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十六話

 ブルクリード王国の要、ルード城の一室に、数人の男達が集まっていた。

「マルディーン殿下が視察に行かれたらしいな」

 その中の一人、銀の王国騎士団の服装に身を包んだ男が落ち着いた声音で切り出す。その髪は澄み切った空の色。瞳は澄んだ銀白色だ。

「イルニスが同行してるよ」

 そう答えたのは茶色の王国騎士団の服に身を包む男。黄土色の髪に若草色の瞳。グラス隊隊長のシルヴィ・グリナリーだ。

「あのお子ちゃまがか?大丈夫か?」

 馬鹿にした口調で言うのは銀の髪に銀の瞳の男。彼は漆黒の王国騎士団服に身を包んでいる。

「貴方が行ったらエレン殿に手を出すでしょうが」

 空色の髪の男が毒づく。無表情のまま銀髪の男を睨みつける。

「そんなことしたら殿下に殺されるわ」

「一回殺されて見たら良いんじゃない?その腐った性根が治るかもよ?」

「お前が一番酷いぞ、シルヴィ」

 シルヴィに笑顔で毒を吐かれた銀髪の男が項垂れる。シルヴィはそんな男の様子を楽しそうに見ている。地位的には上下逆なのだが、何故かシルヴィの方が偉い様に見える。

「御三方、話の主旨はそんなことではないでしょう」

 そこで、静かに佇んでいた黄みがかった茶髪の男が静かに口を開いた。その両目は閉じられている。その身を包むのは白に金糸で装飾が施された近衛の制服だ。

「早くしろ、隊長の貴重な時間をこれ以上無駄にするな、ボンクラ共め」

 その隣に立つ年若い男が三人を睨みつける。今居る五人の中では最年少だろう。濃緑の髪に碧の瞳をした彼は目を閉じたままの男同様の服装に身を包んでいる。

「悪い悪い」

 銀髪の男がひらひらと手を振ってみせる。そのふざけた態度に濃緑の髪の男は怒鳴りそうになったが、隣に立つ男に止められ、渋々口を閉じた。尊敬する相手に窘められては黙るしかない。

 くやしそうに顔を歪める濃緑の髪の男を、シルヴィは楽しそうに見ていた。

「で、動くと思うか?」

 ふざけた表情から一転、銀髪の男が真剣な表情になる。その雰囲気に引っ張られるように、室内に張り詰めた空気が流れる。

「動くと思うよ、最近城の中でも動きが活発だし」

「俺も誘われたな」

 シルヴィが言うと、空色の髪の男が抑揚無く言った。

「貴方にまで声を掛けるとは、本気なのですね」

 目を閉じた男が呆れたように言う。

「本気の癖に計画が穴だらけだよね。馬鹿なのかな?」

「馬鹿というか、大馬鹿だろう」

 シルヴィが可笑しそうに言うと、空色の髪の男がさらに評価を低くする。馬鹿にされている人々が聞いたら自尊心が傷付けられて怒鳴り散らすだろう。彼等に傷一つ負わせられないだろうが。権力を振りかざしても無駄だろう。

「お前はそのまま探れ。と言っても、全容はもう掴んでるけどな」

 銀髪の男が空色の髪の男に命令すると、空色の髪の男は黙って頷いた。

「シルヴィもなるべく情報を集めろ。主が帰還されたら計画を実行する」

 次いでシルヴィを見て銀髪の男が言う。空色の髪の男同様、シルヴィも黙って頷いた。

「私はどうしましょう?」

「お前は当日の手配を頼む。下の連中はどうだ?」

 両目を閉じた男が首を傾げると、銀髪の男は振り向いてそう言った。これは命令ではなく、対等な関係にある者としての頼みだ。

「皆さんやる気ですよ。我等が主殿に心酔していますから。私も、ね」

 両目を閉じた男は嬉しそうに言う。

 彼等の言う主に心酔しているのは此処に居る全員に言える。だからこそ、彼の指示に従い、彼の為に動く。時には指示通りに、時には主の為になるよう自発的に。彼等はとても有能な部下だった。そして、一度認めた相手の言う事は受け入れる。

「では、主の帰還を待とう。話はそれからだ。また主から連絡があれば話す」

 銀髪の男がそう言って立ち上がると、彼等は部屋を出て行った。


「ジルフィスは何て?」

 一人の青年がバルコニーの影に立ちながら言う。

「計画通りに事は進んでいるようです。貴方が戻られたら直ぐにでも実行出来ます」

 それに答えたのは青年の傍で頭を下げる別の青年だ。

 彼等は城で開かれた舞踏会の夜に会場の隅で言葉を交わしていた二人だ。

「相変わらず有能で助かるな」

 主である青年が嬉しそうに笑みを浮かべると、従者らしき青年が眉間に皺を寄せた。主に別の人物を褒められたのが気に入らなかったのだろう。

「お前も、な」

 従者のその気持ちが分かったのか、主はそう言って笑った。

「それよりも、動くと思いますか?」

 従者が言うと、主は目を細めて夜空を見上げた。月は雲の合間に隠れ、星はその輝きを隠している。

「動くだろうな。今の第二王子は隙だらけだ。むしろ、動いてもらわなければ困る」

 主は空から視線と落とし、前を真っ直ぐに見据える。その瞳に映るのは愚鈍な第二王子か、計画の成功か。はたまた、この国の、この世界の行く末か。

「とにかく、視察期間中に決まる事だ。俺はそれをただ待てば良い」

「我が主の意のままに」

 従者がそう言うと、主は静かに微笑んだ。


「そろそろ動くでしょうか?」

「恐らく。彼からの手紙にもそうなっていましたからな」

「ここ数年会っていませんね。どの様な青年になっているのか、楽しみですね」

「そうですな、早く会いたいものです」

「ですが、今は静かに待ちましょうか」

「仰せのままに、女王陛下」


 少しずつ動き、変わり始める世界。その先の未来は光か闇か。希望か破滅か。それを知る者は誰も居ない。

頑張って二日続けて書いてみました!

次はハレイストの視察のお話です。ハレイストのお馬鹿っぷりを書きたいと思います!


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