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闇に浮かぶ紅蓮の炎  作者: 夜月 雪那
第二王子
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十四話

「兄上」

 重々しい溜め息の後、ハレイストが小さな声でルクシオンを呼んだ。その声にびくりと肩を揺らすルクシオン。

 名残惜しそうに扉を見ていたルクシオンはゆっくりと後ろを向いた。その視線の先には眉間に皺を寄せているハレイストが。

「兄上、構ってもらって嬉しいのは分かります。が、のんびりしていると盗られますよ?」

 呆れた様に言いながらハレイストは椅子に腰掛ける。その正面に座りながら、ルクシオンは苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

「兄上は仕事の事になると積極的なのに、恋愛事になると奥手ですね」

「周りにまともなのが居なかったからな」

 ルクシオンは溜め息を吐きながら答える。その言葉にはハレイストも頷くしかない。

 ハレイストは第二王子であり、愚図と貴族達の間で言われている為まだましだ。例え娘が乗り気でも両親が反対する事は目に見えている為だ。誰でも自分の子供は可愛い。少しでも良い男を、と考えるのは当然の事だ。

 ハレイストに娘をあてがって謀反を起こし、国を牛耳ろうと考える者も居た。が、そんな事をするより王位に一番近いルクシオンに取り入る方が手っ取り早い。その為、ルクシオンの元には沢山の縁談が届く。令嬢達からのアプローチも凄まじい。

 彼女達の目的は目に見えている。金と地位と見目麗しい夫。そして、自分のを守ってくれる強い男。

「兄上は押しに弱いですからね」

「今は争いを理由に逃げ回っているがな。それも何時まで通用するのだろうな」

 クスクスと笑うハレイストにルクシオンは渋い顔をする。相手がハレイストで無ければ怒鳴るところだが、ブラコンであるルクシオンにそんな事が出来るはずもない。むしろ、ハレイストの笑顔を見て心が和んでいるのだ。

「あ、そうだ、兄上」

「何だ?」

「六日後に視察に行く事になりました」

 ハレイストが事も無げに言った瞬間、ルクシオンの動きがぴたりと止まる。ハレイストの言葉を必死で理解しようとしているのか、瞳が小刻みに揺れている。

 ルクシオンが反応するまで、ハレイストは静かに待っていた。おそらく声を掛けても聞こえないだろう。

「視察は何処に行くんだ?」

「公爵領です」

ようやく反応を返したルクシオンにハレイストが簡潔に答えると、ルクシオンは再び固まった。

「…何時行くって?」

「六日後です」

「六日後?」

「はい」

 額に手を当てて目を瞑り、呻く様に尋ねるルクシオンにハレイストは笑顔で頷く。そのあっけらかんとした様子にルクシオンは眉間に皺を刻む。

「俺の勘違いだと思うが、十日後は争いの日じゃなかったか?」

 難しい顔をしたままルクシオンが呟く。その声音にはそうであって欲しいという願望が表れている。

 ルクシオンは心の中で必死に自分に言い聞かせた。

 流石にそれは無い、いくら貴族達に疎まれているとは言え、王族であるハレイストをこの時期にそんな場所に行かせるはずが無い、と。

 そこでハレイストに何かあったとしても、争いに巻き込まれた、として処理されるだろう。貴族達なら喜んでそう証言するはずだ。はず、では無く、確実にそうする。

 ルクシオンが守りたくとも、彼は争いの事で手一杯だ。そっちにまで手が回らない。

「そうですね」

 ルクシオンの願望空しくハレイストはあっさり頷いた。

「何でそんなにあっけらかんとしてるんだ。何かあったらどうする」

 ルクシオンはがっくりと肩を落として呻く。本人に全く自分が危険だという意識がない。それでは周りが守ろうとしても無理がある。一人になられたら誰も守ることが出来ないのだ。ましてやハレイストは脱走の常習犯。視察先で脱走されては敵わない。

「ご心配なく、その為の護衛と見張り役であるトーレインが同行致します。もちろん、私もご一緒致しますわ」

 突如、少女特有の高い声が割って入った。

 ハレイストとルクシオンがそちらを見ると、朝食の乗ったワゴンを押してエレンが部屋に入って来た。ワゴンからは美味しそうな匂いが漂っている。

「それに、いざと言う時に役に立たない護衛は必要ありません」

「確かにそうなんだがな」

「過保護過ぎると嫌われますわよ?行き過ぎた感情は重いだけですわ」

 言葉を濁すルクシオンに対し、エレンはどこかの狸と似たような言葉を言う。ルクシオンを静かにさせたい時は、嫌われる、という言葉を使うのが効果的だ。すぐにそれまで考えていた事を全て忘れる。

「分かった、分かったから、嫌いにならないでくれよ?ハレイスト」

 ルクシオンは悲壮感あふれる表情で向かいに座るハレイストを見る。その性格を利用されて話を逸らされている事に気付かないのだろうか。わざわざ逸らす程たいした話でもないが。

「大丈夫ですよ。心配してくれる人が居るのは嬉しいですから。兄上こそ、争いの最中に怪我などしないで下さいね?」

エレンが朝食を手際良く並べているのを視界の隅に映しながら、ハレイストが心配そうに言う。

 金の獅子と言われる程強かろうが、怪我をする時はするのだ。何が起こるのかわからないのだから。

「大丈夫だ。お前も、無事に視察から帰って来いよ」

「勿論ですよ、兄上」

 そう言って、兄弟は互いに微笑んだ。

 その後は和やかに話をしながら、朝食を摂った。次に会えるのは大分先だろう。

 短い時間で、少しでも沢山の事を話そうとした為、朝食はなかなか終わらなかった。

ほのぼの…書けてない気がしますね。

意外に難しかったです。


さて、次話からは次章に進みたいと思います。

展開が大分遅いですが、気長にお付き合い頂けると嬉しいです。

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