プロローグ
---今から約1300年前、獣は人に飼われ、虐げられていた。獣同士で争わされ重労働に借り出され、面白半分に虐殺される。しかし、獣達は従順に従っていた。正確に言えば、反抗する知能が無かったのだ。
この時、一人の研究者がいた。とても熱心で、優秀な研究者だった。彼はある時、信じられないものを発見した。それは、絶滅したと思われていたドラゴンの卵だった。この時代、希少な獣を見つけた場合には、王へと献上することが義務付けられていた。破れば待っているのは死刑のみ。
しかし、研究者の男はそれをしなかった。献上したが最後、殺されるのは火を見るよりも明らかだったのだ。もちろん、王侯貴族達に遊ばれた後で。
貴重なドラゴンの子供だ。研究の対象にはうってつけだった。研究対象を差し出すほど、男は国王に忠誠を誓ってはいなかった。
男が考えたのは、ドラゴンに、獣に知性を与えること。上手くいけば世紀の大発明だったが、それは諸刃の剣だった。獣が知性を持った場合、人間に刃向かうかもしれないからだ。しかし、男にとってそんな事はどうでも良かった。だから、研究に勤しんだ。
---それから5年後、薬は完成した。トレニアルと名付けられたその薬は、少量でも十分な効果を発揮した。薬の効能は知識欲を植え付ける事。この時、ドラゴンの子供は卵から孵ってまだ2ヶ月だった。
ドラゴンは男によく懐き、その後ろを追い掛けていた。ドラゴンに薬が投与されると、効果はすぐに表れた。人の言葉を操り、他の獣の言葉をも操った。その知識欲は止まることを知らず、様々な事を吸収していった。遂には、帝王学、経済学までも学び、獣がどういう扱いを受けているかも知った。
ドラゴンはすぐに行動を起こした。トレニアルを川に流し、静かに待った。川の水を飲んだ獣達が知識を付けるのを。もう十分だろうと判断したドラゴンは、叫んだ。今こそ人間に反旗を翻し、自由を得る時だ、と。各地で挙がる賛同の雄叫び。それは世界中に広まり、世界各地で獣の反乱が同時に起こった。
こうして、人と獣の長きに渡る争いの火蓋が切って落とされた。この出来事は、後に『トレニアル戦争』と呼ばれるようになった。
----『ブルクリード王国史 第一巻』より抜粋
ニュースを見ていて思いついた作品です。長くなる予定でいますが、どうなるかわかりません。更新は遅くなるかもしれませんが、のんびりとお付き合いいただけたら幸いです。また、誤字・脱字・矛盾点等ありましたら遠慮なく指摘してください。