からない」

 ハレイストじゃ小さく呟く。

「では、殿下から見て、今の国民は幸せですか?」

 レイスは尋ね方を変え、もう一度尋ねた。政治の事は分からなくても、民の事はわかるはずだ。王族の中で、誰よりも民を傍で見てきたのだから。

「…今の僕には無理だよ」

 暫く沈黙が続いた後、ハレイスト小さく小さく呟いた。

 レイスは唯穏やかに微笑み。トーレインは無表情。イルニスは気遣わしげな表情を見せた。

本当に課題がやばいな~、とか思いつつ書いてしまいました四日連続です。

明日からはちゃんと勉強します。

お気に入り登録して下さった方、ありがとうございます!

これからも頑張ります!

苛つくほどに展開が遅いですが、気長に付き合って頂けると幸いです。

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